266 / 485
第五章 2年目前半
第266話 平和とはいかない急展開
しおりを挟む
見学が終われば、後は何もする事はなかった。宿泊地の近辺で走り込んだり、打ち合いをしたり、魔法の練習をしたりといった地味な活動になる。
食材に関してはウーリンの街の人たちが全部用意してくれるので、なかなかに至れり尽くせり。調理や後片付けといった手間はあるものの、それなりに自由な時間は存在していた。
自由な時間ともなれば、私は転生者たちやライバル令嬢たちと一緒に話をする事が多かった。
ただ、そこに一人まったくの赤の他人が混ざり込んでいたのだが……。なぜ一緒に居るのかしらね、この子。
その子の名前はテール・ロートント男爵令嬢。元々は平民だったらしいだけど、ロートント男爵の養子になったらしい。見た目は普通のモブに近しい印象だけど、おどおどとしていて気の弱い性格ながらも一応武術型に属している。人は見かけによらないわね。
「さっきちょっと打ち合ってみたけど、別に悪くはないですよ。筋がいい感じなので、鍛えれば騎士にだってなれそうです」
「そ、そんな。わ、私なんて見よう見真似で剣を振ってるだけですよ……」
サクラに褒められれば、焦ったように両手を左右に振りながら謙遜している。さすがは元々平民というのが分かる反応だった。
「別に謙遜する必要はないですよ。私はこれでもバッサーシ辺境伯の娘です。剣に関しては詳しいですからね」
戸惑った様子のテールに対して、サクラはそう言いながら微笑んでいた。その様子に、テールは照れながら縮こまっていた。本当に初々しい反応だわね。あまりに可愛い反応なだけに、見ているだけで顔が綻んできてしまうわ。
ほのぼのとした感じで過ぎていく夏の合宿だったが、それは突然終焉を迎える。
それは、合宿の現場に着いてから4日目の夜の事だった。
妙な胸騒ぎがして、私は飛び起きる。
(何だろう、この感じ。ものすごく気持ち悪い魔力を感じるわ)
私は立ち上がって小屋の中から出て外を見る。
「な、なんなの、あれは!」
そこで私は、思いもよらないものを見る事になってしまった。
夜空に浮かぶ赤い光が見えたのだ。一応まだ遠い位置だったものの、さすがにこれは異常事態だ。
「面倒な事になってるわね」
「まったくですね」
突然の声に驚く私。そこに居たのはエスカとミズーナ王女だった。転生者である二人も、私同様に異変を感じたようだったのだ。ちなみにモモはぐっすりと眠っているので、本当に私たち三人だけが感じたようだった。
だけども、それを不思議に思っている暇はなかった。赤い光は徐々にこちらに向かってきているからだ。このままではこの合宿場はもちろんの事、茶畑やウーリンの街にだって被害が出かねない。私たちは、黙ってこくりと頷くと風魔法を使って宙に浮かぶ。
「どうやら、あちらの方向からだけみたいですね」
ミズーナ王女が辺りを見回しながら確認した上で話す。
「そのようね。まったく、なんだっていうのかしらね」
エスカはぷんぷんと怒っている。ちなみにエスカは風魔法が使えないので、私に掴まった状態だ。
「なんでこんな事になってるか知らないけど、被害が出る前に全部ぶっ倒しちゃいましょうか」
「賛成ね」
「同じく」
そんなわけで、私たちは魔物の群れに向かって風魔法で飛んでいく。平穏を乱す事は許されないわ。
ある程度魔物に近付いたところで、私たちは全力で魔法をぶっ放した。
そこの頃、合宿の小屋の中でも異変が起こっていた。
これに最初に気が付いたのはサクラだった。体を起こして部屋の中を見ると、一人だけ姿が見えなくなっていたのだ。
(あそこのベッドは、確かテール様でしたね。こんな夜中にどこに行ったのかしら)
どういうわけか、小屋の中からテールが居なくなっていたのだ。
気になって小屋の外へ出ていくサクラ。そこで目にしたものは信じられない光景だった。
「なっ、あれはテール様?!」
なんと、テールの体が宙に浮いていたのだ。しかも、闇夜でもはっきり認識できるような漆黒のオーラに包まれて。一体何が起きているのか分からなかった。
しかし、その胸からは眩いまでの赤い光が放たれていた。
(な、何なのですか、あれは。吸い込まれそうなくらい神秘的で、それでいながら体がすくみそうなくらいの威圧感を感じる……)
光を見つめるサクラは、そのように感じていた。
だが、いつまでもそんな風に呆然としているわけにはいかなかった。
突如として漆黒のオーラが弾け飛ぶ。そして、小屋の屋根やら地面に付着すると、漆黒のオーラが生き物のように起き上がってきたのだ。
(これは?!)
そう思った次の瞬間、サクラは叫んでいた。
「敵襲ーっ!!」
だが、それと同時にうごめく漆黒のオーラがサクラに向けて襲い掛かってくる。
「おっと、そうはいかねえな!」
漆黒のオーラの攻撃はサクラに届く事なく、ばっさりと斬って捨てられた。
「タン様!」
「おう、サクラ。何やら面白そうな事になってるじゃないか」
「面白そうって……。非常事態ですよ?」
「悪い悪い。腕試しができそうって意味だ。そういうサクラだって、体が戦いたくて震えてるじゃないか」
「ふっ、まあ、良くも悪くも辺境伯の血が騒いでしまいます。これは楽しめそうだって」
サクラとタンは、背中合わせになりながら笑っている。本当にこの脳筋戦闘民族ときたら……である。
突如として巻き起こる魔物の襲撃。宙に浮かぶテールと放たれる赤い光との関係はなんなのか。
疑問はたくさんあるものの、まずは襲い来る魔物を倒す方が先なのだ。サクラたちは剣を構えたのだった。
食材に関してはウーリンの街の人たちが全部用意してくれるので、なかなかに至れり尽くせり。調理や後片付けといった手間はあるものの、それなりに自由な時間は存在していた。
自由な時間ともなれば、私は転生者たちやライバル令嬢たちと一緒に話をする事が多かった。
ただ、そこに一人まったくの赤の他人が混ざり込んでいたのだが……。なぜ一緒に居るのかしらね、この子。
その子の名前はテール・ロートント男爵令嬢。元々は平民だったらしいだけど、ロートント男爵の養子になったらしい。見た目は普通のモブに近しい印象だけど、おどおどとしていて気の弱い性格ながらも一応武術型に属している。人は見かけによらないわね。
「さっきちょっと打ち合ってみたけど、別に悪くはないですよ。筋がいい感じなので、鍛えれば騎士にだってなれそうです」
「そ、そんな。わ、私なんて見よう見真似で剣を振ってるだけですよ……」
サクラに褒められれば、焦ったように両手を左右に振りながら謙遜している。さすがは元々平民というのが分かる反応だった。
「別に謙遜する必要はないですよ。私はこれでもバッサーシ辺境伯の娘です。剣に関しては詳しいですからね」
戸惑った様子のテールに対して、サクラはそう言いながら微笑んでいた。その様子に、テールは照れながら縮こまっていた。本当に初々しい反応だわね。あまりに可愛い反応なだけに、見ているだけで顔が綻んできてしまうわ。
ほのぼのとした感じで過ぎていく夏の合宿だったが、それは突然終焉を迎える。
それは、合宿の現場に着いてから4日目の夜の事だった。
妙な胸騒ぎがして、私は飛び起きる。
(何だろう、この感じ。ものすごく気持ち悪い魔力を感じるわ)
私は立ち上がって小屋の中から出て外を見る。
「な、なんなの、あれは!」
そこで私は、思いもよらないものを見る事になってしまった。
夜空に浮かぶ赤い光が見えたのだ。一応まだ遠い位置だったものの、さすがにこれは異常事態だ。
「面倒な事になってるわね」
「まったくですね」
突然の声に驚く私。そこに居たのはエスカとミズーナ王女だった。転生者である二人も、私同様に異変を感じたようだったのだ。ちなみにモモはぐっすりと眠っているので、本当に私たち三人だけが感じたようだった。
だけども、それを不思議に思っている暇はなかった。赤い光は徐々にこちらに向かってきているからだ。このままではこの合宿場はもちろんの事、茶畑やウーリンの街にだって被害が出かねない。私たちは、黙ってこくりと頷くと風魔法を使って宙に浮かぶ。
「どうやら、あちらの方向からだけみたいですね」
ミズーナ王女が辺りを見回しながら確認した上で話す。
「そのようね。まったく、なんだっていうのかしらね」
エスカはぷんぷんと怒っている。ちなみにエスカは風魔法が使えないので、私に掴まった状態だ。
「なんでこんな事になってるか知らないけど、被害が出る前に全部ぶっ倒しちゃいましょうか」
「賛成ね」
「同じく」
そんなわけで、私たちは魔物の群れに向かって風魔法で飛んでいく。平穏を乱す事は許されないわ。
ある程度魔物に近付いたところで、私たちは全力で魔法をぶっ放した。
そこの頃、合宿の小屋の中でも異変が起こっていた。
これに最初に気が付いたのはサクラだった。体を起こして部屋の中を見ると、一人だけ姿が見えなくなっていたのだ。
(あそこのベッドは、確かテール様でしたね。こんな夜中にどこに行ったのかしら)
どういうわけか、小屋の中からテールが居なくなっていたのだ。
気になって小屋の外へ出ていくサクラ。そこで目にしたものは信じられない光景だった。
「なっ、あれはテール様?!」
なんと、テールの体が宙に浮いていたのだ。しかも、闇夜でもはっきり認識できるような漆黒のオーラに包まれて。一体何が起きているのか分からなかった。
しかし、その胸からは眩いまでの赤い光が放たれていた。
(な、何なのですか、あれは。吸い込まれそうなくらい神秘的で、それでいながら体がすくみそうなくらいの威圧感を感じる……)
光を見つめるサクラは、そのように感じていた。
だが、いつまでもそんな風に呆然としているわけにはいかなかった。
突如として漆黒のオーラが弾け飛ぶ。そして、小屋の屋根やら地面に付着すると、漆黒のオーラが生き物のように起き上がってきたのだ。
(これは?!)
そう思った次の瞬間、サクラは叫んでいた。
「敵襲ーっ!!」
だが、それと同時にうごめく漆黒のオーラがサクラに向けて襲い掛かってくる。
「おっと、そうはいかねえな!」
漆黒のオーラの攻撃はサクラに届く事なく、ばっさりと斬って捨てられた。
「タン様!」
「おう、サクラ。何やら面白そうな事になってるじゃないか」
「面白そうって……。非常事態ですよ?」
「悪い悪い。腕試しができそうって意味だ。そういうサクラだって、体が戦いたくて震えてるじゃないか」
「ふっ、まあ、良くも悪くも辺境伯の血が騒いでしまいます。これは楽しめそうだって」
サクラとタンは、背中合わせになりながら笑っている。本当にこの脳筋戦闘民族ときたら……である。
突如として巻き起こる魔物の襲撃。宙に浮かぶテールと放たれる赤い光との関係はなんなのか。
疑問はたくさんあるものの、まずは襲い来る魔物を倒す方が先なのだ。サクラたちは剣を構えたのだった。
7
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
そして乙女ゲームは始まらなかった
お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。
一体私は何をしたらいいのでしょうか?
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる