伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
331 / 500
第七章 3年目前半

第331話 圧縮!

しおりを挟む
 午後は別の部屋でアロマキャンドル製作に取り掛かるエスカたち。どういうわけかアンマリアとデバラの二人を部屋から追い出してしまった。
「追い出されてしまいましたね。仕方ありません。おじ様、領地の資料をお見せ頂けませんか?」
「アンマリアも領地経営に興味があるのか。まったく、殿下方の婚約者だというのに殊勝な事だな」
「王妃か公爵夫人かは分かりませんもの。だったら、無駄になるにしてももしもの備えはしておくのは当然だと思いますのでね」
「はははっ、なんとも心強い事だ。ならば私の書斎に来るといい。まったく、こんな娘が居るとは、ゼニークが羨ましい限りだ」
 デバラは笑いながらアンマリアを自分の書斎まで案内していた。

 アンマリアたちを追い出したエスカたちだが、食堂に残ってテーブルを取り囲んでいる。
「さて、ろうそくはありますでしょうか」
 エスカが鼻息荒く確認を取る。
「ええ、今持ってきてもらうわ」
 ミムクが手をパンパンと打ち鳴らせば、どこからともなくメイドが現れる。
「お呼びでしょうか、奥様」
 メイドが頭を下げながら挨拶をしている。
「ええ、頼んでおいたろうそくを持ってきてちょうだい」
「畏まりました」
 命令を受けたメイドは部屋を出て行く。
 それを受けて、エスカは収納魔法からまずはオランの皮を取り出した。
「油が揮発性なので搾った後に入れておく容器が必要ですけれど、今回は使い切ってしまいますので、私の水魔法でどうにかしてしまいます。水と油は混じりませんから」
「へえ、そうなんですね」
 エスカの説明を聞いたサクラが驚いていた。どうやら知らなかったらしい。バッサーシの一族は脳筋なので、そういう事は気にならないのだろう。
「奥様、ろうそくをお持ちしました」
「ありがとう。ここまで持ってきてちょうだい」
「畏まりました」
 メイドは重たそうにろうそくの入った箱を持ってくる。
「しかし、こんなにどうなさるおつもりですか? これでは照明用のろうそくが足りなくなりますが……」
 メイドが懸念を話すが、エスカがくすくすと笑っている。
「それではこれをお使い下さいませ」
 そう言って、収納魔法から魔石を取り出していた。
「これは?」
「アンマリアが作った光魔法を閉じ込めた魔石です。これを照明代わりにして下さいませ」
「よろしいのですか? このような高価なものを頂いても」
 メイドが驚いてエスカに確認をするものの、エスカはにこにこと微笑むだけだった。
「エスカ王女殿下がいいと仰られているのです。ありがたく受け取っておきなさい」
「はいっ、本当にありがとうございます」
「使用人たちに一人1個で分けてあげて下さいね。余った分は予備としてアンマリアのおじ様に預けて下さいませ」
「しょ、承知致しました」
 魔石を預かったメイドは、頭を深々と下げて食堂から出て行った。
 扉が閉められると、エスカは改めて皮の山に目を向ける。
「これからお見せする魔法は、他言無用でお願いします」
「分かりました」
「承知致しました」
 ミムクとサクラが同意する。モモは二度目なので黙って頷いていた。
 次の瞬間、エスカが闇魔法を発動して皮を一気に持ち上げる。大量のオランの皮が持ち上がる様子には、一度見た事のあるモモも驚きを隠せなかった。
「ええっ?! こ、こんなに持ち上がっちゃうんですか?」
「闇魔法って、思った以上にすごいんですよ」
 オランの皮を持ち上げた状態で留めるエスカ。
「これから搾るので、受け皿となる容器を置いて下さい」
 エスカが収納魔法からあらかじめ出しておいたボウルを、皮の塊の真下に置くモモ。それを確認したエスカは、別の闇魔法を皮に対して使い始める。
 するとどうした事だろうか。あれだけの体積のあった皮の塊が、少しずつ潰されて小さくなっていく。信じられない光景に、ミムクとサクラの目が丸くなる。
「ぐぐぐ……。さすがに体積があるので、簡単には潰れませんね。ちょっと時間がかかりそうです」
 苦しそうな表情をしながら、エスカが力を込めている。宙に浮いたオランの皮の塊が、徐々にではあるが小さくなっていく。そして、それに伴って、下の方から何やら液体が垂れ始めていた。
「ふ……んぬっ!」
 エスカが気合いを入れて、一気に圧力を強める。すると、先程までとは比べ物にならないペースでオランの皮が潰れていく。
「この下から垂れているものは?」
 エスカよりもそっちが気になるミムクである。
「おば様、それがアロマキャンドルを作る上で必要な、オランから採れたアロマオイルですよ」
「これが、そうなのですね」
 モモの説明を聞いて、驚きを持って垂れてくる液体を眺めるミムクである。
 最終的に、直径が6分の1くらいまでに潰されていた。さすがにこれだけ圧縮すると、エスカの疲労はとんでもないものとなっていた。
「はあはあ……、横着はやっぱりいけませんね」
「そうですね。次は数回に分けましょう」
 サクラにまで慰められる始末である。エスカは完全にやらかしてしまった。
「とりあえず、揮発しないように水で蓋をしてっと……」
 水魔法で搾った油の表面を覆うと、エスカは椅子に腰掛けた。
「ちょっと休憩しますね」
「ええ、あれだけの魔法を使ったんですもの、仕方ありません」
 なんとも複雑な表情でエスカの姿を見るミムクである。
「搾った後の皮はそのままたい肥にしてしまうといいと思います」
「そうですね。そうさせてもらいましょう」
 ミムクは再びメイドを呼んで、搾りかすとなったオランの皮を回収させたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...