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第五章 2年目前半
第237話 不穏と不安の中で
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城を包み込んだ光は一瞬で消える。
ミズーナ王女のサーロイン城内の個室だったがために、外がいきなり騒がしくなってきた。
「ミズーナ王女、今の光は何ですか?」
まあ、なんという事でしょう。フィレン王子とリブロ王子が同時に同じ言葉を喋っていた。なんとも耳が幸せなことか。
しかし、そんな悠長な事を言ってられるのはほんの一瞬だった。なにせ、宰相や父親たちまでもがやって来ていたのだ。これはえらいこっちゃ。
そんなわけで、私たちは扉を開いてみんなに事情を説明する。ただ、内容が内容なので、重鎮以外にはとりあえずお引き取りをしてもらった。
「で、さっきの光はどういう事かな、アンマリア」
父親がぎろりと私を睨んでくる。城の中なので、愛称のマリーではなくきっちりと名前を呼んでくる。痩せたとはいっても、父親の睨みの力は健在である。うん、怖い。
「それは、私からお話させて頂けますか?」
そこで声を上げたのが、エスカだった。
「ファッティ伯爵。昨夜私が食事の際に申し上げた事をお覚えでしょうか」
間髪入れずに父親に問い掛けるエスカ。
「うむ、もちろんだとも。不審者対策をするという話でしたね、確か」
父親が答えると、エスカはこくりと頷いた。
「という事は、先程の光はそれと関係があるという事ですかな?」
ここで口を挟んできたのは、宰相のバラクーダ・ブロックである。私たちはこの質問を肯定するように揃って頷いた。
「はい、フィレン殿下の誕生日パーティーに合わせて、外部からの侵入者が考えられます。なにせ、サーロイン王国、ミール王国、ベジタリウス王国の王子王女が全員揃っているのですから」
エスカは普段のふざけた様子も微塵も感じさせない表情で、宰相に説明を始めた。
「ここで何かが起きれば、この三国の間に戦争を引き起こす事も可能でしょう。ですから、それを防ぐためにアンマリアとベジタリウス王国の王女であるミズーナ王女殿下の力を借りて、侵入者を排除する防壁を張らせて頂いたのです」
ここまで息継ぎなしに説明をし終えるエスカ。いや、早口で説明するような内容じゃないでしょうに。私は内容よりもそっちの方が気になってしまった。肺活量おかしくない?!
驚いた表情で見ている私に、エスカはちらっと小さく舌を出してウィンクをしていた。
ところが、宰相たちはそのエスカの仕草に気付く事なく、私とミズーナ王女に対してものすごい形相で確認を取ってきた。うん、お父様怖いからやめて。
「……それが事実とするならば、実に助かるな。ただでさえ今年の来賓数が増えている。何か問題があれば国際的に問題となるのは事実でしょうからね」
フィレン王子は対照的に落ち着いていた。
「はい。ですが、この防壁も完璧ではないでしょう。用心に越した事はございませんので、警備は増やしておいた方がよいと思います」
「そのようにさせて頂きます。宰相、大臣、すぐに兵の割り振りを指示してくれ」
「か、畏まりました。殿下」
エスカの説明を受けたフィレン王子が、宰相と私の父親に命令を出す。さすがに王子の命令に背く事はできないようで、父親はものすごく私の事を見ながら部屋を出ていった。帰ってから説教されるフラグが立ったわね。
父親の姿を見送りながら私が呆然と立っていると、フィレン王子たちが近付いてきた。
「アンマリア、ご苦労だったね。これで少しは安心できそうだよ」
「そうです。本当にアンマリアはすごいですね。僕も負けていられません。兄上たちを支えられるように立派にならなくちゃ!」
「い、いいえ。まだ安心はできません。人の流入は防げたとしても、毒物までは防げません。そちらも早急に対策致しませんと……」
王子たちの声に、私はそう言いながらエスカとミズーナ王女の方を見る。
「確かにそうですね。私たちが展開したのは、あくまでも暗殺者を防ぐためのものです。アンマリアの言う通り、毒物の流入まで防げるとは限りません」
ミズーナ王女も私の言葉に賛同している。これにはフィレン王子も少し表情が曇った。
「そうだね。それは確かに対策が必要のようだね。鑑定魔法を扱える者を至急集めなくてはならないな」
そう言うと、フィレン王子はリブロ王子を連れて部屋を出ていった。おそらくは国王のところに向かったのだろう。
それにしても、私たちの魔法は思ったよりも大問題となってしまったようだった。だけど、元々警備を増やしていた背景もあって、私たちに批判が向くような事はなかった。
夜に父親に確認はしてみたものの、警備兵を増やす背景となった話は、そもそもレッタス王子から出ていた話だったようだ。
そもそもの話、今回の王子と王女の留学については、実はベジタリウス王国の国内では反対の声も多かったらしいのだ。それを押し切っての留学だったために、国の内部では王族に対する不信感を露わにする貴族も居たらしい。まだ成長途中の王子と王女を亡き者にし、その罪をサーロイン王国に擦り付けようという目的があるとの事だった。
なるほど、王位継承権第一位のフィレン王子の誕生日に起こす騒動としてはこの上ない動機である。
なんともまあ、気に食わないからといって、他の人を巻き込むのはやめてもらいたいものだわね。ましてや自国の王族子女の命を狙うってなんなのよ!
私の怒りは収まらなかった。
その問題の舞台となるフィレン王子の誕生日パーティーは、もう今週末に迫っていたのだった。
何事も起きませんように!
ミズーナ王女のサーロイン城内の個室だったがために、外がいきなり騒がしくなってきた。
「ミズーナ王女、今の光は何ですか?」
まあ、なんという事でしょう。フィレン王子とリブロ王子が同時に同じ言葉を喋っていた。なんとも耳が幸せなことか。
しかし、そんな悠長な事を言ってられるのはほんの一瞬だった。なにせ、宰相や父親たちまでもがやって来ていたのだ。これはえらいこっちゃ。
そんなわけで、私たちは扉を開いてみんなに事情を説明する。ただ、内容が内容なので、重鎮以外にはとりあえずお引き取りをしてもらった。
「で、さっきの光はどういう事かな、アンマリア」
父親がぎろりと私を睨んでくる。城の中なので、愛称のマリーではなくきっちりと名前を呼んでくる。痩せたとはいっても、父親の睨みの力は健在である。うん、怖い。
「それは、私からお話させて頂けますか?」
そこで声を上げたのが、エスカだった。
「ファッティ伯爵。昨夜私が食事の際に申し上げた事をお覚えでしょうか」
間髪入れずに父親に問い掛けるエスカ。
「うむ、もちろんだとも。不審者対策をするという話でしたね、確か」
父親が答えると、エスカはこくりと頷いた。
「という事は、先程の光はそれと関係があるという事ですかな?」
ここで口を挟んできたのは、宰相のバラクーダ・ブロックである。私たちはこの質問を肯定するように揃って頷いた。
「はい、フィレン殿下の誕生日パーティーに合わせて、外部からの侵入者が考えられます。なにせ、サーロイン王国、ミール王国、ベジタリウス王国の王子王女が全員揃っているのですから」
エスカは普段のふざけた様子も微塵も感じさせない表情で、宰相に説明を始めた。
「ここで何かが起きれば、この三国の間に戦争を引き起こす事も可能でしょう。ですから、それを防ぐためにアンマリアとベジタリウス王国の王女であるミズーナ王女殿下の力を借りて、侵入者を排除する防壁を張らせて頂いたのです」
ここまで息継ぎなしに説明をし終えるエスカ。いや、早口で説明するような内容じゃないでしょうに。私は内容よりもそっちの方が気になってしまった。肺活量おかしくない?!
驚いた表情で見ている私に、エスカはちらっと小さく舌を出してウィンクをしていた。
ところが、宰相たちはそのエスカの仕草に気付く事なく、私とミズーナ王女に対してものすごい形相で確認を取ってきた。うん、お父様怖いからやめて。
「……それが事実とするならば、実に助かるな。ただでさえ今年の来賓数が増えている。何か問題があれば国際的に問題となるのは事実でしょうからね」
フィレン王子は対照的に落ち着いていた。
「はい。ですが、この防壁も完璧ではないでしょう。用心に越した事はございませんので、警備は増やしておいた方がよいと思います」
「そのようにさせて頂きます。宰相、大臣、すぐに兵の割り振りを指示してくれ」
「か、畏まりました。殿下」
エスカの説明を受けたフィレン王子が、宰相と私の父親に命令を出す。さすがに王子の命令に背く事はできないようで、父親はものすごく私の事を見ながら部屋を出ていった。帰ってから説教されるフラグが立ったわね。
父親の姿を見送りながら私が呆然と立っていると、フィレン王子たちが近付いてきた。
「アンマリア、ご苦労だったね。これで少しは安心できそうだよ」
「そうです。本当にアンマリアはすごいですね。僕も負けていられません。兄上たちを支えられるように立派にならなくちゃ!」
「い、いいえ。まだ安心はできません。人の流入は防げたとしても、毒物までは防げません。そちらも早急に対策致しませんと……」
王子たちの声に、私はそう言いながらエスカとミズーナ王女の方を見る。
「確かにそうですね。私たちが展開したのは、あくまでも暗殺者を防ぐためのものです。アンマリアの言う通り、毒物の流入まで防げるとは限りません」
ミズーナ王女も私の言葉に賛同している。これにはフィレン王子も少し表情が曇った。
「そうだね。それは確かに対策が必要のようだね。鑑定魔法を扱える者を至急集めなくてはならないな」
そう言うと、フィレン王子はリブロ王子を連れて部屋を出ていった。おそらくは国王のところに向かったのだろう。
それにしても、私たちの魔法は思ったよりも大問題となってしまったようだった。だけど、元々警備を増やしていた背景もあって、私たちに批判が向くような事はなかった。
夜に父親に確認はしてみたものの、警備兵を増やす背景となった話は、そもそもレッタス王子から出ていた話だったようだ。
そもそもの話、今回の王子と王女の留学については、実はベジタリウス王国の国内では反対の声も多かったらしいのだ。それを押し切っての留学だったために、国の内部では王族に対する不信感を露わにする貴族も居たらしい。まだ成長途中の王子と王女を亡き者にし、その罪をサーロイン王国に擦り付けようという目的があるとの事だった。
なるほど、王位継承権第一位のフィレン王子の誕生日に起こす騒動としてはこの上ない動機である。
なんともまあ、気に食わないからといって、他の人を巻き込むのはやめてもらいたいものだわね。ましてや自国の王族子女の命を狙うってなんなのよ!
私の怒りは収まらなかった。
その問題の舞台となるフィレン王子の誕生日パーティーは、もう今週末に迫っていたのだった。
何事も起きませんように!
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