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第七章 3年目前半
第348話 最弱の魔族、サーロインに入る
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国境の砦でひと晩を過ごすと、翌日は雨は上がっており晴天に恵まれていた。それでも、気は抜けない。殺せていないと分かれば、テリアが再び襲撃してくる可能性があるからだ。
「ずいぶんと怖い顔をしていますね、メチル」
王妃が話し掛けてくる。
「あ……、そんなに怖い顔をしていたでしょうか」
思わず驚いた反応をしながら、自分の頬をもにもにと揉み解している。そして、恥ずかしそうに肩をすくめながら王妃を見つめている。
「昨日のあれは何だったのですか? 急に魔法の天井ができて、岩が受け止められていましたけど」
他に漏らすのはよくないと考えたのか、砦の中では確認しなかった王妃。密室である馬車の中で改めてメチルに尋ねている。
昨日の魔法について聞かれたメチルは、あちこちに目を泳がせている。どう説明したらいいのか迷っているのだろう。しかし、最終的にはおとなしく話をする事にした。
「あれは私の魔法の一つです。砦でもお見せしましたけれど、これでも魔族ながらに治癒系の魔法しか使えません。私の相棒であるこのアルーの魔力を使うことで、私はあのような防御魔法を使う事ができるのです」
メチルが話していると、アルーが姿を現す。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんっ!」
元気よく姿を現すアルー。
「そんな言葉、どこで覚えたよ、アルー……」
「ご主人様の脳内から」
「……前世の記憶を見たの?」
「私とご主人様はいろいろ共有してるんですよ」
アルーの言葉にメチルはあんぐりとしていた。
「ちょっと待ちなさいよ。まさか私のあれこれ全部知ってるなんてこと、ありませんよね?」
「知ってても言いませんよ。ご主人様の不興を買うようなこと、私がするわけないじゃないですか」
アルーが必死に自己弁護している。自分の使い魔なので、メチルは信じて迫った顔を引っ込める。それでようやくアルーは気持ちが落ち着いていたようだった。
「まあ、冗談はさておきまして」
咳払いをして気を取り直すアルー。
「昨日の魔法は、私の持つ魔法をご主人様の魔力で展開させたものになります。私は精霊ですから、いろんな魔法が使えます。けれど、私自身は魔力はそう多くありませんから、実行にはご主人様の魔力が必要なんですよ」
メチルに代わって説明をするアルー。どうやらメチルとアルーは二人でワンセットといった感じらしい。
「なるほど、そうなのですね。昨日は本当にありがとうございました」
軽く目を伏して礼を述べる王妃。
「しかし、何だったのでしょうか、あの崖崩れは……」
「あれは、私と同じ魔王配下の四天王による魔法です。雷を使っていたので、おそらくはテリアでしょうね」
「まあ……。なんて恐ろしい魔法を使うのでしょうか」
崖崩れが起きた真相を聞いて、王妃は不安そうな顔をしている。
「でも、魔法を使った直後に気配が消えたので、私たちが無事だとは知らないはずです。これでしばらくは安心して移動ができると思います」
メチルは王妃を安心させるためにそう話す。しかし、これはあくまでも推測であり、確実なものではない。それでも、同じ魔王配下の四天王として、テリアの性格はそこそこ把握はしている。そういった背景があるからこそ、メチルは強く言えるのだった。
(こうは言っても、ここからはテトロの活動する地域だものね。やっぱり気が抜けないわね)
王妃をひとまず安心させた後もまったく気の抜けないメチルなのであった。
国境の砦から再び1日をかけて、ようやくバッサーシ辺境伯領のテッテイに到着するベジタリウス王妃一行。
テッテイにやって来るまでもそうだったが、テッテイに入ってからはますます人々の注目を集めているようである。王族の馬車なんていうものは、めったに見るようなものじゃないから仕方がないだろう。
(ここが、あの脳筋ライバル令嬢サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢の実家なのね)
さすがはゲームをやり込んでいただけあってか、メチルはすぐに名前が出てくる。
馬車の窓からちらりと街の様子を見るメチル。すると、ちらちらと見える兵士たちは揃いも揃って筋肉質だった。その姿を見て、ついメチルは笑ってしまう。
テッテイの街の様子を満喫したメチルたちは、テッテイのバッサーシ辺境伯邸に到着する。今の時期に家に居るのは、領主代理である部下たちだけであり、ベジタリウス王妃を迎えるにあたってかなり緊張しているようだった。
(見た感じ、テッテイの街の中にはテトロの影響は出ていなさそうね。となると、テトロの対象は残り2つの辺境伯のどちらかというわけか)
屋敷の中の様子も含めて、特に変わった様子がない。これにはメチルもほっとひと安心のようである。
しかし、実はここから王都まではまだ7日間の馬車移動が待っている。しかも、途中に野宿するような場所すらもある。まだまだ油断はできないのである。
無事にサーロイン王国に入国したとはいえども、暗躍する魔族たちが存在するためにまだまだ気は緩められない。
気合いを入れるメチルだったが、屋敷に入ってからというものどうにも気分が優れない。一体彼女に何があったというのだろうか。
「ずいぶんと怖い顔をしていますね、メチル」
王妃が話し掛けてくる。
「あ……、そんなに怖い顔をしていたでしょうか」
思わず驚いた反応をしながら、自分の頬をもにもにと揉み解している。そして、恥ずかしそうに肩をすくめながら王妃を見つめている。
「昨日のあれは何だったのですか? 急に魔法の天井ができて、岩が受け止められていましたけど」
他に漏らすのはよくないと考えたのか、砦の中では確認しなかった王妃。密室である馬車の中で改めてメチルに尋ねている。
昨日の魔法について聞かれたメチルは、あちこちに目を泳がせている。どう説明したらいいのか迷っているのだろう。しかし、最終的にはおとなしく話をする事にした。
「あれは私の魔法の一つです。砦でもお見せしましたけれど、これでも魔族ながらに治癒系の魔法しか使えません。私の相棒であるこのアルーの魔力を使うことで、私はあのような防御魔法を使う事ができるのです」
メチルが話していると、アルーが姿を現す。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんっ!」
元気よく姿を現すアルー。
「そんな言葉、どこで覚えたよ、アルー……」
「ご主人様の脳内から」
「……前世の記憶を見たの?」
「私とご主人様はいろいろ共有してるんですよ」
アルーの言葉にメチルはあんぐりとしていた。
「ちょっと待ちなさいよ。まさか私のあれこれ全部知ってるなんてこと、ありませんよね?」
「知ってても言いませんよ。ご主人様の不興を買うようなこと、私がするわけないじゃないですか」
アルーが必死に自己弁護している。自分の使い魔なので、メチルは信じて迫った顔を引っ込める。それでようやくアルーは気持ちが落ち着いていたようだった。
「まあ、冗談はさておきまして」
咳払いをして気を取り直すアルー。
「昨日の魔法は、私の持つ魔法をご主人様の魔力で展開させたものになります。私は精霊ですから、いろんな魔法が使えます。けれど、私自身は魔力はそう多くありませんから、実行にはご主人様の魔力が必要なんですよ」
メチルに代わって説明をするアルー。どうやらメチルとアルーは二人でワンセットといった感じらしい。
「なるほど、そうなのですね。昨日は本当にありがとうございました」
軽く目を伏して礼を述べる王妃。
「しかし、何だったのでしょうか、あの崖崩れは……」
「あれは、私と同じ魔王配下の四天王による魔法です。雷を使っていたので、おそらくはテリアでしょうね」
「まあ……。なんて恐ろしい魔法を使うのでしょうか」
崖崩れが起きた真相を聞いて、王妃は不安そうな顔をしている。
「でも、魔法を使った直後に気配が消えたので、私たちが無事だとは知らないはずです。これでしばらくは安心して移動ができると思います」
メチルは王妃を安心させるためにそう話す。しかし、これはあくまでも推測であり、確実なものではない。それでも、同じ魔王配下の四天王として、テリアの性格はそこそこ把握はしている。そういった背景があるからこそ、メチルは強く言えるのだった。
(こうは言っても、ここからはテトロの活動する地域だものね。やっぱり気が抜けないわね)
王妃をひとまず安心させた後もまったく気の抜けないメチルなのであった。
国境の砦から再び1日をかけて、ようやくバッサーシ辺境伯領のテッテイに到着するベジタリウス王妃一行。
テッテイにやって来るまでもそうだったが、テッテイに入ってからはますます人々の注目を集めているようである。王族の馬車なんていうものは、めったに見るようなものじゃないから仕方がないだろう。
(ここが、あの脳筋ライバル令嬢サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢の実家なのね)
さすがはゲームをやり込んでいただけあってか、メチルはすぐに名前が出てくる。
馬車の窓からちらりと街の様子を見るメチル。すると、ちらちらと見える兵士たちは揃いも揃って筋肉質だった。その姿を見て、ついメチルは笑ってしまう。
テッテイの街の様子を満喫したメチルたちは、テッテイのバッサーシ辺境伯邸に到着する。今の時期に家に居るのは、領主代理である部下たちだけであり、ベジタリウス王妃を迎えるにあたってかなり緊張しているようだった。
(見た感じ、テッテイの街の中にはテトロの影響は出ていなさそうね。となると、テトロの対象は残り2つの辺境伯のどちらかというわけか)
屋敷の中の様子も含めて、特に変わった様子がない。これにはメチルもほっとひと安心のようである。
しかし、実はここから王都まではまだ7日間の馬車移動が待っている。しかも、途中に野宿するような場所すらもある。まだまだ油断はできないのである。
無事にサーロイン王国に入国したとはいえども、暗躍する魔族たちが存在するためにまだまだ気は緩められない。
気合いを入れるメチルだったが、屋敷に入ってからというものどうにも気分が優れない。一体彼女に何があったというのだろうか。
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