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第五章 2年目前半
第259話 結果発表!
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翌日、学園に向かう私たちが乗る馬車の中は、ものすごく重い空気に包まれていた。
それというのもエスカのせいだ。
エスカの目の下にはものすごいクマができていた。おそらく眠れなかったのだろうが、ひと晩ごときでそこまで酷いクマができるのかは甚だ疑問だけど、とりあえず前期末試験の手応えがよろしくなかったのだけは読み取れる状態だった。
私は堂々としているのだけど、隣ではモモがおろおろと取り乱していた。
「モモ、エスカ王女殿下の事はそっとしておきなさい。今は声を掛ける方が危険よ」
「でも、お姉様……」
心配そうにするモモに、私は首を横に振って答えた。触るな危険の状態にあるから仕方ないわ。
そんなわけで、私たちはエスカに対して、最小限の対応だけしておいたのだった。
学園に着くと、朝から廊下が騒がしかった。学年ごとの成績が貼り出されていたのだ。かなりの人数の成績だから、それは校舎の端から端までを使い切るようなレベルで貼り出されていた。
「一年生は向こうのようね。エスカ王女、参りましょうか」
私の呼び掛けに、エスカは表情を強張らせて無言で突っ掛かってきていた。相当に自信がないようだ。
しかし、見ないわけにはいかなかった。赤点を取れば夏休みは補習で消えるのだから。合宿の参加は強制になるし、それ以外も学園に出なければいけなくなる。バケーションを謳歌できなくなる事は、エスカにとっては死活問題のようだった。
ところがどっこい、結果は意外なものだった。
「あっ、あった!」
いきなり、エスカが声を上げる。どうやら、自分の名前を見つけたらしい。
「あら、どの辺にですか」
そのエスカに対して、声を掛ける人物が居た。ミズーナ王女である。
「はっ、ミズーナ?!」
その声に驚くエスカだった。
「私も1年生ですから、成績を見ていて何か問題がございまして?」
「……そ、そうだった」
にこりと微笑むミズーナ王女に対して、冷静になるエスカだった。この様子だとその辺の事を失念していたように思える。そのくらいには今回は追い詰められていたのだろう。
「ミズーナはどのくらいの成績で?」
ごまかすようにミズーナ王女に問い掛けるエスカ。すると、ミズーナ王女はゆっくりと歩いていって、自分の名前のところを指差していた。
「な、なんとぉっ?!」
大げさに驚くエスカ。
それもそうだろう。ミズーナ王女が指差したのは上位10人のちょうど真ん中あたり、5位だったのだから。
魔法実技の試験は当然トップだったミズーナ王女だが、座学試験はさすがよその国の王女とあって少し成績が悪かったようなのだ。それでも5位に名を連ねているあたり、すごいと言えるだろう。
それに比べてエスカの成績はというと……。
真ん中から少し下という、なんとも王族としては恥ずかしい成績だったのだ。魔法実技は結果として振るわなかったが、それでも成績を押し上げるには十分だったようで、座学試験だけなら赤点の可能性があったようである。うーん、これは厳しいとしか言いようがなかった。
ベジタリウスと同じようにサーロイン王国の隣国とはいえ、ここまで成績に差が出てしまうとどうしたものかと思ってしまう。ミール王国はまだベジタリウス王国に比べて国交がしっかりとしているというのに、ここまで学力で水を開けられるというのは、実に甚だ疑問に感じてしまう。なにせ、エスカの兄のアーサリーも座学ボロボロで実技で成績を押し上げていたのだから。……ミール王国って実は脳筋の国なんじゃという疑いを持つには十分すぎる結果だった。
まあ、一応赤点は免れたので、これでエスカも夏休みは普通に満喫できるようである。その時のエスカの表情ったら、本当に安心したというのがよく分かるくらいに緩み切っていた。
「成績は王族としては満足できたものではないですが、ちゃんと夏休みが送れるようで安心しましたね」
「ええ」
ミズーナ王女に声を掛けられると、エスカは安心したように声を漏らしている。
「ですが!」
しかし、それは束の間の事だった。
「この程度で満足しているようでは、いけませんね。王族の成績はその国のレベルを決定づけてしまいます。これではミール王国の国民はバカばかりと言っているようなものですから、もっと努力して頂けませんとね。エスカだって、国民をバカにされるのは嫌でしょう?」
「ひっ!」
この時のミズーナ王女の笑顔に、エスカは恐怖を感じてしまっていた。笑っているのに笑っていないのである。この時のミズーナ王女の圧に、エスカはものの見事に撃沈したのだった。ミズーナ王女の成績がいいから、なおのこと説得力があるものね。
「なーむー」
私は思わず合掌してしまうのだった。
こうして、2年生の前期も無事に終わりを告げようとしていた。
夏休みに入るまでにある行事はモモの誕生日だけだし、それが終われば今年も合宿だわね。はてさて、今年は特に何もないといいんだけどね。
ちょっとした期待と不安を抱きながら、2年目の夏休みを向かようとする私たちだった。
それというのもエスカのせいだ。
エスカの目の下にはものすごいクマができていた。おそらく眠れなかったのだろうが、ひと晩ごときでそこまで酷いクマができるのかは甚だ疑問だけど、とりあえず前期末試験の手応えがよろしくなかったのだけは読み取れる状態だった。
私は堂々としているのだけど、隣ではモモがおろおろと取り乱していた。
「モモ、エスカ王女殿下の事はそっとしておきなさい。今は声を掛ける方が危険よ」
「でも、お姉様……」
心配そうにするモモに、私は首を横に振って答えた。触るな危険の状態にあるから仕方ないわ。
そんなわけで、私たちはエスカに対して、最小限の対応だけしておいたのだった。
学園に着くと、朝から廊下が騒がしかった。学年ごとの成績が貼り出されていたのだ。かなりの人数の成績だから、それは校舎の端から端までを使い切るようなレベルで貼り出されていた。
「一年生は向こうのようね。エスカ王女、参りましょうか」
私の呼び掛けに、エスカは表情を強張らせて無言で突っ掛かってきていた。相当に自信がないようだ。
しかし、見ないわけにはいかなかった。赤点を取れば夏休みは補習で消えるのだから。合宿の参加は強制になるし、それ以外も学園に出なければいけなくなる。バケーションを謳歌できなくなる事は、エスカにとっては死活問題のようだった。
ところがどっこい、結果は意外なものだった。
「あっ、あった!」
いきなり、エスカが声を上げる。どうやら、自分の名前を見つけたらしい。
「あら、どの辺にですか」
そのエスカに対して、声を掛ける人物が居た。ミズーナ王女である。
「はっ、ミズーナ?!」
その声に驚くエスカだった。
「私も1年生ですから、成績を見ていて何か問題がございまして?」
「……そ、そうだった」
にこりと微笑むミズーナ王女に対して、冷静になるエスカだった。この様子だとその辺の事を失念していたように思える。そのくらいには今回は追い詰められていたのだろう。
「ミズーナはどのくらいの成績で?」
ごまかすようにミズーナ王女に問い掛けるエスカ。すると、ミズーナ王女はゆっくりと歩いていって、自分の名前のところを指差していた。
「な、なんとぉっ?!」
大げさに驚くエスカ。
それもそうだろう。ミズーナ王女が指差したのは上位10人のちょうど真ん中あたり、5位だったのだから。
魔法実技の試験は当然トップだったミズーナ王女だが、座学試験はさすがよその国の王女とあって少し成績が悪かったようなのだ。それでも5位に名を連ねているあたり、すごいと言えるだろう。
それに比べてエスカの成績はというと……。
真ん中から少し下という、なんとも王族としては恥ずかしい成績だったのだ。魔法実技は結果として振るわなかったが、それでも成績を押し上げるには十分だったようで、座学試験だけなら赤点の可能性があったようである。うーん、これは厳しいとしか言いようがなかった。
ベジタリウスと同じようにサーロイン王国の隣国とはいえ、ここまで成績に差が出てしまうとどうしたものかと思ってしまう。ミール王国はまだベジタリウス王国に比べて国交がしっかりとしているというのに、ここまで学力で水を開けられるというのは、実に甚だ疑問に感じてしまう。なにせ、エスカの兄のアーサリーも座学ボロボロで実技で成績を押し上げていたのだから。……ミール王国って実は脳筋の国なんじゃという疑いを持つには十分すぎる結果だった。
まあ、一応赤点は免れたので、これでエスカも夏休みは普通に満喫できるようである。その時のエスカの表情ったら、本当に安心したというのがよく分かるくらいに緩み切っていた。
「成績は王族としては満足できたものではないですが、ちゃんと夏休みが送れるようで安心しましたね」
「ええ」
ミズーナ王女に声を掛けられると、エスカは安心したように声を漏らしている。
「ですが!」
しかし、それは束の間の事だった。
「この程度で満足しているようでは、いけませんね。王族の成績はその国のレベルを決定づけてしまいます。これではミール王国の国民はバカばかりと言っているようなものですから、もっと努力して頂けませんとね。エスカだって、国民をバカにされるのは嫌でしょう?」
「ひっ!」
この時のミズーナ王女の笑顔に、エスカは恐怖を感じてしまっていた。笑っているのに笑っていないのである。この時のミズーナ王女の圧に、エスカはものの見事に撃沈したのだった。ミズーナ王女の成績がいいから、なおのこと説得力があるものね。
「なーむー」
私は思わず合掌してしまうのだった。
こうして、2年生の前期も無事に終わりを告げようとしていた。
夏休みに入るまでにある行事はモモの誕生日だけだし、それが終われば今年も合宿だわね。はてさて、今年は特に何もないといいんだけどね。
ちょっとした期待と不安を抱きながら、2年目の夏休みを向かようとする私たちだった。
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