伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
399 / 500
第八章 3年生後半

第399話 タンとの戦い

しおりを挟む
「アンマリア・ファッティ、そろそろ出番ですよ」
 ついに、タンとの決戦の場に向かうことになった私。頬を一発打って気合いを入れると、会場へと向かっていく。
 実は、ゲームにおいても剣術大会に3年連続で出る事は可能。その場合、自然とフィレン王子、リブロ王子、タンの三人に攻略対象は絞られてしまう。あとの二人は魔法型であるので、剣術大会の結果は影響しないのだ。
 ゲームであるなら、1年生や2年生の時のラスボスはランダム選出になるのだけど、3年生だけはタンが固定でラスボスになる。その直前の準決勝の相手もサクラ固定なので、はっきりいってタンルートのイベントなのよね。
 ところがどっこい、どういうわけだろうか。
 この世界線では3回戦でタンと戦うことになってしまった。
 ゲームなら本来は5回戦で終了するのだけど、今回はやけに出場者が多くて全部で6回戦まである。そのせいでいろいろと狂ってしまったらしい。まったく困ったものだわ。
「こんなに早く戦えるとは思っていなかったよ、アンマリア嬢」
「そのセリフはそっくりお返ししますわ、タン様」
 会場のど真ん中でお互いに笑いながら睨み合う私たち。
 困ったことに、ここのところ毎日のように顔を合わせていたので、お互いの手の内が分かってるのよね。さて、どうしたものかしら。
「最近ずっと一緒に居たから、手の内が分かっているみたいな顔だな。だが、サクラも俺も、そんな単純にいくような相手だと思っているのかい?」
 思っている事がばれちゃったか。脳筋だと思って甘く見てたわね。
「分かっていたとしても、簡単に通用する相手だとは思っておりませんよ。サクラ様の婚約者が、そんな簡単に倒せるわけありませんからね」
 少々小ばかにしたような表情で答える私。だけど、さすがにタンは冷静だったようだ。
「ははっ、怒らせようとしてるのか。甘く見られたものだな」
 タンは小さく笑うと、私にしっかりとした眼差しを向ける。
「さて、サクラの友人として相応しいか、俺がしっかり見極めてやろう。さあ、来い」
「その理論はよく分かりませんが、勝負を申し込まれた以上は、しっかりとお応えしますわ」
 私たちが剣を構えると、試合開始の合図が下された。
「始め!」
 しかし、この合図がなされてもタンは動かなかった。それどころか、私を見ながら余裕の笑みである。どうやら先に攻めてこいといっているみたいだった。
(ずいぶんとなめてくれていますね。だけど、その誘いに乗ってやろうじゃないの)
 私は先手を取ってタンへと走っていく。
 少し距離を取っていたので、思ったより歩数が必要だったものの、私はタンに向けて剣を振り下ろす。身体強化がなくても、私の剣はそんなに遅くないし軽くないわよ。
 さあ、どう動くのかしら。
 すると、タンは剣を振って私の攻撃を受け止めていた。これはまあ予想通りね。
 なので、私はすぐさま剣を引いて距離を取り、再びタンへと攻撃を仕掛ける。
「へえ、そんな格好でよく動けるものだな。感心してしまうよ」
 意外に思われたみたいだけど、タンはずいぶんと落ち着き払っている。さすがは3年生の剣術大会のラスボスだわね。
「美しさと強さを兼ね備えていたいと思いましたからね。まぁ単純に、魔法型であるがために服装がなかっただけではございますけれど」
「それは困ったものだな」
 話をしながら気を逸らして放った2撃目も、余裕を持って止められてしまう。本当にこんな簡単に止められてしまうだなんて思ってもみなかったわ。
「残念だけど、アンマリア嬢。王国最強の騎士を目指すからには、こんなところで時間をかけているわけにはいかない。さっさと終わらせてあげよう」
「そうはいきませんわよ、タン様。少なくともサクラ様と戦うまでに、負けてしまうつもりはありません」
「そうかい。それは残念だね。できればサクラの友人は傷付けたくはなかったのだけれどね」
「そうですか。本気を出されたとしても、私は傷付くつもりはありませんわよ」
 剣を押し合っていた状況から、私は再び剣を弾いて攻撃を仕掛ける。ヒットアンドアウェイだ。
「実に華麗な戦い方だね」
「それはありがとうございます」
 タンから褒められてはいるものの、なんとも嫌な気分になるものだわね。完全に遊ばれているんですもの。
 サクラともしっかり鍛錬は積んだし、その際にタンとも剣を交えている。経験はあるというのに、どうしてもタンを捉え切れない。
 それというのも、タンの特性というものが原因。攻めの剣術を使う脳筋ではあるものの、それでもタンが強いのは理由がある。
(ううう、剣筋が全部読まれているわ。タンの強さの理由は、この戦闘センスなのよね……。メチルによれば、味方として使えば受け流しだのカウンターだのを使っていたらしいからね)
 こんなところで追加要素であるRPGのネタを回収するんじゃないわよ。
 思わず心の中で叫んでしまう私だった。
 これでは私のヒットアンドアウェイ戦法とはなかなかに相性が悪いようだわね。
 しかし、往生際の悪い私は、そんなタンを相手に勝つ方法をどうにか模索するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢、前世の記憶を駆使してダイエットする~自立しようと思っているのに気がついたら溺愛されてました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
デブだからといって婚約破棄された伯爵令嬢エヴァンジェリンは、その直後に前世の記憶を思い出す。 かつてダイエットオタクだった記憶を頼りに伯爵領でダイエット。 ついでに魔法を極めて自立しちゃいます! 師匠の変人魔導師とケンカしたりイチャイチャしたりしながらのスローライフの筈がいろんなゴタゴタに巻き込まれたり。 痩せたからってよりを戻そうとする元婚約者から逃げるために偽装婚約してみたり。 波乱万丈な転生ライフです。 エブリスタにも掲載しています。

婚約破棄された私は、号泣しながらケーキを食べた~限界に達したので、これからは自分の幸せのために生きることにしました~

キョウキョウ
恋愛
 幼い頃から辛くて苦しい妃教育に耐えてきたオリヴィア。厳しい授業と課題に、何度も心が折れそうになった。特に辛かったのは、王妃にふさわしい体型維持のために食事制限を命じられたこと。  とても頑張った。お腹いっぱいに食べたいのを我慢して、必死で痩せて、体型を整えて。でも、その努力は無駄になった。  婚約相手のマルク王子から、無慈悲に告げられた別れの言葉。唐突に、婚約を破棄すると言われたオリヴィア。  アイリーンという令嬢をイジメたという、いわれのない罪で責められて限界に達した。もう無理。これ以上は耐えられない。  そしてオリヴィアは、会場のテーブルに置いてあったデザートのケーキを手づかみで食べた。食べながら泣いた。空腹の辛さから解放された気持ちよさと、ケーキの美味しさに涙が出たのだった。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開や設定は、ほぼ変わりません。加筆修正して、完成版として連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...