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第八章 3年生後半
第404話 遠いその背中
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「今年も準決勝で君とか。不思議なものだね」
「ええ、まったくですよ。俺たちが強すぎるのか、他が弱いのか。どっちにしてもまた殿下と戦えるのは嬉しいですね」
フィレン王子とタンがにこやかに話している。
確かに3年連続で同じような顔ぶれになるというのも不可解すぎるわけで、くじ運を含めてフィレン王子たちは何か持ち過ぎじゃないかしらね。
それにしても、サーロイン王国の王子と騎士団員を務める家の息子の対戦に、会場の盛り上がりは最高潮を迎えている。
まるでサーロイン王国最強決定戦といった様相を呈しているみたい。
実際、私の隣に座るテールも、見た事ないくらいに興奮している。目を輝かせて両手を握っているなんて、本当に楽しみなのがよく伝わってくるというものだわ。
「エスカ王女殿下、アンマリア様。一体どちらが勝つんでしょうかね」
その表情のまま私たちに顔を向けて問い掛けるテール。やめて、その顔笑っちゃうから。
「単に実力だけなら、タンでしょうね。アンマリアが敵わないくらいですから。ただ、勝負というものはやってみないと分からないわ」
エスカは正面を見たまま真剣な表情で答えている。
「そ、そうですよね。よく知らないで結果を語ろうなんて、失礼ですものね」
エスカの表情を見て、テールは驚いて縮こまりながら喋っている。
「そうですよね。そろそろ始まりますし、二人の本気を見守りましょうか」
私も呼吸を整えると、会場に立つフィレン王子とタンの二人へと視線を移す。
(婚約者であるフィレン殿下に勝って頂きたいですけれど、相手はタンですものね。決勝にはすでにサクラ様が勝ち上がっている状況では、殿下の勝つ望みは薄いでしょうね)
冷静に分析にする私だけれども、胸の前で握る手にはつい力が入ってしまった。
会場の熱気も十分になってきたところで、いよいよ試合開始の合図がなされる。
それと同時に、フィレン王子とタンが同時に互いに踏み込んでいく。
刃を潰した模擬剣とはいえど、実力者たる二人が振るえば凄まじいまでの金属音が会場いっぱいに響き渡る。
剣をぶつけ合った二人は、そのまま押し合いに突入する。
「さすがはフィレン殿下。いつも拝見しておりますが、講義ではなかなか剣を交えられませんでしたので、この瞬間を楽しみにしておりましたぞ」
「それは私の方もだよ、タン。君が騎士団長についている姿を、何度思い浮かべた事だろうかな」
「それは光栄でございますね。ですが、今は試合です。いくら殿下とはいえ、忖度して情けない試合をするつもりはございません。俺を本気で倒すつもりでいらして下さい」
「そのつもりだよ。会場内にはアンマリアもサキも来ている。婚約者に情けない姿なんて、見せられたものではないからね」
会場のど真ん中で、男たちの意地がぶつかり合う。
均衡が破れないと見るや否や、二人は剣を弾きあって一旦距離を取る。
かと思えば、すぐさま同時に飛びこんでまた剣をぶつけ合う。
今度は先程とは違い、剣の打ち合いだ。
さすがに学園トップクラスの剣の実力の持ち主であるフィレン王子とタンの打ち合いは、並々ならぬ迫力というものがあった。
この激しい打ち合いに、会場の中の興奮は最高潮に達している。
その中で、私やテールは祈るような気持ちでその試合を見守っている。戦いを経験しているとはいっても、さすがに知り合い同士であれば試合であっても無事を祈ってしまうというものなのよ。
だけど、そんな打ち合いも永遠に続くわけがなかった。
人間である以上、魔法による身体強化がなければ、かなり早く体力が尽きてしまうのだ。そう、純粋な体力勝負なのだ。
こうなってくれば、フィレン王子の方が不利だった。相手はなんといっても代々が騎士団に努める家柄なのだから。
「はあ、はあ……」
さすがに疲れの見えてきたフィレン王子の剣が乱れている。
一方のタンは、まったく衰えが見えない。これはもう決着がついたようなものだった。
フィレン王子の様子を見たタンは、その剣を下ろしている。
「もう決着はついたようだな、殿下」
「……まったく、そのようだね。君の背中には、まったく追いつけそうにない。……悔しい限りだよ」
二人はお互いの顔を見て笑い始めた。これには審判も面食らってしまっていた。
「え、えと、これは決着と見ていいのでしょうかね?」
慌てて二人に確認をする審判。
「ああ、タンの勝ちだ。残念だけど、私はもう動く事も厳しそうだよ」
そう話すフィレン王子の足は、小刻みに震えていた。酷使しすぎたのか、けいれんを起こしてしまっているようである。
「しょ、勝者、タン・ミノレバー!」
勝ち名乗りが行われると、会場からは割れんばかりの歓声が上がる。
このあと、足の痺れたフィレン王子は、タンに肩を借りながらどうにか退場していったのだった。
こうして、剣術大会の決勝戦は、3年連続でタンとサクラによる決勝戦となったのだった。
決勝戦は昼食後に行われるため、私は急いでフィレン王子のもとへと走り出した。
「ええ、まったくですよ。俺たちが強すぎるのか、他が弱いのか。どっちにしてもまた殿下と戦えるのは嬉しいですね」
フィレン王子とタンがにこやかに話している。
確かに3年連続で同じような顔ぶれになるというのも不可解すぎるわけで、くじ運を含めてフィレン王子たちは何か持ち過ぎじゃないかしらね。
それにしても、サーロイン王国の王子と騎士団員を務める家の息子の対戦に、会場の盛り上がりは最高潮を迎えている。
まるでサーロイン王国最強決定戦といった様相を呈しているみたい。
実際、私の隣に座るテールも、見た事ないくらいに興奮している。目を輝かせて両手を握っているなんて、本当に楽しみなのがよく伝わってくるというものだわ。
「エスカ王女殿下、アンマリア様。一体どちらが勝つんでしょうかね」
その表情のまま私たちに顔を向けて問い掛けるテール。やめて、その顔笑っちゃうから。
「単に実力だけなら、タンでしょうね。アンマリアが敵わないくらいですから。ただ、勝負というものはやってみないと分からないわ」
エスカは正面を見たまま真剣な表情で答えている。
「そ、そうですよね。よく知らないで結果を語ろうなんて、失礼ですものね」
エスカの表情を見て、テールは驚いて縮こまりながら喋っている。
「そうですよね。そろそろ始まりますし、二人の本気を見守りましょうか」
私も呼吸を整えると、会場に立つフィレン王子とタンの二人へと視線を移す。
(婚約者であるフィレン殿下に勝って頂きたいですけれど、相手はタンですものね。決勝にはすでにサクラ様が勝ち上がっている状況では、殿下の勝つ望みは薄いでしょうね)
冷静に分析にする私だけれども、胸の前で握る手にはつい力が入ってしまった。
会場の熱気も十分になってきたところで、いよいよ試合開始の合図がなされる。
それと同時に、フィレン王子とタンが同時に互いに踏み込んでいく。
刃を潰した模擬剣とはいえど、実力者たる二人が振るえば凄まじいまでの金属音が会場いっぱいに響き渡る。
剣をぶつけ合った二人は、そのまま押し合いに突入する。
「さすがはフィレン殿下。いつも拝見しておりますが、講義ではなかなか剣を交えられませんでしたので、この瞬間を楽しみにしておりましたぞ」
「それは私の方もだよ、タン。君が騎士団長についている姿を、何度思い浮かべた事だろうかな」
「それは光栄でございますね。ですが、今は試合です。いくら殿下とはいえ、忖度して情けない試合をするつもりはございません。俺を本気で倒すつもりでいらして下さい」
「そのつもりだよ。会場内にはアンマリアもサキも来ている。婚約者に情けない姿なんて、見せられたものではないからね」
会場のど真ん中で、男たちの意地がぶつかり合う。
均衡が破れないと見るや否や、二人は剣を弾きあって一旦距離を取る。
かと思えば、すぐさま同時に飛びこんでまた剣をぶつけ合う。
今度は先程とは違い、剣の打ち合いだ。
さすがに学園トップクラスの剣の実力の持ち主であるフィレン王子とタンの打ち合いは、並々ならぬ迫力というものがあった。
この激しい打ち合いに、会場の中の興奮は最高潮に達している。
その中で、私やテールは祈るような気持ちでその試合を見守っている。戦いを経験しているとはいっても、さすがに知り合い同士であれば試合であっても無事を祈ってしまうというものなのよ。
だけど、そんな打ち合いも永遠に続くわけがなかった。
人間である以上、魔法による身体強化がなければ、かなり早く体力が尽きてしまうのだ。そう、純粋な体力勝負なのだ。
こうなってくれば、フィレン王子の方が不利だった。相手はなんといっても代々が騎士団に努める家柄なのだから。
「はあ、はあ……」
さすがに疲れの見えてきたフィレン王子の剣が乱れている。
一方のタンは、まったく衰えが見えない。これはもう決着がついたようなものだった。
フィレン王子の様子を見たタンは、その剣を下ろしている。
「もう決着はついたようだな、殿下」
「……まったく、そのようだね。君の背中には、まったく追いつけそうにない。……悔しい限りだよ」
二人はお互いの顔を見て笑い始めた。これには審判も面食らってしまっていた。
「え、えと、これは決着と見ていいのでしょうかね?」
慌てて二人に確認をする審判。
「ああ、タンの勝ちだ。残念だけど、私はもう動く事も厳しそうだよ」
そう話すフィレン王子の足は、小刻みに震えていた。酷使しすぎたのか、けいれんを起こしてしまっているようである。
「しょ、勝者、タン・ミノレバー!」
勝ち名乗りが行われると、会場からは割れんばかりの歓声が上がる。
このあと、足の痺れたフィレン王子は、タンに肩を借りながらどうにか退場していったのだった。
こうして、剣術大会の決勝戦は、3年連続でタンとサクラによる決勝戦となったのだった。
決勝戦は昼食後に行われるため、私は急いでフィレン王子のもとへと走り出した。
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