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第五章 2年目前半
第284話 いとこを迎えに
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リブロ王子の誕生日パーティーが終わった翌日、私はテールをエスカに任せて久しぶりにファッティ伯爵領に向かう事にした。それというのもいとこの事が気になるからだ。
タミール・ファッティ。いとこである一つ下の男の子だ。
魔力循環不全に掛かっていたのだけど、私の手によってだいぶ状態は回復していた。あのまま治療を継続していれば、もう歩けるくらいにはなっているだろう。
瞬間移動魔法によって、私は一瞬で領地のファッティ伯爵邸へと跳んだ。状態によっては王都へ連れてくるつもりである。私は緊張の面持ちで門番に挨拶をする。
いきなり現れた事には驚かれたものの、さすがに顔は知られているのですんなりと屋敷へと入る事ができた。
「お久しぶりです、おじ様、おば様」
部屋に案内されて、挨拶をする私。急な訪問におじとおばは驚きを隠せなかった。
「おお、アンマリアか。昨日はリブロ殿下の誕生日パーティーだったはずだが、なんでここに居るんだ?!」
おじがこの戸惑いっぷりである。
「私には瞬間移動魔法がありますので、一瞬でやって来れるんです。ただ、連発はできませんけれどね」
私は淡々とした表情で答える。おじとおばは顔を見合わせている。
「そ、そうか……。それで、今日は一体どのような用事で来たんだい?」
訳が分からない様子だけど、とりあえず普通に応対をするおじ。そんなおじに対して、私は冷静に対応をする。
「タミールの様子を見に来ました。後半からでも学園に通えるように、状態次第では連れて帰るつもりです」
「……分かった。ついて来なさい」
私の堂々とした態度に、おじはゆっくりと歩き始めた。
「タミール、アンマリアが来てくれたぞ」
おじはタミールの部屋までやって来ると、中に向かって呼び掛けた。
「アンマリアがですか? どうぞ入って下さい」
中から声がする。声は弱々しい感じだが、反応できるくらいには回復しているようで、私は安心した。
私たちは中に入る、タミールの様子を確認する。タミールはベッドの上で体を起こしている。上体を起こせるだけでもかなりの回復具合だ。歩けるかどうかは分からないものの、その姿だけで涙が出そうになる。
「アンマリアに言われた内容を、妻と使用人が代わる代わる続けていたので、どうにかここまで回復したんだ。このような方法で回復できるとは思ってなかったよ」
平然と話しているようだが、おじの声は少し震えていた。いわゆる涙声というやつだろう。
「みなさんで続けたからこそだと思います。この分なら、後期からはなんとか通えそうですね」
私はおじを慰めながらタミールを見る。
「僕も学園に通わないといけないですかね」
「そりゃもう、義務ですからね」
タミールの質問に即答の私である。こればかりは王国の民としては仕方のない話だった。
「おじさま、今日はこのままタミールを連れて帰っても構いませんでしょうか。そのつもりで今日は訪ねてきましたし」
そして、勢いのままにおじに話してしまう私だった。
ところが、おじはこれにはちょっと難色を示していた。おそらくはタミールの回復具合のせいだろう。上体を起こせるとはいっても、歩くのはまだまだ厳しいのだと思われる。
しかし、私はそんな事にはお構いなしだった。
「おじさま、私にお任せ下さいな。リブロ王子を回復させたという実績があるのですから、ご安心下さいませ」
どんと胸を叩く私である。
あまりにも堂々とした私の態度に、おじも悩みながらも折れたようである。
「分かった、アンマリアに任せよう」
おじの言葉を聞いてさらに安心する私だが、おじはさらに言葉を続けた。
「着替えなどの用意があるから、準備が終わるまでは待ってもらいたい。夕方には準備できるだろう。それまでは好きにしていてくれ」
「分かりました。それでは、領地の状況でも確認してきます」
私はおじにそう返すと、部屋を出て瞬間移動魔法で姿を消したのだった。
領地の状況の確認をたっぷりとした私は、夕方にはちゃんとファッティ伯爵邸に戻ってきた。
「うえっ……。なんですかこの量は」
思わず令嬢らしからぬ声が出てしまう私。
「タミールの荷物だ。本来なら馬車2台分くらいにはなるぞ」
「馬車2台分って……。一体何をこんなに持たせているんですか」
あまりの量に言葉を失いそうになる私である。王女であるエスカですら、これよりも少なかった気がする。この量ははっきり言って異常だろう。……まあ、全部収納魔法に入っちゃうんだけどね。
「大事な息子のためだ。これくらい惜しくはない」
うん、過保護だわ。なるほど、タミールはプレッシャーに潰されて魔力循環不全に陥ったのか。どこか納得のいってしまう私である。
でも、私は思った事は口に出さず、その大量の荷物を無言で収納魔法に押し込んでいた。
「それでは、タミールの事は私たちにお任せ下さいませ。その代わり、おじ様たちにはこれまで以上に領地の事をお任せしますわ」
「もちろんだ。ゼニークが安心して国政に関われるように、最大限努力するよ」
おじの言葉は本当に不思議と安心できてしまう。私は静かに微笑むと、タミールを肩で支えながら隣に立たせる。
「それでは、私は帰ります。おじさま、おばさま、ごきげんようですわ」
そう言い残し、瞬間移動魔法で王都へ跳ぶ私だった。
タミール・ファッティ。いとこである一つ下の男の子だ。
魔力循環不全に掛かっていたのだけど、私の手によってだいぶ状態は回復していた。あのまま治療を継続していれば、もう歩けるくらいにはなっているだろう。
瞬間移動魔法によって、私は一瞬で領地のファッティ伯爵邸へと跳んだ。状態によっては王都へ連れてくるつもりである。私は緊張の面持ちで門番に挨拶をする。
いきなり現れた事には驚かれたものの、さすがに顔は知られているのですんなりと屋敷へと入る事ができた。
「お久しぶりです、おじ様、おば様」
部屋に案内されて、挨拶をする私。急な訪問におじとおばは驚きを隠せなかった。
「おお、アンマリアか。昨日はリブロ殿下の誕生日パーティーだったはずだが、なんでここに居るんだ?!」
おじがこの戸惑いっぷりである。
「私には瞬間移動魔法がありますので、一瞬でやって来れるんです。ただ、連発はできませんけれどね」
私は淡々とした表情で答える。おじとおばは顔を見合わせている。
「そ、そうか……。それで、今日は一体どのような用事で来たんだい?」
訳が分からない様子だけど、とりあえず普通に応対をするおじ。そんなおじに対して、私は冷静に対応をする。
「タミールの様子を見に来ました。後半からでも学園に通えるように、状態次第では連れて帰るつもりです」
「……分かった。ついて来なさい」
私の堂々とした態度に、おじはゆっくりと歩き始めた。
「タミール、アンマリアが来てくれたぞ」
おじはタミールの部屋までやって来ると、中に向かって呼び掛けた。
「アンマリアがですか? どうぞ入って下さい」
中から声がする。声は弱々しい感じだが、反応できるくらいには回復しているようで、私は安心した。
私たちは中に入る、タミールの様子を確認する。タミールはベッドの上で体を起こしている。上体を起こせるだけでもかなりの回復具合だ。歩けるかどうかは分からないものの、その姿だけで涙が出そうになる。
「アンマリアに言われた内容を、妻と使用人が代わる代わる続けていたので、どうにかここまで回復したんだ。このような方法で回復できるとは思ってなかったよ」
平然と話しているようだが、おじの声は少し震えていた。いわゆる涙声というやつだろう。
「みなさんで続けたからこそだと思います。この分なら、後期からはなんとか通えそうですね」
私はおじを慰めながらタミールを見る。
「僕も学園に通わないといけないですかね」
「そりゃもう、義務ですからね」
タミールの質問に即答の私である。こればかりは王国の民としては仕方のない話だった。
「おじさま、今日はこのままタミールを連れて帰っても構いませんでしょうか。そのつもりで今日は訪ねてきましたし」
そして、勢いのままにおじに話してしまう私だった。
ところが、おじはこれにはちょっと難色を示していた。おそらくはタミールの回復具合のせいだろう。上体を起こせるとはいっても、歩くのはまだまだ厳しいのだと思われる。
しかし、私はそんな事にはお構いなしだった。
「おじさま、私にお任せ下さいな。リブロ王子を回復させたという実績があるのですから、ご安心下さいませ」
どんと胸を叩く私である。
あまりにも堂々とした私の態度に、おじも悩みながらも折れたようである。
「分かった、アンマリアに任せよう」
おじの言葉を聞いてさらに安心する私だが、おじはさらに言葉を続けた。
「着替えなどの用意があるから、準備が終わるまでは待ってもらいたい。夕方には準備できるだろう。それまでは好きにしていてくれ」
「分かりました。それでは、領地の状況でも確認してきます」
私はおじにそう返すと、部屋を出て瞬間移動魔法で姿を消したのだった。
領地の状況の確認をたっぷりとした私は、夕方にはちゃんとファッティ伯爵邸に戻ってきた。
「うえっ……。なんですかこの量は」
思わず令嬢らしからぬ声が出てしまう私。
「タミールの荷物だ。本来なら馬車2台分くらいにはなるぞ」
「馬車2台分って……。一体何をこんなに持たせているんですか」
あまりの量に言葉を失いそうになる私である。王女であるエスカですら、これよりも少なかった気がする。この量ははっきり言って異常だろう。……まあ、全部収納魔法に入っちゃうんだけどね。
「大事な息子のためだ。これくらい惜しくはない」
うん、過保護だわ。なるほど、タミールはプレッシャーに潰されて魔力循環不全に陥ったのか。どこか納得のいってしまう私である。
でも、私は思った事は口に出さず、その大量の荷物を無言で収納魔法に押し込んでいた。
「それでは、タミールの事は私たちにお任せ下さいませ。その代わり、おじ様たちにはこれまで以上に領地の事をお任せしますわ」
「もちろんだ。ゼニークが安心して国政に関われるように、最大限努力するよ」
おじの言葉は本当に不思議と安心できてしまう。私は静かに微笑むと、タミールを肩で支えながら隣に立たせる。
「それでは、私は帰ります。おじさま、おばさま、ごきげんようですわ」
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