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第七章 3年目前半
第388話 解決どころか増えた問題
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連れて帰る人物が増えたので、馬車がぎちぎちになってしまったものの、どうにか無事にイサヤまで戻ってこれた。
魔王も言わなければ程よい体格のイケメンなので、適当にごまかす事ができた。
エスカの使う重力魔法のおかげで柑橘魔石の出番がほとんどなかったわね。さすがの魔族たちも重力の存在は知らなかったみたいだもの。
重力魔法が原因でサンカリーも魔王も無力化ができたというのは、さすがに予想外が過ぎたわ。
イサヤに戻ってくると、すぐさま国王たちに謁見することになる。そこには後追いでやって来ていたフィレン王子やミズーナ王女たちの姿もあった。みんな、私たちが無事に戻ってきた姿を見てほっとしているようだ。
「アンマリア、サキ。よく無事に戻ってきてくれたよ……」
フィレン王子が泣きそうな顔をして私とサキを見ている。自国民であると同時に、王子にとっては婚約者だから、その無事はなおさら安心したというものだろう。
「サクラ様もご無事でしたのね」
「まあ、見ての通りですよ。ラム様、モモ様、ご心配をお掛けしました」
サクラとラムとモモも言葉を交わしている。そういえばライバル令嬢全員勢ぞろいだったわね。
「メチルとアルーもよく無事でしたね。正直言って心配だったのですよ」
「王女殿下にそう仰っていただけて、実に光栄でございます」
ミズーナ王女が労えば、メチルはこれでもかと頭を下げていた。
「……それはそれとして、そちらの方々は一体どなたでしょうか」
ミズーナ王女がふと視線を向けた先、そこには魔王とコール子爵夫妻が立っていた。
「二人は人間ですが……、もうひと方はメチルと似た雰囲気の装いをしていらっしゃいますね。まさかとは思いますが……」
ミズーナ王女が言いかけたところで、エスカがにこやかな表情を見せた。
「ええ、この方は魔王ですよ。そして、私の婚約者なのです」
胸を張って言い切るエスカ。
「了承はしたが、認めたわけではないぞ。いい加減にせぬか、このバカ女」
本気で怒る魔王である。それだというのに、にししと笑うエスカ。本当に図太いわね。
一方、あまりの衝撃的な発言に言葉を失うミズーナ王女。
「……、と、とりあえず、お父様とお母様にお会いして、事情を説明願いますわ」
考えることを放棄したようだった。ものすごく気持ちが分かるけれど、なんて声を掛けたらいいのだろうか。
なんともいえない空気が渦巻く中、私たちはベジタリウス国王たちと会うことになったのだった。
改めてベジタリウス王城内、謁見の間へとやって来た私たち。
メチルとアルーはもちろん、コール子爵夫妻もガッチガチに緊張で固まっている。夫妻も知らない王族の名前らしいけれど、さすがに王族にはめったに会わないから緊張しちゃうわよね。
「よくぞ無事に戻った。早速、成果のほどを聞かせてもらおうではないか」
国王ははやる気持ちで私たちに声を掛けてくる。いくらなんでも気が急きすぎだろう。
とはいえ、魔族関連の話はベジタリウス王国にとっては一大事なので、気持ちはよく分かる。なので、おとなしく話をする事にしたのだった。
「……そうか、北部ではそんな事があったのか」
国王がコール子爵夫妻に視線を向けている。二人はさっきからずっと怯えっぱなしだった。
「しかし、コール子爵というのは、私は聞いた事がない。古い家柄なのだろうな」
国王が大臣に確認を取っている。
「左様でございますね。詳しくは調べてみなければわかりませんが、少なくとも私が生きている間に聞いた覚えはございませんな」
どうやらコール子爵家をというのは今は存在しない古い家のようだった。これには夫妻はもちろん、メチルたちもショックが隠しきれなかったようだ。
動揺が見えるメチルたちに考慮はしたいものだが、ひとまずは話を進めることにする国王。
「して、エスカ・ミール王女だったか。その隣に居る男性は一体何者かな?」
屈辱的な表情で跪く魔王に指して、国王はエスカに尋ねている。
「この方が北部に封じられていた魔王ヴァーラスです」
満面の笑みで答えるエスカである。
いや、なんでそこまで笑顔なのかしらね、この人は。
当然ながら、謁見の間は騒然となる。災厄と言われた魔王が謁見の間に居るんですもの。そりゃ騒ぐわよね。
すると、国王はエスカに詳しい状況の説明を求めてきた。
もちろん、エスカはちゃんとそれに答えている。ただ、それを国王が理解できたかというと甚だ疑問ではあるのだけれどね。
重力魔法で地べたに這わせて、半ば脅して自分の伴侶にする宣言をしたんだからね。誰が信じられると言うというのよ……。
エスカの突飛な報告に、謁見の間の中はすっかり静まり返ってしまっていた。ただ一人、エスカだけは自慢げに満面の笑みを浮かべていたのが異様だった。
その光景を見て、魔王の問題は解決を見せたように見えて、新たな問題を引き起こしただけのようだった。
この場に居る人物たちは、エスカを除いて全員が頭を痛めている、そんな状況に陥っていたのだった。頭痛薬と胃薬が欲しいわ……。
魔王も言わなければ程よい体格のイケメンなので、適当にごまかす事ができた。
エスカの使う重力魔法のおかげで柑橘魔石の出番がほとんどなかったわね。さすがの魔族たちも重力の存在は知らなかったみたいだもの。
重力魔法が原因でサンカリーも魔王も無力化ができたというのは、さすがに予想外が過ぎたわ。
イサヤに戻ってくると、すぐさま国王たちに謁見することになる。そこには後追いでやって来ていたフィレン王子やミズーナ王女たちの姿もあった。みんな、私たちが無事に戻ってきた姿を見てほっとしているようだ。
「アンマリア、サキ。よく無事に戻ってきてくれたよ……」
フィレン王子が泣きそうな顔をして私とサキを見ている。自国民であると同時に、王子にとっては婚約者だから、その無事はなおさら安心したというものだろう。
「サクラ様もご無事でしたのね」
「まあ、見ての通りですよ。ラム様、モモ様、ご心配をお掛けしました」
サクラとラムとモモも言葉を交わしている。そういえばライバル令嬢全員勢ぞろいだったわね。
「メチルとアルーもよく無事でしたね。正直言って心配だったのですよ」
「王女殿下にそう仰っていただけて、実に光栄でございます」
ミズーナ王女が労えば、メチルはこれでもかと頭を下げていた。
「……それはそれとして、そちらの方々は一体どなたでしょうか」
ミズーナ王女がふと視線を向けた先、そこには魔王とコール子爵夫妻が立っていた。
「二人は人間ですが……、もうひと方はメチルと似た雰囲気の装いをしていらっしゃいますね。まさかとは思いますが……」
ミズーナ王女が言いかけたところで、エスカがにこやかな表情を見せた。
「ええ、この方は魔王ですよ。そして、私の婚約者なのです」
胸を張って言い切るエスカ。
「了承はしたが、認めたわけではないぞ。いい加減にせぬか、このバカ女」
本気で怒る魔王である。それだというのに、にししと笑うエスカ。本当に図太いわね。
一方、あまりの衝撃的な発言に言葉を失うミズーナ王女。
「……、と、とりあえず、お父様とお母様にお会いして、事情を説明願いますわ」
考えることを放棄したようだった。ものすごく気持ちが分かるけれど、なんて声を掛けたらいいのだろうか。
なんともいえない空気が渦巻く中、私たちはベジタリウス国王たちと会うことになったのだった。
改めてベジタリウス王城内、謁見の間へとやって来た私たち。
メチルとアルーはもちろん、コール子爵夫妻もガッチガチに緊張で固まっている。夫妻も知らない王族の名前らしいけれど、さすがに王族にはめったに会わないから緊張しちゃうわよね。
「よくぞ無事に戻った。早速、成果のほどを聞かせてもらおうではないか」
国王ははやる気持ちで私たちに声を掛けてくる。いくらなんでも気が急きすぎだろう。
とはいえ、魔族関連の話はベジタリウス王国にとっては一大事なので、気持ちはよく分かる。なので、おとなしく話をする事にしたのだった。
「……そうか、北部ではそんな事があったのか」
国王がコール子爵夫妻に視線を向けている。二人はさっきからずっと怯えっぱなしだった。
「しかし、コール子爵というのは、私は聞いた事がない。古い家柄なのだろうな」
国王が大臣に確認を取っている。
「左様でございますね。詳しくは調べてみなければわかりませんが、少なくとも私が生きている間に聞いた覚えはございませんな」
どうやらコール子爵家をというのは今は存在しない古い家のようだった。これには夫妻はもちろん、メチルたちもショックが隠しきれなかったようだ。
動揺が見えるメチルたちに考慮はしたいものだが、ひとまずは話を進めることにする国王。
「して、エスカ・ミール王女だったか。その隣に居る男性は一体何者かな?」
屈辱的な表情で跪く魔王に指して、国王はエスカに尋ねている。
「この方が北部に封じられていた魔王ヴァーラスです」
満面の笑みで答えるエスカである。
いや、なんでそこまで笑顔なのかしらね、この人は。
当然ながら、謁見の間は騒然となる。災厄と言われた魔王が謁見の間に居るんですもの。そりゃ騒ぐわよね。
すると、国王はエスカに詳しい状況の説明を求めてきた。
もちろん、エスカはちゃんとそれに答えている。ただ、それを国王が理解できたかというと甚だ疑問ではあるのだけれどね。
重力魔法で地べたに這わせて、半ば脅して自分の伴侶にする宣言をしたんだからね。誰が信じられると言うというのよ……。
エスカの突飛な報告に、謁見の間の中はすっかり静まり返ってしまっていた。ただ一人、エスカだけは自慢げに満面の笑みを浮かべていたのが異様だった。
その光景を見て、魔王の問題は解決を見せたように見えて、新たな問題を引き起こしただけのようだった。
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