283 / 500
第五章 2年目前半
第283話 ロートントに残るもの
しおりを挟む
警戒していた襲撃もなくて、無事何事もなくリブロ王子の誕生日パーティーは終わった。フィレン王子の時の事を思えば拍子抜けだけど、何も起きないというのはありがたい話だった。なにせここのところいろいろあり過ぎて心が結構疲れているから助かった。
でも、リブロ王子とのダンスは結構緊張したわね。痩せてきて釣り合いが取れるようになってきたとはいえ、婚約者だからって当たり前のように踊らされるんだもの。
リブロ王子は魔力循環不全から完全に回復したみたいで、踊りはすごくスムーズだった。リードもしっかりできていたし、さすがは隠し攻略キャラたるハイスペックだわ。とりあえずはひと安心って事で、私はパーティーが終わるとさっさと引き上げたのだった。
王子の婚約者なのだから最後まで居るべきだったのだろうけれど、父親が「ロートントと同じ空気は吸いたくない」と言い出したので、やむを得ない判断だったのよね。帰る時にちゃんと王族たちには挨拶をしたから、まあ問題はないよね。
家に戻ってきた私は、モモとエスカと共に真っ先にテールの様子を見に来た。
「スーラ、ネス。テール様の様子はどうだったかしら」
「これはお帰りなさいませ、アンマリアお嬢様」
私に気が付いたスーラが挨拶をしてくる。
「ネス、テール様のお相手をお願いします」
「分かりました」
ネスに対してお願いをするスーラは、すすっと私の方へと寄ってきた。
「アンマリアお嬢様、テール様の事で少々お話が」
私に近付いてきたスーラが、まるで耳打ちするかのように話し掛けてきた。一瞬どきりとしたものの、一体どうしたというのだろうか。
「分かりました。ちょっと部屋を変えましょうか」
私がその様に言うと、スーラはこくりと頷いて私の部屋へと移動した。
私の部屋に入ると、私はとりあえず椅子に腰掛ける。そして、ひとつ深呼吸をしてからスーラの報告を聞き始めた。
「テール様は実に落ち着いた様子で過ごされていました。ただ、ちょっと気になる事がございましたね」
報告を始めたスーラはちょっと引っ掛かった事があると話している。どういう事なのか、私は確認を取る。
「テール様が途中、急に頭を押さえる仕草をされたのです。あまりに急な事でしたので、ちょっと引っ掛かりを覚えましたので、ご報告しているまででございます。判断はアンマリアお嬢様にお任せ致します」
スラーは報告をそのように締めていた。
急に痛がるような表情で頭を押さえたというスーラからの報告。これには私もちょっと違和感を覚えた。
(ただの頭痛ではないかも知れないわね。ちょっと後で見させてもらいましょうか)
報告を聞き終えた私は、ひと息つくために紅茶を所望したのだった。
ひと息ついたところで、私は再びテールの元を訪れる。そのテールの相手をエスカがしていて、テールは落ち着いた状態になっていたようだ。男爵令嬢が落ち着ける王女とは一体?
それはともかくとして、私はテールに声を掛ける。
「テール様、ちょっとよろしいでしょうか」
「えと、アンマリア様……。一体何でしょうか」
私の声に、テールがなぜか怖がっている。なんで王女の方が気楽に対応できているのか分からないわね……。そいつ、隣国の王女様よ?
文句は言いたいところだけど、私はぐっと飲み込んだ。それよりも本題である。
「あれから経過観察をしてきましたが、改めて状態を診させて頂きますね。鑑定魔法を使えば一発ですので、そのままじっとしていて下さい」
「わ、分かりました」
なぜか体を強張らせるテール。なんで私相手だとそこまで警戒するか分からない。
正直文句のひとつも言いたい反応ではあるものの、私は大人げなくはないので黙ってテールに対して鑑定魔法を使った。
(うーん、鑑定魔法自体には異状なしって出てくるわね。とはいえ、突然襲ってくる頭痛というのは気になるわ。もうちょっと魔力を消耗して精密検査をしてみましょうかね)
そう考えて、私は魔力をちょっと強めに消耗して、鑑定魔法を改めてテールに対して使う。
その次の瞬間だった!
バチン!
テールと私の手との間で、大きく私の魔力が弾かれた。
「痛っ!」
あまりの衝撃に、私とテールの双方がダメージを受けてしまう。
「アンマリア!?」
「アンマリア様?!」
同じ部屋に居たエスカとスーラが慌てて私に駆け寄ってくる。
「テールも大丈夫だった?」
エスカは続けてテールの事を気遣っている。
「はい、大丈夫です。魔力が弾けたのに少々驚いただけですので……」
テールは大丈夫だというので、エスカと私はちょっと安心した。
「それにしても、最初の鑑定魔法を普通に使えたのに、ちょっと詳しく見ようとしたら弾くなんて……。テール様、何か身に覚えは?」
「も、申し訳ありません。心当たりは……ないです」
テールは怯えながら私の質問に答えていた。
しかし、テールに関係した何かが私の魔力を弾いたのは事実だ。詳しくは調べてみたいものの、さすがにもう時間が遅い。これは日を改めて検討した方がよいと思わる。
「……仕方ありませんね。テール様、何か違和感があるようでしたら、すぐさま私たちに相談しして下さい。いいですね?」
「はい、分かりました」
テールはよく分からない現象に怯えながら頷いていた。
……ロートント男爵周りの問題は、簡単には解決できなさそうだった。
でも、リブロ王子とのダンスは結構緊張したわね。痩せてきて釣り合いが取れるようになってきたとはいえ、婚約者だからって当たり前のように踊らされるんだもの。
リブロ王子は魔力循環不全から完全に回復したみたいで、踊りはすごくスムーズだった。リードもしっかりできていたし、さすがは隠し攻略キャラたるハイスペックだわ。とりあえずはひと安心って事で、私はパーティーが終わるとさっさと引き上げたのだった。
王子の婚約者なのだから最後まで居るべきだったのだろうけれど、父親が「ロートントと同じ空気は吸いたくない」と言い出したので、やむを得ない判断だったのよね。帰る時にちゃんと王族たちには挨拶をしたから、まあ問題はないよね。
家に戻ってきた私は、モモとエスカと共に真っ先にテールの様子を見に来た。
「スーラ、ネス。テール様の様子はどうだったかしら」
「これはお帰りなさいませ、アンマリアお嬢様」
私に気が付いたスーラが挨拶をしてくる。
「ネス、テール様のお相手をお願いします」
「分かりました」
ネスに対してお願いをするスーラは、すすっと私の方へと寄ってきた。
「アンマリアお嬢様、テール様の事で少々お話が」
私に近付いてきたスーラが、まるで耳打ちするかのように話し掛けてきた。一瞬どきりとしたものの、一体どうしたというのだろうか。
「分かりました。ちょっと部屋を変えましょうか」
私がその様に言うと、スーラはこくりと頷いて私の部屋へと移動した。
私の部屋に入ると、私はとりあえず椅子に腰掛ける。そして、ひとつ深呼吸をしてからスーラの報告を聞き始めた。
「テール様は実に落ち着いた様子で過ごされていました。ただ、ちょっと気になる事がございましたね」
報告を始めたスーラはちょっと引っ掛かった事があると話している。どういう事なのか、私は確認を取る。
「テール様が途中、急に頭を押さえる仕草をされたのです。あまりに急な事でしたので、ちょっと引っ掛かりを覚えましたので、ご報告しているまででございます。判断はアンマリアお嬢様にお任せ致します」
スラーは報告をそのように締めていた。
急に痛がるような表情で頭を押さえたというスーラからの報告。これには私もちょっと違和感を覚えた。
(ただの頭痛ではないかも知れないわね。ちょっと後で見させてもらいましょうか)
報告を聞き終えた私は、ひと息つくために紅茶を所望したのだった。
ひと息ついたところで、私は再びテールの元を訪れる。そのテールの相手をエスカがしていて、テールは落ち着いた状態になっていたようだ。男爵令嬢が落ち着ける王女とは一体?
それはともかくとして、私はテールに声を掛ける。
「テール様、ちょっとよろしいでしょうか」
「えと、アンマリア様……。一体何でしょうか」
私の声に、テールがなぜか怖がっている。なんで王女の方が気楽に対応できているのか分からないわね……。そいつ、隣国の王女様よ?
文句は言いたいところだけど、私はぐっと飲み込んだ。それよりも本題である。
「あれから経過観察をしてきましたが、改めて状態を診させて頂きますね。鑑定魔法を使えば一発ですので、そのままじっとしていて下さい」
「わ、分かりました」
なぜか体を強張らせるテール。なんで私相手だとそこまで警戒するか分からない。
正直文句のひとつも言いたい反応ではあるものの、私は大人げなくはないので黙ってテールに対して鑑定魔法を使った。
(うーん、鑑定魔法自体には異状なしって出てくるわね。とはいえ、突然襲ってくる頭痛というのは気になるわ。もうちょっと魔力を消耗して精密検査をしてみましょうかね)
そう考えて、私は魔力をちょっと強めに消耗して、鑑定魔法を改めてテールに対して使う。
その次の瞬間だった!
バチン!
テールと私の手との間で、大きく私の魔力が弾かれた。
「痛っ!」
あまりの衝撃に、私とテールの双方がダメージを受けてしまう。
「アンマリア!?」
「アンマリア様?!」
同じ部屋に居たエスカとスーラが慌てて私に駆け寄ってくる。
「テールも大丈夫だった?」
エスカは続けてテールの事を気遣っている。
「はい、大丈夫です。魔力が弾けたのに少々驚いただけですので……」
テールは大丈夫だというので、エスカと私はちょっと安心した。
「それにしても、最初の鑑定魔法を普通に使えたのに、ちょっと詳しく見ようとしたら弾くなんて……。テール様、何か身に覚えは?」
「も、申し訳ありません。心当たりは……ないです」
テールは怯えながら私の質問に答えていた。
しかし、テールに関係した何かが私の魔力を弾いたのは事実だ。詳しくは調べてみたいものの、さすがにもう時間が遅い。これは日を改めて検討した方がよいと思わる。
「……仕方ありませんね。テール様、何か違和感があるようでしたら、すぐさま私たちに相談しして下さい。いいですね?」
「はい、分かりました」
テールはよく分からない現象に怯えながら頷いていた。
……ロートント男爵周りの問題は、簡単には解決できなさそうだった。
38
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる