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第五章 2年目前半

第244話 建国祭が始まった

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 あっという間に迎えるミール王国の建国祭。
 建国祭とはいっても、屋台が出て回って大騒ぎするだけのお祭りである。その中で国王たちが城から出てきて、港町クルスで海の神に感謝をして、祈りと供物を捧げるというものである。供物も昔っから食べ物とお酒と決まっているので、実に平和な祭典なのである。元が海賊だからといっても、お祭りまで野蛮ではなかった。
 その捧げる供物というのは、もちろんミール王国で産出されたものに限られるため、純粋にミール王国によるミール王国のためのお祭りなのだ。
「今日はシャオンで一日パレードをするだけだ。明日になるとクルスへ向かって出発して、クルスでの本番に臨む事になる。くれぐれもあまり出しゃばった真似はしないでくれ。我らが招待したとはいえ、我が国の建国祭なのでな」
「それは重々承知しております。お祭りを後世に伝えるための証人として立ち会わせて頂きます」
 ミール国王の言葉に、ミズーナ王女がそうはっきりと答えていた。
 私たちもそれは重々承知している。他国の事に干渉するような真似は控えるべきなのである。それが無駄な争いを起こさないための最低限の礼儀なのである。

 さて、建国祭にあたって、パレードのための馬車へと乗り込む私たち。
 先導隊となる騎士たちが先頭を行き、続いてミール王国の国王夫妻、アーサリーとエスカの王子王女、続けて私たちサーロイン王国の面々、最後がベジタリウス王国のレッタス王子とミズーナ王女である。
 このパレードで使われる馬車は屋根のない開放された馬車だ。そのために、何かあってはいけないと一応防護魔法が掛けてあるらしい。まあ自国民ならそこまで心配はないだろうけど、念には念をってやつよね。
 今日からほぼ1週間、ミール王国内はお祭りムードとなる。シャオンと港町クルスの2か所は、国中から人が集まっての大騒ぎなのだから、このくらいの警備は当たり前なのだ。
 私の前世の世界だって飛び道具による襲撃はあったんだし、魔法のあるこの世界ならそりゃ警備も大げさになるというものだわ。
 それに、今回は私たちサーロイン王国の王族と関係者、加えてベジタリウス王国の王子と王女まで居る。この厳重な警備は、ミール王国の覚悟の現れなのである。
 そこまで警戒していたのだが、シャオンにおけるパレードは実に問題なく終わった。
 シャオンの大通りを時間をかけてぐるりと一周するだけのものだったのだけど、沿道に居た王都の住民たちからは熱烈な歓迎を受けただけで済んだ。遠目に見たものだけども、広場を見れば屋台が出ていたり大道芸が行われていたりと、実にお祭りっぽい雰囲気で楽しそうだった。うーむ、できればそっちに行きたかったわね。
 城に戻ってクルス行きの馬車へと乗り換えていると、エスカが私を見てにやにやと笑っていた。なんかムカツクわね。
 とはいえ、今は大事な国家行事の真っ只中。問題を起こすわけにはいかなかった。私は我慢して馬車を乗り換える。
 クルスに向かう馬車は全部で3台になる。ミール王国の王家4人、後は国賓の男性陣と女性陣とで別々の馬車という事になった。つまり、私が乗る馬車にはサーロイン王妃とミズーナ王女が乗る事となる。……狭くね?
 私がそう思うのも無理はない。私とミズーナ王女は物理的に場所を取る。サーロイン王妃は衣装が凄いで、やはり物理的に場所を取る。いくら8人乗りの馬車とはいえども、これは容量的にギリギリだった。
 王族二人と同席となると、さすがに伯爵令嬢の私は肩身が狭い。だが、そもそもこれに参加をしている王族以外は私しか居ないのだから、最初から逃げ道などなかったのである。

 シャオンからクルスまでは馬車で2日間の道のりだ。シャオンを朝に出れば、翌日の夕方には着く事も可能な道のりである。
 今回はお昼に出たので、着くのは確実に2日後のお昼頃になるはず。
 しかし、この移動も実は建国祭の真っ只中なのよね。街道にはミール王家の面々を見ようと、多くの人が集まっていた。なんて言うか、世界の王族皇族のパレードを思い出すわね。馬車に乗って沿道の人たちに手を振って答えるってね。
 そんなこんなで、日中はさすがに退屈はしない。野営となると騎士や兵士たちが警備にあたるし、さすがにこの時ばかりは人は寄ってこれないものね。
 そういえば、私ってばこうやって野営するのは久しぶりかしらね。大体移動は瞬間移動魔法で済ませていたから、屋外で寝るって概念がいまいちないのよ。
 でも、さすが王族ばかりが集まっての野営とあって、そこの天幕だけがやたら豪華だった。私は手前で用意した天幕を使わせてもらうけどね。収納魔法があるからいつでもどこでも出せるし。
 普通の野営なら物々しい雰囲気になるところなのだが、さすがは建国祭の真っ只中という事もあってか、ものすごく和やかな雰囲気だった。
 とはいえ、これだけ王族が集まっているという事はそうそうあるわけがない。万一に備えて、私は野営地に防護魔法を展開しておく。
(うん、これでよしっと。念には念を、よね)
 みんなが寝静まっている夜中というのが一番怖いもの。野営地そのものに加えて、それぞれの天幕にも防護魔法をかけて安心した私は、ちゃんと自分の天幕にもかけてからぐっすりと眠りに就いたのだった。
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