411 / 500
第八章 3年生後半
第411話 収穫の時期
しおりを挟む
アンマリアが王族に揃って拉致されている頃、怪しげな動きが王国内で行われていた。
「くひひひ……、設備を放棄せねばいかなかったがゆえに、再開させるのに時間がかかってしまった。わしは収納魔法が使えんからのう」
どこかは分からないが、怪しげな老婆が何やらぶつぶつと喋っているようだった。
「まったく、わしが苦労して作った夢の薬だというに、大げさな話にしおって……。しかも吹聴しまくってくれたおかげで、こんな辺鄙な場所で生活をせざるを得なんだ。この恨み、晴らさでおくべきか……」
老婆が過ごす場所は、周りに何もないような場所だった。そこにはたまたま打ち捨てられた小屋があったために、老婆が勝手に住み着いて使っているようなのである。
よくもそんな場所で、老婆が一人生活していられるものである。
「くひひひ、わしの理想の世界を実現するまで、死ねるかというものだ。この執念があったからこそ、わしはここに再びこの薬を完成させる事ができたのだ」
大きな声で独り言を叫ぶ老婆。
タイミングがいいことに外には雷が落ち、急激な嵐が巻き起こる。
「ふん、高鳴るわしの気持ちが嵐を巻き起こしおったか。この程度の風で、わしの魔法で補強したこの小屋を潰せると思うてか」
手に持っていたものを机の上に静かに置くと、老婆は窓の側へと歩いていく。
「このわしを追い出しおったトーミの街に復讐をせねばな。奴らがおっては、わしの成果は世に認められぬ……」
老婆はギリッと歯を食いしばる。
ちなみにトーミというのは王国の王都の名前だ。つまり、この老婆は王家すらも復讐の対象に入れているというわけである。
いや、正確には入れていないだろうが、王都を標的にするのなら自然と王家も対象に含まれてしまうというわけだった。
「はてさて……、いかなる方法で奴らに目にものを見せてやろうかのう」
嵐が吹き荒れる中、老婆はでき上がった薬を目の前にいろいろと画策を始めるのだった。
―――
学園祭が終わって、王国内の各地では収穫祭が行われる時期になる。
これは王都も例外ではなく、街のあちこちはすっかりお祭りモードに包まれていた。
私の家とも取引のあるボンジール商会も、収穫祭のために忙しく動いている。こういうイベントがある時は書き入れ時なので、目ざとい商人たちなら当然こうなるというわけよ。
収穫祭は王国全土で行われるとはいっても、やっぱり中心地たる王都での規模が最も大きくなるのは当然よね。
街の中には多くの人があふれかえっていて、そもそも活気がある街だというのにさらに活気に満ちている。
「今年はますます盛り上がっているみたいですね、収穫祭」
学園で昼食を食べていると、テールが話を切り出していた。
この日は珍しく、ライバル令嬢たち全員にテールやミズーナ王女たちも加えて、関係者がフルに集っていた。
「今年は豊作でしたし、フィレン殿下が学園を卒業なさいますから、そういった関係で盛り上がりを見せているのでしょうね」
私は淡々とそのように推測を話しておく。
これにはラムやサキが納得した様子を見せていた。
ラムは公爵令嬢であるので、この辺の情報に聡い。サキはボンジール商会とは取引があるテトリバー男爵家の令嬢。この二人ならばピンときて当たり前というわけね。
「貴族令嬢となってからは、実は初めての収穫祭なのでとても楽しみなんですよね」
テールはそんな事を言っている。
私たちは不思議そうに首を捻っていたが、それはテールの身の上を失念してしまっていたからだ。
実はテールが貴族令嬢になったのは3年ほど前の話。正式にロートント男爵令嬢となったのは、学園に入学する直前だった。
1年目は呪いの騒ぎを起こすための素体として家に閉じ込められ、2年間は私の家で軟禁状態。収穫祭の時期に外に出るのは、貴族令嬢になってから本当に初めてだったのだ。
「それはなんとも……」
「可哀想としか言いようがありませんね。おいしいものがたくさん売られているというのに、それが食べられないなんて……」
「サクラ様、食い意地が張ってますね」
普通に同情するラムだったが、食い意地の張ったサクラの発言のせいで、場の雰囲気がなんか変わった気がした。脳筋はよく体を動かし、よく食べるものね。偏見かもしれないけれど、なんかそういうイメージがあるわ。
「体を動かしていると、思いの外おなかが空くんですよ。おいしいものをたくさん食べようと思ったら、体を動かすのが一番だと思います」
「あれだけ鍛錬してて、それでいてたくさん食べてるのに……。どうしてサクラ様はそんなに細いのですかね」
にっこりと微笑むサクラに、私たち転生者三人が揃って愚痴をぶちまけていた。私とミズーナ王女は解決しているとはいえ、食べれば簡単に太る体質ゆえにしかたないとして、なんでエスカまでツッコミを入れているのかしらね。そこはよく分からないわ。
とはいえ、私たちが揃ってサクラに文句を言ったのが受けたらしく、しばらくの間みんなで笑ってしまう。
そんな感じで、学園祭も終わって平和な私たちは、収穫祭を楽しみにしながら昼食のひと時を過ごしたのだった。
「くひひひ……、設備を放棄せねばいかなかったがゆえに、再開させるのに時間がかかってしまった。わしは収納魔法が使えんからのう」
どこかは分からないが、怪しげな老婆が何やらぶつぶつと喋っているようだった。
「まったく、わしが苦労して作った夢の薬だというに、大げさな話にしおって……。しかも吹聴しまくってくれたおかげで、こんな辺鄙な場所で生活をせざるを得なんだ。この恨み、晴らさでおくべきか……」
老婆が過ごす場所は、周りに何もないような場所だった。そこにはたまたま打ち捨てられた小屋があったために、老婆が勝手に住み着いて使っているようなのである。
よくもそんな場所で、老婆が一人生活していられるものである。
「くひひひ、わしの理想の世界を実現するまで、死ねるかというものだ。この執念があったからこそ、わしはここに再びこの薬を完成させる事ができたのだ」
大きな声で独り言を叫ぶ老婆。
タイミングがいいことに外には雷が落ち、急激な嵐が巻き起こる。
「ふん、高鳴るわしの気持ちが嵐を巻き起こしおったか。この程度の風で、わしの魔法で補強したこの小屋を潰せると思うてか」
手に持っていたものを机の上に静かに置くと、老婆は窓の側へと歩いていく。
「このわしを追い出しおったトーミの街に復讐をせねばな。奴らがおっては、わしの成果は世に認められぬ……」
老婆はギリッと歯を食いしばる。
ちなみにトーミというのは王国の王都の名前だ。つまり、この老婆は王家すらも復讐の対象に入れているというわけである。
いや、正確には入れていないだろうが、王都を標的にするのなら自然と王家も対象に含まれてしまうというわけだった。
「はてさて……、いかなる方法で奴らに目にものを見せてやろうかのう」
嵐が吹き荒れる中、老婆はでき上がった薬を目の前にいろいろと画策を始めるのだった。
―――
学園祭が終わって、王国内の各地では収穫祭が行われる時期になる。
これは王都も例外ではなく、街のあちこちはすっかりお祭りモードに包まれていた。
私の家とも取引のあるボンジール商会も、収穫祭のために忙しく動いている。こういうイベントがある時は書き入れ時なので、目ざとい商人たちなら当然こうなるというわけよ。
収穫祭は王国全土で行われるとはいっても、やっぱり中心地たる王都での規模が最も大きくなるのは当然よね。
街の中には多くの人があふれかえっていて、そもそも活気がある街だというのにさらに活気に満ちている。
「今年はますます盛り上がっているみたいですね、収穫祭」
学園で昼食を食べていると、テールが話を切り出していた。
この日は珍しく、ライバル令嬢たち全員にテールやミズーナ王女たちも加えて、関係者がフルに集っていた。
「今年は豊作でしたし、フィレン殿下が学園を卒業なさいますから、そういった関係で盛り上がりを見せているのでしょうね」
私は淡々とそのように推測を話しておく。
これにはラムやサキが納得した様子を見せていた。
ラムは公爵令嬢であるので、この辺の情報に聡い。サキはボンジール商会とは取引があるテトリバー男爵家の令嬢。この二人ならばピンときて当たり前というわけね。
「貴族令嬢となってからは、実は初めての収穫祭なのでとても楽しみなんですよね」
テールはそんな事を言っている。
私たちは不思議そうに首を捻っていたが、それはテールの身の上を失念してしまっていたからだ。
実はテールが貴族令嬢になったのは3年ほど前の話。正式にロートント男爵令嬢となったのは、学園に入学する直前だった。
1年目は呪いの騒ぎを起こすための素体として家に閉じ込められ、2年間は私の家で軟禁状態。収穫祭の時期に外に出るのは、貴族令嬢になってから本当に初めてだったのだ。
「それはなんとも……」
「可哀想としか言いようがありませんね。おいしいものがたくさん売られているというのに、それが食べられないなんて……」
「サクラ様、食い意地が張ってますね」
普通に同情するラムだったが、食い意地の張ったサクラの発言のせいで、場の雰囲気がなんか変わった気がした。脳筋はよく体を動かし、よく食べるものね。偏見かもしれないけれど、なんかそういうイメージがあるわ。
「体を動かしていると、思いの外おなかが空くんですよ。おいしいものをたくさん食べようと思ったら、体を動かすのが一番だと思います」
「あれだけ鍛錬してて、それでいてたくさん食べてるのに……。どうしてサクラ様はそんなに細いのですかね」
にっこりと微笑むサクラに、私たち転生者三人が揃って愚痴をぶちまけていた。私とミズーナ王女は解決しているとはいえ、食べれば簡単に太る体質ゆえにしかたないとして、なんでエスカまでツッコミを入れているのかしらね。そこはよく分からないわ。
とはいえ、私たちが揃ってサクラに文句を言ったのが受けたらしく、しばらくの間みんなで笑ってしまう。
そんな感じで、学園祭も終わって平和な私たちは、収穫祭を楽しみにしながら昼食のひと時を過ごしたのだった。
20
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に
椎名 富比路
ファンタジー
錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。
キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。
ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。
意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。
しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。
キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。
魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。
キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。
クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。
彼女は伝説の聖剣を
「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」
と、へし折った。
自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。
その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる