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第六章 2年目後半
第293話 事件の裏にうごめく者
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翌日、城で目を覚ました私たちは、仕事で登城してきた父親に呼び出された。
「マリー、それとみんな。ちょっとこっちに来てくれないか?」
声を掛けられて私たちが向かった先は、昨日の会議室だった。
一体何があるのだろうかと、ひそひそと話す私たちである。
部屋に入る前に、父親が一度立ち止まって私たちの方を見てくる。無言だったがために、私たちはつい首を傾げていたのだけど、父親は何も声を掛けてくる事もなくそのまま扉を開いて中へと入っていった。
その後について私たちが会議室の中へ入ると、そこにはロートント男爵が立っていた。
「お、お父様!?」
テールが声を上げている。無理もない話だ。
会議室に入った私たちが驚いていると、次の瞬間、ロートント男爵が土下座をしてきた。
まさか土下座をこの目で見る事になるとは……。私たちはついつい面食らってしまった。
「すまなかった……。君たちには感謝しても感謝しきれない……!」
床に頭を擦りつける勢いのロートント男爵に、私たちはドン引きである。
「お、お父様……。か、顔を上げて下さいよ。恥ずかしいですってば……」
テールが困惑気味にきょろきょろしながらロートント男爵に声を掛けている。
「そ、そうか……。テールがそう言うのなら、そうしようか」
土下座をやめて立ち上がるロートント男爵。埃を払いながら姿勢を正すと、今度は普通に頭を下げてきた。
しかし、このロートント男爵。呪いにつかれていた時はかなり怖い感じがしていたものの、今はただの渋めのおじさんである。
ちらりとテールの方を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「昔の、お父様だ……」
すっかり顔がしわくちゃになってしまったテール。そのまま泣きながらロートント男爵に飛びついていた。
「お父様ーーっ!!」
会議室にテールの大きな泣き声が響き渡る。私たちはしばらくその様子を黙って見守っていたのだった。
しばらくすると、ようやくテールが落ち着いてきた。
「いやはや、娘が失礼致しました」
再び謝罪してくるロートント男爵である。本来の性格はこんなに落ち着いた人だったようである。
だというのに、あそこまで性格が豹変してしまっていたとは、呪いというものは本当に恐ろしい限りだわね。私たちは改めて認識する。
「それにしてもピゲル。昔のまんま変わってないようで安心したよ」
「本当に済まなかったな、ゼニーク。おぼろげながらに記憶があるのだが、ずいぶんと酷い事をしてしまっていたようだ」
「ああ、本当に酷い夢を見ていたようだ。あの頃のお前が戻って来てくれて、正直嬉しい限りだよ」
ロートント男爵の肩を叩く父親。それに対してロートント男爵は涙を流しながら、ずっと父親に謝っていた。
「あの、感動の再会をしているところ悪いのですが、何が起きていたのか教えてもらえますか?」
ミズーナ王女がロートント男爵を問い質す。言葉遣いは丁寧なのだが、かなり険しい剣幕で迫っているので、問い質すというのが正しい状態だった。
これに対してロートント男爵は戸惑いを隠せなかった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてほしい。うろ覚えにはなるのだけど、できる限りちゃんと答えさせてもらうからな」
両方の手のひらをミズーナ王女に向け、制止するように答えるロートント男爵である。
そんなわけで、ロートント男爵は覚えている範囲で質問に答えてくれた。
話を聞き終わった時、ミズーナ王女は深刻な表情をして考え込んでいた。
なぜなら、ロートント男爵の証言から、ベジタリウス王国が大きく関わっている事が分かったのだから。そのベジタリウス王国の王女として悩むのは当然の反応なのだ。
「イスンセ……ですか。諜報部隊の中に、そんな名前の男が居たような気がします。とはいえ国の裏部隊ですので、私は詳しく知りませんが……」
ミズーナ王女はかなり頭を悩ませたようだ。
なにせ相手が諜報部隊だからだ。下手に本国と連絡を取ろうものなら、どこからとも情報を持っていかれる可能性がある。諜報部隊相手に調査をするというのは、そのくらい困難なのだ。だから、頭を悩ませるのである。
「とりあえず、あなたはイスンセからブローチを受け取ったのですね?」
「はい、覚えている限りでは。思えば、そのブローチを受け取ったあたりから記憶が曖昧になっていったのです」
ミズーナ王女からの確認に、ロートント男爵は素直に正直に答えていた。
「ふむ、そんな昔からこのサーロインの中で接触があったとはな……。一体何が目的で動いているというのだ?」
その話を聞いていた父親は、かなり考え込んでいるようだった。なにせこのサーロイン王国の大臣の一人なのだから、国内外の問題に頭を悩まさなければならないのよ。本当に大変な職業よね。
正気に戻ったロートント男爵からは、かなり情報を得られた。
「とりあえずだ、ピゲル。お前は先日の一件があるから牢屋生活は免れないだろう。だが、事情がゆえに身の安全も考えて城での軟禁生活になるように掛け合ってみる」
「すまないな、ゼニーク。恩に着る」
ロートント男爵は涙を流しながら父親に深く頭を下げた。
「それとテール嬢。君は引き続きうちでその身を預かる。窮屈かも知れないが我慢してくれ」
「いえ、寛大な処置に感謝するばかりでございます」
テールも同じように頭を深々と下げていた。
とりあえずではあるものの、ロートント男爵親子の処遇の方向性が決まった。あとは王族や宰相の判断を待つばかりである。
それにしても、背後でうごめくベジタリウス王国のイスンセとは一体何者なのだろうか。そして、何が目的で動いているのだろうか。
大きな謎がその姿を少しずつ見せ始めたのだった。
「マリー、それとみんな。ちょっとこっちに来てくれないか?」
声を掛けられて私たちが向かった先は、昨日の会議室だった。
一体何があるのだろうかと、ひそひそと話す私たちである。
部屋に入る前に、父親が一度立ち止まって私たちの方を見てくる。無言だったがために、私たちはつい首を傾げていたのだけど、父親は何も声を掛けてくる事もなくそのまま扉を開いて中へと入っていった。
その後について私たちが会議室の中へ入ると、そこにはロートント男爵が立っていた。
「お、お父様!?」
テールが声を上げている。無理もない話だ。
会議室に入った私たちが驚いていると、次の瞬間、ロートント男爵が土下座をしてきた。
まさか土下座をこの目で見る事になるとは……。私たちはついつい面食らってしまった。
「すまなかった……。君たちには感謝しても感謝しきれない……!」
床に頭を擦りつける勢いのロートント男爵に、私たちはドン引きである。
「お、お父様……。か、顔を上げて下さいよ。恥ずかしいですってば……」
テールが困惑気味にきょろきょろしながらロートント男爵に声を掛けている。
「そ、そうか……。テールがそう言うのなら、そうしようか」
土下座をやめて立ち上がるロートント男爵。埃を払いながら姿勢を正すと、今度は普通に頭を下げてきた。
しかし、このロートント男爵。呪いにつかれていた時はかなり怖い感じがしていたものの、今はただの渋めのおじさんである。
ちらりとテールの方を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「昔の、お父様だ……」
すっかり顔がしわくちゃになってしまったテール。そのまま泣きながらロートント男爵に飛びついていた。
「お父様ーーっ!!」
会議室にテールの大きな泣き声が響き渡る。私たちはしばらくその様子を黙って見守っていたのだった。
しばらくすると、ようやくテールが落ち着いてきた。
「いやはや、娘が失礼致しました」
再び謝罪してくるロートント男爵である。本来の性格はこんなに落ち着いた人だったようである。
だというのに、あそこまで性格が豹変してしまっていたとは、呪いというものは本当に恐ろしい限りだわね。私たちは改めて認識する。
「それにしてもピゲル。昔のまんま変わってないようで安心したよ」
「本当に済まなかったな、ゼニーク。おぼろげながらに記憶があるのだが、ずいぶんと酷い事をしてしまっていたようだ」
「ああ、本当に酷い夢を見ていたようだ。あの頃のお前が戻って来てくれて、正直嬉しい限りだよ」
ロートント男爵の肩を叩く父親。それに対してロートント男爵は涙を流しながら、ずっと父親に謝っていた。
「あの、感動の再会をしているところ悪いのですが、何が起きていたのか教えてもらえますか?」
ミズーナ王女がロートント男爵を問い質す。言葉遣いは丁寧なのだが、かなり険しい剣幕で迫っているので、問い質すというのが正しい状態だった。
これに対してロートント男爵は戸惑いを隠せなかった。
「ちょ、ちょっと落ち着いてほしい。うろ覚えにはなるのだけど、できる限りちゃんと答えさせてもらうからな」
両方の手のひらをミズーナ王女に向け、制止するように答えるロートント男爵である。
そんなわけで、ロートント男爵は覚えている範囲で質問に答えてくれた。
話を聞き終わった時、ミズーナ王女は深刻な表情をして考え込んでいた。
なぜなら、ロートント男爵の証言から、ベジタリウス王国が大きく関わっている事が分かったのだから。そのベジタリウス王国の王女として悩むのは当然の反応なのだ。
「イスンセ……ですか。諜報部隊の中に、そんな名前の男が居たような気がします。とはいえ国の裏部隊ですので、私は詳しく知りませんが……」
ミズーナ王女はかなり頭を悩ませたようだ。
なにせ相手が諜報部隊だからだ。下手に本国と連絡を取ろうものなら、どこからとも情報を持っていかれる可能性がある。諜報部隊相手に調査をするというのは、そのくらい困難なのだ。だから、頭を悩ませるのである。
「とりあえず、あなたはイスンセからブローチを受け取ったのですね?」
「はい、覚えている限りでは。思えば、そのブローチを受け取ったあたりから記憶が曖昧になっていったのです」
ミズーナ王女からの確認に、ロートント男爵は素直に正直に答えていた。
「ふむ、そんな昔からこのサーロインの中で接触があったとはな……。一体何が目的で動いているというのだ?」
その話を聞いていた父親は、かなり考え込んでいるようだった。なにせこのサーロイン王国の大臣の一人なのだから、国内外の問題に頭を悩まさなければならないのよ。本当に大変な職業よね。
正気に戻ったロートント男爵からは、かなり情報を得られた。
「とりあえずだ、ピゲル。お前は先日の一件があるから牢屋生活は免れないだろう。だが、事情がゆえに身の安全も考えて城での軟禁生活になるように掛け合ってみる」
「すまないな、ゼニーク。恩に着る」
ロートント男爵は涙を流しながら父親に深く頭を下げた。
「それとテール嬢。君は引き続きうちでその身を預かる。窮屈かも知れないが我慢してくれ」
「いえ、寛大な処置に感謝するばかりでございます」
テールも同じように頭を深々と下げていた。
とりあえずではあるものの、ロートント男爵親子の処遇の方向性が決まった。あとは王族や宰相の判断を待つばかりである。
それにしても、背後でうごめくベジタリウス王国のイスンセとは一体何者なのだろうか。そして、何が目的で動いているのだろうか。
大きな謎がその姿を少しずつ見せ始めたのだった。
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