伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
268 / 500
第五章 2年目前半

第268話 昼夜逆転

しおりを挟む
「光魔法でこの闇を焼き払いますよ!」
 私の呼び掛けにフィレン王子は険しい表情で、サキは戸惑った表情で返事をする。
「レイ!」
 私は率先して光魔法を放って闇を焼き払う。
 しかし、この闇の厄介なところは、辺りが今は夜で姿が見づらいという点に加え、焼き払ってもその数は減っていかないという事だった。合間を見て鑑定を掛けてみたら、どうやらテールが核となって次々と生み出されているようである。
 これでは埒が明かないのは間違いがない。私は見えづらい状況をどうにかしようとして、大きな魔法を使う事にした。
「フィレン殿下、サキ様」
「なんだい、アンマリア」
「少しの間だけ、闇の対処をお願いします」
「よく分からないが、任せてもらおう」
 私の呼び掛けに、フィレン王子は快く引き受けてくれた。サキは闇への対処で手一杯なのか、反応できなかったようだ。
 私は改めて闇夜に浮かぶテールの方を見る。
(さあ、この空間を昼にしてしまいましょうかね!)
 私はぎゅっと拳を握りしめた。
(太陽を……、辺り一帯を眩い光で埋め尽くすイメージ……)
 太陽のイメージをするのは簡単だったものの、思った以上に魔力を持っていかれそうだった。しかし、このままではみんなが危ない。構ってなんかいられるものか!
「サンシャイン!」
 私は叫ぶと、上空に向かって魔力の塊を打ち上げる。そして、それがある程度の高さに達すると、一気に魔力を光として解放する。
「ギシャーーッ!!」
 すると、眩いばかりの魔力の光に、漆黒のオーラたちが次々と焼かれていく。新たに生み出される漆黒のオーラも焼かれていくものの、テールを包み込むオーラの本体はまだ不気味にうごめき続けていた。
「くっ……」
 それに対処しようとする私だったけれど、さすがに魔力を使い過ぎた。思わず体が支えきれずに片膝をついてしまう。決して太っているからではないわ。
「大丈夫ですか、アンマリア様」
 ようやく落ち着けるようになったサキが駆け寄ってくる。
「お姉様!」
「アンマリア様」
 待機していたモモとラムも合流してくる。ラムにはモモの事を任せていたのだけど、どうやら急に眩しくなった事が気になって飛び出してきたらしい。
「ラム様、モモ。二人とも、どうして出てきたのですか」
「急に明るくなったので、気になってしまったのですわ」
 私の問いに、ラムは正直に答えていた。
「お姉様、一体どうされたのですか?」
 モモは私が膝をついている事が気になったのか、顔を青ざめさせながら私に寄り添ってくる。
「単純に魔力の使い過ぎよ。あの光を生み出すのにかなり魔力が必要でしたから」
 私が上を見上げると、みんなは納得したようだった。なにせそこには、煌々と光り輝く球体が浮かんでいたのだから。
 だけど、問題はここからよ。
 私の魔法によって漆黒のオーラがうごめくような事態は収まったけれど、テールは空中に浮かんだまま赤い光を発しているし、それを取り囲むように漆黒のオーラが発生し続けている。もしこの漆黒のオーラの発生がテールの魔力によるものだとするならば、このままではテールの命が危ないのは間違いがない。しかし、私はこの通り動けないし、一体どうしたらいいものなのだろうか……。
「アンマリア、大丈夫ですか?」
 そこへ、エスカとミズーナ王女が合流する。
「二人とも、魔物群れは?」
「そんなもの、一瞬で全滅よ」
 私の質問に、エスカからすぐに回答があった。さすがは転生者たる反則的な魔力の持ち主たちだわ。
「それよりも、問題はあれね。鑑定魔法で見てみたけど、どうやらあの子が胸に着けているアクセサリが、持ち主の魔力を吸い取って込められた魔法を発動しているみたいよ」
 間髪入れずに、ミズーナ王女から私たちの知りたい情報が飛び出してきた。この一瞬で鑑定を済ませるとは、さすがだわ。
 それにしても、持ち主の魔力を吸い取って魔法を展開するとか、魔道具というよりは呪具といった感じのもののようだ。
「あれの機能を止めるには、持ち主から引き剥がすか、掛けられた呪術を解除するかのどちらかといった感じですね」
 ミズーナ王女は対処法を語り出す。
「ですが、呪具である場合、持ち主から引き剥がそうとすると何らかの抵抗を発揮する場合が多いですから、浄化するのが一番ですわね」
 そういいながら、ミズーナ王女はサキの方へと視線を向ける。
「私、ですか?!」
「アンマリアがこの状態である今、それが可能なのはサキ、あなたしか居ませんよ」
 周りからも視線を向けられて、おろおろと戸惑うサキ。
「サキ、私からもお願いする。このままでは彼女の命が危ない。王子として、国民の命を見殺しにする事などできない」
 フィレン王子からもこう言われてしまえば、サキは胸の前で拳を強く握って決意するしかなかった。
「分かりました。私、やってみます!」
「もちろん、私たちもお手伝いしますよ。ね、フィレン殿下?」
「もちろんだとも」
 エスカの言葉に、力強く答えるフィレン王子。
「サキ、浄化のイメージは大丈夫かしら。以前の食堂での浄化を思い出すのよ」
「はい!」
 エスカが助言すると、サキは強く頷く。
 そして、この事態を収拾させるべく、サキは一歩前へと踏み出し、手を前へと突き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...