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第五章 2年目前半

第261話 身内に起こった事

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 タミールの部屋に入って、私は愕然とした。
 そこに居たのは去年に無邪気な姿を見せていたタミールではなく、元気なく横たわるタミールだった。
「……いつから、こんな状態に?」
 私は、伯父夫婦に確認する。すると帰ってきた答えは去年の暮れくらいからという事だった。つまり少なくとも半年はこの状態という事らしい。
 だけど、私はいつまでも愕然としていられなかった。いとこの痛々しい姿を見ていられない、すぐにでも治してやりたくなったのだ。
「……この症状は、見た事あるわ」
「……本当か?!」
 タミールの姿を見た私は、ぽつりと呟く。それが聞こえたらしく、伯父がもの凄く反応している。
「これは、リブロ殿下が患っていたものと同じ、『魔力循環不全』ですね。魔力と体と精神のバランスが崩れて起きる、重篤な病気です」
 ふとタミールに鑑定魔法を使う私。よく見ると、どうにか生き延びようとして、頭と心臓のあたりだけどうにか魔力の循環が保たれている状態だった。とりあえず生きているし、生きようとしている状態を見て、私は少し落ち着く事ができた。
「おじ様、タミールに入学前に無茶させていませんでしたかね。私たちくらいの年齢だと結構繊細ですから」
「ああ、そうか……。少し厳しくし過ぎたかも知れないな。アンマリア、君の話はこの領地にもよく届いているからね」
 私が確認を取ると、伯父はそんな事を言ってきた。どうやら、私を目標にして無理をし過ぎたっぽい。こういうのは無理じゃなくて無茶って言うんだけどね。
「おじ様、もっと早く私を呼んでくれればよかったですのに。そしたら、いつでも文字通り飛んできましたよ」
 私はそう言いながら、タミールの右手と左手を掴む。そして、リブロ王子の時と同じように、集中しながら自分の魔力を流し込んでいった。
 薄暗い部屋の中で、私とタミールの両手が光る。うまく魔力が伝わっている証だった。一瞬外に魔力が漏れるために、こうやって接点が光るというわけなのよ。
(大丈夫。リブロ王子の時の経験が活きるはずよ。私の右手から左手へ、ゆっくり……ゆっくりと魔力を流していくのよ)
 私は集中する。
 私の後ろでは伯父夫婦が心配そうに見守っている。
 それにしてもだ。よくもまあこんなになるまで放置していたものだ。
 とはいえ、知らなければ魔力循環不全とは見抜けない事が多いので、こうなるのも仕方がないだろう。伯父たちは領地の仕事で忙しいわけだし、対処が分からなければ使用人たちだって手の施しようがないのだから。結局、対処が分からないままそのまま放置して様子を見る事になったのだろう。
 リブロ王子の時もそうだったけど、この魔力循環不全も分からない事が多い。なにせこれが発動して動かなくなると食事をしないのに生きているわけだから。私だって分かるのは治療法のみだものね。
 いろいろと考える事はあるけれど、とにかく今は治療が最優先。私はとにかく魔力の循環を正常に戻すために魔力を流し込んでいく。
 しばらくすると、タミールの顔に血色が戻り始めてきた。さすがにリブロ王子の時と違って半年と短いだけあってか、結構早く魔力の循環を取り戻せそうだった。
 時間にして1時間程度かしら。ここで私はひと息を入れる。
 それというのも、タミールの血色がだいぶ戻ってきていたからだ。ここまで回復すれば、後は自然回復でもどうにかなるはずだ。
「お疲れ、アンマリア。タミールの顔色がだいぶ良くなってきたよ、ありがとう」
 伯父が私にそう声を掛ける。伯母にいたっては泣き始めていた。
「いいえ、まだ予断は許されません。もうしばらく魔力を流し続けられればいいのですが……」
「これでまだ回復じゃないのかい?」
「はい、残念ながら。一応全身の魔力循環を取り戻すまでには至りましたが、最低あと1時間……いえ30分くらいは続けないと、また凝り固まる可能性があります」
「う、うむぅ……」
 私の言葉を聞いて、伯父は唸って考え込んでしまった。正直私がやれればいいのだけど、私だって暇じゃない。父親との話を途中で投げてまでやって来たのだ。心配を掛けている可能性しかないのだ。
 そこで手を上げたのは、伯母だった。
「私にやらせてもらえますか。母親として、見ているだけというのはつらくて耐えられませんから」
「分かりました。やり方を教えます」
 伯母が手を上げてくれた事で、私は早速魔力循環不全の治療の仕方を教える。とにかく両手を持って自分の魔力を相手に流し込む事、これがすべてである。身内の魔力であるならば、赤の他人に施すよりは循環をさせやすくなる。実際、私の手による治療も、経験の有無の差があるとはいえ、リブロ王子の時に比べれば格段に楽だったのだから。
 それからしばらくの間、伯母に治療の仕方を教える私。
「では、私はこれで帰りますね。急に胸騒ぎがしてやって来たので、こっちの家族が心配していると思いますので」
「ああ、すまなかったな。助かったよ、アンマリア」
 そういう伯父の姿に、私は静かに微笑んでおいた。
「回復したら連絡下さいませ。こちらはいつでもタミールを受け入れる用意はできていますのでね」
「分かった。ゼニークにもよろしく伝えておいてくれ」
 伯父の言葉を聞いた私は、そこから瞬間移動魔法で一気に王都の伯爵邸まで跳んだのだった。
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