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第五章 2年目前半

第271話 尾を引く不安

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(おやおや、これはずいぶんと酷いものだわね)
 鑑定魔法を使った結果に私は驚いた。というか、こんな情報が取れるのかという方に驚かされた。
(殿下たちが戻られたら報告かしらね)
 私はテールの眠るベッドに寄り掛かりながら、座って帰りを待つ事にしたのだった。

 しばらくすると、エスカとミズーナ王女が戻ってきた。
「粉々でしたけれど、明らかに材質の違うものが落ちていましたね」
 戻ってくるなり、ミズーナ王女はそう話し掛けてきた。そして、ハンカチにくるんだものを見せてくれた。
「瘴気のような禍々しいオーラを放っていたので、間違いないですね。魔法で防御しなければ意識に入り込んできそうでしたから、拾うのも大変でしたよ」
 ミズーナ王女の言葉で、私はハンカチの上のものを見る。確かに、破片とそのの周囲にどす黒いものが漂っているように見える。
「どうやら、この破片になった宝石に変な魔法をかけていたみたいで、それが昨夜になって発動したみたいだわ。ラムたちにテールの普段の様子を確認してみたけど、どうも知らなかったって感じだわね」
 エスカも情報収集をしていたようだった。私が行った鑑定魔法の情報とも一致しているので、なんとも言えない雰囲気だった。
「アンマリア?」
 私が考え込む姿を見て、エスカが不思議そうな顔をして呼び掛けてくる。
「あっ、いえね。ただ休んでいるのも暇だからって、テール様を鑑定させてもらったのよ。そしたら、いろんな情報が分かったの」
「えっ、どんな事が分かったのかしら」
 私が正直に話すと、エスカもミズーナ王女も興味津々に私に詰め寄ってきた。エスカは普通の体型だけど、ミズーナ王女はまだまだ太っているからか圧が凄かった。……私も去年はこんな感じだったんだろうなぁ。
 とりあえず興奮気味に詰め寄ってくる二人を、私は何とか落ち着かせようとする。ただ、私はまだ疲労が抜けていないので床に座り込んだ状態だった。
「まあ、二人とも落ち着いてちょうだい。まだまだ万全じゃないから、無理をさせないでほしいわね」
「それじゃ仕方ないわね」
 私がまだ回復しきっていない事をアピールすると、さすがのエスカも諦めた。
「あとでまたみんなで集まってから、その時にでも話すわね」
 私がこう言うと、エスカとミズーナ王女はこくりと頷いて、一緒にテールの様子を見守ったのだった。

 昼食の時間になっても、私はテールの居る部屋で横になっていた。なにせまだ回復しきっていないのだから仕方がない。これだけ回復に時間がかかっているのは初めてなので、正直私は戸惑っていた。
(うーん、思ったよりあの光の玉は魔力持ってっちゃってくれたみたいね。確実に漆黒のオーラを消すためだったとはいえ、我ながら無茶をしたものだわ)
 サクラが持ってきてくれた食事を部屋の中で一人で虚しく食べている。なにせテールはまだ眠っていて起きないものだから、賑やかにするわけにもいかないもの。
 サクラが食事を持ってきた時、モモがうるさくしていた事を伝えられて、私はついつい苦笑いをしてしまったわね。家に帰ったらたっぷり相手をしてあげるから合宿中は我慢してと説得しておいたけれど、あの様子だと何をやらかすのかはっきり分からないわね。本当、モモの私への依存具合は悩ましいものだわね。
 しかし、そういったモモの姿が目に浮かぶ私は、一人で食べているにも関わずついつい楽しくなってしまっていた。
 それにしても、テールはまったく目を覚まさない。状態自体はだいぶ安定しているんだけど、もしかしたらこれも漆黒のオーラを放っていた呪具の影響かも知れない。
 私はみんなが戻ってくるまで、じっとテールの事を見守っていた。

「アンマリア様、テール様の様子はいかがですか?」
 この部屋を割り当てられているラム、サクラ、サキの三人が帰ってきた。状況が状況なせいか、あまり明るい顔ではないようだ。
「まだ眠っていらっしゃいますね。顔色を見る限りは問題なさそうなのですが」
 私は質問に答える。三人の反応は落胆したような感じだった。さすがに同室に割り当てられているだけに、心配になっているようだった。
「多分、呪具の影響が残っているのだと思います。昨夜のサキ様の浄化は、あくまでも呪具に対するものでした。しかし、その呪具の影響は、すでにテール様の体を大きく蝕んでいたのですわ、推測ですけれど」
 この言葉に、三人は深刻な表情をして黙り込んでしまった。
「サキ様、心配なのはとても分かります。ですが、今は無理する時ではありません。昨夜、あれだけ力を使った後なのですから、さすがに今使うのはサキ様の体が心配で仕方ありません。今は我慢して下さい」
 強く私が言えば、サキはぐっと堪えて私の意見に従った。私がまだつらそうにしている姿が目の前にあるがために、説得力があり過ぎるのだ。
 そんなわけで、テールの事はその後もずっと見ていたわけだけど、結局テールは起き上がってくる事はなかった。
 こうして不穏な空気を保ったまま、2年目の夏合宿は終わりを迎える事となったのだった。
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