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第八章 3年生後半
第417話 終わりを目の前にして
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王妃の部屋に呼ばれた夜のこと、私とミズーナ王女とエスカは、ミズーナ王女の部屋に集まっていた。
本当なら自分の屋敷に戻りたかったのだけれど、王妃のわがままで王家の夕食の食卓に呼ばれた挙句、そのまま城に泊まることになってしまったのよ。
あっ、エスカはおまけよ、おまけ。私の反応が面白いからって、私についてきたのよ。まったく薄情なお姫様だわ。
「予想はしていたけれど、フィレン王子はアンマリアを選んだわね」
「ええ、予想通りでしたね」
ミズーナ王女とエスカは、夕方の事を淡々と話している。
「二人はよかったわけなの? せっかく乙女ゲームの世界にやって来たんだから、自分が王子と結ばれたいとかなかったのかしら」
私は素朴な疑問を二人にぶつける。
すると、二人とも何言ってるのというような真顔を私に向けていた。
「な、なんなのよ、二人揃って……」
無言の圧力のようなものに、思わず私は引いてしまう。
「そりゃまあ、フィレン王子もリブロ王子も美形だから、イケメンと恋愛したいとは思うわよ」
「アンマリア。私たちがせっかくのお話をめちゃくちゃにしちゃうようなお花畑に見えますか?」
鼻で笑っているエスカに対して、ミズーナ王女は私にずいっと迫ってくる。
「いや、思えないわね。でも、普通転生者ってどこか夢見ちゃうものじゃないの?」
ミズーナの質問に答えた私は、質問を投げ返す。
「この世界じゃなければね、そうだったかもね」
エスカが再び鼻で笑っている。なんでエスカってばいちいちイラッとさせにくるのかしらね。
そんなエスカに対して、ミズーナ王女がデコピンを入れている。
「あたっ」
「まったく、思ってても言わないものでしょうに……」
「き、聞かれたから答えただけじゃないのよ。なんで私がこんな目に……」
口を尖らせて愚痴をこぼすエスカである。
「アンマリア、何にしても無事にゲームとしてのエンディングは迎えられそうですね」
どこか引っ掛かりのある言い方をしてくるミズーナ王女。
そう、ここはゲームじゃなくて現実の世界。ゲームの終着点である学園の卒業のその先もしっかりと存在しているのよ。
だから、そこで気を抜いてしまえば、ゲームとしてハッピーエンドでも、現実はバッドエンドなんていうことも十分考えられる。
むしろ、ゲームのエンディングこそが、真のスタートともいえるわけだった。
「まっ、そういう意味では隣国の王女が転生者というのは、実に頼もしい状況だと思いませんか、アンマリア」
「ええ、そう思いますよ、ミズーナ王女」
微笑むミズーナ王女に、私も微笑み返す。
「私もいるんだけど?!」
一人混ざれなかったエスカが文句を言っている。その姿を見た私とミズーナ王女は、ついつい吹き出してしまうのだった。
「とりあえず、まずは乙女ゲームの期間を無事に乗り切ること。それが目標ね」
「そうね。残り3か月とはいえど、まだ何が起こるか分かったものじゃないですからね」
「確かにそうだわね」
私たちはそれぞれに気合いを入れる。
だが、その時にエスカがふと何かに気が付いた。
「いや、なんで残り3か月なんだっけ? それはアンマリアの物語の話よね?」
「あっ……」
ふと口に出したエスカの言葉に、ミズーナ王女が思わず口に手を当ててしまう。
「そうだわ。拡張版の私の話はまだ1年残っているわ。これは失念が過ぎましたね……」
そう、ミズーナ王女が主人公である拡張版は、私の物語から1年後ろの時間軸で進行している。
攻略対象はミール王国の王子でエスカの兄であるアーサリーが加わるくらい。3年目の物語は、攻略対象が全員学園を卒業してしまっているという特殊な状況下で進行するものなのだそうな。
「攻略対象はアーサリー王子を除けば全員婚約者がいますからね……。アーサリー王子ももう少ししっかりしていて下さると選んでもよいのですが、今の状況ならベジタリウス国内で嫁ぎ先を探した方がよさげな感じですね」
「私も、あれはやめた方がいいと思うわ。この世界での実兄とはいえ、ちょっと思慮が足りなさすぎるもの……」
困ったように頬に手を当てるミズーナ王女。エスカも肩をすくめて眉をひそめる。実妹にすらこの言い草をされるとは、アーサリーも反省をしてもらいたいものだわね。
「とはいえ、あの王子が王位を継ぐとなると、ミール王国のお先は怪しいわ。しっかりしていてあの王子の手綱をしっかりと握れるような人物は居ないものかしらね……」
「うーん……」
攻略対象の話のはずが、気が付けばミール王国の将来を心配する流れになっていた。どうしてこうなったのかしらね。
ミズーナ王女はアーサリーの事をあまりよく思ってなさそうなので、アーサリーの婚約者の問題はかなり揉めそうな感じである。エスカはいまだに魔王に首ったけなので、ミール王国にとって跡取りの問題は早急に解決すべき問題のようである。
すると、エスカが突然何かを思いついたように手を叩く。
「そうだわ、メチルはどうかしら。あの子だって転生者なわけだし、アーサリーの婚約者を快く引き受けてくれるんじゃないかしら」
なんとも安易な発想だわね。
しかし、そこには問題があるのよね。メチルはベジタリウス王妃の専属侍女をしているということよ。
うん、下手をすれば国際問題になりかねないってことね。
とはいえ、ミール王国の問題は解決しておきたいし、ここはひとつベジタリウス王妃に打診してみることにする私たちだった。
本当なら自分の屋敷に戻りたかったのだけれど、王妃のわがままで王家の夕食の食卓に呼ばれた挙句、そのまま城に泊まることになってしまったのよ。
あっ、エスカはおまけよ、おまけ。私の反応が面白いからって、私についてきたのよ。まったく薄情なお姫様だわ。
「予想はしていたけれど、フィレン王子はアンマリアを選んだわね」
「ええ、予想通りでしたね」
ミズーナ王女とエスカは、夕方の事を淡々と話している。
「二人はよかったわけなの? せっかく乙女ゲームの世界にやって来たんだから、自分が王子と結ばれたいとかなかったのかしら」
私は素朴な疑問を二人にぶつける。
すると、二人とも何言ってるのというような真顔を私に向けていた。
「な、なんなのよ、二人揃って……」
無言の圧力のようなものに、思わず私は引いてしまう。
「そりゃまあ、フィレン王子もリブロ王子も美形だから、イケメンと恋愛したいとは思うわよ」
「アンマリア。私たちがせっかくのお話をめちゃくちゃにしちゃうようなお花畑に見えますか?」
鼻で笑っているエスカに対して、ミズーナ王女は私にずいっと迫ってくる。
「いや、思えないわね。でも、普通転生者ってどこか夢見ちゃうものじゃないの?」
ミズーナの質問に答えた私は、質問を投げ返す。
「この世界じゃなければね、そうだったかもね」
エスカが再び鼻で笑っている。なんでエスカってばいちいちイラッとさせにくるのかしらね。
そんなエスカに対して、ミズーナ王女がデコピンを入れている。
「あたっ」
「まったく、思ってても言わないものでしょうに……」
「き、聞かれたから答えただけじゃないのよ。なんで私がこんな目に……」
口を尖らせて愚痴をこぼすエスカである。
「アンマリア、何にしても無事にゲームとしてのエンディングは迎えられそうですね」
どこか引っ掛かりのある言い方をしてくるミズーナ王女。
そう、ここはゲームじゃなくて現実の世界。ゲームの終着点である学園の卒業のその先もしっかりと存在しているのよ。
だから、そこで気を抜いてしまえば、ゲームとしてハッピーエンドでも、現実はバッドエンドなんていうことも十分考えられる。
むしろ、ゲームのエンディングこそが、真のスタートともいえるわけだった。
「まっ、そういう意味では隣国の王女が転生者というのは、実に頼もしい状況だと思いませんか、アンマリア」
「ええ、そう思いますよ、ミズーナ王女」
微笑むミズーナ王女に、私も微笑み返す。
「私もいるんだけど?!」
一人混ざれなかったエスカが文句を言っている。その姿を見た私とミズーナ王女は、ついつい吹き出してしまうのだった。
「とりあえず、まずは乙女ゲームの期間を無事に乗り切ること。それが目標ね」
「そうね。残り3か月とはいえど、まだ何が起こるか分かったものじゃないですからね」
「確かにそうだわね」
私たちはそれぞれに気合いを入れる。
だが、その時にエスカがふと何かに気が付いた。
「いや、なんで残り3か月なんだっけ? それはアンマリアの物語の話よね?」
「あっ……」
ふと口に出したエスカの言葉に、ミズーナ王女が思わず口に手を当ててしまう。
「そうだわ。拡張版の私の話はまだ1年残っているわ。これは失念が過ぎましたね……」
そう、ミズーナ王女が主人公である拡張版は、私の物語から1年後ろの時間軸で進行している。
攻略対象はミール王国の王子でエスカの兄であるアーサリーが加わるくらい。3年目の物語は、攻略対象が全員学園を卒業してしまっているという特殊な状況下で進行するものなのだそうな。
「攻略対象はアーサリー王子を除けば全員婚約者がいますからね……。アーサリー王子ももう少ししっかりしていて下さると選んでもよいのですが、今の状況ならベジタリウス国内で嫁ぎ先を探した方がよさげな感じですね」
「私も、あれはやめた方がいいと思うわ。この世界での実兄とはいえ、ちょっと思慮が足りなさすぎるもの……」
困ったように頬に手を当てるミズーナ王女。エスカも肩をすくめて眉をひそめる。実妹にすらこの言い草をされるとは、アーサリーも反省をしてもらいたいものだわね。
「とはいえ、あの王子が王位を継ぐとなると、ミール王国のお先は怪しいわ。しっかりしていてあの王子の手綱をしっかりと握れるような人物は居ないものかしらね……」
「うーん……」
攻略対象の話のはずが、気が付けばミール王国の将来を心配する流れになっていた。どうしてこうなったのかしらね。
ミズーナ王女はアーサリーの事をあまりよく思ってなさそうなので、アーサリーの婚約者の問題はかなり揉めそうな感じである。エスカはいまだに魔王に首ったけなので、ミール王国にとって跡取りの問題は早急に解決すべき問題のようである。
すると、エスカが突然何かを思いついたように手を叩く。
「そうだわ、メチルはどうかしら。あの子だって転生者なわけだし、アーサリーの婚約者を快く引き受けてくれるんじゃないかしら」
なんとも安易な発想だわね。
しかし、そこには問題があるのよね。メチルはベジタリウス王妃の専属侍女をしているということよ。
うん、下手をすれば国際問題になりかねないってことね。
とはいえ、ミール王国の問題は解決しておきたいし、ここはひとつベジタリウス王妃に打診してみることにする私たちだった。
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