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第五章 2年目前半
第273話 呪いを吹き飛ばせ
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眠ったままのテールを目の前に、私たちは実に手をこまねいていた。
私とミズーナ王女はヒロインではあるものの、浄化の力に長けているわけではない。とんでもない魔力量でごり押しというのが、ヒロインの力の真実なのである。
やはり浄化となると、聖女や治癒師といった光魔法に特化した使い手でないと厳しい。
その聖女であるサキは、おそらく今頃は自宅のテトリバー家に戻ったところだろう。合宿帰りで疲れている以上、今からこちらに連れてくるのも可哀想かなと思う。とは、こっちもこっちで動かすのは忍びない。はてさて、どうしたものだろうか。
「仕方ないわね。エスカ、そのままテール様を見ていてちょうだい。瞬間移動魔法でサキ様を連れてくるわ」
私は決断して、サキの家までひとっ飛びする事にした。これが一番早いし、何より負担は私だけで済む。
何よりもテールの状態は、おそらく予断を許さない状態に陥っているだろう。できる限り急いだ方がいいと考えたのだ。
そして、あまり時間の経たないうちに、私はサキを連れて屋敷へと戻ってきた。ただ、ちょうど戻ってきたところだったので、荷物を片付けるためにちょっと時間がかかってしまったというわけだ。
「アンマリア様、急に現れてびっくりしました」
「ごめんなさい、サキ様。ただ、事は急を要しましたのでね、半ば拉致のような形になってしまって申し訳ございません」
サキが胸を押さえながら言うものだから、私は謝罪をしておく。私が急に目の前に現れたものだから、びっくりし過ぎて胸を押さえているのよ。ホントごめんって。
だけど、実際に事態はそんなにのんびりしてられない事には違いはなかった。
急に連れてこられたサキだったが、眠り続けるテールを目の当たりにすると、その状態に言葉を失っていた。
「うそ……。まさかまったく目を覚まされないのですか?」
信じられないといった表情で、サキは私たちに確認を取ってくる。ただ一人ずっとそばについていたエスカが、真剣な表情で黙って頷いていた。
その反応を見て、サキは再びテールの姿を見る。じっとテールを見つめていたサキだったが、何かを感じ取ったらしく、突如としてその身を震わせていた。
「……これは、呪いの魔力ですかね……」
さすがは聖女というべきか。しっかりと呪いの魔力を感じ取っていたのだ。
サキ・テトリバーはゲーム中では聖女として君臨するメインのライバル令嬢だ。それが元となっているだろうこの世界のサキも、実にかなり能力が高いようなのだ。
「このまま放っておく事はできません。浄化を試みます」
サキはキリッと表情を引き締めると、テールの隣に立つ。そして、両手をかざして光魔法の浄化を使い始めた。
相変わらず、浄化の魔法の光は何とも神々しいものだ。
サキが浄化の魔法を使い始めたのを確認した私とエスカは、サキの肩に手を置き、魔力を供給する。
あの夜の事を思えば、サキ単独では浄化するには魔力が足りなさすぎるのだ。あの時だって、サキには四人もの人物が手を貸していた。それでも、浄化を終えた後には全員が疲労困憊になっていたのだ。そのくらいにあの呪具にはとんでもない魔力が込められていたのである。
私たちの後ろでは、モモが祈るようにして立っている。
あの時の事を思えば、モモにも手を貸してもらうべきだろう。しかし、今は私たちの侍女たちは席を外しているので、万が一の時に対応する人物が必要なので、それをモモに頼んだというわけなのよ。
モモが見守る中、サキの浄化の魔法がテールの体を包み込んでいく。
ところが、それがいざテールの体に触れると、魔力のスパークが起きる。テールを蝕む呪いの魔力との間で、攻防が始まったのだ。
最初のスパークが起きた時点で、サキの表情が苦悶に歪む。つまり、そのくらいに呪いの魔力が強力だという事なのだ。
「ぐぅぅ……」
呪いとの戦いで、サキが苦悶の声を漏らす。いよいよ本格的に呪いの魔力が浄化の力に抗い始めたのだ。私たちに緊張が走る。
だけど、ここで私たちが負けるわけにはいかない。万一テールが助からなかったとしても、この呪いの魔力をそのまま残しておくわけにはいかないのよ。もしかしたら、テールの体がそのまま呪具と化す可能性だってある。だからこそ、私たちは全力でこの呪いに立ち向かわなければならないのだ。
テールの体の表面で、2種類の魔力が火花を散らす。
聖女の力に加えて、転生者二人の魔力をもってしてもしっかりと抗ってくる呪い。どれだけ強力な力かが分かる。
呪いが抗うように、私たちだって負けるわけにはいかない。人一人の命と、今後の安全が掛かっているのだから。
(テール、一体いつまで寝ているつもりなのよ! 起きなさい!)
私は心の中でテールに語り掛けながら、サキの浄化の魔法へと魔力を供給する。じわりと私たちの額に汗が浮かび始める。完全な根競べとなっていた。
「絶対に、助けます!」
サキが歯を食いしばりながらそう叫んだ時、突然、眩いばかりの光が部屋の中にあふれたのだった。
私とミズーナ王女はヒロインではあるものの、浄化の力に長けているわけではない。とんでもない魔力量でごり押しというのが、ヒロインの力の真実なのである。
やはり浄化となると、聖女や治癒師といった光魔法に特化した使い手でないと厳しい。
その聖女であるサキは、おそらく今頃は自宅のテトリバー家に戻ったところだろう。合宿帰りで疲れている以上、今からこちらに連れてくるのも可哀想かなと思う。とは、こっちもこっちで動かすのは忍びない。はてさて、どうしたものだろうか。
「仕方ないわね。エスカ、そのままテール様を見ていてちょうだい。瞬間移動魔法でサキ様を連れてくるわ」
私は決断して、サキの家までひとっ飛びする事にした。これが一番早いし、何より負担は私だけで済む。
何よりもテールの状態は、おそらく予断を許さない状態に陥っているだろう。できる限り急いだ方がいいと考えたのだ。
そして、あまり時間の経たないうちに、私はサキを連れて屋敷へと戻ってきた。ただ、ちょうど戻ってきたところだったので、荷物を片付けるためにちょっと時間がかかってしまったというわけだ。
「アンマリア様、急に現れてびっくりしました」
「ごめんなさい、サキ様。ただ、事は急を要しましたのでね、半ば拉致のような形になってしまって申し訳ございません」
サキが胸を押さえながら言うものだから、私は謝罪をしておく。私が急に目の前に現れたものだから、びっくりし過ぎて胸を押さえているのよ。ホントごめんって。
だけど、実際に事態はそんなにのんびりしてられない事には違いはなかった。
急に連れてこられたサキだったが、眠り続けるテールを目の当たりにすると、その状態に言葉を失っていた。
「うそ……。まさかまったく目を覚まされないのですか?」
信じられないといった表情で、サキは私たちに確認を取ってくる。ただ一人ずっとそばについていたエスカが、真剣な表情で黙って頷いていた。
その反応を見て、サキは再びテールの姿を見る。じっとテールを見つめていたサキだったが、何かを感じ取ったらしく、突如としてその身を震わせていた。
「……これは、呪いの魔力ですかね……」
さすがは聖女というべきか。しっかりと呪いの魔力を感じ取っていたのだ。
サキ・テトリバーはゲーム中では聖女として君臨するメインのライバル令嬢だ。それが元となっているだろうこの世界のサキも、実にかなり能力が高いようなのだ。
「このまま放っておく事はできません。浄化を試みます」
サキはキリッと表情を引き締めると、テールの隣に立つ。そして、両手をかざして光魔法の浄化を使い始めた。
相変わらず、浄化の魔法の光は何とも神々しいものだ。
サキが浄化の魔法を使い始めたのを確認した私とエスカは、サキの肩に手を置き、魔力を供給する。
あの夜の事を思えば、サキ単独では浄化するには魔力が足りなさすぎるのだ。あの時だって、サキには四人もの人物が手を貸していた。それでも、浄化を終えた後には全員が疲労困憊になっていたのだ。そのくらいにあの呪具にはとんでもない魔力が込められていたのである。
私たちの後ろでは、モモが祈るようにして立っている。
あの時の事を思えば、モモにも手を貸してもらうべきだろう。しかし、今は私たちの侍女たちは席を外しているので、万が一の時に対応する人物が必要なので、それをモモに頼んだというわけなのよ。
モモが見守る中、サキの浄化の魔法がテールの体を包み込んでいく。
ところが、それがいざテールの体に触れると、魔力のスパークが起きる。テールを蝕む呪いの魔力との間で、攻防が始まったのだ。
最初のスパークが起きた時点で、サキの表情が苦悶に歪む。つまり、そのくらいに呪いの魔力が強力だという事なのだ。
「ぐぅぅ……」
呪いとの戦いで、サキが苦悶の声を漏らす。いよいよ本格的に呪いの魔力が浄化の力に抗い始めたのだ。私たちに緊張が走る。
だけど、ここで私たちが負けるわけにはいかない。万一テールが助からなかったとしても、この呪いの魔力をそのまま残しておくわけにはいかないのよ。もしかしたら、テールの体がそのまま呪具と化す可能性だってある。だからこそ、私たちは全力でこの呪いに立ち向かわなければならないのだ。
テールの体の表面で、2種類の魔力が火花を散らす。
聖女の力に加えて、転生者二人の魔力をもってしてもしっかりと抗ってくる呪い。どれだけ強力な力かが分かる。
呪いが抗うように、私たちだって負けるわけにはいかない。人一人の命と、今後の安全が掛かっているのだから。
(テール、一体いつまで寝ているつもりなのよ! 起きなさい!)
私は心の中でテールに語り掛けながら、サキの浄化の魔法へと魔力を供給する。じわりと私たちの額に汗が浮かび始める。完全な根競べとなっていた。
「絶対に、助けます!」
サキが歯を食いしばりながらそう叫んだ時、突然、眩いばかりの光が部屋の中にあふれたのだった。
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