上 下
377 / 485
第七章 3年目前半

第377話 再戦!テリア

しおりを挟む
 私たちはミズーナ王女たちと連絡を取り合った後も、順調に魔族の本拠地へと歩を進めていた。
 その途中では、瞬間移動魔法での合流も検討されたのだけど、あの魔法はただでさえ消費魔力が大きすぎるし、いざという時までは封印しておきたいので却下となった。
 うん、奥の手というのはギリギリまでというか極力隠しておきたいものね。
 それに、瞬間移動魔法というのは移動先のイメージができない事には跳べない。下手に跳んだ場合、そこで行軍が一時的にストップしてしまう事になるもの。
 そんなわけで、いろいろな観点から私たちは、少数精鋭の状態のまま進むしかなかった。
「そろそろ、あの魔族が示した場所に到着でございます」
 斥候を務める兵士からの報告が入る。
 もう少し進んだ場所に朽ち果てた洋館が建っているとの事だった。
 周囲には街があるような様子はないので、おそらくは別荘か隠れ家か何かといったところなのでしょうね。
 その建物が見えてきた時、メチルの様子がちょっとおかしい感じがした。
「メチル?」
 メチルが震えている。
 今は夏真っ只中なのだから、寒いという事はありえない。となると、メチルだけが感じる何かに怯えているということになる。
「どうしたの、メチル」
 私が両肩をしっかりつかんで声を掛けると、メチルはハッとした表情で私の方を見た。
「えっと、アンマリア。何なのでしょうか」
「何なのって……。震えていたから心配になったのよ」
「あっ……」
 私の言葉に、何かを思い出したかのような表情になるメチル。
「ごめんなさい。ここは私たち魔族の本拠地なんですけど、何か別なものを感じてしまったんです。……ご心配お掛けしました」
「そう……。でも、よかったわ。別に何か悪い事が起きたわけじゃなさそうで」
 私はメチルにそう言うと、再び前をしっかりと見る。魔族との激突が始まるんだもの、気を抜いてなんかいられないわ。
 そうやって建物までやって来た私たちは、空中に見た事のある人物を見つけた。
「キャハハハハ。本当にのこのこやって来たのね。人間って本当におバカさん」
 テリアだった。ぼろぼろになっていた服と髪形をきれいに整えて、高飛車な態度を取っている。
「あの時は不覚を取ったけれど、今度はそうはいかないわよぉ。あたしの本気、見せてあげるわ!」
 テリアは私たちを見つけるなり、魔力を爆発させてくる。その瞬間、辺りを強烈な風が走り抜けた。
(なんてこと、あの時よりパワーアップしてないかしら)
 私は思わず青ざめてしまう。
「キャハハ、くっふぅ~。いいわねぇ、その顔~」
 お腹を抱えながら笑うテリア。本当にいちいち癪に障るような言動が目立つけれど、魔力の強さのせいで黙って聞いているしかないのが悔しいわね。
「あんたたちなんて雑魚なんだから、サンカリーが手を下すまでもないわよ~。あ・た・し・が、ここで皆殺しにしてあげるわよ。キャハ」
 不敵な笑みを浮かべながら私たちを見ているテリア。
「女なんてのは嫌いだから、全力で相手してあげる。さあ、最後くらい華麗に踊ってちょうだい」
 頬をなぞった手を空高く掲げたテリアは、そこから小さな魔法弾を大量に発射してきた。大きな魔法弾は隙が大きいために、私たちの力を警戒して切り替えてきたようだ。
 ギャル系かと思ったけれど、意外と頭を使っているみたいね。
 女なんてと宣言した通り、私たち五人を集中的に狙ってきている。という事は、そこをうまく突けば勝機はありそうだ。
 とはいっても、思ったよりも細かく撃ってくるので、これは躱すので精一杯といった感じだった。
 ところが、これになぜか歓喜している者が約一名。
「数撃てばいいってもんじゃないのですよ。バッサーシ辺境伯の血筋、甘く見ないで下さいな」
 そう、サクラ・バッサーシだった。
 さっき柑橘魔石を打った快感が忘れられないのか、なんと、テリアの魔法弾を魔石剣で打ち返していた。そんなのありなわけ?!
「ちょっ、なんてありえない事やってくれてんのよ!」
 打ち返された魔法弾は、的確にテリアに向かって飛んでいっている。それを躱すテリアも大した反射神経である。そして、躱しながらもテリアは魔法弾を放っている。
 とはいえ、これはチャンスだわ。
 サクラが常識はずれな事をしてくれているおかげで、私たちから意識が逸れている。
「サキ様、浄化の魔法の準備を。サクラ様が気を引いてくれていますので、どうにかできると思います。エスカは守ってあげて」
「はい」
「言われなくてもするわよ」
 サキとエスカが返事をする。
 そして、怯えるメチルもサキのところに預けると、私はこっそりと移動していく。
「兵士の皆さん、私が隙を作りますので、そこを狙ってテリアを討って下さい」
「わ、分かりましたが、一体どうやって……?」
 私は収納魔法からじゃらじゃらとたくさんの魔石を取り出す。溜め込んできた柑橘魔石だ。
 ただ、この後にサンカリー、最悪の場合魔王との戦いも控えているので、あまり消費はしたくない。
「さあ、役立たずの門番には、さっさと退場頂きましょう」
 私はぎゅっと柑橘魔石を握りしめ、テリアの方へと顔を向けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

処理中です...