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第八章 3年生後半

第401話 メイド服が珍しいですか

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「いらっしゃいませ~」
 タンに負けた悔しさに浸る暇もなく、私はクラスの出し物に顔を出していた。
 本当なら試合を見る予定だったんだけど、私のメイド姿を見たいとかいうエスカによって無理やりクラスに連れていかれたのよ。何なのよ、まったく。
 ちなみに私の応援に来ていたラム、サキ、モモの三人もクラスに戻ってきている。
 お昼の忙しい時間が落ち着いたかなと思った頃、予想外の客がやって来た。
「あらあら、可愛らしい格好をしているではないですか」
「うわぁ、よく似合っていますよ、アンマリア」
「うぇっ! ベジタリウス王妃殿下、それとメチルまで」
 私が仕方なく接客をしていると、どういうわけかベジタリウス王妃が現れたのだった。なんで居るのよ、この人たちが。
 予想外の人物たちが現れて、私は口をパクパクさせている。
 すると、私の声に驚いた魔法型のクラスメイトたちがわらわらと寄ってくる。
「アンマリア様、この方たちは?」
 クラスメイトの一人が、私に問い掛けてくる。
「トゥメリア・ベジタリウス王妃殿下でございますよ。隣の方は王妃殿下の専属メイドでメチル・コール子爵令嬢です」
「まぁ、王族の方!」
 私の紹介を聞いた学生たちが次々と跪いていく。王族相手ですものね、仕方ないわよね。
 突然の王族の出現に、室内の雰囲気が一変してしまっている。これでは営業に支障をきたしちゃうんだけど、どうしましょうかね。私はついつい首を捻ってしまう。
 さて、どうしたものかと考えていると、見た事のある人物が部屋にやって来た。
「あら、お母様ではございませんか」
「母上、いらしてたのですか」
「あら、レッタスとミズーナ。うふふっ、久しぶりですね」
 レッタス王子とミズーナ王女だった。
 二人の後ろからはエスカがひょっこりと顔を出していて、どうやら彼女が二人をここまで連れてきたようだった。今回ばかりはナイスだわ。
 ところが、その評価はすぐに崩れ去る事となる。
「ふふっ、エスカ王女にこちらへやってくれば面白いものが見られると連絡を頂きましたのでね。子どもたちの様子を見るのを兼ねてやって来たのですよ」
 どうやらベジタリウス王妃がサーロイン王国の学園にやって来たのは、エスカが原因らしい。メチルはすっかり失念していたそうなので、すべての元凶はエスカだったというわけだ。一瞬でもいい人だと思ったのがばかだったわ。
「アンマリア、先程の戦いを見させて頂きましたよ」
「ええ、ご観戦になられていたのですか?!」
 どうやら、さっきのタンとの戦いをベジタリウス王妃に見られていたらしい。なんか恥ずかしくなってきちゃうわね。
「本当に普通のご令嬢とは思えない動きでしたね。騎士でもやっていけそうな感じでした」
「あは、あはははは……」
 褒められているのは分かるんだけど、令嬢とした場合、素直に喜んでいいのか非常に迷うものだわね。なので、私は笑ってごまかしておいた。
 その私の姿を見て、ベジタリウス王妃はにこやかに微笑み、メチルは必死に笑うのを我慢していた。メチルはまだいいんだけど、後ろで笑うエスカは許せないわね。家に帰ったら覚えてなさいよ。
 しばらく引きつった笑いを浮かべていた私だったけど、メイド執事喫茶をしている真っ最中なので、とりあえず営業用に気持ちを切り替える。他の客たちに迷惑をかけるわけにはいかないものね。今は我慢我慢。
「それでは王妃様、ご注文は何に致しましょうか」
 見よ、この変わり身の早さを。内心ドヤ顔を決める私である。
「そうですね。アンマリアのおすすめでいいわ」
「わ、私もそれでお願いします」
 ベジタリウス王妃が注文を決めると、メチルは慌ててそれに乗っかっていた。魔族たちの脅威から解放されたせいか、以前に比べればかなり生き生きとした感じになっているわね。
 メチルの変わりように、思わず私は笑ってしまう。
「な、なんなんですか。アンマリアったら急に笑って……」
「いや、最初の頃に比べたら明るくなったかなって思ってね」
 文句を言うメチルに笑いながら返すと、思い当たるのかメチルは黙り込んでいた。
「では、すぐにご用意致しますので、少々お待ち下さいませ」
 私はメイドらしく振る舞うと、奥へと消えていった。
 その後、王妃たちに出した料理は好評を貰っていた。特に前世の記憶持ちのメチルはそれは懐かしそうに食べていた。
 ちなみに出した料理はサンドイッチ。サーロインやミールでは比較的なじみになっている料理だけど、ベジタリウスではまだ珍しい料理のようだった。
「ふふっ、素晴らしい料理をありがとうございました。では、私は子どもたちと学園祭を見て回りますので、これで失礼致しますね」
 にこやかな表情のまま、ベジタリウス王妃はミズーナ王女とレッタス王子とともに、メチルを連れて学園祭巡りへと向かっていった。
 王妃たちが去った後のお店の中では、私は他の学生たちから質問攻めにあってもみくちゃになったのは言うまでもない。
 ああ、サクラたちの試合を見たかったわね。
 結局この日の営業が終わるまで解放されなかった私は、その事を悔やんだのだった。
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