上 下
395 / 487
第八章 3年生後半

第395話 モモの婚約者

しおりを挟む
 さてさて、モモの方はどうなったのかしらね。
 家に戻った私は、ひとまずは服を着替える。
 本来モモと私は友人設定だったんだけど、姉妹になっちゃったらなんかモモは結構私にべったりなのよねぇ。
 そもそも最初からゲームとかけ離れちゃったし、もう今さらって感じだけどね。
 ゲームでは友人、今は妹。立場が変わっても、モモは私にとっては大事な子だから、ちゃんと幸せになってもらわないとね。
 夕食を前に父親が帰宅したので、私はどうなったのか確認をしてみることにした。
「お父様、どうでしたでしょうか」
「ああ、マリー。そうだな、私の部屋で話をしようか」
 父親に尋ねるとそう返ってきたので、私は父親の書斎で話をする事にした。
「結果から言えば、モモとタカーの婚約の件は了承されたよ。宰相殿も、いい加減に相手を決めたがっていたようだからね」
「そうなんですね。よかった……」
 父親からの報告を聞いて、私はひと安心だった。
「しかし、問題は本人たちだな。まぁ貴族の間では本人たちを無視して政略的に婚姻を結ぶという事は多いけれど、私としてはモモの事は気になるからな」
 婚約を決めておきながら、父親はこんな事を言ってくる。私から言われてやったとはいえ、娘の事が気がかりになるいい父親だわね。
「それは、夕食の際にでも本人の反応を見てみましょうよ、お父様」
「ふむ、それもそうだな」
 私が提案すると、父親もそれをすんなりと受け入れていた。はてさて、本人の反応はどうなのかしら。
 父親の部屋を出た私は、ちょっと意地悪な顔で笑っていた。

 夕食の時間になると、モモと母親も合流しての食事となる。
 その食事がそこそこ進んだところで、父親が今日城であった事を話し始めた。
「モモ」
「なんでしょうか、お父様」
 父親が話し掛けると、食べる手を止めてモモが反応する。きちんと父親に顔を向けているあたり、モモもしっかりとして令嬢だわ。
「実はだな、モモの婚約者が決定したんだ」
「まあ、そうなのですね」
 父親が神妙な面持ちで話したものの、モモの方は意外と軽い反応をしていた。これには私も驚いたわよ。
「……驚かないんだな」
「ええ、お姉様からも言われておりましたし、そろそろお話があるかもと覚悟しておりましたから」
 ああ、私のせいか。
 父親の質問に返したモモの言葉で、私は自覚させられた。
「それで、その相手なのだが、宰相殿の息子であるタカー・ブロック侯爵令息だ」
「タカー様でございますか。それでしたら、謹んでお受け致します」
 父親から告げられた名前に驚きながらも、モモはすんなりと婚約を受け入れていた。
「そうか。今度正式に顔合わせをしたいので、そのつもりでいてくれ」
「承知致しました」
 意外とあっさりと婚約者の話は終わってしまった。モモもすっかり覚悟が決まっていたようだったわ。
 私が安心したため息をついていると、モモが不意に視線を向けてくる。それに対して私は笑顔を返しておくと、モモも笑顔を返していた。うん、これは後でお話しなきゃいけないみたいだわ。

 食事を終えた私は、モモと話を統べくモモの部屋を訪れる。
 テーブルを囲んで座ると、モモはなぜかいきなり大きなため息をついていた。
「お姉様」
 開口一番、私に呼び掛けてくる。
「何かしら、モモ」
 とぼけたように返す私。
「婚約者の件、お姉様の仕業ですよね?」
(あら、ばれてるわ。さすがはモモ、私に関してはよく分かってるじゃないの)
 口に出して言いたいところだけど、ひとまず思うだけにしておく私。さすがに大事な妹相手に煽るような真似はしないわよ。
「ええ、その通りよ。モモには幸せになってもらいからね」
「お姉様……」
 私の気持ちを理解したのか、モモはしおらしくしていた。
「タカー様でしたら、モモも知らない方ではないですしね。宰相様のご子息ですし、しっかりされてるからモモも幸せになれると思いました。……モモは怒ってますか?」
 私はモモに近付いて両手を取る。すると、泣きそうな顔をしながらモモは私の顔を見上げてきた・
「……ずるいですわ、お姉様。反論できないようにしてからそんな事を仰るなんて……」
「ごめんなさいね。でも、私がモモの幸せを思っているのは事実ですからね」
「お姉様」
 涙目になりながら、モモが私に抱きついてきた。
 私もモモを抱きしめて、そのまま頭を優しく撫でたのだった。

 ひとまず、私とサキの将来が見えない中ではあるものの、周りの状況はしっかり固まりつつあった。
 みんなが幸せになってくれないと、私は安心できないものね。
 それにしても、私とサキは、フィレン王子とリブロ王子のどちらの婚約者になるのかしらね。よくもまあ、王家もここまで放置してくれたものだわ。
 残り半年となった乙女ゲームの育成期間……じゃなかった学園生活。
 もう終わりも近いというのに、いろいろと横道に逸れたせいでいまだに不透明なものが多すぎるわ。
 はたして私たちは、満足のいく結末を迎えられるというのだろうか。まだまだ注意深く過ごさなければならないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

処理中です...