上 下
420 / 500
第八章 3年生後半

第420話 卒業式

しおりを挟む
 長かったようで短かった15歳の冬。
 学園生活の締めくくりとなる卒業式の日を迎えて、私は柄にもなく緊張していた。
「あら、アンマリア様でも緊張なさることがありますのね」
「ええ、ラム様。これで学生でなくなってしまうのかと考えましたら、感慨深くてですね」
 話し掛けてくるラムに対して、私は作り笑いで答える。
 この場で緊張しない方がおかしいというものだわ。卒業式が終われば、この場で婚約者の正式な決定が発表されるんだもの。
 私は正式に、第一王フィレン・サーロインの婚約者になるのだから。
 卒業式自体は粛々と進んでいく。卒業生と在校生の挨拶は、ちょうどフィレン王子とリブロ王子が居るので問題がないものね。
 それにしても、ずいぶんとあっさり卒業式が終わっちゃったわね。この後はそのままパーティーをして終わりだもの。
 とはいえ、学生生活が大変だったから、これだけ卒業式があっさり終わったのはむしろ良かったかもしれないわね。ほら、終わり良ければすべて良しっていうじゃないの。
 8歳を前に転生に気が付いて、そこからもう8年が過ぎているのね。まったく、本当にいろいろあり過ぎたわ。
 洗礼式で13歳で120kgの体重が確定した時は、本当に絶望したものだわ。今思えば、それすらも懐かしいんだけど。
 卒業式が終わって感傷に浸っていると、国王が会場に入ってくる。突然の国王の登場に会場内は騒めいているけど、これはもうあれしかなかった。
「学生諸君、3年間の学園生活を終えての卒業、実に喜ばしい限りだ」
 まずは卒業を祝う国王。
「この場を借りてなのだが、重大な発表を行わせてもらう。フィレン、リブロ、こちらに来なさい」
「はい、父上」
 国王に呼ばれて、前方の壇上にフィレン王子とリブロ王子が移動する。
 国王を挟む形で二人の王子が立つと、次の言葉が告げられる。
「アンマリア・ファッティ、サキ・テトリバー。両名も前に出てきなさい」
「はい!」
 国王に呼ばれ、私とサキは元気よく返事をする。壁際に立っていた兵士が私たちに近付くと、別々になってついて来るように声を掛けられた。
 そして、私はフィレン王子の方から、サキはリブロ王子の方から壇上へと登っていく。私たちが王子の隣に立ったのを確認すると、国王は咳払いをひとつ行う。そして、会場に向けて大声で言い放った。
「アンマリア・ファッティをフィレン、サキ・テトリバーをリブロの婚約者とする事を、ここに正式に宣言する」
 この発表に、会場に集まった学生たちは静まり返る。そして、ぽつりぽつりと拍手が起きると、あっという間に会場全体に広まっていった。
 会場に拍手が広まると、なんだか恥ずかしくなってきた私。照れた様子で頬をついかいてしまう。
「本来ならば同時にどちらを王太子にすべきかという話にもなるところだろうが、リブロはまだ来年も学業が残っている。来年の今頃には、その結論も出ることだろう」
 国王の発言が再開されると、先程までの拍手が嘘のように鳴りやんだ。さすがは訓練された王国民というところね。
「我が息子たちの婚約者が正式に決まった。学生諸君も無事に卒業を迎えたこのめでたい席だ。この後のパーティーも存分に楽しんでくれたまえ」
 これを合図に、扉が開いて城で働く使用人たちがなだれ込んでくる。そして、てきぱきと壁際にテーブルを運び込み、パーティーの準備を進めていく。
 気が付けばあっという間に、卒業式の会場はパーティー会場へと様変わりをしていた。楽団までやって来て音楽の演奏が始まると、学生たちは仲間内で談笑を始めていた。
「ようやく終わりましたわね、アンマリア」
「ミズーナ王女殿下。ええ、ありがとうございます」
 王族として参列していたミズーナ王女に声を掛けられて、私はにこやかに言葉を返す。
「まったく、羨ましいわね。王子様と婚約だなんて」
「エスカ、あなたの相手もなかなか相手どれない方でしょう?」
「まったくだな」
 憎まれ口を叩くエスカに言い返してやると、フィレン王子も笑いながら援護してくれた。これにはさすがのエスカもすごく複雑そうな顔をして黙り込んでいた。
「おめでとうございます、お姉様」
「モモ、それとみなさんも」
 そこへ、モモたちもやって来た。しばらくの間は口々にお祝いの言葉をかけられ、それにお礼を言うという状況となった。私はもちろんだけど、サキだって同じよ。
「そうだわ。アンマリア、サキ、殿下方と踊られてきてはいかがですか?」
 ひと通りのやり取りが終わると、ミズーナ王女が満面の笑みで恐ろしい提案をしてきた。
「それもそうだな。そもそも婚約者の発表の場ではダンスをする決まりがある。フィレン、リブロ、エスコートしてあげなさい」
「はい、父上」
 乗り気な国王に対して、フィレン王子とリブロ王子も踊る気満々のようだった。
 私とサキはついつい顔を合わせると、しょうがないかといった感じで笑い合う。
 そして、お互いの婚約者に手を引かれながら、パーティー会場の真ん中へと歩み出していったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?

tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」 「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」 子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...