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第七章 3年目前半
第369話 3年目の夏
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あっという間に時は経ち、気が付いたら前期末試験が終わっていた。
試験が終わって気が抜けたところで、反省会なのだろうか、私たちはエスカの部屋に集まっている。
私は余裕だったけど、相変わらずモモとエスカが頭から白い煙を出してそうな勢いで机に突っ伏していた。
「無茶苦茶よ。対魔族の準備をしながら通常の学園生活とか……。お兄様は選択に入っていないからって、余裕ぶっこいてるし、なんかイラッときたわ」
「わ、私も勉強はダメ……」
燃え尽き症候群のような酷い状態だった。
それに対して、長らくの軟禁状態から解放されたテールは余裕で試験を突破していた。何なのかしらね、この差は。やる気かしらね。
「本当に二人とももう少し気を引き締めて下さい。まったく、そんな感じでは魔族との決戦で思いやられますよ」
二人の姿に、私は頭が痛かった。その私の姿を見ているテールは苦笑いを浮かべ、使用人であるスーラやネスも頭を押さえて首を横に振る始末だった。こんなので大丈夫なのかしらね……。
「まったく、今度の休みにはお城に行くんですからね。しっかり立ち直っておいて下さい」
「わ、分かったわよ」
「分かりました、お姉様……」
私はテールとスーラの二人を連れて、エスカの部屋から出ていった。
次の休みの日、私たちはお城へとやって来ていた。
その理由はミズーナ王女と話をするため。ベジタリウス王国からの手紙が、現状は唯一の連絡手段なのよ。
(本当はエスカの作ったスマホもどきを渡したかったんだけど、魔力を使うから魔族に知られるわけにはいかずに渡せていないのよね)
私はため息まじりに廊下を歩いている。
「お姉様、どうなさったのですか?」
「なんでもありませんよ。ちょっと昔の事を思い出しただけです」
眉間に軽くしわを寄せてモモが声を掛けてきたので、私はにこりと笑ってごまかすように答えていた。
(テトロという魔族を倒した今なら、別に通信手段として渡してもいいのかもしれないわね)
ごまかし終わった私は、またあれこれと考え込んだのだった。
これまでろくに連絡がなかったところを見ると、サンカリーとテリアの動きはなかったのだと思われる。今回はちょうど学園の夏休みに入るということで、それに合わせて連絡をしてきたというところだろう。
どういった内容にしろ、ひとまずはミズーナ王女と会って話をしなければならないという状況だった。
「失礼致します、ミズーナ王女殿下。アンマリア様たちを連れて参りました」
その他大勢に入れられるエスカ。もう王女として見られていないのではないのだろうか。しかし、当のエスカが気にしていないようなので、私がツッコミを入れる場面ではなさそうだった。あえてスルーである。
「ご苦労様です。お通しして下さい」
「はっ。畏まりました」
ミズーナ王女から返答があったので、案内役の兵士が扉を開く。
「どうぞ、お入り下さい」
「ありがとうございます。では、失礼致します」
兵士にお礼を言って、私たちはミズーナ王女の部屋へと入っていく。全員が中に入ると、兵士は扉を閉めて持ち場へと戻っていった。
「お待ちしておりました。エスカ、アンマリア、それとみなさん」
にこりと微笑んで迎え入れるミズーナ王女である。テール以外に集められたのは、攻略対象とライバル令嬢が全員という状態だった。アーサリーとレッタス王子もちゃんと居る。
「どういうつもりなのですか、ミズーナ。こんなにこの部屋に集めて」
そう尋ねるのは、ミズーナ王女の双子の兄であるレッタス王子だ。ミズーナ王女と双子だというのに、ほとんど食事以外では顔も合わせていなかったのだから、そりゃもう気になるというものだ。これでも拡張版でアンマリア編に追加された攻略対象なのに、実にあんまりなものである。
「そういえば、お兄様にはお話しておりませんでしたね。ですが、特訓を受けていたので何かしらは察していると思います」
ミズーナ王女は喋りながら、手紙をひらりと見せていた。その封蝋をみたレッタス王子は、ミズーナ王女の話をなんとなく察したようだった。
「まぁ、とりあえずみなさん座りましょうか。多分長くなりますのでね」
ミズーナ王女の声で、全員が部屋にある椅子やソファーへと腰を掛けていく。事前に頼み込んで用意してもらっていたので、全員が座れるだけの席がちゃんとそろっていた。
「さてと、どこから説明を始めましょうか」
うーんと考え込むミズーナ王女。そこで、私が手を上げて発言する。
「とりあえず、ベジタリウス王国で起きている事から話した方がいいのでは? 先日の魔族襲撃の事もございますから」
私の発言を受けて、ミズーナ王女やエスカがこくりと頷いている。
「魔族……。そういえばそんな事を言っていたな。話には聞いてはいたが、実在しているとはな」
「何を仰いますの。お母様と一緒に来られていたあのメイドも魔族ですわよ。ただ、事情あってこちら側に寝返っていますけれどね」
「なん……だと……」
事情を説明されたレッタス王子が衝撃を受けている。まあ、無理もない話よね。
場がしんと静まり返ってしまったものの、ミズーナ王女が咳払いをすると、改めて話を始めるのだった。
試験が終わって気が抜けたところで、反省会なのだろうか、私たちはエスカの部屋に集まっている。
私は余裕だったけど、相変わらずモモとエスカが頭から白い煙を出してそうな勢いで机に突っ伏していた。
「無茶苦茶よ。対魔族の準備をしながら通常の学園生活とか……。お兄様は選択に入っていないからって、余裕ぶっこいてるし、なんかイラッときたわ」
「わ、私も勉強はダメ……」
燃え尽き症候群のような酷い状態だった。
それに対して、長らくの軟禁状態から解放されたテールは余裕で試験を突破していた。何なのかしらね、この差は。やる気かしらね。
「本当に二人とももう少し気を引き締めて下さい。まったく、そんな感じでは魔族との決戦で思いやられますよ」
二人の姿に、私は頭が痛かった。その私の姿を見ているテールは苦笑いを浮かべ、使用人であるスーラやネスも頭を押さえて首を横に振る始末だった。こんなので大丈夫なのかしらね……。
「まったく、今度の休みにはお城に行くんですからね。しっかり立ち直っておいて下さい」
「わ、分かったわよ」
「分かりました、お姉様……」
私はテールとスーラの二人を連れて、エスカの部屋から出ていった。
次の休みの日、私たちはお城へとやって来ていた。
その理由はミズーナ王女と話をするため。ベジタリウス王国からの手紙が、現状は唯一の連絡手段なのよ。
(本当はエスカの作ったスマホもどきを渡したかったんだけど、魔力を使うから魔族に知られるわけにはいかずに渡せていないのよね)
私はため息まじりに廊下を歩いている。
「お姉様、どうなさったのですか?」
「なんでもありませんよ。ちょっと昔の事を思い出しただけです」
眉間に軽くしわを寄せてモモが声を掛けてきたので、私はにこりと笑ってごまかすように答えていた。
(テトロという魔族を倒した今なら、別に通信手段として渡してもいいのかもしれないわね)
ごまかし終わった私は、またあれこれと考え込んだのだった。
これまでろくに連絡がなかったところを見ると、サンカリーとテリアの動きはなかったのだと思われる。今回はちょうど学園の夏休みに入るということで、それに合わせて連絡をしてきたというところだろう。
どういった内容にしろ、ひとまずはミズーナ王女と会って話をしなければならないという状況だった。
「失礼致します、ミズーナ王女殿下。アンマリア様たちを連れて参りました」
その他大勢に入れられるエスカ。もう王女として見られていないのではないのだろうか。しかし、当のエスカが気にしていないようなので、私がツッコミを入れる場面ではなさそうだった。あえてスルーである。
「ご苦労様です。お通しして下さい」
「はっ。畏まりました」
ミズーナ王女から返答があったので、案内役の兵士が扉を開く。
「どうぞ、お入り下さい」
「ありがとうございます。では、失礼致します」
兵士にお礼を言って、私たちはミズーナ王女の部屋へと入っていく。全員が中に入ると、兵士は扉を閉めて持ち場へと戻っていった。
「お待ちしておりました。エスカ、アンマリア、それとみなさん」
にこりと微笑んで迎え入れるミズーナ王女である。テール以外に集められたのは、攻略対象とライバル令嬢が全員という状態だった。アーサリーとレッタス王子もちゃんと居る。
「どういうつもりなのですか、ミズーナ。こんなにこの部屋に集めて」
そう尋ねるのは、ミズーナ王女の双子の兄であるレッタス王子だ。ミズーナ王女と双子だというのに、ほとんど食事以外では顔も合わせていなかったのだから、そりゃもう気になるというものだ。これでも拡張版でアンマリア編に追加された攻略対象なのに、実にあんまりなものである。
「そういえば、お兄様にはお話しておりませんでしたね。ですが、特訓を受けていたので何かしらは察していると思います」
ミズーナ王女は喋りながら、手紙をひらりと見せていた。その封蝋をみたレッタス王子は、ミズーナ王女の話をなんとなく察したようだった。
「まぁ、とりあえずみなさん座りましょうか。多分長くなりますのでね」
ミズーナ王女の声で、全員が部屋にある椅子やソファーへと腰を掛けていく。事前に頼み込んで用意してもらっていたので、全員が座れるだけの席がちゃんとそろっていた。
「さてと、どこから説明を始めましょうか」
うーんと考え込むミズーナ王女。そこで、私が手を上げて発言する。
「とりあえず、ベジタリウス王国で起きている事から話した方がいいのでは? 先日の魔族襲撃の事もございますから」
私の発言を受けて、ミズーナ王女やエスカがこくりと頷いている。
「魔族……。そういえばそんな事を言っていたな。話には聞いてはいたが、実在しているとはな」
「何を仰いますの。お母様と一緒に来られていたあのメイドも魔族ですわよ。ただ、事情あってこちら側に寝返っていますけれどね」
「なん……だと……」
事情を説明されたレッタス王子が衝撃を受けている。まあ、無理もない話よね。
場がしんと静まり返ってしまったものの、ミズーナ王女が咳払いをすると、改めて話を始めるのだった。
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