413 / 497
第八章 3年生後半
第413話 鐘は鳴り響く
しおりを挟む
収穫祭の夜、王都に凄まじい鐘の音が鳴り響く。
襲撃を知らせる鐘の音だ。
あまりにけたたましい音に、さすがに私も目が覚めてしまう。
王都に住んでいると一応の知識として周知されているので、私はすぐに状況を察知する。
「スーラ、私はちょっと様子を見に行きますので、家の事をよろしくお願いします」
「畏まりました。気を付けていってらっしゃいませ」
すぐ近くに待機していたスーラに告げると、私は短距離転移で王都の外壁の上へと瞬間移動する。
(あの鐘の音が鳴るということは、何かしらが王都に近付いてきているということ……。一体どこから?)
夜が深くてよく見えない。しかし、光を照らすと的になりかねないので、風魔法を使って周囲の音を拾う。
(いたわ。11時の方角、……魔物の群れ?)
目を凝らすと、かろうじて土煙らしきものが見える。目視でようやく見えるということは、思った以上に接近している。時間がないわね。
私は再び短距離転移で移動すると、まずはサキの家に跳んでサキを回収。それから城へ跳んでミズーナ王女と合流する。
「アンマリア、サキ。どうしてここに」
城へ跳んでミズーナ王女の部屋に行こうとしたら、フィレン王子とリブロ王子に出くわしてしまう。
「王都の外で魔物の群れを発見致しました。立てる土煙がこの闇の中でもはっきりと見えましたので、一刻の猶予もなりません」
私の報告を聞いて、フィレン王子の顔色が変わる。
「分かった。私たちもすぐに出る。リブロ、一緒に来るんだ」
「はい、兄上」
フィレン王子はリブロ王子を連れて慌てて走り去っていく。
「さて、私たちも移動するわ。ミズーナ王女殿下、魔力を借ります」
「借りるって?」
びっくりするミズーナ王女だけど、今は説明している時間がない。
「魔物の侵入を防ぐために、外壁の上に飛びます。三人で移動するには魔力が足りないんです」
「なるほど……。エスカも使えているのだから、私だって使える可能性はあるものね」
こくりと頷いたミズーナ王女は私とサキの手を取る。私もサキと手をつないで短距離転移を発動させる。
次の瞬間、予定通りの場所に瞬間移動していた。
「さっきより土煙が大きくなっているわ。でも、思ったよりまだ遠い」
くるりとサキとミズーナ王女を見る私。
「一緒に防壁を張りましょう。王都に近付けさせないのが先決です」
「そうね。魔法で絨毯爆撃をしてもいいでしょうけど、数が居るならすり抜ける可能性があるものね」
「そうです。警備兵は居ますが、援軍が来るまで耐えられるか分かりませんからね」
「分かりました。頑張ります」
むんと気合いを入れるサキ。お互いに頷き合うと、手をつないで外壁の外側に魔法の壁を作るために意識を集中させる。
次の瞬間、王都の外壁の外側に立派な光の壁が出現する。
「さあ、これで魔物は簡単に王都に侵入できないはず。高さもある壁ですからね」
「サキは壁の維持をお願いします。いきますよ、アンマリア。空の魔物から優先的に狙いましょう」
「了解」
サキが両手を前に突き出して壁を維持するけれど、高さは思ったよりもない。それでも外壁より高い壁が左右に何キロと続いているので、回り込むにしても時間稼ぎができる。
それにしても、これだけ多くの魔物が気付かれずに揃って王都に押し寄せるなんて、まったく不可解な話だわね。
「おそらく操られているのでしょう。でも、検証は後回しですよ、アンマリア」
「っと、そうでしたわね!」
私とミズーナ王女は同時に魔法を使うために、手のひらに魔力を集中させる。さあ、Wヒロインによる魔法攻撃を受けてみなさい。
「ストームカッター!」
「エアロツイスト!」
ただ魔法を放つだけじゃ面白くないから、適当な魔法名を叫ぶ私たち。
ミズーナ王女の魔法は空中に居る魔物たちを風の刃で斬り刻み、私の魔法は地上の魔物ごと巻き込むように捻じっていく。そして、巻き上がった魔物の一部はミズーナ王女の風の刃に巻き込まれていった。
魔物の数が多すぎるし、真っ暗で何も見えないからご丁寧に倒すのは面倒だものね。ど派手に魔法をぶっ放す私たちに、結界を維持するサキは言葉を失っていた。
「グラヴィティプレス!」
そんな中、突如として別の魔法が魔物たちに放たれる。すると、空中に居た魔物も含めて、べしゃんと地面に押しつぶされていた。地面にぶつかる時の音が辺りに響き渡っている。
「まったく、ずいぶんと荒々しい倒し方をしてるわね、二人とも」
「エスカ、あなたも来たのね」
「アンマリアが向かったというのに、私だけ蚊帳の外は嫌ですからね」
ずいぶんと不機嫌そうな表情をするエスカだわね。私に置いていかれたのがよっぽど悔しかったと思われる。
「置いていって悪かったわね。なにせ緊急事態だったから」
「ええ、そうね」
「じゃ、転生者三人で派手にぶっ飛ばしますか」
「あの……、私を無視して盛り上がらないで下さい!」
私たちが気合いを入れている中、一人で結界を維持するサキが叫ぶ。
あまりに必死に訴えるものだから、私たちはつい鼻で笑ってしまう。
「お待たせしたわね、サキ様」
「私たちが揃ったからには」
「もう安心ですよ」
私が両手、エスカが右手、ミズーナ王女が左手を腰に当てて、魔物の群れをじっと見据える。
「予想外の魔物の氾濫だけど、ばっちり被害0で済ましちゃいましょう」
私がそう宣言すると、揃って手を前へと突き出したのだった。
襲撃を知らせる鐘の音だ。
あまりにけたたましい音に、さすがに私も目が覚めてしまう。
王都に住んでいると一応の知識として周知されているので、私はすぐに状況を察知する。
「スーラ、私はちょっと様子を見に行きますので、家の事をよろしくお願いします」
「畏まりました。気を付けていってらっしゃいませ」
すぐ近くに待機していたスーラに告げると、私は短距離転移で王都の外壁の上へと瞬間移動する。
(あの鐘の音が鳴るということは、何かしらが王都に近付いてきているということ……。一体どこから?)
夜が深くてよく見えない。しかし、光を照らすと的になりかねないので、風魔法を使って周囲の音を拾う。
(いたわ。11時の方角、……魔物の群れ?)
目を凝らすと、かろうじて土煙らしきものが見える。目視でようやく見えるということは、思った以上に接近している。時間がないわね。
私は再び短距離転移で移動すると、まずはサキの家に跳んでサキを回収。それから城へ跳んでミズーナ王女と合流する。
「アンマリア、サキ。どうしてここに」
城へ跳んでミズーナ王女の部屋に行こうとしたら、フィレン王子とリブロ王子に出くわしてしまう。
「王都の外で魔物の群れを発見致しました。立てる土煙がこの闇の中でもはっきりと見えましたので、一刻の猶予もなりません」
私の報告を聞いて、フィレン王子の顔色が変わる。
「分かった。私たちもすぐに出る。リブロ、一緒に来るんだ」
「はい、兄上」
フィレン王子はリブロ王子を連れて慌てて走り去っていく。
「さて、私たちも移動するわ。ミズーナ王女殿下、魔力を借ります」
「借りるって?」
びっくりするミズーナ王女だけど、今は説明している時間がない。
「魔物の侵入を防ぐために、外壁の上に飛びます。三人で移動するには魔力が足りないんです」
「なるほど……。エスカも使えているのだから、私だって使える可能性はあるものね」
こくりと頷いたミズーナ王女は私とサキの手を取る。私もサキと手をつないで短距離転移を発動させる。
次の瞬間、予定通りの場所に瞬間移動していた。
「さっきより土煙が大きくなっているわ。でも、思ったよりまだ遠い」
くるりとサキとミズーナ王女を見る私。
「一緒に防壁を張りましょう。王都に近付けさせないのが先決です」
「そうね。魔法で絨毯爆撃をしてもいいでしょうけど、数が居るならすり抜ける可能性があるものね」
「そうです。警備兵は居ますが、援軍が来るまで耐えられるか分かりませんからね」
「分かりました。頑張ります」
むんと気合いを入れるサキ。お互いに頷き合うと、手をつないで外壁の外側に魔法の壁を作るために意識を集中させる。
次の瞬間、王都の外壁の外側に立派な光の壁が出現する。
「さあ、これで魔物は簡単に王都に侵入できないはず。高さもある壁ですからね」
「サキは壁の維持をお願いします。いきますよ、アンマリア。空の魔物から優先的に狙いましょう」
「了解」
サキが両手を前に突き出して壁を維持するけれど、高さは思ったよりもない。それでも外壁より高い壁が左右に何キロと続いているので、回り込むにしても時間稼ぎができる。
それにしても、これだけ多くの魔物が気付かれずに揃って王都に押し寄せるなんて、まったく不可解な話だわね。
「おそらく操られているのでしょう。でも、検証は後回しですよ、アンマリア」
「っと、そうでしたわね!」
私とミズーナ王女は同時に魔法を使うために、手のひらに魔力を集中させる。さあ、Wヒロインによる魔法攻撃を受けてみなさい。
「ストームカッター!」
「エアロツイスト!」
ただ魔法を放つだけじゃ面白くないから、適当な魔法名を叫ぶ私たち。
ミズーナ王女の魔法は空中に居る魔物たちを風の刃で斬り刻み、私の魔法は地上の魔物ごと巻き込むように捻じっていく。そして、巻き上がった魔物の一部はミズーナ王女の風の刃に巻き込まれていった。
魔物の数が多すぎるし、真っ暗で何も見えないからご丁寧に倒すのは面倒だものね。ど派手に魔法をぶっ放す私たちに、結界を維持するサキは言葉を失っていた。
「グラヴィティプレス!」
そんな中、突如として別の魔法が魔物たちに放たれる。すると、空中に居た魔物も含めて、べしゃんと地面に押しつぶされていた。地面にぶつかる時の音が辺りに響き渡っている。
「まったく、ずいぶんと荒々しい倒し方をしてるわね、二人とも」
「エスカ、あなたも来たのね」
「アンマリアが向かったというのに、私だけ蚊帳の外は嫌ですからね」
ずいぶんと不機嫌そうな表情をするエスカだわね。私に置いていかれたのがよっぽど悔しかったと思われる。
「置いていって悪かったわね。なにせ緊急事態だったから」
「ええ、そうね」
「じゃ、転生者三人で派手にぶっ飛ばしますか」
「あの……、私を無視して盛り上がらないで下さい!」
私たちが気合いを入れている中、一人で結界を維持するサキが叫ぶ。
あまりに必死に訴えるものだから、私たちはつい鼻で笑ってしまう。
「お待たせしたわね、サキ様」
「私たちが揃ったからには」
「もう安心ですよ」
私が両手、エスカが右手、ミズーナ王女が左手を腰に当てて、魔物の群れをじっと見据える。
「予想外の魔物の氾濫だけど、ばっちり被害0で済ましちゃいましょう」
私がそう宣言すると、揃って手を前へと突き出したのだった。
21
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
婚約破棄にも寝過ごした
シアノ
恋愛
悪役令嬢なんて面倒くさい。
とにかくひたすら寝ていたい。
三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。
そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。
それって──最高じゃない?
ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
とある公爵令嬢の復讐劇~婚約破棄の代償は高いですよ?~
tartan321
恋愛
「王子様、婚約破棄するのですか?ええ、私は大丈夫ですよ。ですが……覚悟はできているんですね?」
私はちゃんと忠告しました。だから、悪くないもん!復讐します!
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
君を愛することは無いと言うのならさっさと離婚して頂けますか
砂礫レキ
恋愛
十九歳のマリアンは、かなり年上だが美男子のフェリクスに一目惚れをした。
そして公爵である父に頼み伯爵の彼と去年結婚したのだ。
しかし彼は妻を愛することは無いと毎日宣言し、マリアンは泣きながら暮らしていた。
ある日転んだことが切っ掛けでマリアンは自分が二十五歳の日本人女性だった記憶を取り戻す。
そして三十歳になるフェリクスが今まで独身だったことも含め、彼を地雷男だと認識した。
「君を愛することはない」「いちいち言わなくて結構ですよ、それより離婚して頂けます?」
別人のように冷たくなった新妻にフェリクスは呆然とする。しかしこれは反撃の始まりに過ぎなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる