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第六章 2年目後半
第295話 虎穴に入らずんば
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家に戻った私は、モモやエスカたちと別れて自室でくつろぐ。いろいろあったせいですっかり疲れてしまっているのだ。ちなみにテールはエスカに手を引っ張られて連れて行かれた。可哀想に。
私はベッドに体を放り出す。いろいろ考えるには寝ている姿勢が一番楽だもの。疲れているから余計にこの姿勢がいいのよ。
少しだったとはいえど、今回の騒動の裏に居る存在が明らかになったのは進展と言える。
ベジタリウス王国が絡んでいるという事らしいけど、ミズーナ王女は知らなかった。この分なら王家は絡んでいない可能性は高い。レッタス王子にも確認は取るべきだろうけど、そうなると使いが王家に向けて出るのは間違いないだろう。事情が事情ゆえに慎重に行きたいところだわ。
正直なところ、私たちでベジタリウス王国の事を調べたいものだ。しかし、その問題の諜報員たちが国内で活動している可能性を思うと、おいそれと移動するわけにはいかない。どうしたものか悩ましいものである。
どう悩んだところで、私一人でどうこうできる話ではないわね。父親やフィレン王子たちとどうにか話をつけなきゃいけないかしら。
その後、お風呂と夕食を済ませた私は、疲れのあまりさっさと寝る事にしたのだった。
翌日、私は朝食の席で父親に話を持ち掛ける。
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
「うん、なんだい、マリー」
私が話し掛けると、父親はかなり不思議そうに首を傾げていた。どうしてそこまで首を傾げるのかしらね。私の方が首を傾げたい気分だわ。
ちょっと面食らいはしたものの、私は気を取り直して父親に話を持ち掛ける事にした。
「ちょっとベジタリウス王国に行ってみたいのです」
私の申し出に、父親はいい顔をしなかった。
無理もない、王子王女を受け入れているとはいえ、自分たちにとっては未知の国なのだ。そこへ可愛い娘を送り込むなど、父親として看過できないのは当然の話だった。
「お父様の心配は分かります。ですが、今回の事にベジタリウス王国が関わっている可能性があるとなると、どうしても調査をする必要があるのです」
私は力強く父親に訴える。しかし、父親は唸るばかりで了承をしてくれなかった。
「私には瞬間移動魔法があります。これを使えば、相手に気付かれずに移動する事が可能です。一度行ってしまえばそれこそ気付かれる可能性が低くなります」
私は精一杯に訴える。
そう、私とエスカだけが使える瞬間移動魔法は、一度行った場所であるなら記憶を頼りに一瞬で移動できてしまう魔法なのだ。
その代わり、魔力の消耗はかなり激しい。連続で2回使えたらいい方だ。それでも、時間と距離を無視して移動できるという利点が大きすぎる魔法なのだ。
私の真剣な表情に、父親は唸り続けている。瞬間移動魔法が便利で優秀な魔法なのは分かっている。それでも、大事な娘を他国に送り出す事には躊躇するしかないのだ。国の大臣であると同時に娘を持つ父親、それがゆえの悩ましさなのである。
とはいえ、ミズーナ王女の話を聞く限り、調査は秘密裏に行う必要があるように思われる。思い悩んだ末、父親が出した結論は……。
「すまないな、ここで決断するのは無理だ。マリーや、ちょっと時間をくれないか?」
保留だった。
国家同士の揉め事に発展しかねない事は私も十分理解できるので、私はその判断を受け入れた。その代わり、今日の学園が終わったら城に向かう約束を交わし、私は学園へ、父親は城へと向かったのだった。
「まあ、アンマリアってば、そんな事を考えましたのね」
学園で昼の食事を一緒にする事になったミズーナ王女は驚いたように反応している。ちなみにその席には仲介をしてくれたエスカも同席している。結局のところ、転生者三人が揃ったというわけである。
「アンマリアだけで大丈夫かしらね。一応瞬間移動魔法はもう一人連れて行けるのでしょう?」
エスカが確認するように私に聞いてくる。自分だって使えるのだが、私とエスカの間では性能が違う可能性はある。だけど、ここで確認してきたのは別の意味合いもあるようだった。
「まぁそうなんだけど……。連れて行くとしたら、ベジタリウス王国に詳しい人間になるわね。私は王都の場所を知らないわけだし」
私はミズーナ王女を見ながら答える。
しかし、ミズーナ王女の方は難色を示している。どこか問題があるとでも言いたげである。
正直言って、一番の問題は私の身分が伯爵令嬢という事だ。これでは今回の相談を持ち掛ける相手であるベジタリウス国王への謁見に時間がかかってしまう。ミズーナ王女に来てもらうのが最善なのだ。
だというのに、どうしてミズーナ王女が難色を示すのか。私にはとても理解できなかった。
「アンマリア……、私も協力はしたいのは山々ですが、国に帰るわけにはいかないのですよ」
態度を見る限り、どうやら深いわけがありそうだ。これを見せられては、私はこの時はそれを受け入れるしかなかった。無理強いはよくないものね。エスカも空気を読んで、終始黙ってくれていたようだった。
というわけで、結論は放課後にお城に行ってからという話になったのだった。
私はベッドに体を放り出す。いろいろ考えるには寝ている姿勢が一番楽だもの。疲れているから余計にこの姿勢がいいのよ。
少しだったとはいえど、今回の騒動の裏に居る存在が明らかになったのは進展と言える。
ベジタリウス王国が絡んでいるという事らしいけど、ミズーナ王女は知らなかった。この分なら王家は絡んでいない可能性は高い。レッタス王子にも確認は取るべきだろうけど、そうなると使いが王家に向けて出るのは間違いないだろう。事情が事情ゆえに慎重に行きたいところだわ。
正直なところ、私たちでベジタリウス王国の事を調べたいものだ。しかし、その問題の諜報員たちが国内で活動している可能性を思うと、おいそれと移動するわけにはいかない。どうしたものか悩ましいものである。
どう悩んだところで、私一人でどうこうできる話ではないわね。父親やフィレン王子たちとどうにか話をつけなきゃいけないかしら。
その後、お風呂と夕食を済ませた私は、疲れのあまりさっさと寝る事にしたのだった。
翌日、私は朝食の席で父親に話を持ち掛ける。
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
「うん、なんだい、マリー」
私が話し掛けると、父親はかなり不思議そうに首を傾げていた。どうしてそこまで首を傾げるのかしらね。私の方が首を傾げたい気分だわ。
ちょっと面食らいはしたものの、私は気を取り直して父親に話を持ち掛ける事にした。
「ちょっとベジタリウス王国に行ってみたいのです」
私の申し出に、父親はいい顔をしなかった。
無理もない、王子王女を受け入れているとはいえ、自分たちにとっては未知の国なのだ。そこへ可愛い娘を送り込むなど、父親として看過できないのは当然の話だった。
「お父様の心配は分かります。ですが、今回の事にベジタリウス王国が関わっている可能性があるとなると、どうしても調査をする必要があるのです」
私は力強く父親に訴える。しかし、父親は唸るばかりで了承をしてくれなかった。
「私には瞬間移動魔法があります。これを使えば、相手に気付かれずに移動する事が可能です。一度行ってしまえばそれこそ気付かれる可能性が低くなります」
私は精一杯に訴える。
そう、私とエスカだけが使える瞬間移動魔法は、一度行った場所であるなら記憶を頼りに一瞬で移動できてしまう魔法なのだ。
その代わり、魔力の消耗はかなり激しい。連続で2回使えたらいい方だ。それでも、時間と距離を無視して移動できるという利点が大きすぎる魔法なのだ。
私の真剣な表情に、父親は唸り続けている。瞬間移動魔法が便利で優秀な魔法なのは分かっている。それでも、大事な娘を他国に送り出す事には躊躇するしかないのだ。国の大臣であると同時に娘を持つ父親、それがゆえの悩ましさなのである。
とはいえ、ミズーナ王女の話を聞く限り、調査は秘密裏に行う必要があるように思われる。思い悩んだ末、父親が出した結論は……。
「すまないな、ここで決断するのは無理だ。マリーや、ちょっと時間をくれないか?」
保留だった。
国家同士の揉め事に発展しかねない事は私も十分理解できるので、私はその判断を受け入れた。その代わり、今日の学園が終わったら城に向かう約束を交わし、私は学園へ、父親は城へと向かったのだった。
「まあ、アンマリアってば、そんな事を考えましたのね」
学園で昼の食事を一緒にする事になったミズーナ王女は驚いたように反応している。ちなみにその席には仲介をしてくれたエスカも同席している。結局のところ、転生者三人が揃ったというわけである。
「アンマリアだけで大丈夫かしらね。一応瞬間移動魔法はもう一人連れて行けるのでしょう?」
エスカが確認するように私に聞いてくる。自分だって使えるのだが、私とエスカの間では性能が違う可能性はある。だけど、ここで確認してきたのは別の意味合いもあるようだった。
「まぁそうなんだけど……。連れて行くとしたら、ベジタリウス王国に詳しい人間になるわね。私は王都の場所を知らないわけだし」
私はミズーナ王女を見ながら答える。
しかし、ミズーナ王女の方は難色を示している。どこか問題があるとでも言いたげである。
正直言って、一番の問題は私の身分が伯爵令嬢という事だ。これでは今回の相談を持ち掛ける相手であるベジタリウス国王への謁見に時間がかかってしまう。ミズーナ王女に来てもらうのが最善なのだ。
だというのに、どうしてミズーナ王女が難色を示すのか。私にはとても理解できなかった。
「アンマリア……、私も協力はしたいのは山々ですが、国に帰るわけにはいかないのですよ」
態度を見る限り、どうやら深いわけがありそうだ。これを見せられては、私はこの時はそれを受け入れるしかなかった。無理強いはよくないものね。エスカも空気を読んで、終始黙ってくれていたようだった。
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