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第五章 2年目前半
第254話 嵐の兆し
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実に2週間ぶりの学園だったけれど、すんなり私たちは日常に戻れた。やっぱり友人が多いというのは有利に働いたわね。それに比べると、1年年下の面々は大変そうだけど。まあ、王族ばかりだから大丈夫かな。
とりあえず、午前中は淡々と授業を消化していった。
昼休みになって食堂を向かった私たち。
「待っていたわよ、アンマリア」
目の前ででーんと腰に手を当てて待ち構えていたエスカは、私に向かっていきなり声を掛けてきた。まったく、人の集まる食堂でいきなり大声を出すんじゃないわよ。
そこへ出てきたのはラムだった。
「これはエスカ・ミール王女殿下。食堂で騒ぐのはおやめになって下さいませんか」
さすが公爵令嬢。王族相手でもまったく怯みやしない。
「それは失礼しましたわね。でも、私が用事があるのはそこのアンマリアです」
びしっと指を差してくるエスカ。わがままお姫様みたいな行動はやめてくれないかしらね。
「エスカ王女殿下。入口で騒ぐのは目立ちますから、さっさと中に入って食事にしましょう。お話はそれからでもよろしいでしょう?」
私はとにかく落ち着けと言わんばかりにエスカに言う。すると、エスカはおとなしくそれに従ってくれた。まったく、同じ転生者ながらに、どうしてこうも振る舞いが違ってしまうのかしらね。
中へ入って料理を受け取った私たちは、食堂の中で空いていた奥の方の席に陣取る。
座って食事にしようかとしたその時、もう一人姿を見せた人物が居た。
「私もご一緒してよろしいでしょうか」
もう一人の転生者で、拡張版のヒロインのミズーナ王女だった。
「これはミズーナ・ベジタリウス王女殿下。王女殿下の申し出を断れるはずもございません、どうぞこちらへ」
これに反応したのはやっぱりラムだった。さすがは公爵令嬢。こういう時には頼りになるものである。
こうして、サクラ・バッサーシを除く、乙女ゲームのヒロインとライバル令嬢が全員勢ぞろいしてしまった。なに、この絵面……。
一つのテーブルに私、ミズーナ王女、エスカ。
もう一つのテーブルにラム、サキ、モモという組み合わせで座っている。モモは私とテーブルが別になったせいか、エスカの事をじっと睨んでいた。ずるいとでも思っているんだろうなぁ……。
「で、一緒のテーブル囲んだわけだけど、一体何の話なのかしら」
私は苦笑いをしながらエスカとミズーナ王女に話を振ってみる。すると、エスカはさっきまでとは打って変わって、かなり真剣な表情を見せていた。
私とミズーナ王女がごくりと息を飲んだ次の瞬間、エスカはその口を開いた。
「二人と同じテーブルになれてよかったわ。あまり外部には漏らしたくない話なのよ」
やけにその口調が重苦しい。一体どうしたというのだろうか。
「アーサリーにも話はいっているんだけど、先日の建国祭の最中、二人が戦った魔物についての調査の速報が届いたのよ」
「なんですって?」
エスカが切り出した言葉に、私たちは驚くしかなかった。
「詳しく聞かせてくれない?」
ミズーナ王女も気になるようで、エスカに話し掛ける。それに対して、無言で頷くエスカ。
「あの魔物たちは、明らかにあの海域に生息していない魔物だという事が分かったのよ。一部の魔物の素材を提供してもらって調べた結果なんだけどね」
「という事は、どこからともなくあの場に引き寄せられたという事かしら」
「……そういう事になるわね。ただ、その原因は今だもって調査中だから、詳しい事は分かり次第という事になるわね。まだ現場海域には魔力の残滓があるようだし、アンマリアとミズーナ、それと私の魔力以外の何かが残っていないか、王国を上げて調べているわ」
思ったよりとんでもない事態だっただけに、私とミズーナ王女は言葉を失ってしまった。
「ただね。あの建国祭には魔物がそれなりに来ていたのよ。ほら、貢物を海に流すでしょ?」
「ああ、確かにそうでうね」
建国祭の段取りを思い出しながら、私はエスカの言葉に頷いた。
「その貢物に引かれて近海の魔物は毎年集まってきていたのよ」
「だけど、今年はその魔物が明らかに異常だったと。そういう事ですのね」
ミズーナ王女が確認のように発言すると、エスカは真剣な表情で頷いて肯定していた。
よその海域の魔物までおびき寄せるという事は、確かに由々しき事態である。
実際に戦った私とミズーナ王女だけども、私たちを持って苦戦するような相手だったわけだからね。
「……おそらくだけど、私たちミール王家を滅ぼそうとする向きがあったのかも知れないわね。ましてや今年は他の王族も揃っているわ。もしかしたら、フィレン殿下の誕生パーティーと同じで、私たちの国を混乱に貶めようとする連中によるものかも知れないわ」
エスカの言葉に、私たちはごくりと息を飲んだ。
王家の者たちが集まる式典を狙い撃ちにしたかのような動きなのだ。これは背後に戦乱を望む、危険な連中が居るという事他ならないのだもの。
これは、さすがに放っておけない事態だと推察される。
「……今まで以上に気を引き締めないといけないわね」
「まったくですね」
空気が重苦しくなってしまったが、ここで考えていても埒が明かないので、私たちは食事をとりあえず平らげた。
今年になって次々と起こる不穏な動き。一体、この乙女ゲームの世界で何が起きようとしているのだろうか。
とりあえず、午前中は淡々と授業を消化していった。
昼休みになって食堂を向かった私たち。
「待っていたわよ、アンマリア」
目の前ででーんと腰に手を当てて待ち構えていたエスカは、私に向かっていきなり声を掛けてきた。まったく、人の集まる食堂でいきなり大声を出すんじゃないわよ。
そこへ出てきたのはラムだった。
「これはエスカ・ミール王女殿下。食堂で騒ぐのはおやめになって下さいませんか」
さすが公爵令嬢。王族相手でもまったく怯みやしない。
「それは失礼しましたわね。でも、私が用事があるのはそこのアンマリアです」
びしっと指を差してくるエスカ。わがままお姫様みたいな行動はやめてくれないかしらね。
「エスカ王女殿下。入口で騒ぐのは目立ちますから、さっさと中に入って食事にしましょう。お話はそれからでもよろしいでしょう?」
私はとにかく落ち着けと言わんばかりにエスカに言う。すると、エスカはおとなしくそれに従ってくれた。まったく、同じ転生者ながらに、どうしてこうも振る舞いが違ってしまうのかしらね。
中へ入って料理を受け取った私たちは、食堂の中で空いていた奥の方の席に陣取る。
座って食事にしようかとしたその時、もう一人姿を見せた人物が居た。
「私もご一緒してよろしいでしょうか」
もう一人の転生者で、拡張版のヒロインのミズーナ王女だった。
「これはミズーナ・ベジタリウス王女殿下。王女殿下の申し出を断れるはずもございません、どうぞこちらへ」
これに反応したのはやっぱりラムだった。さすがは公爵令嬢。こういう時には頼りになるものである。
こうして、サクラ・バッサーシを除く、乙女ゲームのヒロインとライバル令嬢が全員勢ぞろいしてしまった。なに、この絵面……。
一つのテーブルに私、ミズーナ王女、エスカ。
もう一つのテーブルにラム、サキ、モモという組み合わせで座っている。モモは私とテーブルが別になったせいか、エスカの事をじっと睨んでいた。ずるいとでも思っているんだろうなぁ……。
「で、一緒のテーブル囲んだわけだけど、一体何の話なのかしら」
私は苦笑いをしながらエスカとミズーナ王女に話を振ってみる。すると、エスカはさっきまでとは打って変わって、かなり真剣な表情を見せていた。
私とミズーナ王女がごくりと息を飲んだ次の瞬間、エスカはその口を開いた。
「二人と同じテーブルになれてよかったわ。あまり外部には漏らしたくない話なのよ」
やけにその口調が重苦しい。一体どうしたというのだろうか。
「アーサリーにも話はいっているんだけど、先日の建国祭の最中、二人が戦った魔物についての調査の速報が届いたのよ」
「なんですって?」
エスカが切り出した言葉に、私たちは驚くしかなかった。
「詳しく聞かせてくれない?」
ミズーナ王女も気になるようで、エスカに話し掛ける。それに対して、無言で頷くエスカ。
「あの魔物たちは、明らかにあの海域に生息していない魔物だという事が分かったのよ。一部の魔物の素材を提供してもらって調べた結果なんだけどね」
「という事は、どこからともなくあの場に引き寄せられたという事かしら」
「……そういう事になるわね。ただ、その原因は今だもって調査中だから、詳しい事は分かり次第という事になるわね。まだ現場海域には魔力の残滓があるようだし、アンマリアとミズーナ、それと私の魔力以外の何かが残っていないか、王国を上げて調べているわ」
思ったよりとんでもない事態だっただけに、私とミズーナ王女は言葉を失ってしまった。
「ただね。あの建国祭には魔物がそれなりに来ていたのよ。ほら、貢物を海に流すでしょ?」
「ああ、確かにそうでうね」
建国祭の段取りを思い出しながら、私はエスカの言葉に頷いた。
「その貢物に引かれて近海の魔物は毎年集まってきていたのよ」
「だけど、今年はその魔物が明らかに異常だったと。そういう事ですのね」
ミズーナ王女が確認のように発言すると、エスカは真剣な表情で頷いて肯定していた。
よその海域の魔物までおびき寄せるという事は、確かに由々しき事態である。
実際に戦った私とミズーナ王女だけども、私たちを持って苦戦するような相手だったわけだからね。
「……おそらくだけど、私たちミール王家を滅ぼそうとする向きがあったのかも知れないわね。ましてや今年は他の王族も揃っているわ。もしかしたら、フィレン殿下の誕生パーティーと同じで、私たちの国を混乱に貶めようとする連中によるものかも知れないわ」
エスカの言葉に、私たちはごくりと息を飲んだ。
王家の者たちが集まる式典を狙い撃ちにしたかのような動きなのだ。これは背後に戦乱を望む、危険な連中が居るという事他ならないのだもの。
これは、さすがに放っておけない事態だと推察される。
「……今まで以上に気を引き締めないといけないわね」
「まったくですね」
空気が重苦しくなってしまったが、ここで考えていても埒が明かないので、私たちは食事をとりあえず平らげた。
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