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第六章 2年目後半
第288話 はたして呪いか
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正直言って私は許せない気持ちがあった。でも、ミズーナ王女から衝撃的な事実を聞かされてしまっては、その気持ちはあっさりと塗り替えられてしまった。
助けられるというのであるなら、できれば助けてあげたい。しかし、テールに掛かった呪いを解くだけでも実に三人がかりという強力な呪いだ。事実だとするなら、ロートント男爵はかなり強く呪いに蝕まれている事になるので、正直私たちだけで呪いを解く事ができるのかどうか、強い不安が湧き上がってくる。
呪具による呪いというのは、そのくらいに恐ろしいものである。実際その恐ろしさをその身で体験した私は、体を抱えてつい震えてしまうほどだった。
私が震え上がる様子を見てラムたちも心配そうに見るのだけど、さすがにあの合宿での様子を知っているがために、誰も何も言わずに黙り込んでしまっていた。正直な気持ち、あの地獄のような光景をもう見たくはないのである。規格外の魔法を使い、剣術も巧みな私が疲れ切って倒れ込んでしまうくらいの惨状だったのだから。
しかし、だからといって、この事態をこのまま放っておくのもできない。私たちはジレンマを抱えてしまっていた。
とりあえず、私たちは事態を解決するために行動を起こす。
家に帰った私は、父親の帰宅を待って話を持ち掛けてみる。
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい、マリー」
父親は仕事で疲れた顔をしているけれど、快く私の声掛けに応じてくれた。
話をするために、父親は部屋に私を招き入れてくれる。
「話は何かな、マリー」
机に肘をついて私をじっと見てくる父親。それにしても、父親の姿はだいぶでっぷりとした印象はなくなって、今はがっしりしてきた感じだ。生活改善の効果は出てきてるようだった。
それはともかく、私は父親と面向かう。
「お父様、ロートント男爵とお話する事はできますでしょうか?」
私がストレートに切り出すと、父親の眉がぴくりと動く。さすがにロートント男爵の名前は、父親にはタブーだったようだ。先日、仲が悪いみたいな事言ってたものね。とはいえど、こればかりは父親に頼らざるを得ないので、私は引くわけにはいかなかった。
「先日の合宿で使われた魔道具……いえ呪具と申しましょうか、あれについてなのですが、ミズーナ王女殿下から実に興味深い話を聞けたのです」
私がこう言うと、父親の眉が動いたのが見えた。反応を示しているのだ。それを確認した私は、間髪入れずに話の続きを始める。
「ミズーナ王女殿下のお話では、あの呪具を手に入れたものは強力な呪いに掛かってしまうそうなのです」
「……なんだと?」
驚きの表情を浮かべる父親に、私はミズーナ王女から聞いた話をする。それを聞いた父親はとても深刻な表情をしていた。正直信じられるかどうかといったら難しいと思う。でも、ミズーナ王女が話した内容だけに、頭ごなしに否定するのもはばかられるというものだ。しかも、ベジタリウス王国での調査を基にした情報なので、信じなくても頭の片隅には置いておいた方がいいだろう。
ただこの情報、父親としても気にはなるものだった。なんといってもこのロートント男爵、急に性格が変わったかのように攻撃的になったし、さらにどんどんと痩せていっている。ミズーナ王女の調べた内容と合致しているのである。
しばらく唸っていた父親だったが、ようやく覚悟が決まったのか私にこういった。
「分かった。正直言ってやつの性格はかなり荒んでしまっているので、身の安全の確保は厳しいかも知れない。だが、もし呪いによるものだとするなら、どうにかしてやりたいというものだ」
これにより、私たちとロートント男爵が顔を合わせる場というものがなんとか確保できそうだった。
だけど、その面会の場には私に加えて、サキとエスカとミズーナ王女と勢ぞろいする必要がある。テールの一件のせいで分かった事だけど、揃わない事には呪いがとても解けそうにないからだ。本当にこの呪具による呪いというものは厄介すぎるというものだ。魔王絡みというのが納得いくというものである。
普通にテレビゲームにも慣れ親しんだ私からすれば、この世界の魔王の事が分からなくても、魔王という存在が強力な相手である事は十分理解できるのだ。
そんな魔王の力の一端と相まみえる事になる。私に相当の緊張が走るというものだ。それこそ身震いしてしまうほどである。
このロートント男爵を呼び出す方法だけども、悪いけれどテールをだしにさせてもらう。精神を蝕まれているとはいっても、きっと何らかの形でテールの事は気になっているはずだからだ。
その日が近付くにつれて、私たちの間には緊張が高まっていく。正直言って怖いし、無事に済む保証がどこにもない。一応万が一に備えてその場所には騎士や兵士を配備してくれるらしいけど、できればその手は煩わせたくはないわね。最悪のケースは絶対避けたいもの。
いろいろな思いを抱きながら、ついに父親がセッティングしてくれたその日を迎える。
私たちの予想通り、テールの父親は呪いに蝕まれているのだろうか。その場合、無事にその呪いを解く事ができるのだろうか。運命の時がやって来たのだった。
助けられるというのであるなら、できれば助けてあげたい。しかし、テールに掛かった呪いを解くだけでも実に三人がかりという強力な呪いだ。事実だとするなら、ロートント男爵はかなり強く呪いに蝕まれている事になるので、正直私たちだけで呪いを解く事ができるのかどうか、強い不安が湧き上がってくる。
呪具による呪いというのは、そのくらいに恐ろしいものである。実際その恐ろしさをその身で体験した私は、体を抱えてつい震えてしまうほどだった。
私が震え上がる様子を見てラムたちも心配そうに見るのだけど、さすがにあの合宿での様子を知っているがために、誰も何も言わずに黙り込んでしまっていた。正直な気持ち、あの地獄のような光景をもう見たくはないのである。規格外の魔法を使い、剣術も巧みな私が疲れ切って倒れ込んでしまうくらいの惨状だったのだから。
しかし、だからといって、この事態をこのまま放っておくのもできない。私たちはジレンマを抱えてしまっていた。
とりあえず、私たちは事態を解決するために行動を起こす。
家に帰った私は、父親の帰宅を待って話を持ち掛けてみる。
「お父様、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだい、マリー」
父親は仕事で疲れた顔をしているけれど、快く私の声掛けに応じてくれた。
話をするために、父親は部屋に私を招き入れてくれる。
「話は何かな、マリー」
机に肘をついて私をじっと見てくる父親。それにしても、父親の姿はだいぶでっぷりとした印象はなくなって、今はがっしりしてきた感じだ。生活改善の効果は出てきてるようだった。
それはともかく、私は父親と面向かう。
「お父様、ロートント男爵とお話する事はできますでしょうか?」
私がストレートに切り出すと、父親の眉がぴくりと動く。さすがにロートント男爵の名前は、父親にはタブーだったようだ。先日、仲が悪いみたいな事言ってたものね。とはいえど、こればかりは父親に頼らざるを得ないので、私は引くわけにはいかなかった。
「先日の合宿で使われた魔道具……いえ呪具と申しましょうか、あれについてなのですが、ミズーナ王女殿下から実に興味深い話を聞けたのです」
私がこう言うと、父親の眉が動いたのが見えた。反応を示しているのだ。それを確認した私は、間髪入れずに話の続きを始める。
「ミズーナ王女殿下のお話では、あの呪具を手に入れたものは強力な呪いに掛かってしまうそうなのです」
「……なんだと?」
驚きの表情を浮かべる父親に、私はミズーナ王女から聞いた話をする。それを聞いた父親はとても深刻な表情をしていた。正直信じられるかどうかといったら難しいと思う。でも、ミズーナ王女が話した内容だけに、頭ごなしに否定するのもはばかられるというものだ。しかも、ベジタリウス王国での調査を基にした情報なので、信じなくても頭の片隅には置いておいた方がいいだろう。
ただこの情報、父親としても気にはなるものだった。なんといってもこのロートント男爵、急に性格が変わったかのように攻撃的になったし、さらにどんどんと痩せていっている。ミズーナ王女の調べた内容と合致しているのである。
しばらく唸っていた父親だったが、ようやく覚悟が決まったのか私にこういった。
「分かった。正直言ってやつの性格はかなり荒んでしまっているので、身の安全の確保は厳しいかも知れない。だが、もし呪いによるものだとするなら、どうにかしてやりたいというものだ」
これにより、私たちとロートント男爵が顔を合わせる場というものがなんとか確保できそうだった。
だけど、その面会の場には私に加えて、サキとエスカとミズーナ王女と勢ぞろいする必要がある。テールの一件のせいで分かった事だけど、揃わない事には呪いがとても解けそうにないからだ。本当にこの呪具による呪いというものは厄介すぎるというものだ。魔王絡みというのが納得いくというものである。
普通にテレビゲームにも慣れ親しんだ私からすれば、この世界の魔王の事が分からなくても、魔王という存在が強力な相手である事は十分理解できるのだ。
そんな魔王の力の一端と相まみえる事になる。私に相当の緊張が走るというものだ。それこそ身震いしてしまうほどである。
このロートント男爵を呼び出す方法だけども、悪いけれどテールをだしにさせてもらう。精神を蝕まれているとはいっても、きっと何らかの形でテールの事は気になっているはずだからだ。
その日が近付くにつれて、私たちの間には緊張が高まっていく。正直言って怖いし、無事に済む保証がどこにもない。一応万が一に備えてその場所には騎士や兵士を配備してくれるらしいけど、できればその手は煩わせたくはないわね。最悪のケースは絶対避けたいもの。
いろいろな思いを抱きながら、ついに父親がセッティングしてくれたその日を迎える。
私たちの予想通り、テールの父親は呪いに蝕まれているのだろうか。その場合、無事にその呪いを解く事ができるのだろうか。運命の時がやって来たのだった。
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