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第七章 3年目前半

第356話 急襲、急展開

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 パーティー会場のあちこちのガラスが砕け散り、黒衣の侵入者たちが押し入ってくる。
 あまりに突然の事に、パーティー会場に居た参加者たちから悲鳴が上がる。
「これは一体どうした事だ。衛兵、侵入者を捕らえるのだ」
 国王から命令が飛び、会場に兵士たちがやって来る。
「お姉様、これは?」
 モモが私に駆け寄ってくる。
「どうやら、私たちが仕掛けた防護魔法を無理やり突破してきたみたいね。これは好都合だわ」
 私はにやりと笑っていた。
 侵入者たちは貴族たちに襲い掛かろうとしているが、彼らはあえなく迎撃を受けてしまう。
「さすがはアンマリア嬢だね。これを読んでいたみたいだ」
「俺たちを窓際に居るように仕向けて何かと思ったが、こういう事とはな」
「さあ、みなさん。賊をとっちめてやりましょう」
「ふふっ、そうだね」
 窓際に居た攻略対象たちとサクラが、アクセサリを武器に変えて賊と応戦している。
「くっ、見破られていたか?」
 国王たちの近くに現れた女性も、ミスミ教官に阻まれて驚いている。
「ふん、賊ごときの浅はかな考え、分からないと思っているのかな? うちには優秀な子が居るんでね」
「くそっ。簡単にいかぬというのなら、お前から始末してあげるわ」
「面白い。やれるものならやってみるといい。このミスミ・バッサーシを倒せるものならな」
 楽しいはずのパーティー会場は、あっという間に乱戦の場へと姿を変えてしまった。
 しかし、その中には肝心の奴が見当たらない。
「アンマリア、上よ!」
 メチルが叫ぶと、そこから一つの影が降ってきた。
 短剣をひと筋振り下ろしてきた男。私とサキの二人掛かりで大きな盾を魔法で作り出すと、その短剣を弾く。
「おいおい、どういう事だ。裏切りやがったか」
 男は驚く事なく後ろに跳ぶと、メチルを睨み付けている。それと同時に短剣を投げつけた。
「アルー!」
「はいな」
 メチルの声に応えたアルーが、魔法で短剣を無力化する。
「なんだと?! お前のどこにそんな力が」
 驚く男。
「ならばっ」
 すぐに攻撃目標を変える男は、新たに短剣を取り出してフィレン王子とリブロ王子に襲い掛かる。
 王子たちも応戦しようとするのだが、次の瞬間、男は急に目眩がしたかのようにふらついて膝をついた。
「こ、このにおいは……」
 頭を押さえて激しく冷や汗を流す男。何が起きたのか二人の王子とサキは分からないようだった。
「ふふっ、メチルの言った通りね。この柑橘の香りで弱るという事は、あなたが魔族の四天王の一人テトロっていうわけね」
 私の手には柑橘魔石が握られていた。強烈な香りに、目の前の男はかなりのダメージを受けていたようだった。
「魔族?!」
 私の呟きが聞こえたのか、ミスミ教官と交戦中の女性がなぜか大きく反応していた。
「イスンセ。あなたは魔族だったというの?」
「よそ見とは余裕だな」
 慌てる女性にミスミ教官が襲い掛かる。
「ま、待て。あいつが魔族というのなら状況は違う」
 慌てたように剣を収める女性。その姿を見たミスミ教官は、ぴたりと剣を止めた。
「何の真似だ」
「私は、イスンセの動きに疑問を感じていた。上官だから従っていたが、あいつが魔族だというのなら、それに従う義務はない」
 真っすぐとした瞳をする女性の姿に、ミスミ教官は剣を引いた。
「その言葉信じよう。だが、嘘だった場合は分かっているな?」
「……もちろんだとも。他の連中も止めてやってくれ。おそらく私の言葉は届かない」
「分かった」
 ミスミ教官を説得した女性は、ベジタリウス王妃やミズーナ王女の方へと視線を向けた。
「……申し訳ございませんでした」
 女性は小さく呟くと、会場の真ん中のイスンセのところへと向かっていった。
 その会場の真ん中では、イスンセことテトロが必死に立ち上がって、柑橘の香りに抗おうとしていた。
「この程度で、俺を止めたと、思うんじゃねえっ!!」
 テトロが叫ぶと、その場を中心に魔力が渦を巻く。
 そのあまりの強い魔力の渦に、私たちは身構えてしまう。それと同時に嫌な予感がした私は、その渦を取り囲むように防護魔法を展開する。
「サキ様、私の魔法に上乗せを。攻撃が来ます」
「分かりました」
 私の声にサキが応じる。
 その瞬間だった。
「きゃあっ!」
「うわあっ!」
 テトロから鋭い魔法が飛んでくる。だけど、どうにか防護魔法によって相殺できていたけれど、威力が強すぎて衝撃によって私たちは吹き飛ばされてしまった。
「見たか、脆弱な人間どもよ。これが魔族の力だ。この程度で、俺様を抑えられると思うなよ」
 強がるテトロだけど、魔力が晴れて現れた姿はかなり疲弊していたようだった。今の衝撃で柑橘魔石の香りが吹き飛んだとはいえ、そのダメージはかなり大きいようだった。
「イスンセ、あなたって人は」
 高らかに笑うテトロに対して女性が飛び込んでいく。
「ふん、やっぱり裏切ってくれるか。これだから女ってのは困ったもんだ。残念だぜ、クガリ」
 蔑むように視線を送るテトロ。しかし、クガリと呼ばれた女性はそのままテトロへと短剣を振るう。
 どうにか体を起こした私は、その状況を目の当たりにする。そして、一か八か、柑橘魔石を二人のちょうど真ん中目がけて投げつけたのだった。
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