伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
299 / 500
第六章 2年目後半

第299話 ベジタリウス王国へ

しおりを挟む
 ようやく隊商の準備が整い、私たちはついにベジタリウス王国へと向かう事になった。
 テッテイを出てからは険しい山道を進んでいく。サーロイン王国の北部、ベジタリウス王国との国境はこの険しい山岳地帯となっているのよ。
 いくら騎馬隊を持っているとはいっても、この山々相手では容易に越える事はできない。超えたところで待ち構えているのは屈強で、なおかつ同じように騎馬隊を持つバッサーシ辺境伯の兵士たちだ。この二重の砦によって、ベジタリウス王国はその侵攻を食い止められてきたのである。
 だが、侵略を目指すベジタリウス王国が頭を使わないわけがない。武力で敵わないとして組織したのが、今回話題に出てきた諜報部隊というわけである。一般人に紛れ込めるので、脳筋であるバッサーシ辺境伯たちを欺けたというわけね。
 それでもここ近年は、ずいぶんと温厚な方に傾いた。王族をわざわざ学園に送り込むくらいだもの。だから、今回の呪具を使った騒ぎの真相を知りたいというわけなのだ。
 途中での関所でのやり取りを終え、2日間を掛けて峠を越せば、いよいよベジタリウス王国だ。
「ここが、ベジタリウス王国……」
「初めて見ましたけど、山を越えなければ他国に来た感じのしない景色ですね」
 私とサクラはそれぞれに感想を漏らしていた。
 山の中の盆地とはいえ、景色は平地のものとあまり大差はなかった。相当面積があるという事ね。
 ベジタリウス王国に入ってから馬車で移動すること4日、ようやく大きな街が見えてきた。周りを高い壁に囲まれたその景色はちょっと異様に映る。
「さあ、見えてきたよ。あれがベジタリウス王国の王都イサヤだ」
 隊商のリーダー格が私たちに話し掛ける。
 いや、それにしても王都の名前にもうちょっと捻り聞かせてくれないかしらね。野菜をそのまま逆にした地名って何なのかしらね。まあ、サーロイン王国の王都も似たようなものか、トーミだもの……。
 とりあえず、イサヤの門を無事に通り抜け、ベジタリウス王国の王都へとやって来た。
「今回の取引は王家とも話をする予定です。どうにかお嬢様たちとの会話の機会を確保させて頂きます」
「ありがとうございます」
 隊商のリーダーがそう言うので、私たちは期待して待つ事にした。
 バッサーシ辺境伯の隊商が王家とも取引がある背景は、特産である馬と塩のおかげである。クッケン湖の塩はかなり高値で取引されているのである。塩水から作られる塩は、岩塩とはまた違った味わいがあるのだ。
 そうやって話をしている間に、私たちを乗せた馬車は城へと到着していた。
「止まれ、ここから先は王城だ。許可証はあるだろうな?」
 門番に止められるものの、隊商のリーダーが慌てずに許可証を取り出す。それを見ると門番は荷物の確認もしないで隊商を中へと通していた。それでいいわけ?!
 なんだかんだという間にお城の中に入っていく隊商。
 お城を見上げるものの、基本的な雰囲気はサーロイン王国と変わりはない感じだった。ただ、さすがベジタリウス王国というべきか、野菜という事で緑色が基調となっている感じだった。
「国王陛下にお目通しを願うというのなら、ここでしばらく待たれよ。陛下は忙しいのだ」
「左様でございますね。では、お手数ですが、お話を通すついでにこちらの書簡をお渡し願えますでしょうか」
「うん? 何だこれは」
「殿下たちの近況についての報告の書簡でございます。今回のご訪問に際して我が国の国王陛下から託されましたのでよろしくお願い致します」
「分かった」
 隊商のリーダーから書簡を受け取った兵士は、足早に城の中へと消えていった。
 私とサクラは隊商のリーダーと話をしながら、謁見の順番を待っていた。かなりの時間待たされたとあって、ちょっと退屈になってきてついあくびをしてしまう。
 それにしても、実際に話を聞いてみると、イメージだけの時とはずいぶんとベジタリウス王国の印象は変わってくる。ミズーナ王女とは同じ転生者としてそれなりに話はするものの、内情についてはあまり話してくれなかったので新鮮だった。
「お待たせしました。陛下がこちらにおいでになりますので、そのまましばらくお待ち下さい」
「分かりました。では、このまま待機させて頂きます」
 やって来た兵士の報告に、私とサクラは驚いていた。まさか国王が自らやって来るとは思いもしなかったからだ。
「ははっ、実は馬の取引に関しては、ベジタリウス国王陛下が自らおいでになるのですよ。さすがに私も最初の取引の時は驚きましたが」
「そうなのですね」
「なるほど、ベジタリウス王国自慢の騎馬隊の質を決める事案だから、国王陛下が自ら品定めをなさるのですね」
 私が単純に納得していたら、サクラはさらに踏み込んで納得していた。さすがはバッサーシ辺境伯の血筋、戦いに関する内容には敏感だった。
 いろいろと話をしながら待っていると、なんとも豪奢な服装に身を包み、王冠をかぶった男性がやって来たのだった。そう、この男性こそベジタリウス王国の現国王、レッタス王子とミズーナ王女の父親なのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路
ファンタジー
 錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。  キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。  ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。  意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。  しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。    キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。  魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。  キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。  クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。  彼女は伝説の聖剣を 「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」  と、へし折った。  自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。  その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...