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第七章 3年目前半
第346話 メチル、本気の決意
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その日のメチルは、侍女としての教育を受けていた。
元々魔族としても下っ端なので、無茶苦茶な仕事には慣れていた。なので、転生者の記憶が戻ったからとはいっても、思いの外仕事に対してついていく事ができた。
「すごいですね。結構たくさん教えたつもりですが、ちゃんとこなせるとは思いませんでした」
「魔族の体力を舐めて頂いては困ります」
侍女から驚かれて、淡々と返すメチルである。
「この調子でしたら、一週間もあれば王妃様の専属としても恥じない程度になるでしょうね。鍛えがいがあっていいですね」
メチルの教育係である侍女はにっこりと微笑んでいた。メチルもそれに対して笑顔で返す余裕っぷりである。
その日の仕事を終えて、ようやく部屋に戻ったメチル。さすがにお風呂という余裕はないので、自分の持つ治癒の魔法を使って体の汚れをきれいにしていた。
「はあ、疲れました……。こんなに働いたのは前世以来ですね。あの頃は社畜で毎日6時間は残業でしたから……」
ベッドに突っ伏したまま、半ば愚痴めいたようにこぼすメチルである。
「ご主人様って大変な仕事をされていたんですね」
呼んでもいないのに眷属の精霊であるアルーが飛び出してくる。
「アルー」
目の前にちょこんと座るアルーに手を伸ばすメチル。
「あの頃は精神もかなり削られていたのよ。よく分からない事でよく怒鳴られたりもしたし……ね。それにしても、このゲームがある意味癒しだったのに、そこにこんな立場で転生するなんてね……」
「ご主人様……」
昔を思い出しながら虚ろな目をするメチル。その姿を見てアルーは心配そうにぴたりとくっつく。
「とはいえ、このまま噛ませ犬のように死ぬのだけはごめんだわ。私は必ず生き延びてやるわ。好きだったこの世界を守った上で……ね」
疲れもあって虚ろだった目が、はっきりとアルーの姿を映している。
「ご主人様、私も精一杯お手伝いさせて頂きます」
「ありがとう、アルー」
メチルは呟くと、ごろんと寝返って天井を向く。
「侍女の仕事は思ったより大変だけど、流れでこうなったとはいえしっかりとこなしてみせるわ」
「がんばです、ご主人様」
励ましてくるアルーに一度目を向けると、そのままメチルは眠ってしまったのだった。
それからというもの1か月が過ぎた。
「もうすっかり板についてしまいましたね、メチル」
「はい、王妃様」
すっかり侍女らしくなったメチルは、今日も王妃にしっかりと仕えていた。
「そんなあなたに朗報ですよ」
そう言いながら、王妃は手紙を取り出していた。
「一体どのような事でございますでしょうか」
「もう来月の話になるのですが、王子の誕生日パーティーが行われるのですよ。国王や王妃の誕生日では国外の人を招きませんのに、王子の誕生日となると招くんですよ。まったく、変わっていますね、サーロイン王国って」
そうは言う王妃だが、顔は楽しそうに笑っていた。
「その席に、私も招待を受けましてね。陛下は国の仕事がございますので、出向くのは私だけになります。そこで、あなたもついて来ませんか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、あなたは私の専属の侍女ですのよ? 当然ではありませんか」
確認を取るメチルに、当たり前でしょうと返す王妃。それを聞いたメチルは、それもそうかと納得したような顔をしている。
しかし、これで堂々とサーロイン王国に乗り込む条件が整ったのだ。
(これでようやくアンマリアたちと話す機会ができそうですね。もう3か月ちょっとしか猶予がありませんから、急がないといけないですけれど)
王妃からの話を聞いて、メチルはそのように考えた。
なにぶんこの1か月の間に、魔族たちにはちょっとした動きがあったのだ。特にテリアの動きが激しかった。
(テリアは3番目に戦う魔族のボス。ゲームの中では私やテトロの失敗を受けて、ベジタリウス王国の兵士を操って戦争を仕掛けようとしてたんだっけか)
この日の仕事を終えたメチルは、自室の中でベッドに転がりながらゲーム内でのテリアの動きを思い出していた。
(もしかすると早めに動き出した可能性があるわね。警戒しなくちゃいけないわ)
だが、その一方でテトロの方の動きが静かなのが気にかかる。ゲーム通りであるなら、今年の夏が終わる頃までには大きなアクションがあるはずだからだ。
(ゲームの中での流れは、私が魔族だとバレて討伐されてから、テトロの討伐までは1か月ほど。辺境伯の一人を操って内乱を起こすものの、聖女の力で暴かれて倒されたんだっけか)
ごろんと転がるメチル。
(あれっ? 操られた辺境伯って三人に居るうちの誰だったっけか……)
肝心なところが思い出せないメチルである。
(うん、ダメだわ。覚え込むくらいにしっかり遊んだはずなのに、どうしても思い出せない……。魔族になった影響かしらね)
腕を顔の上に置くメチル。
(とにかくそろそろサーロイン王国に行く事になる。フィレン王子の誕生日パーティーで必ず何かしらの動きがあるはずだわ。企んでいるのなら、何としても阻止しなきゃね)
顔から腕を退けると、力強く拳を握りしめるメチル。
間違いなく仲間であるはずの魔族を裏切る事にはなるが、好きなこの世界を壊させないためにも、決意を固めるメチルなのだった。
元々魔族としても下っ端なので、無茶苦茶な仕事には慣れていた。なので、転生者の記憶が戻ったからとはいっても、思いの外仕事に対してついていく事ができた。
「すごいですね。結構たくさん教えたつもりですが、ちゃんとこなせるとは思いませんでした」
「魔族の体力を舐めて頂いては困ります」
侍女から驚かれて、淡々と返すメチルである。
「この調子でしたら、一週間もあれば王妃様の専属としても恥じない程度になるでしょうね。鍛えがいがあっていいですね」
メチルの教育係である侍女はにっこりと微笑んでいた。メチルもそれに対して笑顔で返す余裕っぷりである。
その日の仕事を終えて、ようやく部屋に戻ったメチル。さすがにお風呂という余裕はないので、自分の持つ治癒の魔法を使って体の汚れをきれいにしていた。
「はあ、疲れました……。こんなに働いたのは前世以来ですね。あの頃は社畜で毎日6時間は残業でしたから……」
ベッドに突っ伏したまま、半ば愚痴めいたようにこぼすメチルである。
「ご主人様って大変な仕事をされていたんですね」
呼んでもいないのに眷属の精霊であるアルーが飛び出してくる。
「アルー」
目の前にちょこんと座るアルーに手を伸ばすメチル。
「あの頃は精神もかなり削られていたのよ。よく分からない事でよく怒鳴られたりもしたし……ね。それにしても、このゲームがある意味癒しだったのに、そこにこんな立場で転生するなんてね……」
「ご主人様……」
昔を思い出しながら虚ろな目をするメチル。その姿を見てアルーは心配そうにぴたりとくっつく。
「とはいえ、このまま噛ませ犬のように死ぬのだけはごめんだわ。私は必ず生き延びてやるわ。好きだったこの世界を守った上で……ね」
疲れもあって虚ろだった目が、はっきりとアルーの姿を映している。
「ご主人様、私も精一杯お手伝いさせて頂きます」
「ありがとう、アルー」
メチルは呟くと、ごろんと寝返って天井を向く。
「侍女の仕事は思ったより大変だけど、流れでこうなったとはいえしっかりとこなしてみせるわ」
「がんばです、ご主人様」
励ましてくるアルーに一度目を向けると、そのままメチルは眠ってしまったのだった。
それからというもの1か月が過ぎた。
「もうすっかり板についてしまいましたね、メチル」
「はい、王妃様」
すっかり侍女らしくなったメチルは、今日も王妃にしっかりと仕えていた。
「そんなあなたに朗報ですよ」
そう言いながら、王妃は手紙を取り出していた。
「一体どのような事でございますでしょうか」
「もう来月の話になるのですが、王子の誕生日パーティーが行われるのですよ。国王や王妃の誕生日では国外の人を招きませんのに、王子の誕生日となると招くんですよ。まったく、変わっていますね、サーロイン王国って」
そうは言う王妃だが、顔は楽しそうに笑っていた。
「その席に、私も招待を受けましてね。陛下は国の仕事がございますので、出向くのは私だけになります。そこで、あなたもついて来ませんか?」
「よろしいのですか?」
「ええ、あなたは私の専属の侍女ですのよ? 当然ではありませんか」
確認を取るメチルに、当たり前でしょうと返す王妃。それを聞いたメチルは、それもそうかと納得したような顔をしている。
しかし、これで堂々とサーロイン王国に乗り込む条件が整ったのだ。
(これでようやくアンマリアたちと話す機会ができそうですね。もう3か月ちょっとしか猶予がありませんから、急がないといけないですけれど)
王妃からの話を聞いて、メチルはそのように考えた。
なにぶんこの1か月の間に、魔族たちにはちょっとした動きがあったのだ。特にテリアの動きが激しかった。
(テリアは3番目に戦う魔族のボス。ゲームの中では私やテトロの失敗を受けて、ベジタリウス王国の兵士を操って戦争を仕掛けようとしてたんだっけか)
この日の仕事を終えたメチルは、自室の中でベッドに転がりながらゲーム内でのテリアの動きを思い出していた。
(もしかすると早めに動き出した可能性があるわね。警戒しなくちゃいけないわ)
だが、その一方でテトロの方の動きが静かなのが気にかかる。ゲーム通りであるなら、今年の夏が終わる頃までには大きなアクションがあるはずだからだ。
(ゲームの中での流れは、私が魔族だとバレて討伐されてから、テトロの討伐までは1か月ほど。辺境伯の一人を操って内乱を起こすものの、聖女の力で暴かれて倒されたんだっけか)
ごろんと転がるメチル。
(あれっ? 操られた辺境伯って三人に居るうちの誰だったっけか……)
肝心なところが思い出せないメチルである。
(うん、ダメだわ。覚え込むくらいにしっかり遊んだはずなのに、どうしても思い出せない……。魔族になった影響かしらね)
腕を顔の上に置くメチル。
(とにかくそろそろサーロイン王国に行く事になる。フィレン王子の誕生日パーティーで必ず何かしらの動きがあるはずだわ。企んでいるのなら、何としても阻止しなきゃね)
顔から腕を退けると、力強く拳を握りしめるメチル。
間違いなく仲間であるはずの魔族を裏切る事にはなるが、好きなこの世界を壊させないためにも、決意を固めるメチルなのだった。
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