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第七章 3年目前半
第360話 サンカリーとテリア
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その頃のベジタリウス王国の北方の山岳地帯。そこには禍々しいまでの空気が漂っている。
禍々しい空間の中心地、そこには少し老けた感じの貴族風の男が立っていた。ただ、その瞳は黒色に白っぽい瞳という、人間とは違う特徴を兼ね備えていた。
そう、この男こそが魔王四天王の一人のサンカリーである。
「……ちっ、テトロの奴は失敗しおったか」
小さく舌打ちをしている。
「あれぇ? サンカリー様、どうなさったんですかぁ?」
そこへは布面積の少し足りない妙に明るい魔族が近付いてくる。魔王四天王の一人のテリアである。にやにやと笑いながら、神経を逆なでするような言い回しをするのが彼女の特徴だ。
馴れ馴れしく近付きながらサンカリーに触れようとするテリアだが、その直前にサンカリーが杖に仕込まれた刃物を抜いてテリアの喉元に突きつけていた。後ろを向いていたというのに的確な位置で寸止めをされている。
「うるさいぞ、テリア。お前の方はどうなんだ?」
「あ、あたしは、ちゃんとやってますよう。あたしの信者をじわじわと増やしているわぁ」
喉元の切っ先にびびりながらも、いつもの調子で答えているテリアである。
「そ、それにしてもサンカリー様ぁ。やけに苛立っているじゃないですか。ど、どうなさったんですぅ?」
だらだらと冷や汗を流しながらも、テリアはサンカリーに問い掛けている。苛立っている理由が気になって仕方がないようだ。
「テトロがやられた。奴の魔力の波動が消えたからな」
「げっ、マジでぇ?」
サンカリーの口から衝撃的な事実を伝えられ、余裕ぶっているはずのテリアもさすがに焦ったようだった。
「あいつは弱っちいけど、まさかこんなに簡単にやられるなんて……。そういえば、メチルの役立たずはどうしたのよ」
「あの魔族というにもおこがましい半端者か……。あいつの魔力は私でも追えん。だが、何かに取り入らずには生きていけないような、取るに足らない存在だ。捨て置いてもいいだろう」
そう言いながら、ようやくテリアに突きつけた切っ先を杖にしまうサンカリーである。
ようやくサンカリーの圧から解放されたテリアは、喉元を手で押さえながら呼吸を必死に整えている。そのくらいにサンカリーは魔族において実力がかなり突出しているのだ。
「しかし、テトロがやられたとなると、サーロインを滅ぼすのは厳しいわねぇ。あいつが呪具で操っていた連中も解放されたでしょうしね~」
「それは問題になるだろうが、どうせやつらには記憶がない。それに呪具の浸食も受けておるから、そのうち勝手にくたばる。たとえ聖女といえど簡単に解けぬ呪いだ、放っておくとしよう」
そう言い切ったサンカリー。呪具による影響は、たとえ所有者が死のうとも対象に効果を発揮するまで永久に残り続けるのだ。しかもその呪いは、聖女が命を賭しても打ち消せないくらい強力なものなのである。だからこそ、放置する選択を取ったようである。
「じゃさじゃさ、あたしが配下を使って確認してこよっか? 念のためってやっぱ重要じゃな~い?」
「好きにするといい。有益な情報もできれば持って帰らせろよ?」
「まっかせなさ~い」
テリアは調子よく喋りながら、サンカリーの部屋から出て行った。
その姿を鬱陶しそうに見送ったサンカリーは、大きくため息を吐いていた。
「まさか、猶予を待たずしてテトロがやられるとはな。少々早すぎて誤算というものだな。……功を焦ったというところだろうかな」
コツコツと数歩進むサンカリー。そして、崩れた壁から向こう側をじっと見ている。その眼下には、さらに禍々しさを放つ淀んだ空気が漂っている。
「いつか復活を遂げる魔王様のためにも、最高の舞台を整えねばなりません。そのためには、この地を絶望に染め上げねば……」
サンカリーはくるりと振り返ると、計画を練り直すために部屋を移動していった。
一方のサンカリーと別れたテリア。
「はあ、バッカじゃないの?! なに勝手に仕掛けて死んでるわけ? バッカじゃないの、テトロってば」
自室に戻って文句をぶちまけながら椅子に座るテリア。
「まーったく、呪具を駆使して背後に潜んでおけばよかったのにねぇ。これだから頭筋肉な奴って嫌いなのよね」
部屋に居る召使いに飲み物を注がせるテリア。それをくいっと飲み干すと、足を組んでなんともガラの悪い座り方をする。
「あたしはあんなやつとは違うよ。魅了の力を使って、うまーく取り込んでやるんだからね」
後ろに立つ召使いに手を伸ばすテリア。そこに居たのは目に光の灯っていない、なんとも無表情な男性だった。どうやら、テリアの力で操られているようである。
「魔王様が復活した時のために、このベジタリウスを潰しておかなきゃねぇ。うふふ、男はみ~んなあたしの虜。女はねぇ……」
その瞬間、左手に持ったグラスが粉々に砕け散る。
「このグラスのようになってもらうわよぉ? キャハハハハ!」
実に怪しげな笑みを浮かべるテリア。その笑い声は辺りにしばらく響き渡っていたのだった。
禍々しい空間の中心地、そこには少し老けた感じの貴族風の男が立っていた。ただ、その瞳は黒色に白っぽい瞳という、人間とは違う特徴を兼ね備えていた。
そう、この男こそが魔王四天王の一人のサンカリーである。
「……ちっ、テトロの奴は失敗しおったか」
小さく舌打ちをしている。
「あれぇ? サンカリー様、どうなさったんですかぁ?」
そこへは布面積の少し足りない妙に明るい魔族が近付いてくる。魔王四天王の一人のテリアである。にやにやと笑いながら、神経を逆なでするような言い回しをするのが彼女の特徴だ。
馴れ馴れしく近付きながらサンカリーに触れようとするテリアだが、その直前にサンカリーが杖に仕込まれた刃物を抜いてテリアの喉元に突きつけていた。後ろを向いていたというのに的確な位置で寸止めをされている。
「うるさいぞ、テリア。お前の方はどうなんだ?」
「あ、あたしは、ちゃんとやってますよう。あたしの信者をじわじわと増やしているわぁ」
喉元の切っ先にびびりながらも、いつもの調子で答えているテリアである。
「そ、それにしてもサンカリー様ぁ。やけに苛立っているじゃないですか。ど、どうなさったんですぅ?」
だらだらと冷や汗を流しながらも、テリアはサンカリーに問い掛けている。苛立っている理由が気になって仕方がないようだ。
「テトロがやられた。奴の魔力の波動が消えたからな」
「げっ、マジでぇ?」
サンカリーの口から衝撃的な事実を伝えられ、余裕ぶっているはずのテリアもさすがに焦ったようだった。
「あいつは弱っちいけど、まさかこんなに簡単にやられるなんて……。そういえば、メチルの役立たずはどうしたのよ」
「あの魔族というにもおこがましい半端者か……。あいつの魔力は私でも追えん。だが、何かに取り入らずには生きていけないような、取るに足らない存在だ。捨て置いてもいいだろう」
そう言いながら、ようやくテリアに突きつけた切っ先を杖にしまうサンカリーである。
ようやくサンカリーの圧から解放されたテリアは、喉元を手で押さえながら呼吸を必死に整えている。そのくらいにサンカリーは魔族において実力がかなり突出しているのだ。
「しかし、テトロがやられたとなると、サーロインを滅ぼすのは厳しいわねぇ。あいつが呪具で操っていた連中も解放されたでしょうしね~」
「それは問題になるだろうが、どうせやつらには記憶がない。それに呪具の浸食も受けておるから、そのうち勝手にくたばる。たとえ聖女といえど簡単に解けぬ呪いだ、放っておくとしよう」
そう言い切ったサンカリー。呪具による影響は、たとえ所有者が死のうとも対象に効果を発揮するまで永久に残り続けるのだ。しかもその呪いは、聖女が命を賭しても打ち消せないくらい強力なものなのである。だからこそ、放置する選択を取ったようである。
「じゃさじゃさ、あたしが配下を使って確認してこよっか? 念のためってやっぱ重要じゃな~い?」
「好きにするといい。有益な情報もできれば持って帰らせろよ?」
「まっかせなさ~い」
テリアは調子よく喋りながら、サンカリーの部屋から出て行った。
その姿を鬱陶しそうに見送ったサンカリーは、大きくため息を吐いていた。
「まさか、猶予を待たずしてテトロがやられるとはな。少々早すぎて誤算というものだな。……功を焦ったというところだろうかな」
コツコツと数歩進むサンカリー。そして、崩れた壁から向こう側をじっと見ている。その眼下には、さらに禍々しさを放つ淀んだ空気が漂っている。
「いつか復活を遂げる魔王様のためにも、最高の舞台を整えねばなりません。そのためには、この地を絶望に染め上げねば……」
サンカリーはくるりと振り返ると、計画を練り直すために部屋を移動していった。
一方のサンカリーと別れたテリア。
「はあ、バッカじゃないの?! なに勝手に仕掛けて死んでるわけ? バッカじゃないの、テトロってば」
自室に戻って文句をぶちまけながら椅子に座るテリア。
「まーったく、呪具を駆使して背後に潜んでおけばよかったのにねぇ。これだから頭筋肉な奴って嫌いなのよね」
部屋に居る召使いに飲み物を注がせるテリア。それをくいっと飲み干すと、足を組んでなんともガラの悪い座り方をする。
「あたしはあんなやつとは違うよ。魅了の力を使って、うまーく取り込んでやるんだからね」
後ろに立つ召使いに手を伸ばすテリア。そこに居たのは目に光の灯っていない、なんとも無表情な男性だった。どうやら、テリアの力で操られているようである。
「魔王様が復活した時のために、このベジタリウスを潰しておかなきゃねぇ。うふふ、男はみ~んなあたしの虜。女はねぇ……」
その瞬間、左手に持ったグラスが粉々に砕け散る。
「このグラスのようになってもらうわよぉ? キャハハハハ!」
実に怪しげな笑みを浮かべるテリア。その笑い声は辺りにしばらく響き渡っていたのだった。
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