上 下
414 / 487
第八章 3年生後半

第414話 まさに炎上

しおりを挟む
「素材は欲しいから、なるべく傷付けない方向で倒しましょう」
「まあ、仕方ありませんね」
 私たちは、手のひらに魔力を集中させる。
「サキ様、誰一人結界を通さないで下さいね。結界の向こう側は酷いことになりますので」
「えっ、ええ?」
 サキが驚いているものの、すぐに表情を引き締めていた。
「分かりました、やってみます」
 光魔法による結界をしっかりと維持するサキ。さすがは聖女の称号を持つだけの事はある。おかげで、直進してきた魔物は光の壁にぶち当たって進めないでいる。
 サキが維持する結界の前でもたつく魔物たちを前に、私たちは安心したように魔法を放つ。
 大部分は先程のエスカの魔法で押し潰されてしまっている。潰されているとはいってもまだ倒れてはいない。地面に這いつくばって踏ん張っているという状態だった。
 ただし、この重力魔法もさすがにすべての魔物をカバーできているわけではない。周囲では結界を突破しようと試みているものがちらほら見える。
「私たちが集めますから、エスカは先程の魔法でもう一度押し潰して下さい」
「オッケー、任せなさいって」
 私はミズーナ王女と顔を合わせると無言で頷き合う。そして、魔法を使って防壁の切れる辺りから風魔法で魔物を中心部分へと押し返していく。
 どんな魔物が居るのか分からないから、出力は最大よ。取りこぼしがあったら後から来る王子たちに任せましょうかね。
 中央に集められた魔物たちはじたばたと足搔いている様子がかろうじて見て取れる。私たちの目が暗闇に慣れたせいかしらね。
「それじゃ、とどめはお願いするわ、エスカ」
「おいしいところを寄こしてくれるなんて、嬉しいわね。さあ、潰れちゃいなさい、グラヴィティプレス!」
 ズンという重苦しい音が聞こえて、魔物たちが地面に押し潰される。よくよく目を凝らすと、動けなくなっているだけで、まだ元気そうな姿が見える。
 この状態でもまだまだ元気そうなあたり、さすがは魔物といったところだろうか。ここからどうしたものかしらね。
「ほとんどの魔物はこれで討伐できたと思うんだけど、よく見るとまだまだ元気そうね」
「本当ね。なかなかにしぶといわ」
 よくよく見てみると、重力に潰されながらも必死にもがく姿が見受けられる。
「これじゃ討伐したんじゃなくて、動けなくしただけね。早くどうにかしないと、もがいて重力から抜け出しそうだわ」
 私は状況を見ながらそのように分析していた。
 なにせ、足元の土がじわじわと掘り返され始めているのが見えたのだから。
「だったら、これでどうかしら」
 パチンと指を弾くミズーナ王女。すると、魔物たちを取り囲むように炎の壁が現れる。
「物が燃える時、周囲の酸素を奪います。このまま火を燃やし続ければ、どうなるか分かりますよね」
 ずいぶんと恐ろしい方法を思いついたミズーナ王女である。とはいえ、こんな夜中に煌々と炎を燃やすと、王都の人たちに不安を与えないかしらね。
「大丈夫ですよ。今はサキさんが維持してくれている結界のおかげで、王都の中からはこの火は見えませんからね」
 にっこりと笑うミズーナ王女。私たちの中では一番常識人かと思ったけど、やっぱり転生者ってどこかぶっ飛んでるわね……。
 そうやって見ているうちに、炎に囲まれた場所に居る魔物たちが縁辺りからじわじわと倒れ始める。酸欠を起こしているのだ。
 しかし、炎の壁の範囲はかなり広い。この広範囲で炎をこれだけの時間維持できるのは、さすが転生者チートだと思われる。
 だって、結界を維持するサキがミズーナ王女の魔法に青ざめているくらいだもの。とはいえ、この結界はこれだけ維持し続けているあたり、サキも相当に魔力量が多いわね。さすが男爵家令嬢とはいえ王子の婚約者としての役割が与えられているだけあると思うわ。
「この分だと中央付近の魔物が倒れるまで時間がかかります。だったら……」
 さすがにこの持久戦は欠点があると判断した私は、炎の壁の中央付近に火柱を発生させる。
 これで、中央付近からも酸素を奪っていけるというわけである。
「さて、これでしばらく放っておけば魔物は倒れていくでしょう。私はちょっと様子を見てきますね」
 私はこう言い残すと外壁の足元へと短距離転移をする。そろそろ王子たちが率いた軍勢が来るはずなので、事情を説明しないといけないからよ。
 炎を燃やし続けること3時間、ようやく魔物たちがぴくりとも動かなくなっていた。
「えっと、鑑定鑑定っと……」
 外壁の上に戻ってきていた私は、さっさと魔物たちに対して鑑定魔法を発動させる。大量の魔物が居るせいで情報量が多い。
「ふぅ、全部討伐できてるみたいね。持久戦は私たちの勝ちってわけか……」
 延々と火を焚き続けた私たちは、外壁の上でへたりと座り込んだ。さすがに長い時間魔法を発動していたので、完全に疲労してしまっているからしょうがないわね。
「私たちができるのはここまで。あとは殿下たちにお任せしましょう」
「そうですね……」
 私たちは魔物の死屍累々を眼下に見ながら、寄り添うように休むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕

ラララキヲ
恋愛
 侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。  しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。  カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。  ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。  高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。  前世の夢を……  そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。  しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。 「これはわたくしが作った物よ!」  そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──  そして、ルイーゼは幸せになる。 〈※死人が出るのでR15に〉 〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。 ※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...