313 / 500
第六章 2年目後半
第313話 冬のファッティ領へ
しおりを挟む
学園が終わったその日、父親は早速馬車を繰り出そうとする。さすがに辺りが真っ暗なので、私たちは必死に止めた。夜中から移動しようなんて、いくらなんでも気が逸りすぎだと思うのよ。
父親は私たちの反抗にすっかりしょげ返っていた。娘たちから反対されたら、まあそうなっちゃうかしらね。
とまぁ、そんな感じで父親をどうにか説得して、翌日明るくなってからファッティ領へと向かう事になった。
ちなみにファッティ領へと向かう面々は、私とモモ、それにタミールのファッティ家三人がメイン。それとエスカもついてくる。テールは母親と一緒にお留守番という事になった。油断はできないので家から出ない方がいいからね、こればかりは仕方がないかな。
従者に関しては最低限がついてくる感じで、スーラとネス、それとタミールとエスカの従者も付き添う事になる。エスカの従者は複数居るんだけど、ついて来るのはとりあえず一人だけ。残りは家に残る面々と城へ向かう面々とに分けていた。ミズーナ王女に連絡入れておかないとね。
「それでは、こちらの事は頼んだぞ」
「ええ、お任せ下さい。家令も居ますから、どうにかなるでしょうけれど」
父親の言葉に、母親はにこやかに笑顔を見せていた。
とりあえず、これから3週間ほど家を留守にする。大体10日ほどを領地の視察に充てる予定よ。
特に問題も王都の伯爵邸を出発する私たち。ただの里帰りで済めばいいのだけど、不思議な胸騒ぎが私を襲っていた。
「アンマリアお嬢様?」
私が急に青ざめた顔をするものだから、隣に座るスーラが心配して声を掛けてきてくれた。
「スーラ、ごめん、なんでもないわ」
「そうでございますか? 分かりました。でも、何かあったらすぐ仰って下さいね」
私がごまかしておくと、スーラはおとなしく引き下がってくれた。
久しぶりの国内の馬車移動を体験する私。瞬間移動魔法は便利だけど、こうやって景色を楽しむのも悪くはないわよね。
途中で3泊しながら、私たちはようやくファッティ伯爵領の領都に到着したのだった。
「ふむ、領内のここまでの雰囲気は特に問題はない感じだな」
領主邸に到着して、馬車から降りた父親は満足そうに話している。
「おお、領主様、お久しぶりでございます」
庭師のツラミが出てきた。
「ツラミか。まだまだだ元気そうだな」
父親もツラミの事をしっかり覚えていたようだ。前に来たの何年前かしらね。これが国政の大臣を務める人間の記憶力なのかしら……。
「ええ、元気ですとも。領主様からお預かりしたこの屋敷を立派に維持するのが私の役目ですからな」
「実に頼もしい限りだな。ところで、兄上、デバラ・ファッティはご在宅かな?」
「はい、ご在宅でございます。わたくしめでよければご案内致しましょうか?」
優しく笑った父親は、ツラミに伯父の事を確認している。どうやら屋敷の中に居るようだった。
「いや、お前は庭の手入れが仕事だろう。今の時間なら執務室でいいか?」
「はい。午前中は前日の残りなどをこなす事になっておりますゆえ、それで間違いないかと」
父親はツラミに手を上げて礼を示すと、私たちを連れて屋敷の中へと入っていった。
久しぶりにやって来た伯爵領のファッティ邸。しっかりと手が行き届いており、ほぼほぼきれいに保たれている。いくらきれい好きの主だとしても、ここまで徹底的にきれいに保つ事は難しい。それをしっかりやってのけているのだから、伯父というのは生真面目で細かい人間なのだろう。
領主邸に入り、屋敷の中心くらいにある執務室へと向かう。扉の前に立ち、父親が扉を叩く。すると中から反応があった。
「誰だ?」
間違いない、おじさんの声である。
「久しぶりだな、兄上。ちょっと休暇を貰って戻ってきたぞ」
父親が声を掛けると、中でものすごい音が響き渡る。その音を聞いてタミールが慌てているが、私がとりあえず落ち着かせる。サプライズ成功だけど、ちょっと大事になって私も慌ててるんだけどね。
「ゼニークか。ちょっと待て、今扉を開ける」
伯父の声が聞こえた後にバタバタという足音が響き、ガチャリと扉が開く。息を切らせて出迎えた伯父の姿に、私はつい笑いそうになってしまった。どうしてそこまで慌てて出てきたのだろうか。
「仕事人間のお前が休みを取るとは珍しいな。……しかも、ずいぶんと痩せてないか? アンマリアも」
「太りすぎると体に悪いとマリーに言われてな。食生活を改善したり、ちょっとした空き時間に運動したりしてな、どうにかここまで痩せたんだ」
「ほぉ……」
父親の言葉に、素直に感心している伯父だった。
「マリーたち以外は改めて紹介するから、とりあえず中へ入っても大丈夫かな? さっきすごい音がしてたようだが……」
「ああ、ゼニークの声が聞こえて驚いてな。そこのソファーに足を引っかけて転んだだけだ」
「大丈夫か、兄上」
「お前の顔を見て痛みなんか吹き飛んだ。だが、ちょっと片付けなきゃいけないから、少し待っててくれ」
そう言って、伯父は部屋の中に引っ込んでいそいそと片付け始めた。
その後、区切りがついた伯父が私たちに声を掛ける。それを合図に部屋の中に入った私たちは、応接用の机を囲んでソファーに腰掛けたのだった。
父親は私たちの反抗にすっかりしょげ返っていた。娘たちから反対されたら、まあそうなっちゃうかしらね。
とまぁ、そんな感じで父親をどうにか説得して、翌日明るくなってからファッティ領へと向かう事になった。
ちなみにファッティ領へと向かう面々は、私とモモ、それにタミールのファッティ家三人がメイン。それとエスカもついてくる。テールは母親と一緒にお留守番という事になった。油断はできないので家から出ない方がいいからね、こればかりは仕方がないかな。
従者に関しては最低限がついてくる感じで、スーラとネス、それとタミールとエスカの従者も付き添う事になる。エスカの従者は複数居るんだけど、ついて来るのはとりあえず一人だけ。残りは家に残る面々と城へ向かう面々とに分けていた。ミズーナ王女に連絡入れておかないとね。
「それでは、こちらの事は頼んだぞ」
「ええ、お任せ下さい。家令も居ますから、どうにかなるでしょうけれど」
父親の言葉に、母親はにこやかに笑顔を見せていた。
とりあえず、これから3週間ほど家を留守にする。大体10日ほどを領地の視察に充てる予定よ。
特に問題も王都の伯爵邸を出発する私たち。ただの里帰りで済めばいいのだけど、不思議な胸騒ぎが私を襲っていた。
「アンマリアお嬢様?」
私が急に青ざめた顔をするものだから、隣に座るスーラが心配して声を掛けてきてくれた。
「スーラ、ごめん、なんでもないわ」
「そうでございますか? 分かりました。でも、何かあったらすぐ仰って下さいね」
私がごまかしておくと、スーラはおとなしく引き下がってくれた。
久しぶりの国内の馬車移動を体験する私。瞬間移動魔法は便利だけど、こうやって景色を楽しむのも悪くはないわよね。
途中で3泊しながら、私たちはようやくファッティ伯爵領の領都に到着したのだった。
「ふむ、領内のここまでの雰囲気は特に問題はない感じだな」
領主邸に到着して、馬車から降りた父親は満足そうに話している。
「おお、領主様、お久しぶりでございます」
庭師のツラミが出てきた。
「ツラミか。まだまだだ元気そうだな」
父親もツラミの事をしっかり覚えていたようだ。前に来たの何年前かしらね。これが国政の大臣を務める人間の記憶力なのかしら……。
「ええ、元気ですとも。領主様からお預かりしたこの屋敷を立派に維持するのが私の役目ですからな」
「実に頼もしい限りだな。ところで、兄上、デバラ・ファッティはご在宅かな?」
「はい、ご在宅でございます。わたくしめでよければご案内致しましょうか?」
優しく笑った父親は、ツラミに伯父の事を確認している。どうやら屋敷の中に居るようだった。
「いや、お前は庭の手入れが仕事だろう。今の時間なら執務室でいいか?」
「はい。午前中は前日の残りなどをこなす事になっておりますゆえ、それで間違いないかと」
父親はツラミに手を上げて礼を示すと、私たちを連れて屋敷の中へと入っていった。
久しぶりにやって来た伯爵領のファッティ邸。しっかりと手が行き届いており、ほぼほぼきれいに保たれている。いくらきれい好きの主だとしても、ここまで徹底的にきれいに保つ事は難しい。それをしっかりやってのけているのだから、伯父というのは生真面目で細かい人間なのだろう。
領主邸に入り、屋敷の中心くらいにある執務室へと向かう。扉の前に立ち、父親が扉を叩く。すると中から反応があった。
「誰だ?」
間違いない、おじさんの声である。
「久しぶりだな、兄上。ちょっと休暇を貰って戻ってきたぞ」
父親が声を掛けると、中でものすごい音が響き渡る。その音を聞いてタミールが慌てているが、私がとりあえず落ち着かせる。サプライズ成功だけど、ちょっと大事になって私も慌ててるんだけどね。
「ゼニークか。ちょっと待て、今扉を開ける」
伯父の声が聞こえた後にバタバタという足音が響き、ガチャリと扉が開く。息を切らせて出迎えた伯父の姿に、私はつい笑いそうになってしまった。どうしてそこまで慌てて出てきたのだろうか。
「仕事人間のお前が休みを取るとは珍しいな。……しかも、ずいぶんと痩せてないか? アンマリアも」
「太りすぎると体に悪いとマリーに言われてな。食生活を改善したり、ちょっとした空き時間に運動したりしてな、どうにかここまで痩せたんだ」
「ほぉ……」
父親の言葉に、素直に感心している伯父だった。
「マリーたち以外は改めて紹介するから、とりあえず中へ入っても大丈夫かな? さっきすごい音がしてたようだが……」
「ああ、ゼニークの声が聞こえて驚いてな。そこのソファーに足を引っかけて転んだだけだ」
「大丈夫か、兄上」
「お前の顔を見て痛みなんか吹き飛んだ。だが、ちょっと片付けなきゃいけないから、少し待っててくれ」
そう言って、伯父は部屋の中に引っ込んでいそいそと片付け始めた。
その後、区切りがついた伯父が私たちに声を掛ける。それを合図に部屋の中に入った私たちは、応接用の机を囲んでソファーに腰掛けたのだった。
13
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に
椎名 富比路
ファンタジー
錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。
キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。
ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。
意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。
しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。
キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。
魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。
キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。
クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。
彼女は伝説の聖剣を
「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」
と、へし折った。
自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。
その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる