上 下
322 / 500
第六章 2年目後半

第322話 闇魔法の可能性

しおりを挟む
 翌日、年末パーティーは父親に任せておいて、私たちは父親の仕事のおまけのようにしてパーティーの準備で忙しい城へとやって来た。
 なぜ城に来たかというと、エスカがうるさかったから。どうしてもミズーナ王女と相談したい事があったらしい。モモも居るのに?
 ちなみにだけど、タミールは今回もお留守番。ただ、テールが居るので退屈はしないはずよ。
 エスカが兵士に話をつけて、ミズーナ王女のところに移動する私たち。こういう時は王族の肩書って強いわよね。
 そんなこんなで、私たちはミズーナ王女の部屋までやって来た。
「ミズーナ王女殿下、エスカ王女殿下並びにアンマリア・ファッティ、モモ・ファッティがお見えでございます」
 兵士は扉をノックすると、中に呼び掛けてくれる。ここまでしてくれなくてもいいんだけど、してくれたからには一応おとなしく待つ私たち。
 しばらく待つとミズーナ王女から入室の許可が下りたので、兵士が扉を開けてくれる。私はぺこりと頭を下げると、部屋の中へと入っていった。
「まったく、3週間もどこに行かれていたのですか。毎日のように王妃様の相手で疲れましたよ、私は」
 部屋に入って真っ先に飛んできた言葉が愚痴だった。というか、今お世話になっている国の王妃に対する愚痴は不敬に問われるわよ。
 扉を閉めて、ミズーナ王女が指し示すがままに室内のテーブルを囲むように座る私たち。しばらくすると紅茶とお菓子をメイドがワゴンで運んできてくれた。おそらく、部屋に案内してくれた兵士が気を利かせてくれたのだろう。実にありがたい。
 ひとまず紅茶を飲む私たち。そして、ひと息ついたところでミズーナ王女から話が始まった。
「改めて聞くけれど、みなさんはどこに行かれていたのですか?」
「えっ、話をしておきませんでしたっけ。ファッティ領へ行くって」
 私が即言葉を返すと、ミズーナ王女は腕を組んで悩み始めた。そして、何かを思い出したかのように目を丸くしていた。
「ああ、思い出しました。確かに、連絡は来ていましたね」
「ミズーナ、あなたも大概ね……」
 エスカに呆れられるミズーナ王女だけど、エスカは人の事言えるのかしらね。
「それにしても、今日は何の用で来たのですか?」
 自分の失態やエスカの反応を無視して、ミズーナ王女は私に問い掛けてきた。盛大にスルーしたわね。
「私たちが居なかった3週間の王都の様子の確認と、こちらの報告というところかしら。あと、エスカが言いたい事があるらしいから、聞いてあげるくらいかしら」
「ちょっと、モモも居る前で私の事をおまけ扱いなわけ?!」
 自分も王女だからって、エスカが何やら騒いでいる。だけど、私とミズーナ王女はそれを華麗にスルー。お互いの話を始めたのだった。
 結果として、王都もファッティ領も実に平和だったという事が確認できただけだった。
「それでなんだけど、前のクラーケンくらいの魔石って、まだあったりするのかしら」
 私はミズーナ王女に確認を取る。
「うーん、あっても一つくらいだったかしら。なんだかんだでばたばたとしていましたから、あまり覚えていませんね」
 ミズーナ王女は頬に手を当てながら、困ったように答えていた。
「しかし、それを尋ねてるっていう事は、お城に仕掛けてきた防護魔法がそう長くもたないという事なのかしらね」
「まあそんなところですね。私の見立てでは、あの時の魔石で半年持続すればいい方だと見ていますから」
 ミズーナ王女が確認するかのように問い掛けてくるものだから、私は正直に答えておいた。嘘を吐く利点がどこにもないものね。
「なるほど……。となれば猶予は4ターンほどかしら。それまでには確認しておきますね」
「了解」
 ミズーナ王女の言葉に、私は気前よく返事をしておいた。
「それはそうと、エスカは何をしようとしているのかしら」
 よく見るとエスカがそわそわとしていた。そういえば、昨日はひたすら紙に向かっていたっけか。
「アロマが作りたくてね、油を搾り取れる装置を考えてきたのよ」
「アロマ……。香りで気持ちを落ち着かせたりするっていうやつかしら」
 ミズーナ王女が必死に思い出しながら話をすると、エスカはものすごい笑顔で首を縦に振っていた。
「でね、魔道具としては、私が扱える闇魔法を使って作ろうと思うのよ。闇っていいイメージがないけれど、私たちにはちょっとした別のイメージがあるでしょ?」
 生き生きとしているエスカには悪いけれど、私たちにはこれといって思いつかなかった。
「はあ、困ったわねぇ。光すら逃げられない、究極の闇の存在を忘れてもらっては困るわ」
「ブラックホール?!」
 私とミズーナ王女が同時に叫ぶと、エスカは親指を立てていた。さすがにモモだけは反応が悪い。
「そそっ。つまりは重力を操るって事。だから、潰したいものに重力で圧力を掛けて、油を搾りとっちゃおうっていうわけなのよ」
「そんなにうまくいくかしら」
「物は試しよ」
 私の疑問に、エスカは収納魔法からオランを取り出した。
「アンマリア、これを風魔法で皮と実に分けてちょうだい」
「ええ、いいわよ」
 エスカに手渡されたオランに風魔法を使う。すると、きれいに皮と果肉部分にオランは切り分けられた。
「さあ、いくわよ……」
 エスカは洗浄の魔法できれいにしておいたお皿の上にオランの皮を浮かべる。これも重力の操作によるものだ。反重力を作用させて、オランの皮を浮かせているのである。
 エスカのただならぬ雰囲気に、私たちは思わず飲み込まれてしまい、ただただどうなるのかを無言で見守っていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

処理中です...