327 / 500
第六章 2年目後半
第327話 暮れる2年目
しおりを挟む
2年目の年末パーティー。
夜が明けると年が明けるこの日は、まるで名残惜しそうに雪がひらひらと舞っている。
私たちファッティ家は、全員揃って王城へとやって来ていた。もちろんテールも登城しており、エスカの瞬間移動魔法で連れてもらってきていた。
テールだけが瞬間移動魔法になるのは、いまだにベジタリウス王国の諜報部隊の脅威が無くならないから。関係者として命を狙われる危険があるので、父親のロートント男爵とともに半分軟禁状態に置かれているのである。
半分軟禁状態とはいえど、外部からの極力目に触れないようにしているだけで、テールもロートント男爵も特に不自由はしていないし、不満があるというわけではない。自分たちが生きているのは温情があっての事だとしっかり理解しているのである。
そんな親子も、この年末パーティーでは久々に再会していた。ただ、その場所はパーティー会場というわけにはいかなかった。
「こんな場所ですまないな、ピゲル」
「別に構わないぞ。娘と会えるだけでも嬉しい限りだ」
父親が話し掛けると、ロートント男爵は照れくさそうに答えていた。父親とロートント男爵って、本来はこんな関係性だったんだ。これには驚かされるわね。
「お父様、お久しぶりでございます」
「おお、テールか。元気そうでなによりだ。どうだ、伯爵邸の生活は?」
「はい、みなさんとてもお優しいので、とても安心して過ごせております」
「そうか……」
テールが本当に嬉しそうに話すものだから、ロートント男爵はとても安心した表情を浮かべている。仕事に追われていたとはいっても、やはり娘の事が心配だったようね。養女とはいっても、本当の親子のようだわ。
ちなみにこの場に居るのは、私たちファッティ家の四人とロートント男爵親子の合計六人よ。エスカには今夜の事があるのでそっちに行ってもらっているわ。王族なんだから、本来は最初っからあっち側なんだけどね。
エスカの事を思ったら、急にため息が出てきてしまう。
その事をモモに突っ込まれたりはしたものの、私たちは無事にロートント男爵親子の再会を見守ったのだった。
ロートント男爵の事は父親に任せて、私とモモはタミールを連れてパーティー会場へと移動する。
会場には国中から集まった貴族たちがそれぞれに談笑している。
その一角でサキを見つけたので、私はそこへと向かう。聖女とはいっても男爵令嬢なのでどうも輪に入りにくいようだった。
「サキ様、ごきげんよう」
「あ、アンマリア様。お久しぶりでございます」
私がにこりと微笑んで声を掛けると、サキは急に声を掛けられて慌てたのかたどたどしく挨拶を返してきた。その姿が可愛くて、私はつい吹き出すように笑ってしまう。
「あ、アンマリア様……」
「これはごめんなさい」
サキに上目遣いで睨まれたので、私は謝っておく。
「サキ様って相変わらず貴族の輪はあまりお好きではないようですね」
「ええ、どうも苦手でして……。今だと殿下の婚約者と聖女という肩書のせいか、視線が余計の事気になってしまうのです」
ああ、品定め的な視線ね。
サキの家の爵位は男爵だから、貴族では一番下になるものね。
それにしても、婚約者の話も聖女の話も、出てからずいぶん経つのにまったく貴族たちときたら……。私は正直呆れた。
「まったく、貴族っていうのは相変わらずですね」
「あら、それでしたらわたくしたちもでは?」
私が呆れ返っていると、不意に声を掛けられる。振り返れば、そこに居たのはラムだった。
「これはラム様、お久しぶりでございます」
すぐに挨拶をする私とサキ。ラムはにこりと微笑んでいる。
「今年もいろいろありましたけれど、こうして平和に年末を迎えられたのはよかったですわね」
「まったくですね」
ラムの登場で、サキに向けられている貴族たちの視線は一気に消えた。さすがは公爵令嬢、強いわね。
ラムと合流した私たちは、今年一年を振り返っての思い出話に花を咲かせる。
「やあ、全然会いに来ないからどうしたのかと思ったけど、ここに居たんだね」
「まったく、アンマリアってば薄情ですね」
話しているところへ王子と王女が揃い踏みで現れる。まったく、この人たちは存在するだけで絵になるものだわね。
「来年はいよいよ3年生だ。私とリブロとしては、そろそろどちらを正式に婚約者とするのか決めなければならない。二人とも魅力的だけに、正直決めかねているよ」
「ちょっ……、フィレン殿下ってば……」
フィレン王子の言葉に、思わず恥ずかしくなってしまう私である。
しかし、これは実際に重要な問題だった。
二人の王子に対する二人の婚約者という曖昧な状態を続けてきたのだけど、15歳という年齢を迎えるにあたって、どちらがどちらの婚約者かはっきりさせなければいけない時期が近付いてきていたのだ。
(来年は、乙女ゲームの最終年という事もあって、いろいろと正念場の年になりそうね。せっかく体重の心配がなくなったというのに、気が重くなりそうだわ……)
いろいろと懸案があるために、どちらかといえば今も気が気ではない。だけど、せっかくのパーティーなので、今のこの時間だけは十分に楽しむ事にしたのだった。
こうして、乙女ゲームの2年目もどうにか無事に暮れていった。
夜が明けると年が明けるこの日は、まるで名残惜しそうに雪がひらひらと舞っている。
私たちファッティ家は、全員揃って王城へとやって来ていた。もちろんテールも登城しており、エスカの瞬間移動魔法で連れてもらってきていた。
テールだけが瞬間移動魔法になるのは、いまだにベジタリウス王国の諜報部隊の脅威が無くならないから。関係者として命を狙われる危険があるので、父親のロートント男爵とともに半分軟禁状態に置かれているのである。
半分軟禁状態とはいえど、外部からの極力目に触れないようにしているだけで、テールもロートント男爵も特に不自由はしていないし、不満があるというわけではない。自分たちが生きているのは温情があっての事だとしっかり理解しているのである。
そんな親子も、この年末パーティーでは久々に再会していた。ただ、その場所はパーティー会場というわけにはいかなかった。
「こんな場所ですまないな、ピゲル」
「別に構わないぞ。娘と会えるだけでも嬉しい限りだ」
父親が話し掛けると、ロートント男爵は照れくさそうに答えていた。父親とロートント男爵って、本来はこんな関係性だったんだ。これには驚かされるわね。
「お父様、お久しぶりでございます」
「おお、テールか。元気そうでなによりだ。どうだ、伯爵邸の生活は?」
「はい、みなさんとてもお優しいので、とても安心して過ごせております」
「そうか……」
テールが本当に嬉しそうに話すものだから、ロートント男爵はとても安心した表情を浮かべている。仕事に追われていたとはいっても、やはり娘の事が心配だったようね。養女とはいっても、本当の親子のようだわ。
ちなみにこの場に居るのは、私たちファッティ家の四人とロートント男爵親子の合計六人よ。エスカには今夜の事があるのでそっちに行ってもらっているわ。王族なんだから、本来は最初っからあっち側なんだけどね。
エスカの事を思ったら、急にため息が出てきてしまう。
その事をモモに突っ込まれたりはしたものの、私たちは無事にロートント男爵親子の再会を見守ったのだった。
ロートント男爵の事は父親に任せて、私とモモはタミールを連れてパーティー会場へと移動する。
会場には国中から集まった貴族たちがそれぞれに談笑している。
その一角でサキを見つけたので、私はそこへと向かう。聖女とはいっても男爵令嬢なのでどうも輪に入りにくいようだった。
「サキ様、ごきげんよう」
「あ、アンマリア様。お久しぶりでございます」
私がにこりと微笑んで声を掛けると、サキは急に声を掛けられて慌てたのかたどたどしく挨拶を返してきた。その姿が可愛くて、私はつい吹き出すように笑ってしまう。
「あ、アンマリア様……」
「これはごめんなさい」
サキに上目遣いで睨まれたので、私は謝っておく。
「サキ様って相変わらず貴族の輪はあまりお好きではないようですね」
「ええ、どうも苦手でして……。今だと殿下の婚約者と聖女という肩書のせいか、視線が余計の事気になってしまうのです」
ああ、品定め的な視線ね。
サキの家の爵位は男爵だから、貴族では一番下になるものね。
それにしても、婚約者の話も聖女の話も、出てからずいぶん経つのにまったく貴族たちときたら……。私は正直呆れた。
「まったく、貴族っていうのは相変わらずですね」
「あら、それでしたらわたくしたちもでは?」
私が呆れ返っていると、不意に声を掛けられる。振り返れば、そこに居たのはラムだった。
「これはラム様、お久しぶりでございます」
すぐに挨拶をする私とサキ。ラムはにこりと微笑んでいる。
「今年もいろいろありましたけれど、こうして平和に年末を迎えられたのはよかったですわね」
「まったくですね」
ラムの登場で、サキに向けられている貴族たちの視線は一気に消えた。さすがは公爵令嬢、強いわね。
ラムと合流した私たちは、今年一年を振り返っての思い出話に花を咲かせる。
「やあ、全然会いに来ないからどうしたのかと思ったけど、ここに居たんだね」
「まったく、アンマリアってば薄情ですね」
話しているところへ王子と王女が揃い踏みで現れる。まったく、この人たちは存在するだけで絵になるものだわね。
「来年はいよいよ3年生だ。私とリブロとしては、そろそろどちらを正式に婚約者とするのか決めなければならない。二人とも魅力的だけに、正直決めかねているよ」
「ちょっ……、フィレン殿下ってば……」
フィレン王子の言葉に、思わず恥ずかしくなってしまう私である。
しかし、これは実際に重要な問題だった。
二人の王子に対する二人の婚約者という曖昧な状態を続けてきたのだけど、15歳という年齢を迎えるにあたって、どちらがどちらの婚約者かはっきりさせなければいけない時期が近付いてきていたのだ。
(来年は、乙女ゲームの最終年という事もあって、いろいろと正念場の年になりそうね。せっかく体重の心配がなくなったというのに、気が重くなりそうだわ……)
いろいろと懸案があるために、どちらかといえば今も気が気ではない。だけど、せっかくのパーティーなので、今のこの時間だけは十分に楽しむ事にしたのだった。
こうして、乙女ゲームの2年目もどうにか無事に暮れていった。
21
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に
椎名 富比路
ファンタジー
錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。
キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。
ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。
意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。
しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。
キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。
魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。
キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。
クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。
彼女は伝説の聖剣を
「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」
と、へし折った。
自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。
その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる