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第七章 3年目前半
第334話 戻る前に寄り道を
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ひと通り作って満足したエスカを連れて、翌日私たちは王都の家に戻る事になった。
……はずだったのだが、サクラが妙な事を頼み込んできた。
「アンマリア様、昨日の柑橘のにおいを閉じ込めた魔石を渡して頂けないでしょうか」
「……はい?」
唐突なサクラの提案に、私は目が点になった。何を思って急にそんな事を言ったのが、私にはまったくの理解不能だったのだ。
「いえですね……。ほら、私たちバッサーシの人間って基本的に血の気が多いじゃないですか。だから、それがあれば少しは落ち着くんじゃないかなと思ったんです。柑橘の香りで、私の気持ちもいつもより落ち着いている気がしますし」
なるほど、自分の体験したからこそ、実家で試してみたくなったというところだろうか。どことなく納得がいった私だった。
しかしだ、私はついつい考えてしまう。
サクラの実家であるバッサーシ辺境伯は、北西のベジタリウス王国との睨み合いをする最前線だ。そのために常に緊張を強いられている場所なのだ。そこに落ち着きの効果があるだろう物を持ち込んで、はたして大丈夫なのだろうかと、私はそう考えたのである。
ふと顔を上げると、サクラはおかしそうに笑いながら私の顔を見ていた。思わず不機嫌な表情をしてしまう。
「あ、いえ。アンマリア様がかなり真剣に考えられているものですから、つい……」
笑ってはいるものの、ちゃんと謝罪をしてくるサクラである。
「ほら、常に警戒し続けているというのも疲れますから、時々気を抜く時間を持ってもいいと思うのですよ。私もアンマリア様たちと話をする時は、かなりリラックスできていますし、その後は結構集中できるんです」
実体験による提案なのだそうだ。でも、私も前世を含めてそういう経験があるだけに、一理あるなと頷いてしまう。
そこで、私はエスカに声を掛ける。
「エスカ、モモを連れて先に戻っていてくれないかしら。私は一度テッテイに行ってきますから」
「了解。モモの事は任せておいてちょうだい」
「え、エスカ王女殿下? お姉様?」
私たちのやり取りに、戸惑いを隠せないモモ。しかし、もう挨拶を済ませて帰るだけの状態なので、エスカはモモをがっしり掴まえる。
「それでは、一足先にトーミに戻っているわね。アンマリアたちも、早めに戻ってきてちょうだいよ?」
そう言い残すと、エスカはモモと一緒に瞬間移動魔法で消えてしまった。
それを見送ると、私はサクラに声を掛ける。
「サクラ様、私たちも参りましょうか」
「はい、お願いします、アンマリア様」
サクラが私の手を取る。そして、テッテイにあるバッサーシ辺境伯邸へと飛んだのだった。
バッサーシ邸に飛ぶと、サクラが門番に挨拶をする。
「みなさん、お元気でしょうか」
「こ、これはサクラお嬢様! お帰りなさいませ」
サクラの挨拶に、慌てて敬礼をする門番。
「いけませんね。そんなに気を抜いていては、お父様からげんこつが降ってきますよ?」
「そ、それは勘弁下さい……」
サクラが笑いながら脅すように言うと、門番は本気で震えていた。
「ふふ、お父様のげんこつは痛いものですからね」
満面の笑みのサクラである。これが脳筋の一族か……。
「とりあえず、中に入りますので通して頂けますか?」
「はっ、アンマリア嬢もよくお越し下さいました。どうぞお入り下さい」
門番に通されて、私とサクラは屋敷の中へと入っていく。
「それで、この魔石をどこに置くって言うのかしら」
私は収納魔法から、柑橘の香りを吸ってすっかり黄色くなってしまった魔石を取り出した。
「食堂がいいかと思います。そこなら屋敷の人間はほとんどは利用しますからね」
サクラは迷いなく食堂へ向かって歩いている。私もバッサーシ邸の中は歩いた事があるので、すぐに分かった。
食堂に顔を出すと、そこでは食事の後片付けをする使用人たちが集まっていた。その使用人たちはサクラの姿を見て固まった。
「さ、サクラお嬢様?!」
「ただいまです。ちょっと用事がありましたので、友人に頼んでやって来ました」
使用人たちに向けて笑顔を向けるサクラ。根本は脳筋ではあるものの、かなり普通の令嬢らしく振る舞うサクラは、かなり可愛く見えてしまう。使用人たちはその笑顔にやられてしまっていた。
「アンマリア様、あの中央のシャンデリアの上に先程の魔石を置いて下さいますか。魔力を通せば香りが広がりますよね?」
「えっ、ええ。一応そういう仕組みになっているけれど……」
サクラに答えながら、私は魔法を使って天井近くのシャンデリアへと近付いていく。風魔法を応用すれば、宙に浮かぶ事も可能なのである。
慎重にシャンデリアの飾りに溶け込ませるように魔石を設置する私。それを見ていたサクラが私に声を掛ける。
「アンマリア様、早速お願いできますでしょうか」
「ええ、いいですよ」
サクラのお願いを受けて、私は魔石に魔力を通す。すると、ほんのりと柑橘の香りが食堂の中に漂い始めた。
「あら、ほんのりいい香りがしますね」
「ええ、これはファッティ領の柑橘の香りですよ。思ったよりも気分が落ち着くんですよ」
驚く使用人に説明するサクラである。
感嘆の声を漏らす使用人たちを見ながら、サクラは実に満足そうに笑っているのだった。
……はずだったのだが、サクラが妙な事を頼み込んできた。
「アンマリア様、昨日の柑橘のにおいを閉じ込めた魔石を渡して頂けないでしょうか」
「……はい?」
唐突なサクラの提案に、私は目が点になった。何を思って急にそんな事を言ったのが、私にはまったくの理解不能だったのだ。
「いえですね……。ほら、私たちバッサーシの人間って基本的に血の気が多いじゃないですか。だから、それがあれば少しは落ち着くんじゃないかなと思ったんです。柑橘の香りで、私の気持ちもいつもより落ち着いている気がしますし」
なるほど、自分の体験したからこそ、実家で試してみたくなったというところだろうか。どことなく納得がいった私だった。
しかしだ、私はついつい考えてしまう。
サクラの実家であるバッサーシ辺境伯は、北西のベジタリウス王国との睨み合いをする最前線だ。そのために常に緊張を強いられている場所なのだ。そこに落ち着きの効果があるだろう物を持ち込んで、はたして大丈夫なのだろうかと、私はそう考えたのである。
ふと顔を上げると、サクラはおかしそうに笑いながら私の顔を見ていた。思わず不機嫌な表情をしてしまう。
「あ、いえ。アンマリア様がかなり真剣に考えられているものですから、つい……」
笑ってはいるものの、ちゃんと謝罪をしてくるサクラである。
「ほら、常に警戒し続けているというのも疲れますから、時々気を抜く時間を持ってもいいと思うのですよ。私もアンマリア様たちと話をする時は、かなりリラックスできていますし、その後は結構集中できるんです」
実体験による提案なのだそうだ。でも、私も前世を含めてそういう経験があるだけに、一理あるなと頷いてしまう。
そこで、私はエスカに声を掛ける。
「エスカ、モモを連れて先に戻っていてくれないかしら。私は一度テッテイに行ってきますから」
「了解。モモの事は任せておいてちょうだい」
「え、エスカ王女殿下? お姉様?」
私たちのやり取りに、戸惑いを隠せないモモ。しかし、もう挨拶を済ませて帰るだけの状態なので、エスカはモモをがっしり掴まえる。
「それでは、一足先にトーミに戻っているわね。アンマリアたちも、早めに戻ってきてちょうだいよ?」
そう言い残すと、エスカはモモと一緒に瞬間移動魔法で消えてしまった。
それを見送ると、私はサクラに声を掛ける。
「サクラ様、私たちも参りましょうか」
「はい、お願いします、アンマリア様」
サクラが私の手を取る。そして、テッテイにあるバッサーシ辺境伯邸へと飛んだのだった。
バッサーシ邸に飛ぶと、サクラが門番に挨拶をする。
「みなさん、お元気でしょうか」
「こ、これはサクラお嬢様! お帰りなさいませ」
サクラの挨拶に、慌てて敬礼をする門番。
「いけませんね。そんなに気を抜いていては、お父様からげんこつが降ってきますよ?」
「そ、それは勘弁下さい……」
サクラが笑いながら脅すように言うと、門番は本気で震えていた。
「ふふ、お父様のげんこつは痛いものですからね」
満面の笑みのサクラである。これが脳筋の一族か……。
「とりあえず、中に入りますので通して頂けますか?」
「はっ、アンマリア嬢もよくお越し下さいました。どうぞお入り下さい」
門番に通されて、私とサクラは屋敷の中へと入っていく。
「それで、この魔石をどこに置くって言うのかしら」
私は収納魔法から、柑橘の香りを吸ってすっかり黄色くなってしまった魔石を取り出した。
「食堂がいいかと思います。そこなら屋敷の人間はほとんどは利用しますからね」
サクラは迷いなく食堂へ向かって歩いている。私もバッサーシ邸の中は歩いた事があるので、すぐに分かった。
食堂に顔を出すと、そこでは食事の後片付けをする使用人たちが集まっていた。その使用人たちはサクラの姿を見て固まった。
「さ、サクラお嬢様?!」
「ただいまです。ちょっと用事がありましたので、友人に頼んでやって来ました」
使用人たちに向けて笑顔を向けるサクラ。根本は脳筋ではあるものの、かなり普通の令嬢らしく振る舞うサクラは、かなり可愛く見えてしまう。使用人たちはその笑顔にやられてしまっていた。
「アンマリア様、あの中央のシャンデリアの上に先程の魔石を置いて下さいますか。魔力を通せば香りが広がりますよね?」
「えっ、ええ。一応そういう仕組みになっているけれど……」
サクラに答えながら、私は魔法を使って天井近くのシャンデリアへと近付いていく。風魔法を応用すれば、宙に浮かぶ事も可能なのである。
慎重にシャンデリアの飾りに溶け込ませるように魔石を設置する私。それを見ていたサクラが私に声を掛ける。
「アンマリア様、早速お願いできますでしょうか」
「ええ、いいですよ」
サクラのお願いを受けて、私は魔石に魔力を通す。すると、ほんのりと柑橘の香りが食堂の中に漂い始めた。
「あら、ほんのりいい香りがしますね」
「ええ、これはファッティ領の柑橘の香りですよ。思ったよりも気分が落ち着くんですよ」
驚く使用人に説明するサクラである。
感嘆の声を漏らす使用人たちを見ながら、サクラは実に満足そうに笑っているのだった。
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