426 / 485
第九章 拡張版ミズーナ編
第426話 年が明ける
しおりを挟む
アンマリアたちが卒業した年の最後の一か月間。アーサリーはミール王国に戻り、アンマリアとサキは城に住んで王妃教育を本格化させる事になった。
これで、来年一年間に学園に通う面々は、エスカ、ミズーナ王女、リブロ王子、レッタス王子、それとアンマリアのいとこのタミールだけとなった。
この中で現状相手がいないのは、レッタス王子とミズーナ王女のベジタリウス王国の二人とタミールだけである。
アーサリーにあんなことを言っておきながら、当のミズーナ王女たちには相手がいないという、おまいう案件となっていた。まったく、この二人は大丈夫なのだろうか。
とはいえ、年末はそんな事も気にならないくらい、忙しく過ぎていったのだった。
そして、拡張版のシナリオであるミズーナ王女編も、いよいよ3年目を迎える。
本来ならこの3年目で迎えるイベントがそれなりに存在しているのだが、そのほぼすべてが去年のうちにフラグがへし折られていた。
特にジャンル替えでその存在が明らかとなった魔族たちが絡むイベントは全滅である。
「はあ、そんな楽しそうなイベントがあったんですか。残念ですね……」
「あの、魔族を相手にそんな軽い感想を仰らないで下さいよ……」
部屋でのんびりと過ごすミズーナ王女の呟きに、メチルは困惑した様子でツッコミを入れている。
「魔族が絡むイベントはことごとく後味の悪い案件です。そんな軽々な扱いをしないで下さいよ。ゲーム上では私は退場済みですけど」
嘆くように話すメチルである。
ちなみに退場済みといっているのは本当の事で、メチルの事件はアンマリアの3年生、つまりはミズーナ王女の2年生の時に起きるのである。
そして、今はその年の年末であり、とっくに事件の時期は過ぎてしまっていたのだ。
ちなみにメチルは、回復魔法を使って人々を助けていただけであり、魔族というだけで討伐される捨て石という出オチ要員である。ゲーム通り進んでいたのなら、本当に後味が悪かっただろう。
急に前世の記憶が生えて魔族側から寝返ったのは、実にぎりぎりの判断だったというわけだ。少しでも遅れていれば、ゲーム通りに命を落としていた可能性があったのだ。
「まったく、自分以外の転生者と出くわすなんて思ってもみませんでしたし、それどころか他国の王子の婚約者にあてがわれるなんて思ってもみませんでした。世の中何があるか分かりませんね」
「それもそうね。2年目が終わったこの段階で、こんなほっそりしている状態になっているなんて想像できなかったもの」
不満げに話すメチルに対して、ミズーナ王女は苦笑いをしながら話している。
「とりあえず、最後の1年間はシナリオに囚われずに自由に楽しませてもらいましょうかね」
「ええ、そうですね」
ミズーナ王女とメチルは、3年目の心構えを確認するのだった。
そして、年越しを目の前にした日のこと。王都では年末の慰労パーティーが開かれる。
国中から貴族が集まって行うそのパーティーは、サーロイン王国の定番行事である。
ミール王国へと帰ってしまったアーサリーを除くゲームの登場人物が一堂に会する数少ない場面である。おそらくはエンディングまでの間にこのような場があるとすれば、フィレン王子とリブロ王子の誕生日パーティーくらいだろう。そのくらいに希少な場なのである。
この日ばかりはメチルは侍女ではなく、ベジタリウス王国からの使者のコール子爵令嬢として参加する。そのために、メチルもメイド服ではなくちゃんとしたドレスに着飾っていた。
「なんとも不思議な気持ちですね。こんなドレスを着る機会があるだなんて」
メチルは嬉しそうだった。
「本当によく似合っているわよ、メチル」
「ありがとうございます、ミズーナ王女殿下。ですが、さすがに王女殿下には敵いませんね」
穏やかな笑顔で褒めてくるミズーナ王女に対して、おかしそうに笑いながら言葉を返すメチルである。すっかり仲良くなっている二人なのである。
とにもかくにも、この年末パーティーが終われば、拡張版もいよいよ最後の一年に突入する。
ゲームにおけるハッピーエンドは婚約者を見つけて迎えることになるのだが、ゲームにおけるすべての攻略対象には婚約者がいる状態だ。
ミズーナ王女は無事に婚約者を見つけて、ハッピーエンドを迎える事ができるのだろうか。実に気がかりな点である。
ところが、今のところまったく気にしないミズーナ王女である。
(まだ1年ありますからね。問題が特にないとなれば、それだけ余裕をもって最終年に臨めます。必ずや婚約者を見つけてみせますよ)
パーティー会場に向かいながら、実に余裕で構えるミズーナ王女である。
だが、この時のミズーナ王女は、気楽に考え過ぎて気付いていなかった。特大のフラグを自分で立ててしまっていたことに。
様々な思いが交錯する年末の慰労パーティー会場。
ミズーナ王女とメチルは、一歩二歩引いた位置からパーティーを楽しんでいた。
こうして、オリジナルのゲームの時間軸は静かに終わりを告げたのであった。
これで、来年一年間に学園に通う面々は、エスカ、ミズーナ王女、リブロ王子、レッタス王子、それとアンマリアのいとこのタミールだけとなった。
この中で現状相手がいないのは、レッタス王子とミズーナ王女のベジタリウス王国の二人とタミールだけである。
アーサリーにあんなことを言っておきながら、当のミズーナ王女たちには相手がいないという、おまいう案件となっていた。まったく、この二人は大丈夫なのだろうか。
とはいえ、年末はそんな事も気にならないくらい、忙しく過ぎていったのだった。
そして、拡張版のシナリオであるミズーナ王女編も、いよいよ3年目を迎える。
本来ならこの3年目で迎えるイベントがそれなりに存在しているのだが、そのほぼすべてが去年のうちにフラグがへし折られていた。
特にジャンル替えでその存在が明らかとなった魔族たちが絡むイベントは全滅である。
「はあ、そんな楽しそうなイベントがあったんですか。残念ですね……」
「あの、魔族を相手にそんな軽い感想を仰らないで下さいよ……」
部屋でのんびりと過ごすミズーナ王女の呟きに、メチルは困惑した様子でツッコミを入れている。
「魔族が絡むイベントはことごとく後味の悪い案件です。そんな軽々な扱いをしないで下さいよ。ゲーム上では私は退場済みですけど」
嘆くように話すメチルである。
ちなみに退場済みといっているのは本当の事で、メチルの事件はアンマリアの3年生、つまりはミズーナ王女の2年生の時に起きるのである。
そして、今はその年の年末であり、とっくに事件の時期は過ぎてしまっていたのだ。
ちなみにメチルは、回復魔法を使って人々を助けていただけであり、魔族というだけで討伐される捨て石という出オチ要員である。ゲーム通り進んでいたのなら、本当に後味が悪かっただろう。
急に前世の記憶が生えて魔族側から寝返ったのは、実にぎりぎりの判断だったというわけだ。少しでも遅れていれば、ゲーム通りに命を落としていた可能性があったのだ。
「まったく、自分以外の転生者と出くわすなんて思ってもみませんでしたし、それどころか他国の王子の婚約者にあてがわれるなんて思ってもみませんでした。世の中何があるか分かりませんね」
「それもそうね。2年目が終わったこの段階で、こんなほっそりしている状態になっているなんて想像できなかったもの」
不満げに話すメチルに対して、ミズーナ王女は苦笑いをしながら話している。
「とりあえず、最後の1年間はシナリオに囚われずに自由に楽しませてもらいましょうかね」
「ええ、そうですね」
ミズーナ王女とメチルは、3年目の心構えを確認するのだった。
そして、年越しを目の前にした日のこと。王都では年末の慰労パーティーが開かれる。
国中から貴族が集まって行うそのパーティーは、サーロイン王国の定番行事である。
ミール王国へと帰ってしまったアーサリーを除くゲームの登場人物が一堂に会する数少ない場面である。おそらくはエンディングまでの間にこのような場があるとすれば、フィレン王子とリブロ王子の誕生日パーティーくらいだろう。そのくらいに希少な場なのである。
この日ばかりはメチルは侍女ではなく、ベジタリウス王国からの使者のコール子爵令嬢として参加する。そのために、メチルもメイド服ではなくちゃんとしたドレスに着飾っていた。
「なんとも不思議な気持ちですね。こんなドレスを着る機会があるだなんて」
メチルは嬉しそうだった。
「本当によく似合っているわよ、メチル」
「ありがとうございます、ミズーナ王女殿下。ですが、さすがに王女殿下には敵いませんね」
穏やかな笑顔で褒めてくるミズーナ王女に対して、おかしそうに笑いながら言葉を返すメチルである。すっかり仲良くなっている二人なのである。
とにもかくにも、この年末パーティーが終われば、拡張版もいよいよ最後の一年に突入する。
ゲームにおけるハッピーエンドは婚約者を見つけて迎えることになるのだが、ゲームにおけるすべての攻略対象には婚約者がいる状態だ。
ミズーナ王女は無事に婚約者を見つけて、ハッピーエンドを迎える事ができるのだろうか。実に気がかりな点である。
ところが、今のところまったく気にしないミズーナ王女である。
(まだ1年ありますからね。問題が特にないとなれば、それだけ余裕をもって最終年に臨めます。必ずや婚約者を見つけてみせますよ)
パーティー会場に向かいながら、実に余裕で構えるミズーナ王女である。
だが、この時のミズーナ王女は、気楽に考え過ぎて気付いていなかった。特大のフラグを自分で立ててしまっていたことに。
様々な思いが交錯する年末の慰労パーティー会場。
ミズーナ王女とメチルは、一歩二歩引いた位置からパーティーを楽しんでいた。
こうして、オリジナルのゲームの時間軸は静かに終わりを告げたのであった。
17
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました
神村 月子
恋愛
貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。
彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。
「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。
登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。
※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる