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第七章 3年目前半
第361話 情報共有ですよ
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サーロイン王国に話は戻る。
フィレン王子の誕生日パーティーの翌日。私たちはメチルからさらに話を聞くために、学園をお休みしていた。
というわけで、ミズーナ王女の部屋には私たち転生者四人と聖女であるサキが集まっていた。
「さて、メチル。テトロを倒したところで、次のテリアの話を聞かせてもらいましょうか」
私とエスカがメチルに圧力をかける。メチルはその圧力から逃れるために視線を逸らしていたけれど、世界の命運がかかっているとあって話には応じてくれた。
「分かりました。分かりましたから、そんなに顔を近付けないで下さい」
メチルが折れたので、私たちは身を引いて普通にソファーに腰掛け直した。ようやく圧力から逃れたメチルは、安心したようにひと息ついていた。
「……はああぁぁぁ」
ひと息とはいえど、まるで深呼吸並みである。
「よしっ」
気を取り直したメチルは、改めて私たちの方へと向いていた。
「私がこれから話す事は、前世で遊んでいたゲームが元にはなりますが、おそらくはほぼその通りに動く事になると思います」
話し始めたメチルに、私たちはごくりと息を飲んだ。ベジタリウス王妃とサキもしっかりと空気を読んで、前世とかゲームとか、よく分からない事はとりあえず置いておくのである。
「サーロイン王国内でテトロを倒した後は、舞台がベジタリウス王国へと移ります。そこで、魔王が封印されている地点に近い場所から、民の反乱が起きるようになります」
「なんですって」
メチルが話し始めた時点で、ベジタリウス王妃が反応する。国内での反乱ともなると、それは気が気でなくなるのは王妃という立場からして当然なのである。
「お母様、落ち着いて下さい」
ミズーナ王女から言われて、乗り出しかけた身を引く王妃である。それを確認して、ミズーナ王女はメチルに目で合図を送った。
「これは、テリアの持つ魅了の能力によるものです。彼女が本気になれば、男女問わずに虜にできますが、テリアはほとんど男性にしか使いません。女性嫌いですからね」
これには思わず顔をしかめてしまう私たちである。
「当然、私だって嫌われてますよ、テリアには」
そう話すと、大きなため息を吐くメチルである。
しかし、メチルの話はこれで終わりではない。まだまだ続きがある。
「テリアとの戦いは、進行のさせ方によって三段階に変化します。北の平原、川に架かる橋、そして、王都イサヤです。魔族は私たち四天王以外は現時点では存在していませんので、人間や魔物を使役してしか攻撃を行えないので、この時のテリアの軍勢もほとんど人間ばかりが相手になります」
「ふむふむ、なるほど」
「時間を遅らせれば遅らせるほど王都に攻め込まれますが、その場合、サンカリーも大きく作戦に関わってきます。もしかしたら本人が出てくるかもしれませんが、あまりお勧めは致しませんね」
「それはどうしてかしら」
表情を曇らせるメチルに、つい尋ねてしまう私である。
「サンカリーは、私たち他の四天王と比べても実力は段違いです。たとえ柑橘の香りによる弱体化をさせても、苦戦は必至でしょう。準備の整わない状態で戦う事は避けた方がいいんです」
メチルは必死な表情で訴えている。転生者とはいっても、魔族メチルとして何度となくサンカリーには顔を合わせているのだから、その実力はよく知っているので説得力があるというものだわ。
「私もそう思います。少なくとも、光魔法を使える人間の成長は必須です」
アルーも出てきて意見を付け加えていた。
「そうですね。私たち魔族は基本的に共通して光魔法に弱いです。例外なのは私くらいです」
メチルはそう言いながら、自分の情報を開示する。ステータス画面なんて久しぶりに見たわ。
「この通り、私には光と闇の両属性に対して強い耐性があるんです。それ以外の能力は悲惨の一言に尽きますけれどね。だからこそ、私はこの特徴たる治癒魔法で人間に取り入る方法しか使えなかったんですよね」
「魔力値も高すぎでしょうに……」
ステータス画面を覗きながら、私やエスカがぼやいている。
「だからこそ、眷属たるこの私の魔法が強力なんですよ。私とご主人様は、二人で一人なのです」
ふんすと鼻息荒く自慢するアルーである。
本人が言うには、多彩な魔法を持つのに魔力はからっきしなのだという。そんな二人が出会ったのはたまたまで、お互いの長所と短所を知った事で眷属契約を結んだらしい。その関係が今も続いているというのは、お互いがそれだけ信用し合っているという証拠なのである。
しかし、和やかになった空気を、メチルが咳払いひとつで戻す。
「楽にテリアを倒そうとするなら、早めに居場所と異変を突き止めるべきですね。ただ、調査団を送るとなると、魅了対策は必須です。男性は間違いなく取り込まれてしまいますからね」
真剣に話すメチルに、私たちは腕を抱え込んだ。
「とにかく、私が知りうる情報は、みなさんと共有させて頂きます」
こうして、テトロ撃破後の展開を、メチルから延々と私たちは夕方まで聞かされ続けたのだった。
フィレン王子の誕生日パーティーの翌日。私たちはメチルからさらに話を聞くために、学園をお休みしていた。
というわけで、ミズーナ王女の部屋には私たち転生者四人と聖女であるサキが集まっていた。
「さて、メチル。テトロを倒したところで、次のテリアの話を聞かせてもらいましょうか」
私とエスカがメチルに圧力をかける。メチルはその圧力から逃れるために視線を逸らしていたけれど、世界の命運がかかっているとあって話には応じてくれた。
「分かりました。分かりましたから、そんなに顔を近付けないで下さい」
メチルが折れたので、私たちは身を引いて普通にソファーに腰掛け直した。ようやく圧力から逃れたメチルは、安心したようにひと息ついていた。
「……はああぁぁぁ」
ひと息とはいえど、まるで深呼吸並みである。
「よしっ」
気を取り直したメチルは、改めて私たちの方へと向いていた。
「私がこれから話す事は、前世で遊んでいたゲームが元にはなりますが、おそらくはほぼその通りに動く事になると思います」
話し始めたメチルに、私たちはごくりと息を飲んだ。ベジタリウス王妃とサキもしっかりと空気を読んで、前世とかゲームとか、よく分からない事はとりあえず置いておくのである。
「サーロイン王国内でテトロを倒した後は、舞台がベジタリウス王国へと移ります。そこで、魔王が封印されている地点に近い場所から、民の反乱が起きるようになります」
「なんですって」
メチルが話し始めた時点で、ベジタリウス王妃が反応する。国内での反乱ともなると、それは気が気でなくなるのは王妃という立場からして当然なのである。
「お母様、落ち着いて下さい」
ミズーナ王女から言われて、乗り出しかけた身を引く王妃である。それを確認して、ミズーナ王女はメチルに目で合図を送った。
「これは、テリアの持つ魅了の能力によるものです。彼女が本気になれば、男女問わずに虜にできますが、テリアはほとんど男性にしか使いません。女性嫌いですからね」
これには思わず顔をしかめてしまう私たちである。
「当然、私だって嫌われてますよ、テリアには」
そう話すと、大きなため息を吐くメチルである。
しかし、メチルの話はこれで終わりではない。まだまだ続きがある。
「テリアとの戦いは、進行のさせ方によって三段階に変化します。北の平原、川に架かる橋、そして、王都イサヤです。魔族は私たち四天王以外は現時点では存在していませんので、人間や魔物を使役してしか攻撃を行えないので、この時のテリアの軍勢もほとんど人間ばかりが相手になります」
「ふむふむ、なるほど」
「時間を遅らせれば遅らせるほど王都に攻め込まれますが、その場合、サンカリーも大きく作戦に関わってきます。もしかしたら本人が出てくるかもしれませんが、あまりお勧めは致しませんね」
「それはどうしてかしら」
表情を曇らせるメチルに、つい尋ねてしまう私である。
「サンカリーは、私たち他の四天王と比べても実力は段違いです。たとえ柑橘の香りによる弱体化をさせても、苦戦は必至でしょう。準備の整わない状態で戦う事は避けた方がいいんです」
メチルは必死な表情で訴えている。転生者とはいっても、魔族メチルとして何度となくサンカリーには顔を合わせているのだから、その実力はよく知っているので説得力があるというものだわ。
「私もそう思います。少なくとも、光魔法を使える人間の成長は必須です」
アルーも出てきて意見を付け加えていた。
「そうですね。私たち魔族は基本的に共通して光魔法に弱いです。例外なのは私くらいです」
メチルはそう言いながら、自分の情報を開示する。ステータス画面なんて久しぶりに見たわ。
「この通り、私には光と闇の両属性に対して強い耐性があるんです。それ以外の能力は悲惨の一言に尽きますけれどね。だからこそ、私はこの特徴たる治癒魔法で人間に取り入る方法しか使えなかったんですよね」
「魔力値も高すぎでしょうに……」
ステータス画面を覗きながら、私やエスカがぼやいている。
「だからこそ、眷属たるこの私の魔法が強力なんですよ。私とご主人様は、二人で一人なのです」
ふんすと鼻息荒く自慢するアルーである。
本人が言うには、多彩な魔法を持つのに魔力はからっきしなのだという。そんな二人が出会ったのはたまたまで、お互いの長所と短所を知った事で眷属契約を結んだらしい。その関係が今も続いているというのは、お互いがそれだけ信用し合っているという証拠なのである。
しかし、和やかになった空気を、メチルが咳払いひとつで戻す。
「楽にテリアを倒そうとするなら、早めに居場所と異変を突き止めるべきですね。ただ、調査団を送るとなると、魅了対策は必須です。男性は間違いなく取り込まれてしまいますからね」
真剣に話すメチルに、私たちは腕を抱え込んだ。
「とにかく、私が知りうる情報は、みなさんと共有させて頂きます」
こうして、テトロ撃破後の展開を、メチルから延々と私たちは夕方まで聞かされ続けたのだった。
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