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第五章 2年目前半

第275話 テールの覚悟

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 目が覚めたテールについては、しばらくの間、そのままファッティ伯爵家で預かる事になった。ただし、あんなものが使われていたために、テールの家族を含めて対外的には城で預かっているという話にしてもらっている。テールの身の安全を考えての事だった。
 テールはひとまずエスカと部屋を共有してもらっている。しばらく一緒に居たので、それがそのまま継続するという形だった。
 ちなみにテールは数日間眠っていたので、食事はおかゆからスタート。動くにしてもまずはリハビリからという感じだった。
「うーん、この状態じゃ一人残していくのは厳しいわね」
 テールの状態を見ながら、私はそう判断する。
 とはいえども、私たちはそれなりに重要な立場に居るファッティ伯爵家の人間。エスカだってミール王国の王女だ。リブロ王子の誕生日パーティーに参加しないわけにはいかない。
 その間のテールの対応は、私とモモの侍女であるスーラとネスに任せる事になった。テールに取り付いていた呪いは先日浄化済みなので、おそらく大丈夫なはずだもの。
「今度の休みの日、テールの事はお任せしましたよ、スーラ」
「畏まりした、アンマリアお嬢様。お任せ下さいませ」
 私の頼みを、スーラは快く引き受けてくれた。スーラの事は信用できるので、これで私も安心して誕生日パーティーに出掛けられるというものだった。

 それからというもの、リブロ王子の誕生日パーティーまでの間、私は極力テールのリハビリに付き合った。同世代の不幸を見逃せるわけがないもの。
 テールも元に戻りたい一心で、私の行うリハビリを一生懸命受けていた。やっぱり、この子は悪い子じゃないと思う。
 そのリハビリの合間合間で、私はテールにいろいろと質問をぶつけてみた。
「ねえ、テール様。お聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい、……何をでしょうか」
 急に私から振られた言葉に、テールは体を強張らせている。ちょっとビビり過ぎじゃないかしら。
「あの合宿の時、胸に着けていた装飾品は、どこでどなたに頂いたものなのでしょうか」
 私は怯えるテールに対して容赦なくストレートに質問をぶつける。この質問に対して、テールは明らかな動揺を見せている。
「テール様、正直にお話になって下さい。今回の事ははっきり申しまして、サーロイン王国だけではなく、周辺諸国すべてを巻き込んだ宣戦布告でございます」
 私は真面目な表情でテールに詰め寄る。この威圧に対して、テールは視線を逸らして顔を左右に振っている。これは明らかに何かを知っていて隠している動作だった。
 だけど、私だって遠慮はしない。国家に対する宣戦布告なのだから、さすがに見過ごす事はできないのよ。じわじわと私はテールに迫っていく。
「安心して下さい。正直に言って頂ければテール様を断罪の俎上に上げるつもりはございません。むしろ、今回の騒ぎにおける被害者だと思っていますから」
 力強く私がはっきり言うと、テールのドレスを掴む手に力が入っている。よく見ればテールの体は完全に怯えで震えていた。
「テール様に敵対の意思が無いのでしたら、どうか私を信じてすべてを打ち明けて下さい。これ以上、みんなを危険な目に遭わせたくないのです」
 テールの目を見てはっきりと言い切る私。あまりに真っすぐな私の目に、ようやくテールの体の震えが止まった。
「……分かりました。私の知る限りをお話し致します」
 テールは不安そうに胸の前で拳を握りながら、泣きそうな顔で話し始めた。
 ぽつぽつと話し始めたテールの証言。
 それによれば、合宿のあの時に身に付けていたのは金縁に深紅の宝石のついたブローチだったらしい。送り主は父親であるロートント男爵だったそうな。
 ブローチを渡された時には「お守りだ」と言われたらしく、合宿中には常に着けておくようにとも言われたらしい。私は違うグループだったのでよくは知らないので、ラムたちから証言を取るしかなさそうだった。
(うーん、裏取りをしっかりしなきゃいけないわね。事が事だけに慎重にやらなきゃいけないわ)
 テールの証言を聞いて、私は顔をしかめざるを得なかった。なにせ疑問が多すぎるのだから。
 とにかく分からない事だらけであるがために、さすがにこれは国王たちに相談しなければいけないと思った。
「テール様」
「……はい」
「明日にでもお城に参りましょう。今の話を国王陛下にもするのです」
「ええ! そ、そんな恐れ多い……です」
 あたふたと慌てふためくテールだが、私は心を鬼にする。
「いけません。先程も申しました通り、周辺国家をも巻き込んだ一大事でございます。それを防ぐためにはテール様の証言は必要になります」
 きりっとした真剣な表情で、私はテールの顔をじっと見つめる。さすがに私の気迫に押されたのか、テールは怯えた顔をきゅっと引き締めていた。
「わ、分かりました。ですが、父と顔を合わせるわけには、きっといかないと思います。知られずに行くのは厳しいかと……」
「心配要らないわ。私に任せなさいって」
 懸念点を挙げるテールに、私は自信満々に言い放つ。
 驚くテールをどうにか落ち着かせて、私たちは翌日登城する事になったのだった。
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