伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
342 / 500
第七章 3年目前半

第342話 しょうがないな

しおりを挟む
 事は急を要するということで、意外とすんなりと謁見が認められた。ただ、メチルは兵士による監視付きだ。
「その方、魔族というのは本当か?」
 国王からもの鋭い視線を送られながら、事実確認をされるメチル。怖いのかその体が震えている。
「本当でございます。本来の姿をお見せします」
 フードを取った状態で力を込めていくメチル。すると、肌の色に目の色、なんと髪の色までが変わっていく。すべてが人間に紛れるために変化させられていた。変わらなかったのは身長などの体型くらいだった。
 黒めに薄い赤色の瞳孔を持つ姿は、周りの兵士たちが身構えるくらいに恐ろしいものだった。
「これが魔族の、魔王四天王たる私の姿でございます。名前はメチル、治癒の魔法を得意としております」
 身分や能力を素直に明かすメチル。
「私の目的は治癒の能力を活かして人間たちを取り込み、内乱を起こして国を瓦解させる事でした。でも、私は知ってしまったのです。この先どう転んでも私は殺される身だという事を」
 下を向きながら説明していたメチルだったが、最後に顔を上げて国王の方をしっかりを見ている。
 それに対して、国王はいまだに疑いを持って厳しい視線を向けている。あれだけしっかりと目的を告げられたのだ。信用しろという方が難しい。
「本当に治癒の能力しか持っていないのだな?」
 国王が確認するように問い掛ける。すると、メチルの頭上にアルーが現れる。
「本当ですよ。メチルは魔族の中でも特殊な、治癒特化の魔法しか使えない魔族なんです。戦闘能力なんて持っていない。それを担うのは精霊たる私なんですから」
 メチルに代わって強く訴えるアルー。
 しかし、このアルーの出現が事態を大きく変える事になる。
「なっ、精霊?」
 国王をはじめとしたベジタリウスの人間が動揺を始める。私にはまったく何が起きているのか分からない。
「メチルは他の魔族の居場所が分かります。けど、他の魔族はメチルの居場所は分かりにくい。魔族の魔力っていうのは特殊なんだけど、メチルだけは人間寄りの魔力だから人間の中に紛れると分からなくなるんですよ」
 必死にメチルの特色を訴えるアルー。
 そのアルーの訴えだけど、私は確かに納得できると感じていた。
 魔族の魔力というのは、おそらく夏合宿などで感じたあのおぞましいまでの魔力だろう。でも、メチルの魔力はどちらかというとサキに近い感じの暖かなものだった。治癒の魔法が得意というのは嘘とは思えないくらいだ。
 魔族からすれば異質な聖女に近い魔力。彼女の殺されるという懸念はとても納得がいくものに思えた。
「そのくらいにメチルの魔力は異質。他の魔族のやつらからしたら、きっと煙たがっているはずです。だからメチルは、少しでも生き残れる方をと思って、こうやって正体を明かしたんです」
 私が考え事をしている間も、アルーによる訴えは続いていた。
 その必死の訴えは国王たちには着実に届いていた。なにせ国王の表情が先程までとは違って、悩んでいるように眉が曲がっているのだから。
「アルー、もうそれくらいにしておいて下さい。もう十分ですから」
 メチルは頭の上に手を伸ばしてアルーを捕まえる。そして、すぐさま口を塞いだのだが、まだ喋り足りないのかもごもごと喋り続けていた。
「私の能力云々はとりあえずこれで終わりにします。それよりも大事な事がございますので」
 バタバタと暴れるアルーを抱えながら、メチルは国王に訴える。
「ほう、それは何かな?」
 国王も興味を惹かれたのか、メチルに質問する。
「アンマリアにはお話しましたが、魔族である私がこうやってこの場に居られる事です」
「むむ?」
「先程城に入る際に痛みを感じましたから、城には結界が張ってあると思うんです。ですが、私がこうやって侵入している事を考えると、魔族には通用しないと思われるんです」
 メチルの考えを聞かされて、国王たちの間に衝撃が走っている。
「た、確かにそうだな……」
 国王は大臣を呼んですぐに対策を練るように指示を出そうとする。だけど、それをメチルが声を上げて止めようとする。
「そこでです。私をこのままここに置いて頂けませんか? 先程もアルーが説明しました通り、私は他の魔族の位置を感じ取る事ができます。逆に私の魔力が感じ取りにくいのです。お役に立ってみせますので、どうかよろしくお願い致します」
 そう発言したメチルは、そのまま深々と土下座をしていた。隣でずっと静かに成り行きを見守っていた私は、その土下座に思わず驚いてしまった。
 しかし、その態度こそが、メチルが本気で生き延びたいと思っている証であった。だからこそ、私もなんだか同情じみた感情を抱いてしまった。
「国王陛下、メチルのこの気持ちは恐らく本物でしょう。私からもお願い致します」
 ついつい国王にこんな進言をしてしまう。私の言葉を受けて、国王と王妃、それと大臣が顔を見合っている。しばらく考え込んだ後、国王が口を開く。
「……そうだな。先日の刺客の事といい、不安な状態にはある。手数は多い方がよいだろう。そなたの言い分を信じ、城に置いてやるとしよう」
「ありがとう存じます。このメチルおよびアルー、必ずお役に立ってみせます」
 国王の表情を見るに、まだまだ疑っているのは間違いなさそうだった。しかし、国の状態を考えると、背に腹は代えられぬといったところかも知れない。
 こうして、メチルはベジタリウス王城内で侍女として働く事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...