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第五章 2年目前半
第240話 闇の中の接触
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王都の貴族街。平民たちの居住区に近い低級貴族たちの屋敷群の中にロートント男爵の屋敷はあった。
誕生日パーティーを終えて戻ってきたロートント男爵は、自室に戻ると机を思い切り殴っていた。
「くそっ! どういう事なんだ?」
声を荒げているロートント男爵。一体どうしたというのだろうか。
「なぜだ。なぜあいつらは無事だというのだ。強力な毒ではなかったのか?」
椅子に座ると、もう一度机に拳を叩きつけるロートント男爵。ずいぶんと荒れているようだ。
「いかがなさいましたか、ロートント男爵」
突然、部屋に見知らぬ人物が入ってきた。一体どこから現れたというのだろうか。
「今頃になって何の用だ、イスンセ!」
声が聞こえるなり振り向いて怒鳴り出すロートント男爵。だが、イスンセと呼ばれた人物は、その状況にも静かだった。
「大声はおやめ下さい。周りに聞かれてしまいますよ」
「ぐぬぬぬ……」
イスンセの言葉に、ロートント男爵はぐぐっと怒鳴るのを抑え込んでいた。
「ところで、お前は何をしていたんだ? パーティーの混乱に乗じて会場に乗り込む算段ではなかったのか?」
どうにか堪えたロートント男爵は、イスンセに対して問い質していた。
「入ろうとは思いましたよ。でも、何やら変な結界のようなものが張り巡らされていて、入ろうとしても入れなかったですよ。おまけにすぐさま兵士たちがやって来るものですから、本当に困ったものですよ。どうにか撒いてきましたがね」
イスンセもどうやらよく分からない状況だったようである。
「ぐぬぬぬ……。お前からもらった毒もまったく役に立たなかった。一体どうなっているんだ?」
「おやおや、毒が効かなかったですか。まったく、それは面倒な話ですね」
唇を噛みしめるロートント男爵だが、イスンセはまったく落ち着いているようだった。この事実に驚くかと思われたのだが、これは意外な反応である。
「私が城に侵入できなかったのですから、毒が無毒化されるような事だって十分考えられますね。この国には聖女なる存在が居るのでしょう?」
「聖女か……。確か、テトリバー男爵家の娘か……」
ロートント男爵はギリッと爪を噛んでいた。
「王族どもを殺して混乱に乗じてこの国の貴族を殲滅する作戦だったというのに、忌々しい聖女め……」
そして、ぶつぶつと物騒な事を呟き始めた。
「で、どうするんですかね? このまま諦めますか?」
イスンセは淡々と話している。だが、この振りに対して、ロートント男爵は体を震わせていた。
「誰が諦めるものか! この国に貢献してきた我がロートント家だというのに、いまだに男爵止まりの貧乏貴族だ。この扱いが許されると思っているのか!」
感情が高まったのか、ロートント男爵は大声で喚き始めた。その喚き声に、イスンセは耳を塞ぎながらもなるほどなと唸っていた。
ロートント男爵のサーロイン王国への恨みは、自分たちへの扱いへの不満が高まったがゆえというわけか、と。
なんとなく接触を図ってみたのだが、なるほど、こういう背景があるのならば非常に納得するというものである。まったく、ベジタリウス王国の諜報部の情報収集能力というものは凄まじい限りだと実感していた。その組織の一員であるというのに、イスンセにも分からない事が多い組織だった。
(くっくっくっ、面白いですね。今回、この男の計略が失敗したのは好都合。徹底的にこの国の事を調べ上げてやりましょう)
つい心の中の笑みが顔にも出てしまうイスンセ。
「おい、何がおかしい!」
「いえ、この国に本格的に興味を持ちましたので、これからが楽しみになってしまっただけですよ。ちゃんと任務は遂行しますので、ご安心下さい」
怒鳴ってくるロートント男爵を軽くあしらうイスンセである。その自信たっぷりのイスンセの態度に、ロートント男爵は納得させられてしまうのだった。
「そこまで言うのならいいだろう。今回の事でどうせ俺はしばらく動けん。お前は聖女周りの事を調べてこい」
「畏まりました。それでは、私はこれにて失礼致します」
イスンセはそう言うと、ロートント男爵の部屋から姿を消したのだった。
誰も居なくなった部屋で、ロートント男爵は両肘をついてぶつぶつと呟いている。その形相はすさまじいまでに険しく、何人たりとも近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「イスンセの奴、しくじりおったくせにでかい態度を取りおって……。今度やらかしてみろ、この手で叩き斬ってくれる」
歯ぎしりの絶えないロートント男爵。
だが、突如として机に思い切り手を叩きつけて立ち上がる。
「俺様を認めぬこの国など要らぬ。すべて滅ぼして、この俺が新たな支配者となるのだ。くははははははっ!!」
薄暗いロートント男爵の部屋に汚い男爵の笑い声が響き渡る。この男は本気のようである。
しばらくは目立った行動が取れない状況になったとはいえ、ロートントは次の作戦を必死に考えるのだった。
サーロイン王国の中でひっそりと渦巻く陰謀。はたしてアンマリアたちはその陰謀のすべてを阻止する事ができるのだろうか。
誕生日パーティーを終えて戻ってきたロートント男爵は、自室に戻ると机を思い切り殴っていた。
「くそっ! どういう事なんだ?」
声を荒げているロートント男爵。一体どうしたというのだろうか。
「なぜだ。なぜあいつらは無事だというのだ。強力な毒ではなかったのか?」
椅子に座ると、もう一度机に拳を叩きつけるロートント男爵。ずいぶんと荒れているようだ。
「いかがなさいましたか、ロートント男爵」
突然、部屋に見知らぬ人物が入ってきた。一体どこから現れたというのだろうか。
「今頃になって何の用だ、イスンセ!」
声が聞こえるなり振り向いて怒鳴り出すロートント男爵。だが、イスンセと呼ばれた人物は、その状況にも静かだった。
「大声はおやめ下さい。周りに聞かれてしまいますよ」
「ぐぬぬぬ……」
イスンセの言葉に、ロートント男爵はぐぐっと怒鳴るのを抑え込んでいた。
「ところで、お前は何をしていたんだ? パーティーの混乱に乗じて会場に乗り込む算段ではなかったのか?」
どうにか堪えたロートント男爵は、イスンセに対して問い質していた。
「入ろうとは思いましたよ。でも、何やら変な結界のようなものが張り巡らされていて、入ろうとしても入れなかったですよ。おまけにすぐさま兵士たちがやって来るものですから、本当に困ったものですよ。どうにか撒いてきましたがね」
イスンセもどうやらよく分からない状況だったようである。
「ぐぬぬぬ……。お前からもらった毒もまったく役に立たなかった。一体どうなっているんだ?」
「おやおや、毒が効かなかったですか。まったく、それは面倒な話ですね」
唇を噛みしめるロートント男爵だが、イスンセはまったく落ち着いているようだった。この事実に驚くかと思われたのだが、これは意外な反応である。
「私が城に侵入できなかったのですから、毒が無毒化されるような事だって十分考えられますね。この国には聖女なる存在が居るのでしょう?」
「聖女か……。確か、テトリバー男爵家の娘か……」
ロートント男爵はギリッと爪を噛んでいた。
「王族どもを殺して混乱に乗じてこの国の貴族を殲滅する作戦だったというのに、忌々しい聖女め……」
そして、ぶつぶつと物騒な事を呟き始めた。
「で、どうするんですかね? このまま諦めますか?」
イスンセは淡々と話している。だが、この振りに対して、ロートント男爵は体を震わせていた。
「誰が諦めるものか! この国に貢献してきた我がロートント家だというのに、いまだに男爵止まりの貧乏貴族だ。この扱いが許されると思っているのか!」
感情が高まったのか、ロートント男爵は大声で喚き始めた。その喚き声に、イスンセは耳を塞ぎながらもなるほどなと唸っていた。
ロートント男爵のサーロイン王国への恨みは、自分たちへの扱いへの不満が高まったがゆえというわけか、と。
なんとなく接触を図ってみたのだが、なるほど、こういう背景があるのならば非常に納得するというものである。まったく、ベジタリウス王国の諜報部の情報収集能力というものは凄まじい限りだと実感していた。その組織の一員であるというのに、イスンセにも分からない事が多い組織だった。
(くっくっくっ、面白いですね。今回、この男の計略が失敗したのは好都合。徹底的にこの国の事を調べ上げてやりましょう)
つい心の中の笑みが顔にも出てしまうイスンセ。
「おい、何がおかしい!」
「いえ、この国に本格的に興味を持ちましたので、これからが楽しみになってしまっただけですよ。ちゃんと任務は遂行しますので、ご安心下さい」
怒鳴ってくるロートント男爵を軽くあしらうイスンセである。その自信たっぷりのイスンセの態度に、ロートント男爵は納得させられてしまうのだった。
「そこまで言うのならいいだろう。今回の事でどうせ俺はしばらく動けん。お前は聖女周りの事を調べてこい」
「畏まりました。それでは、私はこれにて失礼致します」
イスンセはそう言うと、ロートント男爵の部屋から姿を消したのだった。
誰も居なくなった部屋で、ロートント男爵は両肘をついてぶつぶつと呟いている。その形相はすさまじいまでに険しく、何人たりとも近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「イスンセの奴、しくじりおったくせにでかい態度を取りおって……。今度やらかしてみろ、この手で叩き斬ってくれる」
歯ぎしりの絶えないロートント男爵。
だが、突如として机に思い切り手を叩きつけて立ち上がる。
「俺様を認めぬこの国など要らぬ。すべて滅ぼして、この俺が新たな支配者となるのだ。くははははははっ!!」
薄暗いロートント男爵の部屋に汚い男爵の笑い声が響き渡る。この男は本気のようである。
しばらくは目立った行動が取れない状況になったとはいえ、ロートントは次の作戦を必死に考えるのだった。
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