伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
329 / 500
第七章 3年目前半

第329話 キャンドル製作委員会

しおりを挟む
 翌日、予定通りに私がサクラを出迎えに行って、エスカやモモとはファッティ領で合流する事にする。サクラの荷物はとりあえず私の収納魔法に放り込んでおいた。
「さあ、参りますよ、サクラ様」
「どんとこいですよ」
 瞬間移動魔法によって、私とサクラは一気にファッティ領の伯爵邸まで跳んだ。
 移動した先はファッティ伯爵邸の門の前だった。そこにはすでにエスカとモモもやって来ていた。
「お姉様ーっ! それとサクラ様も!」
 手を振りながら大声で呼んでくるモモである。本当に私に対しての感情がでかいモモである。
 それはそれとして、門番に挨拶をして私たちはファッティ伯爵邸へと入っていく。
 中に入ると伯父と伯母が揃って出迎えてくれた。
「よく来たねアンマリア、モモ。それとご友人の方も」
「あらあら、エスカ王女様。また来て下さいましたのね」
 両親がそれぞれに挨拶をしてくる。私たちもそれに挨拶を返すと、応接間へと案内された。
 応接間に入ってソファーに座ると、いきなりエスカが話し始めた。
「アンマリアのおば様、こちら試作品になりますわ」
 本当にいきなり本題をぶち込むエスカ。順序ってものがないのかしらね。
「まあ、これは?」
 伯母も伯母で反応してしまう。ハーブやアロマの事でかなり意気投合をしていたので、なんとも話が早い。
「アロマキャンドルというものです。ろうそくに対してアロマと呼ばれる植物由来の油を混ぜて固めたろうそくでして、普通のろうそくのように火をつけると、植物の香りが広がるというものになります」
 伯母が反応しているので、エスカによるプレゼンが始まっていた。
「効果はまだまだ検証が必要ですけれど、私たちで使ってみた限りは安眠効果があると見込まれています」
 どんどん伯母へと売り込みを掛けるエスカ。ただ、安眠効果に関しては実際あるように感じたのでツッコミはかけられない。ただその様子を見守るしかなかった。
「だがな、襲撃とかが心配される情勢の中では、安眠というのはかえって不安になりかねんな」
 そこに伯父が懸念を突っ込んできた。ナイス伯父。
 ところが、これにもエスカは動じなかった。どうやらこの程度のツッコミは予想済みなようである。
「なにも寝る時だけとは限りません。仕事中に集中したい時や仕事の後のゆっくり休みたい時などにも使えます。ただ、現在はこのファッティ領のオランとレモネを使ったものだけですから、効果が限定的なのですよ」
 エスカの知識では、他のアロマを使ったものもある。それだけにもっと試してみたいというのが本音である。
 現在はこの2つに絞ったのは、ファッティ領で多く生産されていて、それなりに王国内に流通があるという点があったからだ。数の確保がしやすいというわけである。
「余裕が出てきたら、他の植物でも試してみたいですけれど、数がありませんからね……」
 エスカはとても残念そうな顔をしながら話していた。それに釣られるようにして、伯母も悩ましげな顔をしている。
 こうなってくると、もう断るのが厳しくなってくる。結局エスカと伯母の二人に押されて、伯父も了承せざるを得なくなってしまっていた。まあ、そもそもエスカは王族だから断りづらいでしょうけれどね……。
「現在は油を搾るための装置をボンジール商会に作ってもらっている最中です。小型の試作品での試行錯誤を経て、本格的な大型の装置を作る予定にしています」
 エスカの説明の口が止まらない。どうやらエスカはハーブやアロマのオタクのようだった。弾丸ではないけれども、よく喋る口が止まらないものである。感心を通り越して呆れてしまうわ。
 しかし、伯母の方がそれを真剣に聞き入っているので、かなり乗り気のようだった。この様子では、私たちや伯父が反対したところで計画は実行に移されそうだった。
 伯母とエスカが盛り上がる様子を見ながら、伯父は頭を抱えていた。
「さあ、モモ。早速アロマキャンドルの製作に取り掛かりましょう。アンマリアのおば様、ろうそくと余っている柑橘類はありますか?」
 やる気十分なエスカは、モモを巻き込もうとしていた。なにせろうそくを湯煎で融かすにはモモの火魔法が必要だからだ。
「ちょっと待っててちょうだいね。使用人たちに確認をしてきますから」
 伯母はそう言いながら立ち上がって部屋を出て行く。
「おじ様、諦めましょうか。こうなったら止められません」
「ああ、そうだな……」
「よし、皮むきだったら任せて下さい」
 私と伯父が凹む中、今まで黙って聞いていたサクラが突然声を上げる。思わずびっくりしてしまう私である。まさかここでサクラが張り切るとは思ってもみなかったからだ。
「黙々と単純作業をするというのは、集中力の鍛錬になるはずです」
「な、なるほど……」
 サクラが力強く言うので、私はとにかく相槌を打つので精一杯だった。
 そんなこんなで、伯母、モモ、サクラ、エスカの四人でアロマキャンドル製作チームが結成されてしまった。私と伯父の二人は、ただただその様子を呆れながら見守るしかなかった。
 はてさて、どんな事になるのやら。私は邪魔になるだろうと考えて、伯父と一緒に庭の散策に出る事にしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】転生したら脳筋一家の令嬢でしたが、インテリ公爵令息と結ばれたので万事OKです。

櫻野くるみ
恋愛
ある日前世の記憶が戻ったら、この世界が乙女ゲームの舞台だと思い至った侯爵令嬢のルイーザ。 兄のテオドールが攻略対象になっていたことを思い出すと共に、大変なことに気付いてしまった。 ゲーム内でテオドールは「脳筋枠」キャラであり、家族もまとめて「脳筋一家」だったのである。 私も脳筋ってこと!? それはイヤ!! 前世でリケジョだったルイーザが、脳筋令嬢からの脱却を目指し奮闘したら、推しの攻略対象のインテリ公爵令息と恋に落ちたお話です。 ゆるく軽いラブコメ目指しています。 最終話が長くなってしまいましたが、完結しました。 小説家になろう様でも投稿を始めました。少し修正したところがあります。

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

処理中です...