上 下
399 / 487
第八章 3年生後半

第399話 タンとの戦い

しおりを挟む
「アンマリア・ファッティ、そろそろ出番ですよ」
 ついに、タンとの決戦の場に向かうことになった私。頬を一発打って気合いを入れると、会場へと向かっていく。
 実は、ゲームにおいても剣術大会に3年連続で出る事は可能。その場合、自然とフィレン王子、リブロ王子、タンの三人に攻略対象は絞られてしまう。あとの二人は魔法型であるので、剣術大会の結果は影響しないのだ。
 ゲームであるなら、1年生や2年生の時のラスボスはランダム選出になるのだけど、3年生だけはタンが固定でラスボスになる。その直前の準決勝の相手もサクラ固定なので、はっきりいってタンルートのイベントなのよね。
 ところがどっこい、どういうわけだろうか。
 この世界線では3回戦でタンと戦うことになってしまった。
 ゲームなら本来は5回戦で終了するのだけど、今回はやけに出場者が多くて全部で6回戦まである。そのせいでいろいろと狂ってしまったらしい。まったく困ったものだわ。
「こんなに早く戦えるとは思っていなかったよ、アンマリア嬢」
「そのセリフはそっくりお返ししますわ、タン様」
 会場のど真ん中でお互いに笑いながら睨み合う私たち。
 困ったことに、ここのところ毎日のように顔を合わせていたので、お互いの手の内が分かってるのよね。さて、どうしたものかしら。
「最近ずっと一緒に居たから、手の内が分かっているみたいな顔だな。だが、サクラも俺も、そんな単純にいくような相手だと思っているのかい?」
 思っている事がばれちゃったか。脳筋だと思って甘く見てたわね。
「分かっていたとしても、簡単に通用する相手だとは思っておりませんよ。サクラ様の婚約者が、そんな簡単に倒せるわけありませんからね」
 少々小ばかにしたような表情で答える私。だけど、さすがにタンは冷静だったようだ。
「ははっ、怒らせようとしてるのか。甘く見られたものだな」
 タンは小さく笑うと、私にしっかりとした眼差しを向ける。
「さて、サクラの友人として相応しいか、俺がしっかり見極めてやろう。さあ、来い」
「その理論はよく分かりませんが、勝負を申し込まれた以上は、しっかりとお応えしますわ」
 私たちが剣を構えると、試合開始の合図が下された。
「始め!」
 しかし、この合図がなされてもタンは動かなかった。それどころか、私を見ながら余裕の笑みである。どうやら先に攻めてこいといっているみたいだった。
(ずいぶんとなめてくれていますね。だけど、その誘いに乗ってやろうじゃないの)
 私は先手を取ってタンへと走っていく。
 少し距離を取っていたので、思ったより歩数が必要だったものの、私はタンに向けて剣を振り下ろす。身体強化がなくても、私の剣はそんなに遅くないし軽くないわよ。
 さあ、どう動くのかしら。
 すると、タンは剣を振って私の攻撃を受け止めていた。これはまあ予想通りね。
 なので、私はすぐさま剣を引いて距離を取り、再びタンへと攻撃を仕掛ける。
「へえ、そんな格好でよく動けるものだな。感心してしまうよ」
 意外に思われたみたいだけど、タンはずいぶんと落ち着き払っている。さすがは3年生の剣術大会のラスボスだわね。
「美しさと強さを兼ね備えていたいと思いましたからね。まぁ単純に、魔法型であるがために服装がなかっただけではございますけれど」
「それは困ったものだな」
 話をしながら気を逸らして放った2撃目も、余裕を持って止められてしまう。本当にこんな簡単に止められてしまうだなんて思ってもみなかったわ。
「残念だけど、アンマリア嬢。王国最強の騎士を目指すからには、こんなところで時間をかけているわけにはいかない。さっさと終わらせてあげよう」
「そうはいきませんわよ、タン様。少なくともサクラ様と戦うまでに、負けてしまうつもりはありません」
「そうかい。それは残念だね。できればサクラの友人は傷付けたくはなかったのだけれどね」
「そうですか。本気を出されたとしても、私は傷付くつもりはありませんわよ」
 剣を押し合っていた状況から、私は再び剣を弾いて攻撃を仕掛ける。ヒットアンドアウェイだ。
「実に華麗な戦い方だね」
「それはありがとうございます」
 タンから褒められてはいるものの、なんとも嫌な気分になるものだわね。完全に遊ばれているんですもの。
 サクラともしっかり鍛錬は積んだし、その際にタンとも剣を交えている。経験はあるというのに、どうしてもタンを捉え切れない。
 それというのも、タンの特性というものが原因。攻めの剣術を使う脳筋ではあるものの、それでもタンが強いのは理由がある。
(ううう、剣筋が全部読まれているわ。タンの強さの理由は、この戦闘センスなのよね……。メチルによれば、味方として使えば受け流しだのカウンターだのを使っていたらしいからね)
 こんなところで追加要素であるRPGのネタを回収するんじゃないわよ。
 思わず心の中で叫んでしまう私だった。
 これでは私のヒットアンドアウェイ戦法とはなかなかに相性が悪いようだわね。
 しかし、往生際の悪い私は、そんなタンを相手に勝つ方法をどうにか模索するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕

ラララキヲ
恋愛
 侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。  しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。  カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。  ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。  高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。  前世の夢を……  そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。  しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。 「これはわたくしが作った物よ!」  そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──  そして、ルイーゼは幸せになる。 〈※死人が出るのでR15に〉 〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。 ※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...