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第五章 2年目前半
第247話 お祭り騒ぎの夜
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魔物を討伐し終えて私たちが建国祭の会場に戻ってくると、会場内はとても騒がしくなっていた。
お手洗いから戻ってきた振りをして自分の席に着くと、王妃たちから声を掛けられた。
「あなたたち、無事でしたのね」
心配そうな表情をして私に抱きついてくる王妃。一体どうしたのだろうかと、私はものすごく戸惑ってしまっていた。
すると、海の上にたくさんの竜巻が出現して、場が騒然になったという風に聞かされた。うん、ミズーナ王女の放ったテンペストだわ、それ。
案の定、会場は大騒ぎになってしまったようだ。
だけど、思ったよりもすぐに収まったので、建国祭の行事は再開して無事に済ませたとの事だった。あっぶなー……。
王妃から話を聞き終えて、私は自分のメイルシュトロームの話が出てこないだけでものすごく安心してしまった。ミズーナ王女がテンペストを放った原因が自分の魔法だというのにね。実にお気楽なものだと、後で思ったわね。
無事にメインとなるイベントが終わったので、私たちはクルスの街へと戻ってくる。そこではすでにお祭り騒ぎが始まっており、魚の焼けるにおいがあちこちから漂ってきていた。さすがお魚天国。
街の広場には王族たちが座るための特等席が組み上げられており、ミール国王たちはそこへ移動していく。
国王が席に座ると、ここで一度会場は静まり返る。国王の言葉を聞くために全員から注目が国王に注がれる。よく訓練された国民である。
「親しき我が国民たちよ。今年もまたこの日を無事に迎えられた事を嬉しく思う。これからもミール王国の発展のために、皆の力を貸してもらいたい!」
国王がこのように述べると、集まっている国民たちから大きな歓声が上がっている。なんともこの上ない国の一体感である。
だけども、さすがにこの時間にこの声量は、耳にとても痛いものだった。私を始め、この状況に慣れていない面々は、思わず耳を塞いでしまった。
「すごい……。さすがにこの状況は、私の国では見た事がありません」
こう言っているのはミズーナ王女である。両耳を手で押さえ、片目まで閉じている。とてもこの音量に耐えられないようだった。さすがはお姫様といったところである。
しかし、同じお姫様でも、エスカの方はぴんぴんとしていた。さすがは去年も参加していただけあってか、慣れているようだった。
「ふふっ、この程度で怯んでいるとは、情けないですね。私はなにせ前世でアイドルのコンサートとかに行っていたから、こういう大音響には慣れてますからね」
エスカが私たちに、いきなり驚くような事を打ち明けてきた。なんとアイドルの追っかけをしていたらしい。なるほど、今の性格も納得がいく気がした。騒がしいし馴れ馴れしいし、ホント困った子なんだもの。
エスカの前世の事に驚いているうちに国王による演説が終わり、いよいよお祭りのメインイベントの宴が始まった。
クルスの街の人たちも一生懸命に料理を振る舞っている。なにせ、年に一度、この時期だけのお祭りなのだから気合いが入るというものである。
王族たちが来るから何かあってはいけないと緊張して縮こまるかと思われるイベントだけど、むしろのびのびと大騒ぎの下地を作っていた。まっ、エスカもそうだけど、国王もあのノリじゃ緊張も無くなるわよね。
飲めや歌えやの大騒ぎの中、私たちも振る舞われる魚料理を堪能していた。さすがにここは港町だものね。料理はひたすら海産物なのよ。それでも調理法を変えたり味付けを変えたりと、飽きの来ないようにたくさんの料理が振る舞われていた。多分、この料理のいくつかはエスカのアイディアなんでしょうね。
結局この騒ぎはかなり遅くまで続いたらしい。
私たちよそ者や子どもたちは、さすがに起きていられなくて早めの退場になってしまった。
でも、それで素直に眠らないのが私たち。
私たち?
ええ、私とエスカとミズーナ王女の三人よ。
実はベッドに入る振りをして、さっきの祭壇のあった場所まで向かったのよ。
理由は簡単。魔物たちの素材を回収するため。さすがに時間が経ってしまっていて、かなり波にさらわれてしまっていたけれど、一部は海岸に流れ着いていたので、それを中心に回収していった。海洋生物の素材なんて珍しいものね。
本当ならさっき倒した時に回収しておきたかったのだけれど、あまり遅くなるとみんなに心配されちゃうと思って、泣く泣く放置してきたのよ。とほほ……。
「ちっちっ、任せなさい。さっきのだったら、私の魔法で引き寄せられるわよ。これでも転生者なんだから、反則的な魔法は使えるわ」
自信たっぷりのエスカ。私とミズーナ王女はよく分からないけれど、そのエスカの自信を見込んで任せてみる事にした。
次の瞬間、エスカが魔法を使うと、海水がものすごい勢いで砂浜へ向けて流れてきた。エスカが言うには闇と水の複合の魔法によって、先程の海水をここに引き寄せているらしい。
「こっそり、闇魔法であの時の状態を記憶させておいたのよ。それを今引き寄せてるの」
「なんてチートな事を……」
私たちは呆れてそれ以上のものが言えなかった。
そんなエスカの反則技によって、かなりの素材を回収した私たちは、収納魔法に素材を放り込んで、ばれないうちに宿へと戻ったのだった。
……まあ、ばれないわけもなく、全員揃って説教されたのは内緒だよ。
お手洗いから戻ってきた振りをして自分の席に着くと、王妃たちから声を掛けられた。
「あなたたち、無事でしたのね」
心配そうな表情をして私に抱きついてくる王妃。一体どうしたのだろうかと、私はものすごく戸惑ってしまっていた。
すると、海の上にたくさんの竜巻が出現して、場が騒然になったという風に聞かされた。うん、ミズーナ王女の放ったテンペストだわ、それ。
案の定、会場は大騒ぎになってしまったようだ。
だけど、思ったよりもすぐに収まったので、建国祭の行事は再開して無事に済ませたとの事だった。あっぶなー……。
王妃から話を聞き終えて、私は自分のメイルシュトロームの話が出てこないだけでものすごく安心してしまった。ミズーナ王女がテンペストを放った原因が自分の魔法だというのにね。実にお気楽なものだと、後で思ったわね。
無事にメインとなるイベントが終わったので、私たちはクルスの街へと戻ってくる。そこではすでにお祭り騒ぎが始まっており、魚の焼けるにおいがあちこちから漂ってきていた。さすがお魚天国。
街の広場には王族たちが座るための特等席が組み上げられており、ミール国王たちはそこへ移動していく。
国王が席に座ると、ここで一度会場は静まり返る。国王の言葉を聞くために全員から注目が国王に注がれる。よく訓練された国民である。
「親しき我が国民たちよ。今年もまたこの日を無事に迎えられた事を嬉しく思う。これからもミール王国の発展のために、皆の力を貸してもらいたい!」
国王がこのように述べると、集まっている国民たちから大きな歓声が上がっている。なんともこの上ない国の一体感である。
だけども、さすがにこの時間にこの声量は、耳にとても痛いものだった。私を始め、この状況に慣れていない面々は、思わず耳を塞いでしまった。
「すごい……。さすがにこの状況は、私の国では見た事がありません」
こう言っているのはミズーナ王女である。両耳を手で押さえ、片目まで閉じている。とてもこの音量に耐えられないようだった。さすがはお姫様といったところである。
しかし、同じお姫様でも、エスカの方はぴんぴんとしていた。さすがは去年も参加していただけあってか、慣れているようだった。
「ふふっ、この程度で怯んでいるとは、情けないですね。私はなにせ前世でアイドルのコンサートとかに行っていたから、こういう大音響には慣れてますからね」
エスカが私たちに、いきなり驚くような事を打ち明けてきた。なんとアイドルの追っかけをしていたらしい。なるほど、今の性格も納得がいく気がした。騒がしいし馴れ馴れしいし、ホント困った子なんだもの。
エスカの前世の事に驚いているうちに国王による演説が終わり、いよいよお祭りのメインイベントの宴が始まった。
クルスの街の人たちも一生懸命に料理を振る舞っている。なにせ、年に一度、この時期だけのお祭りなのだから気合いが入るというものである。
王族たちが来るから何かあってはいけないと緊張して縮こまるかと思われるイベントだけど、むしろのびのびと大騒ぎの下地を作っていた。まっ、エスカもそうだけど、国王もあのノリじゃ緊張も無くなるわよね。
飲めや歌えやの大騒ぎの中、私たちも振る舞われる魚料理を堪能していた。さすがにここは港町だものね。料理はひたすら海産物なのよ。それでも調理法を変えたり味付けを変えたりと、飽きの来ないようにたくさんの料理が振る舞われていた。多分、この料理のいくつかはエスカのアイディアなんでしょうね。
結局この騒ぎはかなり遅くまで続いたらしい。
私たちよそ者や子どもたちは、さすがに起きていられなくて早めの退場になってしまった。
でも、それで素直に眠らないのが私たち。
私たち?
ええ、私とエスカとミズーナ王女の三人よ。
実はベッドに入る振りをして、さっきの祭壇のあった場所まで向かったのよ。
理由は簡単。魔物たちの素材を回収するため。さすがに時間が経ってしまっていて、かなり波にさらわれてしまっていたけれど、一部は海岸に流れ着いていたので、それを中心に回収していった。海洋生物の素材なんて珍しいものね。
本当ならさっき倒した時に回収しておきたかったのだけれど、あまり遅くなるとみんなに心配されちゃうと思って、泣く泣く放置してきたのよ。とほほ……。
「ちっちっ、任せなさい。さっきのだったら、私の魔法で引き寄せられるわよ。これでも転生者なんだから、反則的な魔法は使えるわ」
自信たっぷりのエスカ。私とミズーナ王女はよく分からないけれど、そのエスカの自信を見込んで任せてみる事にした。
次の瞬間、エスカが魔法を使うと、海水がものすごい勢いで砂浜へ向けて流れてきた。エスカが言うには闇と水の複合の魔法によって、先程の海水をここに引き寄せているらしい。
「こっそり、闇魔法であの時の状態を記憶させておいたのよ。それを今引き寄せてるの」
「なんてチートな事を……」
私たちは呆れてそれ以上のものが言えなかった。
そんなエスカの反則技によって、かなりの素材を回収した私たちは、収納魔法に素材を放り込んで、ばれないうちに宿へと戻ったのだった。
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