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第八章 3年生後半

第403話 顔ぶれ変わらずも

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「なかなか白熱した戦いでしたね」
「そうですね。でも、さすがサクラ様はお強いですね。まさかレッタス殿下に勝ってしまわれるとは、正直思ってもみませんでした」
 テールは興奮した様子で語っている。
 でも、私の方は別にそうは思わなかった。サクラなら勝っちゃうだろうなとどこか確信を持っていたのだ。
 なんといっても、私はサクラの戦いを目の前で何度となく見てきていたのだから。魔族テリアとの戦いを見ても、人間相手ならもう相手になる人は少ないんじゃないかしらね。私だって勝てる気がしないわ。
 私からのサクラへの評価は、大体そんな感じである。
 さて、サクラとレッタス王子の熱戦も冷めやらぬうちに、次の戦いが始まる。
 すると、そこに現れたのは思ってもみない組み合わせだった。
「あらあら、フィレン殿下と……アーサリー殿下だわ」
 なんと、王子対決がそこで実現していたのだった。というか、アーサリーも参加してて勝ち残っていたのね。すっかり失念していたわ。
「アンマリアったら、私のお兄様の事を忘れてましたわね!」
「うわっ、エスカ?!」
 王子対決に驚いていると、知らない間に真横にエスカが座っていた。一体いつ来たのよ、この子は。
「まったく、影が薄かったので忘れられているのは覚悟はしていましたが、実際に目にすると腹立たしいわね」
 実際にエスカはかなりぷりぷりとした雰囲気を放っていた。
 だけど、すぐにいつもの柔らかな表情になる。
「まっ、私もたまに忘れてたからそこまで怒らないわよ」
「あ、あのねぇ……」
 予想外な一言に、思わずこけそうになる私とテールだった。
「さすがに自分の兄君の事を忘れるのはいかがかと存じます……」
 苦言を呈するテールだけど、エスカは笑ってごまかしていた。
 そして、会場のど真ん中へと視線を向けるエスカ。
「それはさておき、お兄様はフィレン殿下に勝てると思われますか?」
 急に私たちに質問をぶつけてくるエスカ。声色を聞く限り真剣な質問のようだ。
 この質問には、私は正直どう答えようか迷うというもの。それというのも、アーサリーの実力がよく分からないからね。最近付き合いがなかっただけに、どうしても情報がなさすぎるのよ。
 でも、フィレン王子の方はしっかり情報がある。ただ、一方しか知らないというのは、評価を下すという上では公平性に欠ける。うーん、どうしたものかしらね。
「アーサリー殿下の実力がよく分かりませんのでね、とても結果の予想ができませんね。ですが、フィレン殿下が負けるとは思っていませんよ」
「婚約者が負けるところは想像したくないっていうところかしらね」
 私の答えにいやみったらしく絡んでくるエスカ。この王女、実に面倒くさい。
「お二人とも、もう試合が始まりますよ。落ち着いて座って観戦しましょう」
 テールが強く言ってくるものだから、私たちは口論はやめておとなしく席に座ることにしたのだった。

 結果として、フィレン王子が無事に勝ち進んだ。
 冷静さを持つフィレン王子と、カッとなりやすいアーサリーでは、まあ当然ともいえるような結果だったわね。
「まったく情けないわね、アーサリーってば。もう一押しできれば勝てたかもしれないのに、集中力がなさすぎだわ」
 エスカはかなりご立腹のようである。
 エスカは転生者ではあるけれど、なんともこの兄妹、性格がよく似ているのよねぇ。これもひとつの強制力ってやつなのかしらね。私は呆れた顔でエスカの様子を見守っていた。
「何なのよ、アンマリア。その顔は一体どういう意味かしらね」
「や、やめてちょうだい、エスカ。人の注目の方が、痛いから……」
 ほっぺをつねられる私だった。
 結局数分間は放してもらえずに、私の頬には赤い跡がしばらく残ってしまった。
「最後の試合が始まりますよ。タン様と……知らない方です」
 指を差しながら興奮しているテールである。
 確かにタンが出てきたのだけど、相手は誰なのかしらね。
「あれは、2年生の武術型の学生ね。お兄様とつるんでるようだけど、名前は知らないわ」
 ふむ、アーサリーの知り合いなのね。だったらお手並み拝見といこうかしら。
 ……そう思った時もありました。
 結果としては一瞬。大方の予想通り、あっさりとタンが勝ってしまった。さすがはサクラの婚約者だわ。
「予想はしていたけれど、恐ろしいまでに一瞬ね」
「でも、これで次の対決はフィレン殿下とタン様ですね。どちらが勝つかまったく予想できませんね」
 確かに、どちらも王国内ではトップクラスの実力者に入るから、これはどっちが勝つかまったく分からない。
 結局今年の剣術大会も、ゲームに出てくる主要キャラで埋め尽くされてしまっていた。順当といえば順当だけど、変わり映えしないわね。
「見飽きたって顔するんじゃないわよ、アンマリア。顔ぶれが同じでも、今年も同じ結果とは限らないでしょう?」
「まあ、確かにそうね。となると、2年連続でサクラ様に負けているタン様のリベンジなるかってところかしらね」
「そうなるわね」
 私はエスカと盛り上がっている。テールはそんな私たちを見ながら、微笑ましそうにしていた。
 今年の剣術大会もあっという間に準決勝を迎える。
 第1試合はサクラが圧倒的な強さを見せて、順当に決勝に駒を進めていた。
 となると、第2試合は自然と注目度が高まってしまう。
 なにせこちらも、2年連続で同じ結果を迎えているタンとフィレン王子の試合なのだから。
 会場中の注目が集まる中、タンとフィレン王子がその姿を見せたのだった。
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