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第七章 3年目前半
第350話 ベジタリウス王妃がやって来た
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魔王対策のために学園の暇な時間を見つけては魔王の訓練をする私たち。最終年ということで王妃教育も少し控えめになっているので助かるというものだわ。
私たちは女神の恩恵を受けているものの、その効果というものがいまいち実感できていないんだもの。
そうやっているうちに、フィレン王子の誕生日が近付いてきた。
(今年の誕生日プレゼントは何にしようかしらね)
正直今年は気が回らない。というのもメチルという転生者の魔族で出会ったせいで、いろいろと頭の中がごちゃごちゃしているからだ。そのせいで魔王や魔族対策に思考が完全に支配されてしまっている。それでも学園の勉強だけはちゃんとしているけれどね。赤点なんて取るものですか。
そんな差し迫った日のこと、朝からミズーナ王女が3年生の教室にやって来ていた。
「あっ、居た居た。アンマリア、ちょっとよろしいかしら」
教室の外から中を覗き込んでいたミズーナ王女が、私を見つけて大声を出しながら手を振っている。
ミズーナ王女が私と懇意にしている事は知られているので、誰もそれを気に留める事はない。誰に止められる事もなく、ミズーナ王女は私のところまでやってきていた。
「どうしたのですか、ミズーナ王女殿下」
とりあえずみんなが居る場所なので、敬語と敬称をしっかり使う私。ちゃんとTPOは弁えるわよ。
私の質問にはその場で答えずに、私にしっかりと近付いてくるミズーナ王女。そして、私の耳元でささやくような距離で用件を伝えてくる。
「実はですね、今日の早くに早馬が到着しまして、今日の夕方にはお母様がこちらに到着なさいます。そこで、アンマリアにも同席を願いたいのですよ」
なんと、ベジタリウス王妃がやって来るというのだ。という事は、侍女にされているメチルも来るでしょうね。
思いを巡らせた私は、ミズーナ王女に無言でこくりと頷いて了承する。その私の姿を見て、ミズーナ王女は満足げににこりと微笑んでいた。
「それでは、今日の授業が終わりましたら、エスカと一緒にお城に参りましょうね」
ミズーナ王女はそう言って、私たちの教室から出て行ったのだった。
ミズーナ王女が離れていくと、代わりにモモとサキが近付いてきた。
「お姉様、どんな話をなさっていたのですか?」
「お城に呼ばれてしまいましたよ。ミズーナ王女が話をしたいそうですので」
モモの質問に、私は内容を明かさずに重要な所だけを伝える。さすがにベジタリウス王妃が来られるなんて事を大っぴらに言えるわけがないもの。たとえ身内であっても秘密よ、秘密。
「アンマリア様だけなのでしょうか。私たちは?」
「一応呼ばれたのは私だけですね。でも、サキ様は別に来られても大丈夫だとは思います」
「私は?!」
私がサキは大丈夫かもと話すと、モモが大げさに反応している。
「モモは、とりあえずお留守番ですね。家に戻ってテールの相手をしていて下さい」
「うう、分かりました、お姉様」
モモはものすごく不満そうな顔をしながらも、私の言う事を聞いていた。
そんなわけで今日の授業が終わると、正門前に私はサキを伴ってやって来た。まだミズーナ王女は来ていないようだ。
「お待たせ致しました。あら、サキもいらっしゃいますのね」
しばらくするとミズーナ王女が現れた。後ろにはしっかりとエスカも居る。
「あの、私はお邪魔ではないでしょうか」
サキが遠慮がちにミズーナ王女に確認を取ると、にっこりと微笑みを返している。
「いえ、サキは居る方がかえって話はしやすいかと思います。早馬の話では、面白い方が一緒にいらっしゃるようですから」
なんとも含みを持たせたような言い方をするミズーナ王女である。これには首を傾げるしかないサキである。
私たちが話をしながら時間を潰していると、ようやくミズーナ王女の出迎えの馬車がやって来た。私たちはその馬車に乗り込み、城へと向かっていった。
城に到着すると、私たちはそのまま城の入口に待機する事になった。どうやらまだベジタリウス王妃は到着していないらしいのだ。
私たちが待っていると、遅れて戻ってきたフィレン王子たちも合流してきた。
「おや、アンマリアじゃないか。どうしてこちらに?」
「フィレン殿下。実は、ミズーナ王女殿下に誘われました」
私が答えると、隣に居るミズーナ王女がにっこりと微笑んでいる。その笑顔を見たフィレン王子はとても納得した顔をしていた。あっ、それだけで通じちゃうんだ。
そんな感じで私が戸惑っていると、門の方から兵士が走ってくる姿が見えた。
「ベジタリウス王国、トゥメリア・ベジタリウス王妃殿下のご到着でございます!」
どうやら王妃が到着したらしい。誕生日パーティーまではまだ1週間くらいあるので、ずいぶんと早い到着だった。
とはいえども、隣国の王族を迎えるのだから、私たちはきちんと構えてその到着を待つ。
しばらく待つと、実にきらびやかな馬車が目の前に現れた。それこそが、ベジタリウス王家の馬車なのである。
城の入口の前に止まった馬車の扉を従者が開く。すると、中からメチルが現れて手を差し出す。そして、その手を取って、ベジタリウス王妃姿を見せたのだった。
私たちは女神の恩恵を受けているものの、その効果というものがいまいち実感できていないんだもの。
そうやっているうちに、フィレン王子の誕生日が近付いてきた。
(今年の誕生日プレゼントは何にしようかしらね)
正直今年は気が回らない。というのもメチルという転生者の魔族で出会ったせいで、いろいろと頭の中がごちゃごちゃしているからだ。そのせいで魔王や魔族対策に思考が完全に支配されてしまっている。それでも学園の勉強だけはちゃんとしているけれどね。赤点なんて取るものですか。
そんな差し迫った日のこと、朝からミズーナ王女が3年生の教室にやって来ていた。
「あっ、居た居た。アンマリア、ちょっとよろしいかしら」
教室の外から中を覗き込んでいたミズーナ王女が、私を見つけて大声を出しながら手を振っている。
ミズーナ王女が私と懇意にしている事は知られているので、誰もそれを気に留める事はない。誰に止められる事もなく、ミズーナ王女は私のところまでやってきていた。
「どうしたのですか、ミズーナ王女殿下」
とりあえずみんなが居る場所なので、敬語と敬称をしっかり使う私。ちゃんとTPOは弁えるわよ。
私の質問にはその場で答えずに、私にしっかりと近付いてくるミズーナ王女。そして、私の耳元でささやくような距離で用件を伝えてくる。
「実はですね、今日の早くに早馬が到着しまして、今日の夕方にはお母様がこちらに到着なさいます。そこで、アンマリアにも同席を願いたいのですよ」
なんと、ベジタリウス王妃がやって来るというのだ。という事は、侍女にされているメチルも来るでしょうね。
思いを巡らせた私は、ミズーナ王女に無言でこくりと頷いて了承する。その私の姿を見て、ミズーナ王女は満足げににこりと微笑んでいた。
「それでは、今日の授業が終わりましたら、エスカと一緒にお城に参りましょうね」
ミズーナ王女はそう言って、私たちの教室から出て行ったのだった。
ミズーナ王女が離れていくと、代わりにモモとサキが近付いてきた。
「お姉様、どんな話をなさっていたのですか?」
「お城に呼ばれてしまいましたよ。ミズーナ王女が話をしたいそうですので」
モモの質問に、私は内容を明かさずに重要な所だけを伝える。さすがにベジタリウス王妃が来られるなんて事を大っぴらに言えるわけがないもの。たとえ身内であっても秘密よ、秘密。
「アンマリア様だけなのでしょうか。私たちは?」
「一応呼ばれたのは私だけですね。でも、サキ様は別に来られても大丈夫だとは思います」
「私は?!」
私がサキは大丈夫かもと話すと、モモが大げさに反応している。
「モモは、とりあえずお留守番ですね。家に戻ってテールの相手をしていて下さい」
「うう、分かりました、お姉様」
モモはものすごく不満そうな顔をしながらも、私の言う事を聞いていた。
そんなわけで今日の授業が終わると、正門前に私はサキを伴ってやって来た。まだミズーナ王女は来ていないようだ。
「お待たせ致しました。あら、サキもいらっしゃいますのね」
しばらくするとミズーナ王女が現れた。後ろにはしっかりとエスカも居る。
「あの、私はお邪魔ではないでしょうか」
サキが遠慮がちにミズーナ王女に確認を取ると、にっこりと微笑みを返している。
「いえ、サキは居る方がかえって話はしやすいかと思います。早馬の話では、面白い方が一緒にいらっしゃるようですから」
なんとも含みを持たせたような言い方をするミズーナ王女である。これには首を傾げるしかないサキである。
私たちが話をしながら時間を潰していると、ようやくミズーナ王女の出迎えの馬車がやって来た。私たちはその馬車に乗り込み、城へと向かっていった。
城に到着すると、私たちはそのまま城の入口に待機する事になった。どうやらまだベジタリウス王妃は到着していないらしいのだ。
私たちが待っていると、遅れて戻ってきたフィレン王子たちも合流してきた。
「おや、アンマリアじゃないか。どうしてこちらに?」
「フィレン殿下。実は、ミズーナ王女殿下に誘われました」
私が答えると、隣に居るミズーナ王女がにっこりと微笑んでいる。その笑顔を見たフィレン王子はとても納得した顔をしていた。あっ、それだけで通じちゃうんだ。
そんな感じで私が戸惑っていると、門の方から兵士が走ってくる姿が見えた。
「ベジタリウス王国、トゥメリア・ベジタリウス王妃殿下のご到着でございます!」
どうやら王妃が到着したらしい。誕生日パーティーまではまだ1週間くらいあるので、ずいぶんと早い到着だった。
とはいえども、隣国の王族を迎えるのだから、私たちはきちんと構えてその到着を待つ。
しばらく待つと、実にきらびやかな馬車が目の前に現れた。それこそが、ベジタリウス王家の馬車なのである。
城の入口の前に止まった馬車の扉を従者が開く。すると、中からメチルが現れて手を差し出す。そして、その手を取って、ベジタリウス王妃姿を見せたのだった。
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