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第六章 2年目後半
第327話 暮れる2年目
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2年目の年末パーティー。
夜が明けると年が明けるこの日は、まるで名残惜しそうに雪がひらひらと舞っている。
私たちファッティ家は、全員揃って王城へとやって来ていた。もちろんテールも登城しており、エスカの瞬間移動魔法で連れてもらってきていた。
テールだけが瞬間移動魔法になるのは、いまだにベジタリウス王国の諜報部隊の脅威が無くならないから。関係者として命を狙われる危険があるので、父親のロートント男爵とともに半分軟禁状態に置かれているのである。
半分軟禁状態とはいえど、外部からの極力目に触れないようにしているだけで、テールもロートント男爵も特に不自由はしていないし、不満があるというわけではない。自分たちが生きているのは温情があっての事だとしっかり理解しているのである。
そんな親子も、この年末パーティーでは久々に再会していた。ただ、その場所はパーティー会場というわけにはいかなかった。
「こんな場所ですまないな、ピゲル」
「別に構わないぞ。娘と会えるだけでも嬉しい限りだ」
父親が話し掛けると、ロートント男爵は照れくさそうに答えていた。父親とロートント男爵って、本来はこんな関係性だったんだ。これには驚かされるわね。
「お父様、お久しぶりでございます」
「おお、テールか。元気そうでなによりだ。どうだ、伯爵邸の生活は?」
「はい、みなさんとてもお優しいので、とても安心して過ごせております」
「そうか……」
テールが本当に嬉しそうに話すものだから、ロートント男爵はとても安心した表情を浮かべている。仕事に追われていたとはいっても、やはり娘の事が心配だったようね。養女とはいっても、本当の親子のようだわ。
ちなみにこの場に居るのは、私たちファッティ家の四人とロートント男爵親子の合計六人よ。エスカには今夜の事があるのでそっちに行ってもらっているわ。王族なんだから、本来は最初っからあっち側なんだけどね。
エスカの事を思ったら、急にため息が出てきてしまう。
その事をモモに突っ込まれたりはしたものの、私たちは無事にロートント男爵親子の再会を見守ったのだった。
ロートント男爵の事は父親に任せて、私とモモはタミールを連れてパーティー会場へと移動する。
会場には国中から集まった貴族たちがそれぞれに談笑している。
その一角でサキを見つけたので、私はそこへと向かう。聖女とはいっても男爵令嬢なのでどうも輪に入りにくいようだった。
「サキ様、ごきげんよう」
「あ、アンマリア様。お久しぶりでございます」
私がにこりと微笑んで声を掛けると、サキは急に声を掛けられて慌てたのかたどたどしく挨拶を返してきた。その姿が可愛くて、私はつい吹き出すように笑ってしまう。
「あ、アンマリア様……」
「これはごめんなさい」
サキに上目遣いで睨まれたので、私は謝っておく。
「サキ様って相変わらず貴族の輪はあまりお好きではないようですね」
「ええ、どうも苦手でして……。今だと殿下の婚約者と聖女という肩書のせいか、視線が余計の事気になってしまうのです」
ああ、品定め的な視線ね。
サキの家の爵位は男爵だから、貴族では一番下になるものね。
それにしても、婚約者の話も聖女の話も、出てからずいぶん経つのにまったく貴族たちときたら……。私は正直呆れた。
「まったく、貴族っていうのは相変わらずですね」
「あら、それでしたらわたくしたちもでは?」
私が呆れ返っていると、不意に声を掛けられる。振り返れば、そこに居たのはラムだった。
「これはラム様、お久しぶりでございます」
すぐに挨拶をする私とサキ。ラムはにこりと微笑んでいる。
「今年もいろいろありましたけれど、こうして平和に年末を迎えられたのはよかったですわね」
「まったくですね」
ラムの登場で、サキに向けられている貴族たちの視線は一気に消えた。さすがは公爵令嬢、強いわね。
ラムと合流した私たちは、今年一年を振り返っての思い出話に花を咲かせる。
「やあ、全然会いに来ないからどうしたのかと思ったけど、ここに居たんだね」
「まったく、アンマリアってば薄情ですね」
話しているところへ王子と王女が揃い踏みで現れる。まったく、この人たちは存在するだけで絵になるものだわね。
「来年はいよいよ3年生だ。私とリブロとしては、そろそろどちらを正式に婚約者とするのか決めなければならない。二人とも魅力的だけに、正直決めかねているよ」
「ちょっ……、フィレン殿下ってば……」
フィレン王子の言葉に、思わず恥ずかしくなってしまう私である。
しかし、これは実際に重要な問題だった。
二人の王子に対する二人の婚約者という曖昧な状態を続けてきたのだけど、15歳という年齢を迎えるにあたって、どちらがどちらの婚約者かはっきりさせなければいけない時期が近付いてきていたのだ。
(来年は、乙女ゲームの最終年という事もあって、いろいろと正念場の年になりそうね。せっかく体重の心配がなくなったというのに、気が重くなりそうだわ……)
いろいろと懸案があるために、どちらかといえば今も気が気ではない。だけど、せっかくのパーティーなので、今のこの時間だけは十分に楽しむ事にしたのだった。
こうして、乙女ゲームの2年目もどうにか無事に暮れていった。
夜が明けると年が明けるこの日は、まるで名残惜しそうに雪がひらひらと舞っている。
私たちファッティ家は、全員揃って王城へとやって来ていた。もちろんテールも登城しており、エスカの瞬間移動魔法で連れてもらってきていた。
テールだけが瞬間移動魔法になるのは、いまだにベジタリウス王国の諜報部隊の脅威が無くならないから。関係者として命を狙われる危険があるので、父親のロートント男爵とともに半分軟禁状態に置かれているのである。
半分軟禁状態とはいえど、外部からの極力目に触れないようにしているだけで、テールもロートント男爵も特に不自由はしていないし、不満があるというわけではない。自分たちが生きているのは温情があっての事だとしっかり理解しているのである。
そんな親子も、この年末パーティーでは久々に再会していた。ただ、その場所はパーティー会場というわけにはいかなかった。
「こんな場所ですまないな、ピゲル」
「別に構わないぞ。娘と会えるだけでも嬉しい限りだ」
父親が話し掛けると、ロートント男爵は照れくさそうに答えていた。父親とロートント男爵って、本来はこんな関係性だったんだ。これには驚かされるわね。
「お父様、お久しぶりでございます」
「おお、テールか。元気そうでなによりだ。どうだ、伯爵邸の生活は?」
「はい、みなさんとてもお優しいので、とても安心して過ごせております」
「そうか……」
テールが本当に嬉しそうに話すものだから、ロートント男爵はとても安心した表情を浮かべている。仕事に追われていたとはいっても、やはり娘の事が心配だったようね。養女とはいっても、本当の親子のようだわ。
ちなみにこの場に居るのは、私たちファッティ家の四人とロートント男爵親子の合計六人よ。エスカには今夜の事があるのでそっちに行ってもらっているわ。王族なんだから、本来は最初っからあっち側なんだけどね。
エスカの事を思ったら、急にため息が出てきてしまう。
その事をモモに突っ込まれたりはしたものの、私たちは無事にロートント男爵親子の再会を見守ったのだった。
ロートント男爵の事は父親に任せて、私とモモはタミールを連れてパーティー会場へと移動する。
会場には国中から集まった貴族たちがそれぞれに談笑している。
その一角でサキを見つけたので、私はそこへと向かう。聖女とはいっても男爵令嬢なのでどうも輪に入りにくいようだった。
「サキ様、ごきげんよう」
「あ、アンマリア様。お久しぶりでございます」
私がにこりと微笑んで声を掛けると、サキは急に声を掛けられて慌てたのかたどたどしく挨拶を返してきた。その姿が可愛くて、私はつい吹き出すように笑ってしまう。
「あ、アンマリア様……」
「これはごめんなさい」
サキに上目遣いで睨まれたので、私は謝っておく。
「サキ様って相変わらず貴族の輪はあまりお好きではないようですね」
「ええ、どうも苦手でして……。今だと殿下の婚約者と聖女という肩書のせいか、視線が余計の事気になってしまうのです」
ああ、品定め的な視線ね。
サキの家の爵位は男爵だから、貴族では一番下になるものね。
それにしても、婚約者の話も聖女の話も、出てからずいぶん経つのにまったく貴族たちときたら……。私は正直呆れた。
「まったく、貴族っていうのは相変わらずですね」
「あら、それでしたらわたくしたちもでは?」
私が呆れ返っていると、不意に声を掛けられる。振り返れば、そこに居たのはラムだった。
「これはラム様、お久しぶりでございます」
すぐに挨拶をする私とサキ。ラムはにこりと微笑んでいる。
「今年もいろいろありましたけれど、こうして平和に年末を迎えられたのはよかったですわね」
「まったくですね」
ラムの登場で、サキに向けられている貴族たちの視線は一気に消えた。さすがは公爵令嬢、強いわね。
ラムと合流した私たちは、今年一年を振り返っての思い出話に花を咲かせる。
「やあ、全然会いに来ないからどうしたのかと思ったけど、ここに居たんだね」
「まったく、アンマリアってば薄情ですね」
話しているところへ王子と王女が揃い踏みで現れる。まったく、この人たちは存在するだけで絵になるものだわね。
「来年はいよいよ3年生だ。私とリブロとしては、そろそろどちらを正式に婚約者とするのか決めなければならない。二人とも魅力的だけに、正直決めかねているよ」
「ちょっ……、フィレン殿下ってば……」
フィレン王子の言葉に、思わず恥ずかしくなってしまう私である。
しかし、これは実際に重要な問題だった。
二人の王子に対する二人の婚約者という曖昧な状態を続けてきたのだけど、15歳という年齢を迎えるにあたって、どちらがどちらの婚約者かはっきりさせなければいけない時期が近付いてきていたのだ。
(来年は、乙女ゲームの最終年という事もあって、いろいろと正念場の年になりそうね。せっかく体重の心配がなくなったというのに、気が重くなりそうだわ……)
いろいろと懸案があるために、どちらかといえば今も気が気ではない。だけど、せっかくのパーティーなので、今のこの時間だけは十分に楽しむ事にしたのだった。
こうして、乙女ゲームの2年目もどうにか無事に暮れていった。
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