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第七章 3年目前半
第384話 脱出
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立っていられないくらい激しい揺れがしばらく続く。
瞬間移動魔法を使って逃げたいけれど、使えるのが私とエスカだけでさらに一人ずつにしか使えない。つまり、最悪二人を見捨てなければならないことになる。
そんな事になるくらいなら、万一崩れるのに備えて防護魔法で防御していた方がマシだわ。
念のために防護魔法を展開して備えていると、次第に揺れは収まっていった。
「収まったみたいね」
「じ、地震なんて聞いてないわよ」
私がほっとした様子で呟くと、エスカが喚くように叫んでいた。
みんなの無事を確認しようとしてあたりを見ると、メチルとアルーの二人が揃って震えていた。
「どうしたのよ、二人とも」
あまりに様子がおかしいものだから、私は声を掛ける。
「アンマリア様、この魔力を感じませんか?!」
そんな私に、サキが珍しく声を荒げている。聖女がこんな反応をするだなんて事は……。
私の頭に一つの可能性が浮かんだ。
「魔王……。さっきの揺れは魔王復活のきっかけだったっていうわけ?!」
思わず口に出して叫んでしまう私。サキとアルーが揃って頭を縦に振っている。
「そんなバカな……。それって一体どういうわけなのよ」
頭が痛い。思わずくらりと身をふらつかせてしまった。
「おそらくは、テリアとサンカリーの二人の魔力が、魔王復活のための魔力として取り込まれたのでしょう。まさか、こんな結果になるだなんて……」
アルーが爪を噛んで悔しがっているようだった。
しかし、この地下でゆっくりくつろいでいる場合ではなかった。
魔王が復活するとなれば、最悪この辺りすべてが吹き飛ぶ可能性があるからだ。早めに脱出をした方がいいのは間違いなさそうだと思う。
ところが、いざ脱出しようと呼びかけると、アルーが首を振って反対する。
「ダメです。お父様とお母様を置いていけません」
そう、いまだに壁に張り付いたままのメチルの両親が気がかりなのだった。
とはいえ、二人の状態は恐らく魔王復活の儀式の失敗によって、すべてが止まってしまっていると思われる。運び出そうとしても、そもそもそこから動かせるのか分からない。
だけど、このまま置いていくと、崩壊に巻き込まれてそのまま地中に埋まってしまう危険性すらある。なんとも実に悩ましい状態だった。
「しょうがない、エスカ。短距離転移で運ぶわよ。屋敷の外のイメージはできてるでしょう?」
「もちろんよ」
エスカに呼び掛けると、元気な返事があった。
「屋敷の前に待機しているはずの騎士の方々と合流しましょう。メチルとアルーからいきますので、サキ様は防護魔法でここの維持を」
「分かりました」
いつ崩れるとも分からないので、私とエスカの二人で大急ぎで短距離転移で脱出を図る。
最初にメチルとアルーを選択したのは、外で待っているのがベジタリウスの騎士団だからだ。王妃のメイドたるメチルに危害を加えないと踏んでの順番である。
外へと跳ぶと、そこには確かに騎士団が待機していた。揺れに驚いたようで私たちにいろいろ聞いてくるが、それはメチルたちに任せる。
とにかく一刻の猶予もない可能性がある。早く助け出すために、私たちは再び地下へと跳ぶ。サキとサクラの二人が居れば、その魔力から跳ぶ事ができるからね。
次に運んできたのはメチルの両親。無事に短距離転移に巻き込む事ができたのだ。
二人が無事に運び出せたことにアルーは両手を口に当てて大泣きしていた。
だけども、私たちはそれに付き合う事はできない。まだサキとサクラが地下に残っているのだ。
最後の短距離転移のために、私とエスカは地下へと跳んだ。
地下では、サクラが警戒をしながら、サキが防護魔法を展開していた。しかし、私たちが姿を見せると、ものすごく安心したような表情を見せていた。
「よかった、魔力は足りているのですね」
「短距離転移なら、そんなに魔力を使いませんからね」
「なるほど、そうなのですね」
短距離転移の説明をすると、サキは胸に手を当ててほっと息を漏らした。
だけど、その安堵は長く続かなかった。
ゴゴゴゴゴ……。
「きゃあっ!」
再び大きく揺れ始めたのだ。これはのんびりしていられないわね。
「サキ様は私と、サクラ様はエスカと手をつないで下さい。地上へと跳びます」
「はい」
私の呼び掛けに、サキとサクラはそれぞれ言葉に従って動く。そして、しっかりと掴まると私たちは一気に地上へと跳んだのだった。
地上に出てきた私たちは、着地しようとすると急激な揺れに足を取られそうになる。しかし、どうにか踏ん張ってこける事は避けられた。鍛えてなかったらずっこけていたわね。
無事に地上に出てきたところで安心したかったのだけれども、そんな状況ではとてもじゃないけれどひと息もつけない。
「揺れが、激しくなってる……」
日本育ちの私には大したものではないけれど、経験のないこの世界の住民たちは、収まりそうにもない揺れに動揺しまくっている。
空を見ると、暗雲が立ち込めて、稲光すらも見えている。
地上に出た事で、起きている異変がはっきり認識できてしまう。
次の瞬間、もの凄い轟音を伴って、雷がコール子爵邸に落ちたのだった。
瞬間移動魔法を使って逃げたいけれど、使えるのが私とエスカだけでさらに一人ずつにしか使えない。つまり、最悪二人を見捨てなければならないことになる。
そんな事になるくらいなら、万一崩れるのに備えて防護魔法で防御していた方がマシだわ。
念のために防護魔法を展開して備えていると、次第に揺れは収まっていった。
「収まったみたいね」
「じ、地震なんて聞いてないわよ」
私がほっとした様子で呟くと、エスカが喚くように叫んでいた。
みんなの無事を確認しようとしてあたりを見ると、メチルとアルーの二人が揃って震えていた。
「どうしたのよ、二人とも」
あまりに様子がおかしいものだから、私は声を掛ける。
「アンマリア様、この魔力を感じませんか?!」
そんな私に、サキが珍しく声を荒げている。聖女がこんな反応をするだなんて事は……。
私の頭に一つの可能性が浮かんだ。
「魔王……。さっきの揺れは魔王復活のきっかけだったっていうわけ?!」
思わず口に出して叫んでしまう私。サキとアルーが揃って頭を縦に振っている。
「そんなバカな……。それって一体どういうわけなのよ」
頭が痛い。思わずくらりと身をふらつかせてしまった。
「おそらくは、テリアとサンカリーの二人の魔力が、魔王復活のための魔力として取り込まれたのでしょう。まさか、こんな結果になるだなんて……」
アルーが爪を噛んで悔しがっているようだった。
しかし、この地下でゆっくりくつろいでいる場合ではなかった。
魔王が復活するとなれば、最悪この辺りすべてが吹き飛ぶ可能性があるからだ。早めに脱出をした方がいいのは間違いなさそうだと思う。
ところが、いざ脱出しようと呼びかけると、アルーが首を振って反対する。
「ダメです。お父様とお母様を置いていけません」
そう、いまだに壁に張り付いたままのメチルの両親が気がかりなのだった。
とはいえ、二人の状態は恐らく魔王復活の儀式の失敗によって、すべてが止まってしまっていると思われる。運び出そうとしても、そもそもそこから動かせるのか分からない。
だけど、このまま置いていくと、崩壊に巻き込まれてそのまま地中に埋まってしまう危険性すらある。なんとも実に悩ましい状態だった。
「しょうがない、エスカ。短距離転移で運ぶわよ。屋敷の外のイメージはできてるでしょう?」
「もちろんよ」
エスカに呼び掛けると、元気な返事があった。
「屋敷の前に待機しているはずの騎士の方々と合流しましょう。メチルとアルーからいきますので、サキ様は防護魔法でここの維持を」
「分かりました」
いつ崩れるとも分からないので、私とエスカの二人で大急ぎで短距離転移で脱出を図る。
最初にメチルとアルーを選択したのは、外で待っているのがベジタリウスの騎士団だからだ。王妃のメイドたるメチルに危害を加えないと踏んでの順番である。
外へと跳ぶと、そこには確かに騎士団が待機していた。揺れに驚いたようで私たちにいろいろ聞いてくるが、それはメチルたちに任せる。
とにかく一刻の猶予もない可能性がある。早く助け出すために、私たちは再び地下へと跳ぶ。サキとサクラの二人が居れば、その魔力から跳ぶ事ができるからね。
次に運んできたのはメチルの両親。無事に短距離転移に巻き込む事ができたのだ。
二人が無事に運び出せたことにアルーは両手を口に当てて大泣きしていた。
だけども、私たちはそれに付き合う事はできない。まだサキとサクラが地下に残っているのだ。
最後の短距離転移のために、私とエスカは地下へと跳んだ。
地下では、サクラが警戒をしながら、サキが防護魔法を展開していた。しかし、私たちが姿を見せると、ものすごく安心したような表情を見せていた。
「よかった、魔力は足りているのですね」
「短距離転移なら、そんなに魔力を使いませんからね」
「なるほど、そうなのですね」
短距離転移の説明をすると、サキは胸に手を当ててほっと息を漏らした。
だけど、その安堵は長く続かなかった。
ゴゴゴゴゴ……。
「きゃあっ!」
再び大きく揺れ始めたのだ。これはのんびりしていられないわね。
「サキ様は私と、サクラ様はエスカと手をつないで下さい。地上へと跳びます」
「はい」
私の呼び掛けに、サキとサクラはそれぞれ言葉に従って動く。そして、しっかりと掴まると私たちは一気に地上へと跳んだのだった。
地上に出てきた私たちは、着地しようとすると急激な揺れに足を取られそうになる。しかし、どうにか踏ん張ってこける事は避けられた。鍛えてなかったらずっこけていたわね。
無事に地上に出てきたところで安心したかったのだけれども、そんな状況ではとてもじゃないけれどひと息もつけない。
「揺れが、激しくなってる……」
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空を見ると、暗雲が立ち込めて、稲光すらも見えている。
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