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第五章 2年目前半
第243話 建国祭を目の前に
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「よく戻ったな、アーサリー、エスカ」
シャオンにある王城に到着すると、困った事に国王自らが出迎えてきた。真っ先に自分の子どもたちを抱き締めようとするあたり、よっぽど子どもたちの事が好きなのだろう。
「お父様、おひげが痛いです」
だが、エスカからは容赦ない一言が浴びせられた。それに対してミール国王は少ししょげてしまったようである。父親というのはそれなりに娘に嫌われてしまうものなのかも知れない。
「お久しぶりでございます。ミール国王陛下」
いつまでも親子のやり取りに笑っているわけにもいかないので、私はすっと国王に対して挨拶をする。
「おお、アンマリア・ファッティか。その活躍は娘から聞かされているぞ。なんでも剣術もできるそうだな。どうだ、我が国の兵士と手合わせを願えないか?」
「恐れ入りますが、貴族令嬢に対してその申し出はどうかと存じます。ましてや来賓なのですから、お戯れはご遠慮願いたいものですわ」
ミール国王の発言に対して、私はやんわりどころかどストレートに断りを入れた。どこの国に令嬢に剣術の勝負を申し入れる国王が居るんですかね。ええ、目の前に居ますけれど。
とはいえ、さすがに国王相手にそこまで強くは怒れなかった。エスカにだったら遠慮なく怒るんだけど、私だってさすがに分別がつかないほど(中身は)子どもじゃないもの。さすがに内心では怒っているというか呆れているんだけどね。とはいえ、こういう公式行事じゃなくて、個人的に訪ねてきたんだったら引き受けてもいいと思ったのは内緒よ。
それはともかくとして、国王自ら出迎えをするという異常な状態から始まったシャオンの滞在。まずは国王の引率の下、会議室へと向かう。そこにはミール王妃が待ち構えていた。
その状況を見た私は、さすが一大国家行事だと感心した。国王と王妃自らが動くんですものね。王族自ら動くというのが異例といえば異例なのだけど、建国祭だしそれも仕方ないと思う。ましてや国外の貴賓を招くわけだから、国家の威信をかけるのはやむを得ないというか当然の話である。それにしても、国王が思ったよりノリノリである。
「サザイエ、お久しぶりですわね。相変わらずの面白い髪型ですこと」
「おほほほ、これでしたら首元が暑くなくていいですのよ?」
突然に始まる女同士の戦いである。王妃ってば何をしているのかしら?!
「サシアも今はまだいいですけれど、クルスの街は暖かいですから、服装は考えた方がよろしいですわよ」
「ご忠告どうも」
二人の王妃の間で繰り広げられる戦い。これには国王もさすがに口出しができずにいた。
王妃同士の口撃の応酬に、私たちも思わずあんぐりである。私たちは将来こんな風にはならないわよ。強くそう誓うのだった。
そんな王妃たちの皮肉の言い合いをよそに、歓迎の昼食会が始まる。この時間に着くようにうまく設定したので、食事の準備も万端だった。
シャオンは海からそれなりに遠いとはいえども、海産物はひと通り揃う。見事なまでに海産物のフルコースである。おいしそうなものばかりなだけに、食べ過ぎて太らないかが心配だった。
ちらっとミズーナ王女の方を見てみるけれど、ミズーナ王女も同じような悩みを持っているのかすごく複雑な表情をしていた。
まあ、仕方ないわよね。太る事を宿命づけられた乙女ゲームのヒロインだもの。描写のせいで忘れられがちだけど、私たちってものすごく太りやすい体質なのよね、恩恵のせいで。
戦々恐々とする私とミズーナ王女をよそに、エスカは一人だけもりもりと食事を食べている。久しぶりの祖国の味に舌鼓を打っているようだった。いいわね、太る心配のない人は。
「はっはっはっ、相変わらずいい食いっぷりだな、エスカは。だが、王女という立場を考えれば、あの二人のように慎ましく食べてもらいたいものだがな!」
あまりにがっついているエスカに対して、ミール国王は私やミズーナ王女を見ながら言葉を掛けている。
あのね、私たちがこんなにちびちび食べているのは体質のせいだから。本当だったらエスカのようにがっつり食べたいのよ!
私たちのぐぐっと抑えた気持ちを見透かしているのか、エスカがにやにやしながら私を見ている。ハリセンで張り倒してやりたいわね。
私たち女性陣がいろいろと心の中で思っている中、男性陣はものすごく静かだった。リブロ王子とレッタス王子はこういった海産物は初めてのはずだから、もうちょっと賑やかになるとは思ったのに、正直意外だったかな。
「この歓迎の食事会が終われば、建国祭の流れについて簡単に説明させてもらおう。なにぶん、国外の人物を呼んだのは今回が初めてだからな。不手際な点はあるかも知れないが、そこは目をつぶってもらいたい。迷惑を掛けるつもりはないしな」
私たちの様子を見ながら、国王はそのように述べていた。私たちはその説明に対してこくりと頷いておいた。
アンマリア編2年目、ミズーナ編1年目の今年、突如発生した予想外なイベント。期待と不安を胸に抱きながら、私たちはこのイベントを楽しむべく気合いを入れ直すのだった。
シャオンにある王城に到着すると、困った事に国王自らが出迎えてきた。真っ先に自分の子どもたちを抱き締めようとするあたり、よっぽど子どもたちの事が好きなのだろう。
「お父様、おひげが痛いです」
だが、エスカからは容赦ない一言が浴びせられた。それに対してミール国王は少ししょげてしまったようである。父親というのはそれなりに娘に嫌われてしまうものなのかも知れない。
「お久しぶりでございます。ミール国王陛下」
いつまでも親子のやり取りに笑っているわけにもいかないので、私はすっと国王に対して挨拶をする。
「おお、アンマリア・ファッティか。その活躍は娘から聞かされているぞ。なんでも剣術もできるそうだな。どうだ、我が国の兵士と手合わせを願えないか?」
「恐れ入りますが、貴族令嬢に対してその申し出はどうかと存じます。ましてや来賓なのですから、お戯れはご遠慮願いたいものですわ」
ミール国王の発言に対して、私はやんわりどころかどストレートに断りを入れた。どこの国に令嬢に剣術の勝負を申し入れる国王が居るんですかね。ええ、目の前に居ますけれど。
とはいえ、さすがに国王相手にそこまで強くは怒れなかった。エスカにだったら遠慮なく怒るんだけど、私だってさすがに分別がつかないほど(中身は)子どもじゃないもの。さすがに内心では怒っているというか呆れているんだけどね。とはいえ、こういう公式行事じゃなくて、個人的に訪ねてきたんだったら引き受けてもいいと思ったのは内緒よ。
それはともかくとして、国王自ら出迎えをするという異常な状態から始まったシャオンの滞在。まずは国王の引率の下、会議室へと向かう。そこにはミール王妃が待ち構えていた。
その状況を見た私は、さすが一大国家行事だと感心した。国王と王妃自らが動くんですものね。王族自ら動くというのが異例といえば異例なのだけど、建国祭だしそれも仕方ないと思う。ましてや国外の貴賓を招くわけだから、国家の威信をかけるのはやむを得ないというか当然の話である。それにしても、国王が思ったよりノリノリである。
「サザイエ、お久しぶりですわね。相変わらずの面白い髪型ですこと」
「おほほほ、これでしたら首元が暑くなくていいですのよ?」
突然に始まる女同士の戦いである。王妃ってば何をしているのかしら?!
「サシアも今はまだいいですけれど、クルスの街は暖かいですから、服装は考えた方がよろしいですわよ」
「ご忠告どうも」
二人の王妃の間で繰り広げられる戦い。これには国王もさすがに口出しができずにいた。
王妃同士の口撃の応酬に、私たちも思わずあんぐりである。私たちは将来こんな風にはならないわよ。強くそう誓うのだった。
そんな王妃たちの皮肉の言い合いをよそに、歓迎の昼食会が始まる。この時間に着くようにうまく設定したので、食事の準備も万端だった。
シャオンは海からそれなりに遠いとはいえども、海産物はひと通り揃う。見事なまでに海産物のフルコースである。おいしそうなものばかりなだけに、食べ過ぎて太らないかが心配だった。
ちらっとミズーナ王女の方を見てみるけれど、ミズーナ王女も同じような悩みを持っているのかすごく複雑な表情をしていた。
まあ、仕方ないわよね。太る事を宿命づけられた乙女ゲームのヒロインだもの。描写のせいで忘れられがちだけど、私たちってものすごく太りやすい体質なのよね、恩恵のせいで。
戦々恐々とする私とミズーナ王女をよそに、エスカは一人だけもりもりと食事を食べている。久しぶりの祖国の味に舌鼓を打っているようだった。いいわね、太る心配のない人は。
「はっはっはっ、相変わらずいい食いっぷりだな、エスカは。だが、王女という立場を考えれば、あの二人のように慎ましく食べてもらいたいものだがな!」
あまりにがっついているエスカに対して、ミール国王は私やミズーナ王女を見ながら言葉を掛けている。
あのね、私たちがこんなにちびちび食べているのは体質のせいだから。本当だったらエスカのようにがっつり食べたいのよ!
私たちのぐぐっと抑えた気持ちを見透かしているのか、エスカがにやにやしながら私を見ている。ハリセンで張り倒してやりたいわね。
私たち女性陣がいろいろと心の中で思っている中、男性陣はものすごく静かだった。リブロ王子とレッタス王子はこういった海産物は初めてのはずだから、もうちょっと賑やかになるとは思ったのに、正直意外だったかな。
「この歓迎の食事会が終われば、建国祭の流れについて簡単に説明させてもらおう。なにぶん、国外の人物を呼んだのは今回が初めてだからな。不手際な点はあるかも知れないが、そこは目をつぶってもらいたい。迷惑を掛けるつもりはないしな」
私たちの様子を見ながら、国王はそのように述べていた。私たちはその説明に対してこくりと頷いておいた。
アンマリア編2年目、ミズーナ編1年目の今年、突如発生した予想外なイベント。期待と不安を胸に抱きながら、私たちはこのイベントを楽しむべく気合いを入れ直すのだった。
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