伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
上 下
263 / 500
第五章 2年目前半

第263話 2年目の夏合宿・往路

しおりを挟む
 合宿の地へ向けて出発する日、私たちは学園へと出向く。収納魔法があるので、私の荷物はまったくない。モモもエスカも手ぶらである。これだけの人数の荷物を余裕でしまい込めるだなんて、本当に収納魔法様様よね。
 実際、他の学生たちの荷物は軒並み多かった。なにせ1週間、往復を含めれば2週間もある合宿だものね。ましてや貴族の子女たちなのだから、そりゃ荷物がかさばってしまうものなのである。私みたいに収納魔法を持ち合わせている人物って、そうそう居るわけないものね。なにせ希少魔法だもの。
 今回の合宿の参加者は、学園全体の半数ほどに上った。実に大所帯である。馬車の数もシャレにならない。荷物との関係で1つの馬車に乗るのは四人程度なのだ。100人は超えているのだから、教師たちを含めれば実に30台はゆうに超えているという圧巻の光景である。一国の貴族の子女はかなり多かったのだ。
 学園からぞろぞろと出発していく、夏の合宿の参加者たちを乗せた馬車の群れ。さすがに王都の人たちも見慣れない光景に、なんだなんだと注目を集めてしまっていた。こんな大行列、他国の王族が来た時くらいにしか見る事がないから、それは仕方のない事よね。そんなわけで、王都を出るまでの間、私たちは王都を行き交う人たちから注目を集めたままだった。
 王都トーミを出て、まずは南へ向かって街道を進んでいく。
 初日は宿場町に泊まるのだけれど、さすがに大人数すぎて街の中で泊まるのは不可能だった。結局私たちは街の外で野宿である。早速文句を言う学生が居たのだが、こればかりは我慢だわ。それほど大きくはない街に、100人を超えた団体を泊める余裕なんていうのはないんだもの。
 ちなみにだけど、私は収納魔法にしまい込んでおいた天幕を出して、その中で休んでいた。そのてっぺんにはちゃんと魔物除けを施した簡素だけど豪華なものよ。自分で一生懸命こさえた天幕なのよ。
「アンマリアったら、準備がいいわね……」
「いろいろと事情があるのよ。前世ではキャンプをした事はないけど、したくなってテントを買ったから、その時の知識が役に立ったわね」
「なるほど……」
 エスカとこそこそと話をする私なのだった。それを見ながらくすくすと笑うミズーナ王女に、何を話しているのか分からなくて首を傾げるモモ。
 私のグループはこの四人となっていたのだった。結局変わり映えのしない四人というよりは、この四人で組ませるしかなかったといった感じである。このグループ分け、教師たちも相当苦労したと思われる。
 あと、他のライバル令嬢たちも一緒の班に組み分けられていた。でも三人だったから、誰か知らない人が一人放り込まれていたけど、ものすごく居づらそうにしていた。学年が違うのかしらね。
 気になった私は、ラムたちのグループに声を掛けていた。
「これはアンマリア様。どうなさったのですか?」
 ラムが尋ねてくる。
「いえ、みなさんの様子が気になって見に来ただけです。深い意味はございませんわ」
 それに素直に答える私。
「そうですか。別の班になってしまいましたものね。普段はよく一緒ですから、気になってしまいますわよね」
 ラムはにこやかに微笑んでいた。
「ところで、そちらの方は?」
 私はちらりとサクラに絡まれている女子が気になった。
「数少ない武術型の女子学生ですわね。今年入学した1年生らしいですわ。名前は確か……」
「テールです。テール・ロートントと申します。父の爵位は男爵です」
 名前を名乗ったテールは、ぺこりと頭を下げて挨拶をする。
「ああ、ロートント男爵の娘さんですのね。ええ、父親のロートント男爵は存じております。娘さんがいらしたんですね」
「あっ、はい。ただし私は養子ですが」
 なんとまあ、養子であるなら知らなくても無理はない話だった。所作こそそこそこ身に付いているようだけれども、どこか自信なさげな様子を見るに、おそらくは平民の子どもだったのだろう。
 子が儲けられない貴族の中には、爵位の維持のためだけに平民を迎え入れる貴族も少なからず存在している。テールはそういった意図で養子にされたのだろう。だが、その場合は通常男子を迎え入れるのだが、なぜ女子を迎え入れたのか。そればかりは謎だけど、この際はとりあえず考えない事にした。
「そう、貴族の生活は大変でしょうけれど、頑張って下さいな」
「は、はい!」
 私が励ますと、元気よく返事をしていた。うん、初々しいわね。
 その様子を見ながら、なるほどと思う私である。
 なにせこのグループは武術に関しても魔法に関しても、それなりに長けた人物が居るのだから。サキは劣るとはいえ聖女という立ち位置だ。この三人が居るのならば、そう問題は起こらないはず。
「それではお邪魔しました。テール様でしたわね、ラム様たちは私と同じ2年生ですから、先輩にあたります。分からなくなったら、遠慮なく質問して下さいね。おそらくちゃんとした答えが返ってくるはずですから」
「は、はい。分かりました」
 テールはおどおどしながら答えていた。私はにこりと微笑むとモモたちのところへと戻っていく。
 はてさて、初めて全学年合同となった夏合宿。何事もなく無事に終える事ができるのだろうか。
 合宿はまだ始まったばかりである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...