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第六章 2年目後半

第305話 強力な結界

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 ミズーナ王女が私に手渡してきた魔石。
 それは先日にミール王国の建国祭に行った時に現れた魔物の群れから採取されたものだった。
 その魔石は大きさも魔力の質も十二分ない。鑑定で詳しく見てみたら、かなり長時間魔法を持続できるような事が書いてあった。これなら何とかなりそうだった。
 私はミズーナ王女にお礼を言うと、早速ベジタリウス王国へと跳ぶ。一度行った場所だから瞬間移動魔法で簡単に跳べるのよ。
 跳んだ私が現れたのは、ベジタリウス王国滞在中に使っていた客室だった。
 客室の中に着いた私は、急激な目眩に襲われる。さすがに1日に2回も長距離の転移を繰り返せば、魔力をかなり持っていかれてしまったようだ。
(うーん、いきなり城の中から出てきたら驚かれるかしらね)
 客室の中で休みんでいると、急に怖くなってくる私である。後先考えなさいって、私!
 一応その手には、先日パセラ国王から渡されたブローチを握りしめている。これがあるから、多分大丈夫なはず。ある程度休んで回復したところで、私は思い切って客室から外へ出た。
 ベジタリウス王城の中を、王妃の元へ向けて歩いていく私。一応結界の了承を取ったのが王妃なので、先に話を通すのは王妃だろうという判断である。
 さすがに廊下ですれ違う人たちからは散々驚かれる始末だった。おそらくは帰ったという話が広まっているのだろう。今朝の今でこうやって居るんだから、まあ仕方ないわよね……。
 さすがに一度は歩いた事のあるベジタリウスの城の中、私は迷う事なく目的地である王妃の部屋へとやって来ていた。
 部屋の外には女性騎士が護衛のために立っているので、私は騎士に対して声を掛ける。
「あの」
 私がこれだけ言いかけたところで、騎士が揃って剣に手を掛ける。あまりに早い反応についつい驚いてしまう。
「すみません、王妃様に面会を頼みたいのですが……。サーロイン王国から来たアンマリア・ファッティだといえばお分かり頂けると思います」
 さすがに剣を抜かれそうで怖いけれど、事情が事情なので引いている場合ではない。私は一歩も下がる事なく王妃への面会を求めた。
 すると、部屋の中から声が聞こえてくる。
「あら、その声はアンマリアね。もう用意できたのかしら」
 王妃の声だった。どうやら外の騒ぎがしっかりと中に聞こえたらしい。わざわざ出てきてくれたのだ。
「はい、今朝ぶりでございます王妃殿下。話をしていたものが手に入りましたので、こうして大急ぎで戻ってきた次第です」
「まあそうなのですね。どうぞ、お入り下さい」
 王妃からの許可が出てしまえば、騎士たちはさすがに私への妨害を続けるわけにはいかなかった。剣を収めて扉を開いて私を中へと通した。
「本当に、瞬間移動魔法というのはすごいですね。まさかこんなに早く戻って来られるなんて思いませんでした」
 私を迎え入れた王妃は、侍女に命じて紅茶を用意させている。そして、部屋のテーブルの座席に腰を掛けると、私を手招きしてそこへ呼び寄せる。
「では、お話をお聞かせ願えますでしょうか」
 王妃は遠慮なくズバッと単刀直入に聞いてきた。
 これには私も遠慮なく話すしかないと覚悟を決めた。
 そんなわけで収納魔法の中から、ミズーナ王女から渡された魔石を取り出した。あまりの大きさに王妃はとても驚いている。
「ミズーナ王女がミール王国で手に入れた魔石でございます。海の魔物ではございますが、かなり強力な相手だったらしく、これ程までの大きな魔石を有していたようです」
「まあ、なかなか見る事のない大きさですね」
 まったくだった。ケルピーもこのくらいの大きさだったけど、なにぶん古すぎる。
 ギガンテスにいたってはサーロイン王国に献上してしまったので、持ち出す事は不可能なので持ってこれない。
 そんな時にこの魔石。本当に助かったわ。ミズーナ王女、ありがとう。
「クラーケンの魔石。そのように表示されますね」
 改めて鑑定魔法を掛けて、その結果を王妃に見せる私。
「まあ、海の巨大な魔物じゃないですか。よく勝てましたね」
「私もそう思います」
 クラーケンといえば、イカとかタコとかの巨大化した海の魔物だったはず。だけど、結局どれがどれやら分からなくて、姿を見ていないのよね。今度ミール王国に行ったらしっかり見させてもらおうかな。
 そんな事を思いつつも、とりあえずは目の前に集中しなきゃ。問題は城の外に出た時だけど、そこは簡易的な魔道具でどうにかなるかしらね。
 いろいろと考える事はあるけれど、まずは城の中を安全にしなきゃいけない。
 私は王妃の許可をもらいつつ、目立ちながら目立たないように魔石を部屋の中に設置する。とりあえずは私の魔力以外で干渉できないようにしておきましょうかね。
 私は魔石に対して結界の魔法を使う。すると、魔石から魔力の波紋が起こる。そして、あっという間に昨日展開させた防護と浄化の結界を塗り替えてしまった。さすが強力な魔石といったところだった。
「これで、1年は大丈夫みたいですね」
 鑑定魔法を使って結界の状態を確認する私。さすがはクラーケンの魔石、かなり強力な結界となってくれたようだった。そして、破壊されないように魔石にも防護の魔法を掛けておく。
「アンマリア、ありがとうございます。よい結果を届けられるよう、ベジタリウス王国としても頑張らせて頂きます」
 王妃からのお礼を聞いた私は、結局この日は王城に泊まっていく事になったのだった。魔力の使い過ぎはもう嫌だわ。
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