伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
282 / 500
第五章 2年目前半

第282話 華やかさの裏で

しおりを挟む
「ちっ、今回も面倒な結界が張ってあるな……」
 王都トーミの一角で呟く人物が居た。ロートント男爵と接触していたイスンセである。
「あれが使えればこの程度の結界など一瞬だというのに……、まったく忌々しい限りだな」
 王城の方を見ながら明かりのついていない部屋で、壁にもたれながら恨み節を連ねるイスンセ。
「イスンセ」
「どうした、クガリ」
 イスンセの元に釣り目の女性が現れた。くすんだ長い茶髪をなびかせ、露出の多い衣装を身にまとった妖しげな女性である。だが、その表情はあまり優れないようである。
「どうもロートント男爵は目をつけられているようだ」
「何があったというんだ。詳しく教えろ」
 焦燥感のある表情をしたクガリの報告に、イスンセは少しだけ動揺を見せる。
「男爵夫妻が不在の男爵邸に兵隊どもがやって来ている。奴はもう手を切るべきだ」
「そうか……、ならばその方がよいようだな」
 クガリは慌てながらも、淡々とロートント男爵邸の様子をイスンセに伝える。最初こそ少し驚いたものの、イスンセはその報告を淡々と受けている。
 そして、少し考え込むような仕草をすると、すぐさまクガリへと指示を出す。
「元々頭がいいようには思えなかったから、後先考えずに事を起こしたという事なんだろう。……うまくこっちに足がつかないように適当に証拠を処分しておけ。その処分の仕方はお前に任せる」
「分かった。任せてもらおう」
 クガリはイスンセの指示を受けて、すぐさまその場から姿を消した。
 クガリを見送ったイスンセは、ふうっとひと息を吐くと天井を見上げる。
「……まったく、我々の求めるいい感じの感情を持っていたと思ったのがな。所詮、貴族なんてのはそんなものか。まあ、力を持った連中が何人か居るというのが分かっただけでも収穫か。さすがに切り捨てざるを得ないが、我らの目的は少し果たせただけでもマシか……」
 気怠そうに呟いたイスンセは、再び城の方へと視線を向ける。そして、がりっと唇を強く噛みしめる。
「……まあいい。どのみちを使った時点であいつはもう用済みのようなものだ。あいつの命の灯、あとどれくらいもつだろうかな?」
 突然、我に返ったかのように真顔になるイスンセ。
「そんな事よりも、問題なのは邪魔する奴らの存在だな。まったくどこの誰だか知らないが、俺たちの邪魔をしようというのなら手加減はしない。まだまだ手駒はあるんだ。必ずやお前たちの魂を俺たちの主へと捧げてくれようぞ。ふははははは!」
 お祝いの色に染まる王都の一角で、どす黒い笑い声が部屋の中に響き渡ったのであった。

「ううっ……」
「どうかされました、テール様」
 突如として頭を押さえるテール。あまりに突然の事だったので、スーラが慌てて声を掛けている。
「いえ、なんでもありません。ちょっと目眩がしたようです。もう大丈夫ですよ」
 すぐに回復したので、スーラはテールの言い分を信じて、テールから離れる。とはいえ、唐突に何が起きたのかと、スーラはちょっと違和感を感じていた。
(気になりますね。これはアンマリアお嬢様が戻ってこられた時に報告しませんと……)
 スーラはテールの世話をしながら、そう思った。
 普通ならばなんて事ない話で片付きそうな事態ではあるが、スーラが違和感を感じた原因は、テールの特殊な事情というものが関係している。
 スーラはアンマリアたちから事情をいろいろ聞かされていたのだ。もちろん、合宿で起きた事も伝えられている。だから、留守番となったテールの世話を任されているのだ。言ってしまえば監視である。
 そのアンマリアの狙いというのは、しっかり今回は的中していた。スーラはテールに関して感じたり思ったりした事をちゃんと心に留めているのである。
(アンマリア様たちが戻られるまではまだ時間があります。ご報告する内容があまり増えないといいのですが……)
 スーラは心の中で懸念を浮かべつつも、淡々とした表情でテールの相手をしている。任務に忠実とはいえど、その相手はアンマリアと同い年の少女だ。年長者としてどうしても身を案じてしまうのである。
(それにしても、アンマリアお嬢様の周りで一体何が起きているというのでしょうか。あそこまで急激に痩せられてしまいますと、さすがの私たちも心配になってしまうというものです……)
 スーラは夕食の支度をするようにネスに頼み事をすると、城の方へと視線を向けた。
 こんな風に思ってしまうのも無理はない。
 アンマリアの体型が太っているのは、恩恵を集めてそれが体にまとわりついているからだ。つまり、アンマリアの贅肉の量はそのまま恩恵の多さを示しているのである。
 だというのに、最近はすっかりやせ細ってしまい、もう70kgをも切ってしまいそうな勢いなのである。スーラは痩せてしまった後のその先の事が心配なのだ。
(アンマリアお嬢様のお命にかかわるような事がないといいのですが……)
 ついつい不安が過ってしまい、最悪の事すらも考えてしまう。
(いけません、私はアンマリアお嬢様の専属の侍女。アンマリアお嬢様のために働かなければならないのです)
 弱気になりそうだったところを、激しく首を振って奮い立たせるスーラである。
「す、スーラさん、一体どうされたのですか?」
「いえ、なんでもありません。それよりもスーラ様、まもなくお夕食の準備ができます。支度を致しましょうか」
「あ、そうですね」
 スーラの言葉に、テールは片付けをして立ち上がる。
 改めて決意をしたスーラは、立ち上がったテールを連れて食堂へと移動したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路
ファンタジー
 錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。  キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。  ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。  意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。  しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。    キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。  魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。  キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。  クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。  彼女は伝説の聖剣を 「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」  と、へし折った。  自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。  その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...